高齢化が進行している現代では、介護のニーズが高まってきています。訪問介護サービスも、介護や支援を受けながらも自宅で日常生活を続けることができ、今後の需要はますます増していくでしょう。
需要の増加に伴い、訪問介護を提供する側の人員不足が深刻になってきており、在宅での生活を支える訪問介護の仕事は引く手あまたと言えます。
今回の記事では、訪問介護の仕事内容や必要な資格の取得方法、研修について解説します。また、訪問介護に向いている方の特徴や求人を探す際のポイントについてもご紹介しますので、訪問介護の仕事について理解を深めましょう。
目次
訪問介護とは、介護保険の対象者の自宅に訪問介護員が訪問し、身体介助や生活支援をおこなうサービスのことです。訪問介護職員は、介護福祉士やホームヘルパーの資格を取得している必要があります。
利用対象者は65歳以上で要介護1~5の認定を受けている人、または40~64歳で16特定疾病のいずれかがあると認定されている人であり、多様な要介護度の利用者に介護サービスを提供します。
ホームヘルパーと訪問介護員は意味としては同じものです。
正式な呼称が「訪問介護員」であるのに対し、一般的には「ホームヘルパー」や「ヘルパー」という通称で広がっています。
訪問介護サービスでおこなえる主なサービスを具体的に見ていきましょう。
身体介護は、介護職員が、利用者の身体に直接触れておこなう介護サービスのことを指します。利用者の身体や精神状態に対応しながらケアに当たります。
主に次のようなケアをおこないます。
- 食事介助:食事中の手伝いや見守りをおこなう
- 入浴介助:入浴時の手助けや洗髪、身体の清拭をおこなう
- 移乗介助:車いすや車への乗り降りなどの手伝いをおこなう
- 排泄介助:おむつ交換などをおこなう
- 体位変換:床ずれ予防のために体位を変える
- 衣類着脱介助:着替えの手伝いをおこなう
- 移動(歩行)介助:寄り添いや手を引くなどして安全に歩行できるよう介助する
- 口腔洗浄:歯磨きや口腔内の保湿をおこなう
生活援助は、利用者が一人暮らしの場合や、本人やその家族が事情があり家事をおこなえない場合に、身の回りの世話をしながら日常生活をサポートするサービスです。
次のようなサポートをおこないます。
- 食事の準備(調理・配膳)
- 掃除
- 洗濯
- ゴミ出し
- 日用品などの買い物代行、薬の受け取り
- 服の補修
- 部屋の片づけ、整理整頓
しかし、生活援助には「利用者の自立を支援する」という目的があるため、おこなえる生活援助には制限があります。
空き部屋の掃除、花木の水やり、ペットの散歩、来訪者の接客など、利用者の生活に欠かせない家事とは言えない世話はサービスの対象外です。
通院等乗降介助は、介護職員資格を持つ運転手による送迎を受けられるサービスのことで「介護保険タクシー」とも呼ばれています。
利用者が通院や通所施設へ移動する際に、職員が運転する車への乗車・降車の介助、乗車前・乗車後の屋内での介助、通院先での受診手続きなどをおこないます。
通院等乗降介助の適用範囲は、次のようになっています。
- 医療機関への通院
- 官公署(国、都道府県及び市町村等の機関など)への手続き
- 選挙の投票
- デイサービスや介護保険施設への見学
- 日用必需品の買い物
また、身体介助や生活援助と異なり、通院等乗降介助を実施するためには自治体への届け出が必要です。
指定訪問介護事業をおこなう法人が、道路運送法に定める一般乗用旅客自動車運送事業等の免許または許可を取得しなければなりません。
身体介護でできること・できないことは以下の通りです。
できること | できないこと |
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生活援助でできること、できないことは以下の通りです。
できること | できないこと | |
掃除 |
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洗濯 |
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ベッドメイク |
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衣類の整理 |
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一般的な調理 |
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買い物 |
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※このほか、医療行為(インスリンの注射、点滴、摘便や褥瘡の処置など)をおこなうこともできません。
しかし、経管栄養、たんの吸引については一定の研修を受けた介護職員であれば実施可能です。
訪問介護で働くためにはいくつかの資格が必要です。次に紹介する資格を取得すると、介護保険の指定を受けた事業所で訪問介護を提供することができます。
介護職員初任者研修は介護職としての基礎知識や技術を習得する研修です。資格取得のためには講義と演習で構成される130時間の研修を受講し、修了試験に合格することが必要です。
