介護業界に働いている方に関わらず、訪問介護事業を立ち上げようと考える人は少なくありません。通所介護や居住施設を伴う業態よりも簡単だと耳にすることもある『訪問介護事業所』の開設ですが、実際に必要な資金や手順がどのようなものか、気を付けるべきポイントはどこかをご紹介してまいります。
目次
訪問介護とは、要介護・要支援認定を受けた高齢者と高齢者を支える家族の生活のサポートを行うサービスです。
提供するサービスである『生活のサポート』には、買い物や掃除等の日常生活を支える『家事援助』と呼ばれるものと、排泄や入浴を介助する『身体介護』、専用の車で通院を行う『通院等乗降介助』の3つに分類されます。
訪問介護事業は、介護保険法のもとに開設する事業です。このため、運営するためには介護保険法に定めるルールに則った運用を行う必要があります。この法のもと、派遣される職員は『有資格者』に限っていますので、サービスを提供するのは有資格者に限定されています。
サービス料とされる売上は『介護保険料』であるため、報酬は全国一律の設定がされていることが特徴です。(※単位数と呼ばれる点数が全国統一であり、これに地域によって定められる地域区分を掛けて算出します)
また、提供できるサービスにも制限があることが特徴です。
一方で家事代行業者とは民間のサービスであり、派遣される職員は有資格者に限られず、売り上げとなるサービス料金は法人により設定され、提供できるサービスには医療、美容等他の法律を除き自由に定めることが出来ます。
お客様はその所得に応じて、利用したサービス料金の1割から3割を負担します。その他7割から9割は、国が管理する『介護保険料』から支払われます。このため、自己負担という意味で考えると『家事代行より訪問介護を利用した方が安い』という事になります。
開設の前に知っておくべきことには、以下の様なことがあげられます。
有資格者が行う事で売り上げがたつという特徴のある事業ですので、人材確保が何より重要で、訪問介護事業で必要な役職は3つです。
役職 | 必要資格 | 必要数 |
管理者 | なし | 正社員で1人 |
サービス提供責任者 | 介護福祉士 実務者研修 旧訪問介護員1級研修相当以上 | 1事業所正社員又は正社員と同じ時間を働く職員1人以上 利用者40人に対し1人以上 ※管理者と兼務可能 ※別途利用者数50人までの緩和措置あり |
訪問介護員 | 初任者研修 (サービス提供責任者に定める資格でも可能) 旧訪問介護員2級研修相当以上 | 常勤換算2.5人以上 |
常勤換算とは
サービスを安定的に提供するために、常時備えておくべき訪問介護員の人数が定められており、この定めの数は『常勤社員が2.5人分必要』という解釈となります。
例えば、就業規則等で『正社員は週40時間働くものを指す』と定めている倍は、週100時間分の訪問介護員(サービス提供責任者時間も含む)を確保する必要があります。
つまり、最低限以下の人員が必要となります。
1人目:管理者兼サービス提供責任者(実務者研修相当以上資格所持)週40時間勤務
2人目:訪問介護員(初任者研修相当以上所持)週40時間勤務
3人目:訪問介護員(初任者研修相当以上所持)週20時間以上勤務
事業の開設にあたっては、法人登記が必要になります。個人では開設が出来ませんので注意が必要です。
訪問介護事業所の開業場所を示し、行政に届出が必要となります。このため、拠点となる事務所を定める必要があります。届出の際には賃貸契約書等を添付し、実際に拠点の用意があるかの確認が行われます。
訪問介護事業所を開設するための届出は、開設日の2月前の15日という設定をしている行政が多い様子です。また、申請には管理者となる従業員の研修などを義務付け実質4か月前に提出準備を始めるということが必要になっている場合もあります。
管理者を雇用する場合は、これら研修の受講や準備、採用活動等で4か月の給与や事務所代等が必要になってきます。
また、開設後はすぐにお客様がいない上に、介護報酬は国民健康保険連合会が委託を受けて処理をしていますが、月末締めの翌々月振り込みになります。
このため、少なくとも半年から1年の運用を支える資金が必要になることに大きな注意が必要です。
実際に訪問介護を開業した弊社の場合は、1,000万円程度の予算を用意しました。
これは事務所でより役に立つ研修が可能なように家事支援・身体介護を想定した設備を備えたこと、大き目の事務所を借りたこと、すべての職員を新たに雇用したこと、職員を全員正社員で雇用していた等が理由です。
例えば管理者兼サービス提供責任者が代表で、他はアルバイトパートを雇用しているという事であれば人件費は下がります。また、地域により物件を借りるにしても料金が異なります。
訪問介護を開業するために必要となる資金は、500万円~1,000万円程度だとよく言われています。
弊社の場合は既に法人であったため、この費用は掛かりませんでしたが、新たに法人を設立する場合には必要です。
かかる費用は、どの法人スタイルを選ぶかにより法人設立費用が異なります。
法人設立費用は、
・定款認証手数料
・収入印紙代金
・登録免許税
の3つです。
金額は、株式会社の場合が約30万円、合同会社と一般社団法人の場合が約10万円です。
NPO法人の場合はほぼ費用はかかりませんが、株式会社や合同会社に比べると認可が下りるまでの期間が長く3ヶ月〜4ヶ月ほどかかることに注意が必要です。
訪問介護事業所を開業するためには、人員基準を満たしているのが条件であるため、確保した状態で申請と行う必要があります。まだ利用者の申し込みがない時点でも数か月の人件費を確保する必要があります。
