介護施設を探していると、たくさん種類があってどの施設がいいのか分からないという方は多いです。
「特養は安くていいよ」とよく耳にしますが、特養と言われる、特別養護老人ホームとはどんな施設なのでしょうか。
今回の記事では、特別養護老人ホームはどんな施設なのか、サービス内容、費用、一日の流れなどについて詳しく解説します。
目次
特別養護老人ホームは厚生労働省によると、「要介護高齢者のための施設。入浴、排泄、食事等の介護その他の日常生活の世話、機能訓練、健康管理及び療養上の世話を行う」とされています。
自宅で生活することが難しい高齢者が、生活全般の介護を受けるために入る施設が特別養護老人ホームです。
特別養護老人ホームではどのようなサービスを受けられるのでしょうか。主に受けられるサービスを8つ説明します。
栄養士が立てた献立に基づいた食事が提供されます。
季節の行事にあった食事が提供され、食事を通して季節を感じることができます。
旬の食材も使用されるので、季節ごとに楽しく食事を摂ることができます。
入居者が季節を感じつつ、楽しくバランスが取れた食事が取れるように工夫されています。
多くの施設では週に数回、入浴ができるように計画されています。
体調が悪く、入浴できない場合は、清拭(体を拭く)してもらえます。
寝たきりの方など特別な事情があり普通に入浴できない方は、機械を使って入浴できるような設備がある施設もあります。
ご自分でトイレに行ける場合、安全にトイレに行くことができるようにサポートします。
尿意や便意を感じない方は、排泄のタイミングで声をかけられトイレへ連れて行ってもらえます。
ベッドから移動できない方は、ベッド上で介護を受けることができます。
医師や看護師に健康をチェックしてもらいます。
体温、血圧、排泄の状況や食事の摂取量などから健康状態を確認してもらい、必要なら適切な処置を受けられます。
緊急時には、すぐに対応してもらえる体制が整っているので安心です。
生活に欠かせない動きの維持や向上のためにリハビリを受けることができます。
リハビリを受けることで、食事をできるだけ自分で食べたり、自分だけで排泄できるように訓練できます。
自立支援に関しては、施設ごとで様々な取り組みがなされています。
一例として、できるだけオムツを使用しないという自立支援に取り組んでいる施設があります。
排泄の時間でトイレへ誘導するなどして、失禁をなくすことでオムツを使用しないで生活できるようになる利用者もいるようです。
自立支援を受けることで、自分の能力を生かして自分らしい生活ができるようになります。
手足や体を使ったゲームなど、体を使ってリハビリにつながるレクリエーションが行われます。
計算をするなど、頭を使ったものを行うこともあります。
季節ごとのお祭りや行事、誕生会などを行う施設も多いです。
「看取り」とは施設で亡くなるまで介護することを言います。
以前は、緊急時には救急搬送され、病院で亡くなるケースがありました。
最近では、ご家族が緊急時でも救急搬送せずに、施設で最期を迎えてほしいと希望されるケースがあります。
医師や看護師のサポートを受けつつ、可能な場合は施設で最期を迎える体制を整えている施設が増えているようです。
実際に特別養護老人ホームに入ることを検討するために、メリット・デメリットを紹介します。
・入居費用が安い
有料老人ホームで請求されることがある、入居費用(入居するための一時金)がかかりません。
さらに、施設でサービスを受ける費用の約半額が医療費控除の対象になります。
費用は所得によって減免されるので、所得が少ない方は月額料金も安く済みます。
・退去の心配がない
特別養護老人ホームではない施設によっては、介護度が上がったり、一人で生活できなくなるなど、条件に合わなくなった場合に施設を退去しなければなりません。
特別養護老人ホームの場合、看取りをする施設が多いため原則的に最期まで施設を利用することができます。
・24時間介護してくれる
特別養護老人ホームは24時間スタッフがいることが法律で義務付けられているため、24時間介護を受けることができます。
・入居できる目処が立たない
特別養護老人ホームに入ることはメリットが大きいため、入居を希望する人が多いです。
希望者が多いだけではなく、入居が申し込み順ではないことも入居できる目処が立たない理由です。
介護度の重い方や低所得者の方が優先的に選ばれるので、こうした条件に当てはまらないといつまでも入ることができないのは、デメリットと言えるでしょう。
・24時間医療が受けられない場合がある
24時間介護スタッフがいることは法律で義務付けられていますが、24時間看護師がいることは義務付けられていません。