年齢や学歴、実務経験など受講する上での条件がないため、挑戦しやすい資格です。
介護職員初任者研修を取得すると、身体介護が可能になり、訪問介護でのケアがおこなえるようになります。
介護福祉士実務者研修は、介護職員初任者研修の上位に位置づけられる研修であり、介護福祉士国家資格を受験するためには必ず受講しなければならない研修です。
この研修では介護の基本から医療的ケアにわたるまで、20科目を450時間のカリキュラムで学びます。
国家試験を受験するためだけではなく、より質の高い介護サービスの提供のために、実践的な知識と技術の習得も目的にしています。
介護福祉士は「社会福祉士及び社会福祉士法」にもとづく国家資格です。
専門的な知識と技術をもって、身体上または精神上の障害がある人、日常生活に支障がある人に対して状況に応じた介護をおこないます。また、介護方法や生活動作に関する説明、介護に関する相談にも対応します。
介護福祉士も、未経験や無資格からでも取得を目指せます。しかし、国家試験には福祉系の大学や専門学校に入学する、実務経験を重ねながら資格取得を目指すなど、受験資格の制限がありますのでよく確認しましょう。
生活援助従事者研修は、訪問介護の生活援助を専門的におこなうための研修です。介護の基本的な知識や生活援助における支援や技術について59時間のカリキュラムで学びます。
受講要件に制限はなく、誰でも受講することができることに加え、短時間で修了することができます。
訪問介護に向いてる人にはどのような特徴があるでしょうか。
次のような方が訪問介護に向いているとされています。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
訪問介護は、利用者の生活の質を向上させるために重要な役割を果たします。そのため、高い専門性と責任を求められる仕事です。
訪問介護では、基本的には1人で利用者の自宅を訪問して介護をおこないます。身体介助、生活援助をしたうえで、必要があれば通院介助もおこなわなければなりません。自分の行動、ケアの一つ一つが利用者のこれからを左右することを念頭に置きながら、利用者に寄り添い誠実に対応することが重要です。
訪問介護では、利用者の状況やニーズに応じて、画一的ではなく、その都度必要なケアをおこなうことが必要になってきます。私たちの生活でも、全く同じ生活を送ることはありません。ちょっとした変化や違いが毎日生じています。
訪問介護の現場も、利用者さんの身体・精神状況の変化、住環境の変化などが毎日あり、必要な支援は異なります。そのため、日々の変化を感じ取りながら、利用者に寄り添ったケアを実践したい人は向いていると言えます。
訪問介護では、1日に4~5件を訪問することもあるため、体力に自信がある人が向いています。
利用者の自宅を訪れた際には、食事、入浴、排泄などの介助や家事をおこないます。利用者の体を支えたり、移動させたりすることもあるため、一定の体力が必要です。
訪問介護員として働く際には、どのように求人を探したらよいのでしょうか。
求人でみるべき5つのポイントは以下の通りです。
順番に見ていきましょう。
複数の訪問介護事業所の求人から、訪問介護員の給料を比較するポイントが2つあります。
- 「介護職員等処遇改善手当」の有無
介護業界では、介護職員の処遇を改善するために、通常の介護報酬に加えて「介護職員等特定処遇改善加算」が請求できます。この加算を算定しているかどうかで、給料に大きな差が出ます。これらの手当が支給されるかどうか確認しましょう。- 賞与を含めて年収で比較する
一般的に年収は「基本給+各種手当=月給(給料)」として「月給×12か月分+賞与=年収」で計算します。賞与の有無や支給額は事業所によって異なります。月収だけで判断せず、年収で確認しましょう。
訪問介護の仕事は、一般的には日勤のみで残業も少ないため、働きやすい職場が多いでしょう。しかし、利用者のニーズに応じて柔軟に対応することが求められるため、具体的な勤務時間が事業所や利用者の状況によって異なります。
訪問介護員の求人は、夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護など、夜間対応をする事業所もあります。
登録ヘルパー、パートなどの雇用形態では、短時間での勤務も可能です。家庭があるなど、就業できる時間に制限がある場合には、勤務時間に柔軟に対応してくれる事業所を選びましょう。
自宅から通勤可能な範囲内か、希望する地域での求人かをよく確認しましょう。通勤にかかる時間は積み重なると、大きな時間になります。
将来的にキャリアアップを考えている場合は、訪問介護やほかの介護サービスを展開している法人かどうか確認しましょう。
複数の介護サービスを展開している事業所の方が、キャリアアップのチャンスは多いといえます。また、研修の参加調整や費用の負担、資格取得後に昇給してくれるなど、キャリアアップを支援する育成制度がある事業所もあるようです。
利用者と末永くかかわりたい方や、アットホームな雰囲気の合う方は、1つの地域に根付いて運営されている事業所を選択することもよいでしょう。
運営法人や事業所では、それぞれ理念を掲げています。理念に共感できると、同じ事業所でより長く勤務ができ、利用者の生活を継続的にサポートすることができるでしょう。
