特別養護老人ホームは、介護が必要な方がサポートを受けられる生活施設です。
この記事では、特別養護老人ホームの特徴、入居条件や費用、サービスの種類について詳しく解説します。
目次
特別養護老人ホームとは、介護保険サービスが適用される公的施設です。常に介護を必要とする人に対して、入浴や食事などの日常生活の支援や機能訓練、24時間体制での療養上の世話を提供します。略して「特養」と呼ばれたり、介護保険制度上は「介護老人福祉施設」と呼ばれます。
特別養護老人ホームでは、要介護度の高い利用者が多く、看取りの需要が高まっています。
看取り介護では、サービス利用者とその家族が納得のいく最期を迎えられるように、医療と介護が一体となってサポートすることが求められます。特別養護老人ホームにおいての看取りをおこなうことで、「看取り介護加算」を算定することができます。
厚生労働省によると、60%以上の特別養護老人ホームにおいて、看取りの対応を実施しています。
特別養護老人ホームでは、長期間の入所だけでなく、要介護認定を受けた方が短期間入所したり(ショートステイ)、日帰りでサービスを受けたりすることもできます。介護保険が適用されるため、費用を押さえながら利用が可能です。
しかし、ショートステイの場合はベッド数など、枠に空きがなければ利用することができないため、事前予約が必要な場合もあります。
特別養護老人ホームの部屋は4種類に分かれ、部屋タイプによって費用が異なります。それぞれについて紹介していきます。
多床室では、1つの部屋に、複数人のベッドやクローゼットが配置してあります。家具やカーテンなどで仕切られているため、プライバシーが保たれにくいです。
従来型個室では、1人ひとりに個室が与えられます。また、他の入所者との共有スペースも離れたところにあるため、プライバシーが保たれやすいです。
ユニット型個室的多床室では、入所者は12人以下の生活単位(ユニット)でケアを受けます。部屋は、4人1部屋での多床室ですが、プライバシーを重視して個室的に整備されています。リビングなどの共有スペースで、入所者同士の交流も可能です。
ユニット型個室では、入所者は10人以下の生活単位(ユニット)で、台所・食堂・リビングなどの共有スペースを囲むように個室が配置されています。毎回同じスタッフから個別にケアを受けることができるので、入所者も安心できるでしょう。
特別養護老人ホームには、3つの種類があります。それぞれについて紹介していきます。
広域型特別養護老人ホームは、定員が30人以上の施設のことをさします。居住地にかかわらず、誰でも入所申し込みが可能です。
特別養護老人ホームのうち、定員が29人以下の施設は、「地域密着型特別老人ホーム(地域密着型介護老人福祉施設)」と呼ばれます。原則として、施設が所在する市区町村に住民票がある人だけ申し込めます。
地域密着型特別養護老人ホームは、さらに2種類に分かれます。
在宅介護をしている方を対象に、24時間体制での見守りなどのサービスを提供する施設です。原則として、施設が所在する市区町村に住民票がある人だけ申し込めます。
以下の表に、特別養護老人ホームの3つの形態についてまとめましたのでご覧ください。
特徴 | 入所条件 | サービス | 定員 | ||
広域型 | 他の特養より早く入所できる可能性がある。 | 居住地に関わらず入所可能 | 食事 | 30人以上 | |
地域密着型 | サテライト型 | 本体施設の近くにある。 | 施設がある市区町村に住んでいる人 | 29人以下 | |
単独型 | 本体施設がない。 | ||||
地域サポート型 | 在宅で過ごす高齢者に向けたサービス提供。 | 在宅介護生活をしている高齢者 | 巡回訪問などの24時間の見守り | - |
特別養護老人ホームは、初期費用や入居一時金は一切かかりません。初期費用は高額になりがちですが、一切かからないため、入所希望者が多いです。入所者は、居住費や食費などの月額利用料を支払うことになります。
居住費とは、施設に支払う家賃のことです。居住費を支払うことで、各部屋に備え付けられている介護ベッドや家具類を利用できます。
居住費は、厚生労働省によって定められた「基準費用額」に基づいて設定されています。部屋のタイプによっても、基準費用額は異なるので、注意しましょう。
部屋のタイプごとの居住費は以下の通りです。
ユニット型個室 | ユニット型個室的多床室 | 従来型個室 | 多床室 | |
基準費用額 | 6.3万円 | 5.3万円 | 3.7万円 | 2.8万円 |
月額利用料には、食費も含まれます。1日3食分の食費で、外出などで施設内で食事をとらなかった場合でも3食分の費用を支払います。
しかし、入院や外泊などで数日間施設に戻らない際には、事前に食事を止めることで食費の支払いを停止することができます。食費は、どの部屋のタイプでも同じ料金であり、1ヵ月当たり4万4000円が相場です。
日常生活費には、以下のようなものが挙げられます。
- 理美容代
- 医療費
- 薬代
- レクリエーションにかかった費用
