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介護事業所の事業譲渡・譲受【最新版】

2022-10-15

元山 ゆず香

監修者

介護福祉士

元山 ゆず香

大学を卒業後、特別養護老人ホームにて現場業務に従事。その後、福祉系大手企業に入社し、エリアマネージャーとして、施設介護事業・居宅介護事業・障害福祉サービス事業でのエリアマネジメント・行政対応を経験。また、法人本部に異動し教育部門・監査担当部門の部長を歴任。現在は全国の介護・障害福祉事業所の支援やセミナーの開催、DXO株式会社での介護関連事業の支援などを実施。

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東京商工リサーチが7日に公表した新たな調査レポートでは、令和4年度の介護事業者の倒産件数が9月までに100件に達したことが発表されており介護事業所の事業譲渡・承継件数も増えています。

この時期100件に至るのは初めてで、過去最多を更新する可能性が高くなっている状況です。

深刻な人手不足や競争の激化に苦しむ事業者は多く存在していましたが、新型コロナウイルスの大流行を経て、サービスの“利用控え”は以前より緩和されたものの、光熱費や燃料費、食材費などのコストが高騰しています。

ICT化が推奨される中で資金繰りが悪化している介護事業所に新たな投資を行う事は困難で、事業をたたむという選択肢を選ぶ介護事業所、事業譲渡・承継を考える介護事業所が増えています。

目次

M&Aとは

M&A(エムアンドエー)とは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略で、文字通り「企業の合併・買収」のことを言います。

2つ以上の会社がひとつになったり(合併)、ある会社が他の会社を買ったりすること(買収)がまとめてM&Aと呼ばれています。M&Aと聞くと、以前は外資系企業(ハゲタカ)が会社を乗っ取るイメージが強く有った方もいらっしゃいますが、昨今は成長戦略の手段の1つであったり、事業をたたむ際に『廃業』を選択せずに事業承継や事業譲渡を選択される方が増えています。

 

事業承継とは

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことをいいます。

特に介護業界で4割を占めると言う1拠点のみで事業を運営されているような法人では、オーナー社長の経営手腕が会社の強みや基盤そのものになっていることが多く、「誰」を後継者に選択し、事業を引き継ぐのかは大きな経営課題です。

事業承継は、大きく次の3つに分類されます。

①親族の中で事業を引き継ぐ親族内承継②社内の従業員に事業を引き継ぐ社内承継③社外の方へ事業を引き継ぐ第三者承継。

中小企業庁のデータによると、かつては親族内承継が9割を占めていましたが、最近では親族外への承継が2/3を占めるまでになりM&Aや事業承継はとても身近なものになってきています。

介護事業所の事業譲渡・事業売却とは

事業譲渡・事業売却とは

事業承継・株式譲渡が会社の経営すべてを後継者に引き継ぐのに対し、事業譲渡は、事業の全部または事業の一部を譲渡することをいいます。企業全体を売買対象とする事業承継・株式譲渡と違い、譲渡対象の事業を選べるのが特徴で、M&Aの手法のひとつです。

契約によって譲渡の対象となる事業を選択することが出来ますので、買い手側にとっては比較的メリットが高く資産や負債についても契約によって比較的自由に選別可能な点が特徴です。

介護事業の事業譲渡

令和4年に倒産した事業者は、デイサービスを中心とする「通所・短期入所」が45件で最も多くなっています。次いで「訪問介護」が36件、「有料老人ホーム」が10件、「その他」が9件となっている。原因は「売上不振」が6割を超えており、全体の8割弱は従業員が10人未満と、小規模なところが大半を占めている状況です。

このような中で、介護事業の事業譲渡も通所介護を中心に増えています。

また、『譲渡金額が人材を普通に採用するより安価』『採用するよりこれまでの実績から安定したの雇用が見込める』というような理由から大手を中心に人材採用活動の一環として実施される機会が増えて来ています。

介護事業の事業譲渡契約書とは

事業譲渡を実施する際は、買収先と契約を交わすこととなります。取り決めるべき主な項目は以下の通りですが、これ以外にも必要な項目について定めることができます。

1.事業譲渡する対象について

対象の特定

契約書には、何を事業譲渡の対象とするのかを特定しておかなければいけません。「○○に関する事業の全部」という記載がなされることが多いですが、後のトラブルを回避するためには対象を具体的に記載しておくことが望ましいです。