管理者以外に資格保有者が3人は必要なので、人件費としては最低でも月60万円程必要となります。
さらに、介護保険による介護報酬は、翌月に請求し、翌々月に支払われるので、開業時後の賃金としてもあらかじめ2〜3ヶ月分の人件費を確保しておく必要があります。
訪問介護事業所では、利用者ごとの訪問計画書を作成したり、介護保険に関する事務作業が発生するので、一般的な事務作業ができる備品を購入する必要があります。
具体的には、事務用の机と椅子・相談室用のテーブルと椅子・書類保管用のキャビネット(鍵付き)・パソコン・電話・携帯電話・プリンター・FAX・筆記用具・石鹸・消毒液・ペーパータオル等になります。
訪問介護事業を開業する際にかかる費用の詳細は上記の通りですが、自己資金ですべてを賄うことができない方もいるでしょう。その場合は、助成金や融資を活用することが検討できます。
助成金とは、厚生労働省による支援金です。
主に雇用に関しての支援金で、条件を満たしていれば受け取ることができます。
助成金は返済が不要ですし、法令違反があれば申請が受理されないので事業の信用にもつながるといったメリットがあります。
ただし、助成金は申請に必要な実施計画書を作成し、実際に計画書通りに実施した後に申請してから支給されます。
開業時に必要な資金には利用できない場合がほとんどなので、軍資金としては利用できません。
訪問介護事業の開業に活用できる助成金は以下の通りです。
介護労働環境向上奨励金
介護労働者の労働条件や職場環境の向上を実現した事業主に対する助成金です。
例えば、労働時間に関する問題・身体的負担の軽減・賃金の処遇といった労働条件の向上や労働者が働きやすい環境を整えることを目的とした費用に対する助成金です。
こちらは雇用管理改善の内容によって以下の2種類の助成金があります。
介護福祉機器等助成
事業主が新たに機器を導入し、介護労働者の労働環境が改善されたと認められた場合に受けられる助成金です。
まずは「導入・運用計画」を作成して、都道府県の労働局の認定を受けます。
計画期間は3ヶ月〜1年、提出期間は計画開始からさかのぼり6ヶ月前〜1ヶ月前です。
実際に導入した機器を使用した効果については、導入前と導入後に介護労働者に対して行われるアンケートの結果に基づいて査定されます。
無事認定されたら計画期間終了後1ヶ月以内に申請を行います。
支給額は導入費用の1/2(上限300万円)です。
雇用管理制度等助成
事業主が介護労働者に対する雇用管理改善制度を導入し、労働者の定着や離職率の低下などの効果が認められた場合に受けられる助成金です。
まずは「雇用管理制度整備等管理計画」を作成して、都道府県の労働局の認定を受けます。
計画期間は6ヶ月〜1年、提出期間は計画開始からさかのぼり6ヶ月前〜1ヶ月前です。
雇用管理制度導入日と計画時期間終了時の労働者数の定着率が一定以上であれば助成金の支給が認められます。
認定されたら、計画期間終了後1ヶ月以内に申請を行います。
支給額は導入費用の1/2(上限100万円)です。
参考:厚生労働省
政府出資による金融公庫である「日本政策金融公庫」が行う「新規開業資金」は、事業の創業時や開業して7年以内の若い事業を対象とした融資です。
主に個人事業や小規模事業向けで、実績がなくて他機関からの融資が困難な場合でも低金利での融資が望めます。
融資の限度額は7,200万円、返済期間は、設備資金が20年以内(うち措置期間2年以内)・運転資金が7年以内(うち措置期間2年以内)となっています。
事業計画書や収支計画書など手続きに必要な書類を作成する必要はありますが、無担保・無保証人での融資を希望する場合も相談できますし、他の融資制度との併用できる点は大きなメリットです。
参考:日本政策金融公庫
訪問介護事業所の開業で失敗してしまう理由として、主に下記の4つが挙げられます。
①資金が不足してしまう
②人材が不足してしまう
③集客力や営業力の不足
④人員・設備・運営基準の理解不足
これらの失敗してしまう理由を理解し、解決策を立てることで、失敗を避けることが出来ます。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
訪問介護の開業で失敗してしまう4つの理由と解決策
サービス提供責任者や訪問介護員として働くには、資格が必要です。
訪問介護員
①介護福祉士
②介護職員基礎研修課程を修了した者
③訪問介護員養成研修の1級課程を修了した者
④訪問介護員養成研修の2級課程を修了した者
⑤介護職員実務者研修を修了した者
⑥介護職員初任者研修を修了した者
⑦看護師等(看護師、准看護師)
⑧生活援助従事者研修を修了した者(生活援助中心型サービスのみに従事可能)
サービス提供責任者
①介護福祉士
②介護職員基礎研修課程を修了した者
③訪問介護員養成研修の1級課程を修了した者
④介護職員実務者研修を修了した者
⑤看護師等(看護師、准看護師)
申請を行う自治体により別途認められる資格もありますので、申請する自治体に確認をおこないましょう。
訪問介護事業所は、比較的開業しやすいと言われていますが、実際には資格を保持する職員の雇用や守るべきルールの理解が必要不可欠です。
しっかりと予定や知識を身に着けてから行いましょう。
訪問介護事業所を開設したいという方に向けて、訪問介護事業所開設に関する情報をまとめました!
<目次>
1)訪問介護事業所の開業のステップ
2)訪問介護事業所が満たすべき基準
3)訪問介護事業所の開業にかかる費用
4)訪問介護事業所の資金調達方法
5)訪問介護事業所の開業で失敗してしまう理由と解決策
6)訪問介護事業所が収益を増やす方法
7)まとめ