- 日用品、嗜好品の購入代金
- その他日常生活費(遠方への交通費など)
おむつや尿取りパッドの代金は、保険給付に含まれるため、施設側が負担することになります。
特別養護老人ホームに入所後に、ケアを受けるために必要な費用です。要介護度と居住する部屋のタイプによって施設介護サービス費は異なります。一般的には、要介護度が高いほど高額です。
それぞれの要介護度、部屋タイプごとの施設介護サービス費の単位数を表にまとめましたのでご覧ください。
要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | |
多床室 | 589 | 659 | 732 | 802 | 871 |
従来型個室 | 589 | 659 | 732 | 802 | 871 |
ユニット型個室的多床室 | 670 | 740 | 815 | 886 | 955 |
ユニット型個室 | 670 | 740 | 815 | 886 | 955 |
基本的な施設介護サービスに加えて、人員体制を手厚くし、特別な介護ケアがおこなわれた際には、「介護サービス加算」が発生して、自己負担額も増える可能性があります。
それぞれの介護サービスにおける加算についても、介護保険サービスと同様に負担額は1~3割ですが、入所施設にどのようなサービス加算があるのかを前もって知っておくことは大切です。
主な加算は以下の通りです。
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厚生労働省によると、2022年の4月1日時点での特別養護老人ホームの入所待機者数は、要介護1〜2の特例入所の対象者も含めて27.5万人となっています。
要介護度別にみた待機状況は以下の通りです。
要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | |
待機者数 | 0.8万人 | 1.5万人 | 10.5万人 | 9.2万人 | 5.6万人 |
しかし、これは複数の施設に申し込むなどの重複申し込みを除いた数であるため、注意が必要です。
また、特別養護老人ホームの市町村の稼働状況を見ると半数近くの市町村が、「基本的に全ての施設で満員」と回答した一方で、市町村では「施設や時期によっては空きがある」と回答していることから、空き状況には地域差があるようです。
空き状況を知りたい場合は、施設のホームページを確認したり、直接電話で確認したりしましょう。
特別養護老人ホームは、基本的には65歳以上で、介護保険の要介護認定において「要介護度3」以上の方が入所します。寝たきりなどの要介護度が重度の方も受け入れられていますが、常時医療的ケアを必要とする場合は入所が困難な場合もあります。
特別養護老人ホームは、基本的に、65歳以上の要介護度3以上の方を対象としていますが、特定疾病がある40〜64歳の方も対象となります。
特定疾病とは、公的保険・民間保険において特別な扱いを受ける病気のことです。加齢と関係が合って要介護状態の原因となる病気のことを指します。
以下の、16種類が特定疾病と呼ばれています。
40〜64歳の型が特定疾病が原因で要介護状態となった場合には、介護保険が適用され、特別養護老人ホームへの入所が可能になります。
特別養護老人ホームは、基本的には要介護度3以上での入所になります。しかし、以下の4つの条件のいずれかに当てはまり、自宅での生活が難しい場合には、要介護度1または2の方でも入所が認められます。
- 認知症により日常生活に支障をきたす症状や行動などが見られる。
- 知的障害や精神障害などによる日常生活に支障が出る症状や行動、意思疎通が難しい症状が頻繁に見られる。
- 同居する家族などから深刻な虐待を受けた疑いがあり、心身の安全の確保が難しい。
- 単身や同居家族が高齢や病弱などで家族の支援を受けられず、地域の介護サービスや生活支援の供給が不十分。
施設ごとに毎月開催される「入所判定委員会」で、入所できるかどうかが決まります。基本的には要介護度が重いなど、緊急性が高い方の入所が優先されます。
特別養護老人ホームと、介護老人保健施設(老健)との違いを以下の表にまとめました。
特別養護老人ホーム | 介護老人保健施設 | |
目的 | 中度・高度の要介護高齢者に対して、身体介護や生活支援をおこないながら居住させる。 | リハビリなどで要介護高齢者の在宅復帰を支援する。 |
入所条件 | 要介護3以上・65歳以上 | 要介護1~5 |
サービス | 身体介護などの自立支援 | リハビリ及び医療的ケア |
入居期間 | 長期(終身利用も可能) | 短期(原則3ヵ月) |
医療スタッフ | 医師は非常勤が普通。 | 常勤医+非常勤医師 |
特別養護老人ホームと有料老人ホームとの違いをまとめました。
特別養護老人ホーム | 有料老人ホーム | |
運営 | 地方公共団体・社会福祉法人 | 民間企業など |
サービス | 中度・重度の要介護高齢者の介護 | 介護や食事のサービスの提供 |
入所条件 | 要介護3以上・65歳以上 | 基本65歳以上 |