後々●●だと思っていた、●●は譲渡対象外という認識だったという相違が無いようにしましょう。

財産権の移転の時期・付随する手続について

譲渡された財産について、いつから、誰のものに、何がなるのか、という事項を定めます。

例えばご利用者様に対する責任はどっちが請け負うのかという問題が発生した際、その責任の所有者が明確になっていなければご利用者様に迷惑がかかります。

2.対価について

対価の額・支払い方法について

事業譲渡における価格を定めます。

財産評価額の保証について

一般的に、財産評価額は、事業の譲渡会社の財務諸表や事業に関する報告書を信頼して算定されることとなります。

3.法令上の規制について

手続に関する規制

株式会社が事業譲渡を行う場合、原則として株主総会を開く必要があります。後々のトラブルを回避するためにも、これら法令上の規制があることを確認し、各種手続を遅滞なく実施すること保証する条項を定めておくといいでしょう。

競業避止義務について

社法の規定によれば、会社間で事業譲渡が行われた場合、事業の譲渡会社は、同一および隣接する市町村の区域内で、20年間同一の事業を行うことができません(競業避止義務。会社法21条1項)

4.従業員の取扱いについて

譲受会社に承継させる場合

譲受会社に承継させない場合

介護事業の事業譲渡・事業売却の流れ

1.相談先を見つける

事業譲渡側(売り手)のニーズや状況に応じて、事業譲渡をするべきなのか、あるいは会社分割や事業承継・株式譲渡が良いのか、承継方法について考えなければいけません。また、事業承継や譲渡の完了までには行うべきことも、気を付けなければいけないことも沢山存在します。

相談先には顧問の税理士や、取引先の銀行、案件や事例を多く持っているM&A仲介業者に依頼をすることが確実です。

もしM&Aに詳しく、自身で売却金額の交渉等も可能であるということであれば、M&Aプラットホーム等を使い自分で相手を探すことも可能です。

2.事業譲渡までのスケジュール策定

事業譲渡の完了までのスケジュールを立てます。事業譲渡先がスムーズに見つかれば数か月で譲渡の完了まで進むことも有りますが、概ね半年から1年程度と言われています。

3.事業譲渡・事業売却先の選定

M&Aプラットホームを使用する場合は、自身で売却先を選定し、譲渡価格等の交渉をする必要があります。一方、M&A仲介業者を選ぶ場合は、あらかじめ譲渡側、譲受側の意向を踏まえてマッチングが行われます。

M&A仲介業者では、常時買い手のニーズをくみ取った管理をされている場合が多く、スピード感と相性を重視する方にはM&A仲介業者への依頼が向いています。

一方、時間に余裕があり、自分で納得感をもって進めたいと考える場合はM&Aプラットホームを用いて行うのも良いでしょう。

4.基本合意書の締結

買い手、売り手の意向がマッチしたら、基本合意書を締結します。基本合意書とは、当事者の認識を揃える目的で作成する文書です。

M&Aを進める中では、買い手、売り手ともに意識が発展しやすく、また話がまとまりそうなタイミングで更に好条件な交渉相手が現れた場合、そちらに取られてしまうといった事も有ります。

これらを避けるために『独占交渉権』等を基本合意書に記載することもでき、締結に際しては特に買い手側にとってメリットが大きいと言えます。

それまでに話している重点項目(譲渡価格や条件等の基本的な事項等)について双方の意思に相違が無い事や、譲渡までのスケジュールを明確にする等の目的をもって締結されます。

5.デューデリジェンスの実施

「Due(当然の、正当な)」「Diligence(精励、努力)」という意味で、「DD(ディーディー)」と略されることもあり、主にM&Aや組織再編を行う際に使われます。「デューデリジェンス」とは、企業の経営状況や財務状況などを調査することを指し、デューデリジェンスの目的は、「収集対象企業の経営環境や事業内容の事前調査・法務面や財務状況などの企業分析・買収する企業の正確な経営の実態や事業の運営方法についての把握」です。

主に買い手側が書類を指定し、指定された書類を売り手側が提出します。

行わないと言う選択肢もとれますが、譲渡後になって『聞いていた内容と違う』『実は簿外債務があった』等と言った事の無い様に実施が推奨されています。

介護事業所においては、通常のM&Aで実施されるデューデリジェンスに加え、介護保険法の法令遵守体制が求められます。また、『法令に詳しい』『法令を遵守して業務が行える』従業員と、そうではない従業員では、企業価値も大きく変わってきます。