夜間の痰の吸引などの医療処置が必要な場合、特定行為技術者(痰の吸引などの医療ケアができる)の資格を持った介護スタッフが夜間に介護しているか確認する必要があります。
・条件が厳しい
原則、要介護3以上の方が入居できます。さらに、介護度が重い方や低所得者が入居対象者として選ばれるため、条件を満たすことが難しいというデメリットがあります。
実際にどのような方が特別養護老人ホームを利用されているのでしょうか。その特徴を見てみましょう。
特別養護老人ホームを利用されている方の46.8%は85〜94歳です。続いて、75〜84歳が23.3%、95歳以上が14.1%利用されています。
全体の6割ほどが85歳以上です。入居対象者が高齢なほど、特別養護老人ホームが選ばれていることが分かります。
特別養護老人ホームに入ることを考えたきっかけとして一番多いのは、「自宅介護がこんなんだった」で、以降、「体力、身体機能が低下してきた」、「認知症の症状が現れた、悪化した」、「介護による疲れを感じた」となっています。
同じ家に住む家族が自宅での介護が難しくなったり、ご本人が自宅での生活ができないと感じることがきっかけで、特別養護老人ホームの入居を検討することが多いようです。
介護保険施設一覧表
施設の名称 | 特徴 |
特別養護老人ホーム | 常に介護を必要とする高齢者に介護と生活援助のサービスを提供する。 |
介護老人保健施設 | リハビリを行うことで、高齢者が自宅で生活できるように支援する。 |
介護療養型医療施設 | 長期的に医療を受ける必要がある高齢者が入居する(2023年度末に廃止予定) |
介護医療院 | 介護療養型医療施設が廃止されるため、新設された施設。 |
介護老人保健施設は、自宅へ戻るためにリハビリを受ける施設です。
特別養護老人ホームと違い看取りまで入居することはできません。
特別養護老人ホームでも医療的ケアは受けられますが、介護療養型医療施設はより医療依存度が高い高齢者が入居する施設です。
特別養護老人ホームは介護施設なのに対して、介護療養型医療施設は病院と考えると分かりやすいと思います。
介護医療院は介護療養型医療施設が廃止されることを受けて、新設される施設です。
医師や看護師が常にいるため、医療的ケアが充実しています。
看取りやターミナルケアも可能です。特別養護老人ホームは医師や看護師が勤務していない時間帯があるため、介護医療院ほどの医療的ケアは受けられません。
1室に複数のベッドが配置されているタイプで、4人部屋となっているケースが多いです。
病院の相部屋と似たイメージになります。
1室1人で使用します。
ユニット型個室が登場したため、「従来型」と呼ばれています。
病院の個室をイメージすると分かりやすいでしょう。
「ユニット」とは、10人以下でロビー、ダイニング、簡易キッチン、浴室、トイレを共有するグループを指しています。
パーテーションなどで区切り、プライバシーに配慮された個室で生活します。
ユニット型は、1室1ベッドの個室となっています。
トイレや洗面所などが部屋についていて、ユニット型個室的多床室とは違って、しっかりとした個室になっていることが特徴です。
特別養護老人ホームに申し込むためには入所条件を満たす必要があります。
どのような条件があるか詳しく解説します。
要介護3は自分で立ち上がったり、スムーズな歩行が難しい状態です。
理解力や思考力も落ちており、24時間誰かがついている必要があります。
介護度3になると認知症を患っている人も多いです。
原則的に介護度3で入所できますが、要介護1〜2の方も下記の場合は入所可能です。
下記のように、ご本人の状態や周りの環境位より、自宅での生活が難しい要介護1・2の方は特別養護老人ホームへ入所申請が可能です。
・認知症や知的障害、精神障害により日常生活に支障をきたす症状や行動が頻繁にみられ、自宅での生活が難しい状態
・家族による深刻な虐待が疑われる場合
・家族の支援や地域での介護サービスや生活支援の提供が十分に期待できず、自宅での生活が難しい場合
実際に特別養護老人ホームへ入所する場合、費用はどのくらいかかるかをまとめました。
要介護ごと、居室の種類によって施設サービス費を表にまとめました。
(施設の形態や、職員の配置によって費用は異なります)
サービス費用の | 利用者負担(1割)(1日につき) | |||
従来型個室 | 多床室 | ユニット型個室 | ユニット型個室多床室 | |
要介護1 | 557円 | 557円 | 636円 | 636円 |
要介護2 | 625円 | 625円 | 703円 | 703円 |
要介護3 | 695円 | 695円 | 776円 | 776円 |