費用 | 入居一時金:なし | 入居一時金:~数千万 |
待機者数 | 多い | 比較的少ない |
特別養護老人ホームと養護老人ホームの違いを表にまとめました。
特別養護老人ホーム | 養護老人ホーム | |
目的 | 中度・高度の要介護高齢者に対して、身体介護や生活支援を行いながら居住させる。 | 生活環境や経済的に困窮した高齢者を養護し、社会復帰を促す。 |
サービス | 中度・重度の要介護高齢者の介護 | 食事の提供や健康管理を含む自立支援 |
入所条件 | 要介護3以上・65歳以上 | 65歳以上の自立して生活が送れる方 |
費用 | 入居一時金:なし | 入居一時金:なし |
入居難易度 | 高い。数ヵ月以上待つこともある。 | 市区町村が対象者を調査して入居を決定。 |
厚生労働省の人員配置基準によると、看護職員もしくは介護職員を「3:1(入所者3人につき、最低1人以上)」配置することが定められています。看護師が常駐するため、医療ケアをおこなうことも可能です。
また、医療職は入所者100人につき、医師1人、看護師3人と定められています。要介護3以上の重度の入所者が多いため、他の介護保険施設と比べると、医療ケアよりも介護ケアに重点が置かれています。医師は毎日いるわけではなく、夜勤の看護師もいないため、常に医療ケアが必要な場合は入所を断られることもあります。
特別養護老人ホームでの食事は、家庭と同等の内容で提供するように決められています。そのため、厳しい管理のもと調理や保温がされています。
食事の時間は基本的には毎日同じですが、その日の体調に合わせて変えることが可能です。必要に応じて、ミキサーにかけてもらうなど食べやすい形で出してもらうこともできます。
特別養護老人ホームの入所者は最低でも週に2回入浴ができます。
体調に合わせて入浴の介助をおこなうほか、特殊な浴槽や入浴剤などを活用して、入所者が安全、快適に入浴できるようになっています。
要介護度が進むと、排泄の介助が必要になります。
入所者が移動できる、立ち座りができる場合はトイレでおこないますが、寝たきりの方はベッドで排泄介助を受けることが出来ます。尿意・便意を感じられなくなっている場合は、定期的に排泄ができるよう、職員が声掛け等をおこないます。
リハビリテーションでは、施設内での自立支援を目的としたメニューが組まれるほか、レクリエーションの中に組み込まれることが多いです。
食事をはじめとした日常生活もできるだけ自力でおこない、できないところをサポートしてくれます。施設によっては、作業療法士や理学療法士の手を借りた本格的なリハビリメニューを提供している施設もあります。
施設内の居室や共有スペースの清掃は、施設職員や委託業者が定期的におこなうことになっています。
しかし、自立した生活を促すという点から見ると、掃除や洗濯などの日常に必要な動作は、できる限り入所者自身がおこなう、という考え方もあります。入所者の希望があった場合には、掃除や洗濯をおこなうのを職員がサポートします。
特別養護老人ホームでは自力では買い物に行けない入所者の為に、買い物の代行をおこないます。
入所者が自分で買い物するのを楽しめるように、定期的にコンビニチェーンやスーパーなどの移動販売を業者にお願いしている施設も増えています。入所者自身での金銭管理が難しい場合には、代金の精算も依頼することができます。
施設でのレクリエーションは、リハビリまたは娯楽の提供が目的です。お花見、クリスマス会、運動会などの季節ごとの行事や、公園や美術館などへの外出などさまざまなプログラムがおこなわれています。
また、外部ボランティアを招いてイベントを実施し、近くの幼稚園や小学校の子どもたちと触れ合うなど、地域との交流をおこなう施設も増えてきています。
通常は、本人の講座から口座引き落としによって支払われますが、それが難しくなった場合には契約時に身元保証人となっている人に代わりに請求されます。一般的には、入所者の子どもや親族が身元保証人となっていることが多いです。身元保証人も支払いが難しくなった場合は、2〜3ヵ月の猶予期間で支払う必要があります。
しかし、猶予期間があっても支払えない場合には、3週間から1ヵ月間の予告期間をもって強制退去しなければいけなくなることもあります。
入所者のうち、身寄りのない人や在宅介護が難しい場合には強制退去した後の介護が難しい場合があるので、施設側は移転先を確保することへの協力義務があります。
特別養護老人ホームでは、月々の費用負担は平均で数万円、多くて十数万円に抑えられるので、年金で費用を賄うことは十分に可能です。
特別養護老人ホームは、介護の必要性が高い方が入居する介護施設です。看取りに対応する施設が多いこと、入居に関する費用負担が少ないことが特徴の1つです。入居者は介護や生活援助、医療的ケアなど多様なサポートを受けながら、安心安全に生活することができます。
特別養護老人ホームで働く職員にとっても、高度な介護スキルが身についたり、長期的に入所者と関係を築くことができたりと、やりがいを感じられるでしょう。