6.最終契約の締結

デューデリジェンスを経て、双方合意のもと、最終的な譲渡の契約に進みます。このタイミングで初めて譲渡日等が決定します。

デューデリジェンスの結果で基本合意書の締結の際に想定されていた価格よりも下がる可能性が有りますので、事業譲渡を行う際は事前にしっかりと整理しておく必要があります。

7.クロージング

従業員も事業譲渡の中では『譲渡対象』となりますので、従業員への通知は慎重に行う必要があります。最終契約締結時に決定した譲渡日に譲渡が実施されます。

特に介護事業のM&Aにおいては、従業員が企業価値に直結してきます。

8.譲渡先での統合

事業譲渡は譲渡が行われて『完了』では有りません。異なる文化で働いてきた従業員同士が一緒に働くことになるわけですから、様々な配慮がなされなければうまくいくはずが有りません。

双方の良い文化が活かせるように、経営者が価値観を一致させるような話をしていくことが大切です。

M&Aの仲介会社とは

M&Aのアドバイザーが売手企業と買手企業の間に入り、M&Aを成功に導くために中立的な立場で交渉しサポートしていく業者を指します。本来であれば、売手であればできるだけ高く、買手であればできるだけ安くM&Aをしたいという考えが働きますが、両方からの条件を聞いて両方が納得する着地点を目指した交渉サポートを行います。

介護業界においては、これまで知人の事業所やケアマネに従業員や利用者をお願いして事業所をたたむ。という手段が択ばれてきました。しかし、昨今のM&A件数自体の増加に伴い、介護業界においても仲介会社の関わる機会も増えてきています。

M&A仲介会社の仲介手数料について

多くの仲介会社では仲介手数料を以下のようにしたレーマン方式と呼ばれるものが一般的です。

5億円以下の部分   5%

5~10億円の部分   4%

10~50億円の部分    3%

50~100億円の部分     2%

100億円を超える部分  1%

5%であれば人材会社の紹介手数料などに比べると安価に見えるしれませんが、多くの場合、最低報酬500万円、1,000万円、2,000万円と高額に設定している会社が多く存在します。訪問介護やデイサービス、強いては地域密着型サービスを提供する中小の介護事業所がM&Aを自分事にとらえられないのはこのためです。仮に譲渡対価を得られたとしても仲介会社に大半を持っていかれるようなことになっては元も子もありません。

また成功報酬以外にも着手金や中間報酬などの料金設定をしている仲介会社もありますので、注意が必要です。

中には介護に特化した仲介会社で最低報酬100万円~というようなところもありますので、M&Aをお考えの際は仲介手数料の面では相談してみるのもありかもしれません。

M&A仲介会社を選ぶときのポイント

仲介手数料の値段は勿論ですが、介護のM&A実績があるか、介護業界に精通している法人かが大きなポイントになります。

介護専用のM&Aとうたっている法人でも、介護の運営指導や法令に詳しい存在がいるとは限りません。また、介護事業において『企業価値』というのは通常の企業とは異なる点が多々あります。

介護福祉士や実務者研修修了者の人数などが事業所の価値評価に加味してもらえるのか、運営指導実地指導でみられるような法令書類や加算の取得状況、介護ならではの価値について相談のできる相手でないと、売上や利益など数字のみでの価値の判断をされてしまう恐れがあります。

どこの仲介会社でも相談無料としているケースが多いため平均値や相場を知る意味でも、検討し始める際は仲介会社へ問い合わせ、無理な営業をしてこないように念押して営業マンをうまく使い、教えてもらうのが良いかもしれません。

M&Aにかかる費用

M&Aにかかる費用

一般的なM&Aを行う際、多くの中小企業が、M&A仲介会社・コンサルタント・FA(ファイナンシャルアドバイザー)などの専門家を活用しています。

単に仲介手数料と言ってもM&A仲介業者ごとにその設定しており、具体的には以下のようなものがあげれます。

・成功報酬(M&A最終契約の締結時にかかる費用)

・着手金(具体的な依頼時にかかる費用)

・中間金(M&A基本合意契約を締結時)

・デューデリジェンス費用(財務・リスク調査にかかる費用)