事前にホームページなどを見て、事業所の方針を確認しましょう。
訪問介護で働くうえで、訪問介護導入までの流れは知っておくべきでしょう。
要介護度1~5の要介護認定を受けた65歳以上の方は、訪問介護サービスを利用することができます。要支援1~2の認定を受けている場合は、介護保険サービス上の訪問介護を利用することはできません。その場合は介護予防・日常生活支援総合事業である「介護予防訪問介護」というサービスを利用します。
また、要支援1の方の場合は、自立した生活・機能を維持するためにも、訪問サービスは原則週2回までと制限があります。
40~64歳の方は、特定疾病によって要介護認定を受けた場合にのみ介護保険が適用となり、介護サービスの対象になります。特定疾病とは、加齢によって要介護状態の原因となる病気のことを指します。
介護保険が適用となる特定疾病は以下の通りです。
- がん(末期)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
訪問介護サービスを受けるための大まかな流れは以下の通りです。
1.要介護認定の申請をする
まずは、お住まいの市区町村の窓口で要介護認定の申請をします。申請の際には「要介護認定申請書」に記入が必要です。
本人の申請が原則ですが、家族や地域包括支援センター等による代行での申請も可能です。
2.介護認定調査を受ける
要介護認定の申請後には、市区町村の職員などから自宅や施設等へ訪問して、聞き取り調査がおこなわれます。
また、市区町村からの依頼をうけて、医師が心身の状況について「主治医意見書」を作成します。主治医がいない際には、市区町村の指定医の診察が必要です。
認定調査の結果と、主治医意見書に基づいた全国一律の判定方法による一次判定、一次判定結果や主治医意見書に基づく介護認定審査会による二次判定を経て、市区町村が要介護度を決定します。
(参考:厚生労働省「サービス利用までの流れ | 介護保険の解説 | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」 )
申請日から原則30日以内に、市区町村から訪問介護を利用する本人へ郵送で通知されます。認定は要支援1・2から要介護1~5の7段階及び非該当に分かれています。
被保険者証に該当する要介護度区分が記載され、申請日に遡って認定が適用されます。
3.介護支援専門員(ケアマネジャー)が決定する
要介護1以上の場合は、居宅介護支援事業所にケアマネジャーの選任を依頼します。市区町村の担当窓口や地域包括支援センターが、居宅介護支援事業所を紹介してくれます。
1度決定したケアマネジャーも、利用者本人や、家族の意向によって変更も可能です。
4.ケアマネジャーがケアプランを作成する
介護サービスを利用する場合は「介護サービス計画書(ケアプラン)」の作成が必要です。
どのサービスをどう利用するか本人や家族の希望を聞き取り、心身の状態を十分に踏まえながら、介護サービス計画書を作成します。
5.サービスを受ける訪問介護事業所と直接契約をする
ケアプランに基づき、実際にサービスを受ける訪問介護事業所と直接契約を結びます。
サービス内容や費用、スタッフの対応など、利用者やその家族は、複数の事業所を比較しながら検討していきます。
6.介護サービスの利用が開始する
利用契約が結ばれると、訪問介護サービスの利用が開始されます。
訪問介護は、サービス内容と所要時間によって費用が異なります。
1日の訪問介護にかかる費用は「サービスの種類別料金×利用時間+その他料金(加算)」で算定されます。
介護保険での自己負担額は基本的に1割負担で、一定の所得がある場合には2~3割負担になります。
【計算例】
要介護3の利用者(1割負担)が、1日45分の身体介護の訪問介護サービスを週3回利用した場合
月額負担:309円/回×3回×4週=3,708円
サービス内容ごとの詳細な自己負担額は、以下の通りです。
〇身体介護の自己負担額の例
サービス利用時間 | 単位数 | 自己負担額 |
20分未満 | 163単位 | 163円 |
20分以上30分未満 | 244単位 | 244円 |
30分以上60分未満 | 309単位 | 309円 |
60分以上 | 567単位+30分を増すごとに82単位 | 567円 +82円(30分ごと) |
〇生活援助の自己負担額の例
サービス利用時間 | 単位数 | 自己負担額 |
20分以上45分未満 | 170単位 | 170円 |
45分以上 | 220単位 | 220円 |
〇通院等乗降介助の自己負担額の例
サービスの利用時間 | 単位数 | 自己負担額 |
片道 | 97単位 | 97円 |
※訪問介護の利用料金は地域ごとに単位数が決められているため、若干異なる可能性があります。詳細は地域の介護保険事業所に確認しましょう。
今回は訪問介護についてご紹介しました。4人に1人は高齢者の時代を迎えた高齢社会の中で、介護の授業はますます高まっています。
特別養護老人ホームなどの入所条件が厳しくなっていることもあり、施設ではなく、自宅で介護サービスを受けながら生活を送る方の割合が大きくなっています。
そのため、訪問介護の需要は急増し、引く手あまたと言えます。今後の成長が期待される仕事ですので、転職をお考えの方、訪問介護に興味をお持ちの方は是非ご検討ください。