着手金や中間金に関しては設けていないM&A仲介業者も多く存在しています。

また、デューデリジェンスを実施する場合は税理士や不動産鑑定士等の士業に依頼することになりますが、これは仲介業者への支払いは別に必要となってきます。

それぞれの相場

仲介手数料については前項の通りですが、仲介会社によって以下の料金を設けている可能性があります。

・着手金(具体的な依頼時にかかる費用)

完全成果報酬とし着手金が発生しないM&A仲介会社もありますが相場としては、50万~100万円程度です。

・中間金(M&A基本合意契約を締結時)

着手金同様に発生しないM&A仲介会社もありますが相場としては、成功報酬額の10~20%としている仲介会社が多くなっています。

・デューデリジェンス費用(財務・リスク調査にかかる費用)

買手企業に財務法務人事などの担当がいて、買手企業が直接行う場合には外注しないケースもありますが、それぞれの専門家(士業)に依頼するケースですと~100万円程度が多くなります。

また、介護事業においては運営指導(実地指導)についての専門家に依頼することとなりますので、運営指導(実地指導)の多数経験者が存在する仲介業者を選定することも重要です。

介護施設・事業所の経営者にとって『良いM&A』とは

譲受側経営者様

事業譲受を考えたとき、譲受側の経営者様にとって良いM&Aとは、法人と法人が合わさる事で更なる拡大を図れることです。

『更なる拡大』は、単に規模の話だけでなく、職員の数、ご利用者の数、事業数の数等多岐にわたりますが、このために必要不可欠なのはM&Aを行うにあたり事前に思っていた姿と、行った後の姿に大きな違いを生じさせない事です。

譲渡側経営者様

譲渡側の経営者様にとっての『良いM&A』とは、ご利用者・従業員が解散後も変わらず笑顔で生活できることが『確約されている状態である』ことは勿論、一定の条件や金額で譲渡が可能になる事です。

また、従業員は法人変更後、『賃金、労働条件、環境に変更がない』という前提条件が最低限保証され、少しだけ自分の将来に希望が見えることが良いM&Aだと言えます。

買い手側にM&Aが注目される理由

昨今の介護業界の人材不足における課題は、この先も解決の目途は立っていません。

そんな中人員基準や配置基準を満たすために、紹介業者からの人材紹介や派遣会社から派遣を受けたり等、多くの資金を投じてその場その場で必死に解決を図って何とかやりくりしているのが現状だと思います。

紹介業者に人材の紹介を依頼すると、介護福祉士常勤の紹介を受けるのに100万円程度かかることも有ります。

このような背景からも100万円程度から事業を譲受できるM&Aは、数名の職員に利用者が存在するという状態で引き継ぐ事が可能であり、昨今注目を集めている人材採用の手法となっています。

売り手側にM&Aが注目される理由

廃業手続きは廃業届などの必要書類や費用を準備することから始まり、これらは専門的な要素が多く、書類作成の段階で膨大な作業が発生するため、清算などの手続きを弁護士や税理士などに代行してもらうのが一般的ですが、清算後は残った資産が債権者に分配され、解散・清算確定申告や清算決算報告書の承認を得て、廃業手続きは終了となります。

また、同時に指定申請を廃止させる手続きや、介護・福祉業界ならではの手続きにも専門的な方の知識が必要になります。

このことから、『廃業』ではなく事業を存続させる『事業承継』を選択される経営者の方が増えています。

事業承継とは

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことを言い、中小企業にとっては特に代表者の経営手腕が会社の強みや存立基盤そのものになっていることが多く、「誰」を後継者にして事業を引き継ぐのかは重要な経営課題です。

また、事業承継は単に「次の社長を誰にするか(経営承継)」という問題ではなく、会社の経営権そのものの「自社株を誰に引き継ぐか(所有承継)」、「後継者教育をどう行うか(後継者教育)」を考えることもとても重要です。

介護事業の事業譲渡・事業売却の注意点

●離職者を出さないようにする

介護事業の事業承継においては、従業員が非常に大きな意味を持ちます。介護業界は従業員の数で売上が左右されることから、従業員が企業価値を決めるといっても過言ではありません。

離職者が増えた事で事業譲渡自体の話がなくなるといった事も珍しくありませんので、話がまとまるまで従業員への通知はふせ、また伝え方にも十分な配慮が必要です。

●資料やデータをまとめておく

買い手側は資料やデータでしか企業価値や購入する、しないを判断することが出来ません。

資料やデータが必要なのはデューデリジェンスだけでなく、売り手側は交渉が開始してからは資料の提出作業に追われることになります。

通常のM&Aに加え、介護業界ならではの『指定通知書』や『ケアマネジメント一連の書類』等も該当になります。

買い手側は『依頼した資料が早く出てくる』=しっかりしていると判断しますし、また資料がいい加減であれば買うという判断が出来ないでしょう。交渉の前に一通りの資料を準備しておくことが大切です。

●再指定が必要になる

事業譲渡により法人が変更になるため、新たに指定の申請を受ける必要があります。

吸収合併・分割に伴う指定の取扱いについては、厚生労働省より以下の通知の中で取り扱いが指定されており、申請業務を簡素化することが可能です。

【厚生労働省通知 介護保険最新情報vol.862】事業所の吸収分割等に伴う事務の簡素化について

●各種契約関係の巻き直しがある

法人の変更となりますので、新たに契約書等の再締結が必要になります。ご利用者様は勿論、リース契約や包括との契約等にも影響しますので、譲渡前に契約関係にある先を取りまとめておくことが必要です。

●利用者に影響がある事を考えて対策を考える

保険給付においてはご利用者様に大きな影響等はありませんが、自費のサービス等は譲渡先によって料金が変更になったり、受け入れていなかったりといった事も想定されます。買い手の選定の際はこれについても確認の必要があります。

●事業譲渡・事業売却には時間がかかることを認識する

先の通り、事業譲渡までは半年から1年程度の時間を要します。この間に廃業を迫られることの無いよう、資金繰りも含めて早期の決断を行う必要があることを念頭に進めないといけません。

また、従業員が企業価値に影響を及ぼすことも忘れてはいけません。

●加算の見直しの確認

指定を申請しなおすと、それまでの実績は無いものとなり、また新たにスタートを切ることとなります。一時的に売り上げが下がることも見込んで買収の計画を立てていく必要があります。

●介護ならではのM&Aに注意する

介護事業のM&Aには、確認すべき書類や取り決めるべき約束に特徴があります。例えば、大きな指摘事項を受けた運営指導(実地指導)の後に改善されることなく事業が存続し、これを承継した場合、改善の責任は承継された先に移ります。

このようなことを知らずに買収に至った場合、大きな返還リスクを伴う事は言うまでもありません。

介護事業のM&Aにおいては、このような専門知識をもった相談先を得ることがとても大切です。

加算減算

介護事業の事業譲渡・事業売却を考えるタイミング

介護事業の事業譲渡を考えるタイミングは、主に以下のタイミングで多い様子です。

●人材不足

人材不足が深刻な介護業界では、介護サービスを提供するために人材が必要不可欠です。介護事業では配置基準を超えて人材を配置する余力はなく、常にギリギリの状態で運営されていることも珍しくありません。

介護事業の倒産理由で常に上位に挙がっている理由は『人材不足』であり、配置基準を満たせなくなったことや従業員が退職したことにより売り上げが下がってしまったことにより経営難に陥るといったことも有ります。

●経営者が高齢になり健康問題が出てきた

中小企業を中心に社長自身が現場に出て、現場を回しているといった状況が有り、キーマンが高齢になったり健康問題を発症したことにより事業承継や譲渡を考えるといったケースが多く有ります。

●別事業に注力したいと考えている

現在、この国が抱える問題は少子高齢化ですが、いずれは現在の子供たちが高齢者となることが決定しています。また、別にメイン事業が有って介護ビジネスに参入した経緯の法人も多く存在します。

このような方達が、別事業に注力するために事業譲渡を考えていることが少なくありません。

●介護報酬改定が有る

介護報酬は、3年に1回改定が実施されます。2000年の介護保険制度の発足から11回の介護報酬改定が実施されていますが、基本報酬は物価の上昇に併せて上がることなく、『加算』を新たに創設することで介護事業所を一定以上の質が保てる法人のみを残していくような仕組みになっています。

加算には算定要件が存在しますが、これらを満たした運用は簡単ではありません。加算の要件を満たすことが出来る余力のある、介護サービスの質が高い介護事業所のみを残していくということが国が敷いているレールといっても過言では有りません。

●災害が発生した

地域で働く人材が多い介護業界では、大きな災害が発生した際、従業員自身も被災者となりますので介護の提供が困難になります。

これが売り上げに直結し、何カ月も収入が無い、安定しない状態が続けば、廃業を選択せざる得ない状況に追い込まれてしまいます。

介護事業の事業譲渡・事業売却を選ぶメリット

売り手側のメリット

①事業の一部を譲渡できる

会社を存続させたまま、事業の一部を選択して譲渡できるという点が大きなメリットです。介護事業のみ切り離したいという場合や、メイン事業に注力したい場合など、事業譲渡では自由度の高い事業取引を行うことができます。

②残しておきたい資産・従業員が確保できる

特定の資産・従業員について確保しておきたいという場合、買い手側との間で「事業のどこまでを譲渡・承継するのか」について合意できていれば、これらの選択が可能となります。

例えば居宅介護支援サービスと訪問介護サービス、通所介護サービスの併設をしている場合等は、その1部のみ譲渡が可能です。

③法人格を残すことができる

事業譲渡は、既存の会社の法人格はそのまま残せます。例えば一部の事業を譲渡したのち、新たにその会社で事業を始めるとなった場合にも新会社設立の手間がかかりません
法人は手放したくない、その法人で得た価値を残したい、あるいは税金対策の一環な等、色々な事情で法人格だけは残したい場合には事業譲渡のメリットを生かすことができます。

買い手側のメリット

①必要な事業のみ低リスクで承継できる

株式譲渡や合併などの場合、買い手側にとって必要ではない資産や負債なども背負ってしまう可能性があります。ただし事業譲渡であれば、買い手側にとって必要な事業のみ承継できるので、株式譲渡や合併と比べると事業譲渡の方が比較的小さなリスクで効果的に成長することなどが見込めます。

把握しきれないリスクや負債を引き継ぐことも有りません。

②自社の成長戦略に合わせることができる

1部の事業のみを譲渡することにより、自社の弱い事業の強化が可能です。また、他業界からの参入もしやすく、低コストかつスピーディーに事業の展開を行うことが可能です。このように、自社の成長戦略に合わせた発展がしやすいことがメリットです。

介護事業売却 案件の事例

介護事業所の売却案件は、以下のような形で譲渡先を募集しています。

既に譲渡先が決定している案件となっております。一例としてご紹介させて頂きますが、案件のご紹介を希望される場合はお問い合わせください。

■通所介護の事例 100万円での譲渡希望

[事業]通所介護(定員29名 1単位) 

[売上]単月100万円程度の赤字

[設備]賃貸40万円

建物150㎡(機能訓練スペース90㎡)駐車場5台分、トイレ3、キッチン3、風呂1、事務室※申請上の基準に問題なし

[人員]

生活相談員:常勤2名・非常勤1名 看護師兼機能訓練指導員:常勤1名・非常勤1名

介護職員:非常勤4名

[その他譲渡対象設備]バン2台(車いすリフト付き) 机・椅子 消火設備

[譲渡理由]前管理者が経営者であったが、ご逝去されたため

■訪問介護の事例 300万円での譲渡希望

[事業]居宅介護支援・訪問介護・障害訪問系サービス

[売上]単月300万円 利益単月20万円程度

[設備]賃貸10万円

[人員]介護支援専門員:管理者常勤1名・非常勤1名 サービス提供責任者:管理者常勤1名

訪問介護員:常勤3名、非常勤5名

[その他設備]机、椅子、自転車等

 

介護事業の事業譲渡・事業売却でおすすめの相談先

これまでお伝えしてきた通り、介護事業において事業承継や譲渡を考えた際、多くの案件や事例を持っている相談先が必要不可欠です。

また、介護ならではの法令リスクを熟知した方に相談できることがとても重要ですので、運営指導や実地指導に詳しい人のデューデリジェンスが受けられるM&A仲介会社が望ましいと言えます。

まとめ

介護業界における後継者問題は深刻になってきています。

このような中で、多くの方が選ばれるのは『廃業』であり、ご利用者様と従業員は正式な契約で引き継がれる事はなく、『口約束』のみの引継ぎとなっており、これまでの業務をはじめとする業務のやり方、給与形態、受けられるサービス内容等が継続出来ずにトラブルに発展するといった事が起きています。

経営者にとっても、ご利用者様にとっても、従業員にとってもこれまでの日々はかけがえのない時間です。

関わる全ての人がより幸せだと感じれる未来にいくために、最善の方法が何なのかを見極める事、これが経営者の大切な最後の仕事だと言えます。