要介護4 | 763円 | 763円 | 843円 | 843円 |
要介護5 | 829円 | 829円 | 910円 | 910円 |
入所者が支払う、居住費・食費の範囲を表でまとめました。
区分 | 費用の内容 | |
居住費 | ユニット型個室・ユニット型個室的多床室・従来型個室・多床室 | 室料+光熱費相当 |
食費 | 食材料費+調理費 |
光熱費、食材料費、調理費は地域や施設によって異なるため、入所希望の施設の費用を調べる必要があります。
住居費は、いわゆる家賃のことで、国が定めた「基準費用額」に基づいて設定されています。
食費は、3食分の費用です。仮に外出して昼食を食べなかったとしても、3食分を支払う必要があります。
日常生活費は、生活していく上で必要な費用です。
医療費や嗜好品、理美容費、レクリエーションにかかった費用が含まれます。
基本的な費用に加えて、手厚いサービスや特別な介護を行ったりする場合に、費用がプラスされる場合があります。
主なケースを見てみましょう。
看取りケアとは、医師が回復する見込みがないと診断したのち、家族の同意を得た上で行われる介護です。
逝去する45日前から適用されますが、逝去に近づくほど加算金額が大きくなります。
施設が重度の利用者を積極的に受け入れることを評価した加算です。
要介護4・5の新規受け入れが7割以上、認知症で日常生活が難しい方の新規受け入れが6割5分以上、たんの吸引等が必要な方が1割5分以上であることなどが条件で加算される費用です。
収入や資産に応じて自己負担額の上限が定められており、超過分が介護保険から補填される仕組みを負担限度額認定といいます。
負担限度額認定は第1段階から第4段階まであります。
第1段階
生活保護受給者・老齢福祉年金受給者の当人及び世帯全体が市民税非課税の場合
居室タイプ | 居住費の負担限度額 |
多床室 | 0円 |
従来型個室 | 9,600円 |
ユニット型個室的多床室 | 14,700円 |
ユニット型個室 | 24,600円 |
食費の負担限度額:9,000円
第2段階
当人および世帯全体が市民税非課税かつ「合計所得金額+課税年金収入額」が80万円以下の場合
居室タイプ | 居住費の負担限度額 |
多床室 | 11,100円 |
従来型個室 | 12,600円 |
ユニット型個室的多床室 | 14,700円 |
ユニット型個室 | 24,600円 |
食費の負担限度額:11,700円
第3段階
当人及び世帯全体が市民税非課税で第2段階でない場合と市民税非課税層における特別減額措置が適用された場合
居室タイプ | 居住費の負担限度額 |
多床室 | 11,100円 |
従来型個室 | 24,600円 |
ユニット型個室的多床室 | 39,300円 |
ユニット型個室 | 39,300円 |
食費の負担限度額:19,500円
第4段階
住民税が税世帯の場合
居室タイプ | 居住費の負担限度額 |
多床室 | 25,650円 |
従来型個室 | 35,130円 |
ユニット型個室的多床室 | 50,040円 |
ユニット型個室 | 60,180円 |
食費の負担限度額:43,350円
負担減額認定の申請は、市町村窓口で行えます。
特別養護老人ホームに入所した場合、月額料金は一体いくらかかるのでしょうか。
基本的な費用を表でまとめました(1割負担、1単位10円、30日換算、日常生活は1万円と仮定)
要介護度 | 多床室 | 従来型個室 | ユニット型個室 |
要介護3 | 21,360円 | 21,360円 | 23,790円 |
要介護4 | 23,400円 | 23,400円 | 25,860円 |
要介護5 | 25,410円 | 25,410円 | 27,870円 |
食費 | 43,350円(1日1,445円とした場合) | ||
住居費 | 25,650円 | 35,130円 | 60,180円 |
日常生活費 | 10,000円 |
例えば、多床室、要介護3とした場合、21,360円+43,350円+25,650円+10,000円となり、1月当たりの費用は、100,360円となります。
人員基準とは介護保険法で定められている、人員配置の基準です。
どの施設でも人員基準を満たしていなければ、施設として認めてもらうことはできません。
特別養護老人ホームにはどのような基準が定められているのでしょうか。表形式でまとめたので、是非参考にしてください。
職種 | 人員基準 |
施設長 | 常勤で1人 |
医師 | 入居者の健康管理及び療養上の指導を行うために必要な人数 |
生活相談員 | 常勤で入居者が100又はその端数を増すごとに1人以上 |
介護職員及び看護職員 | 利用者3人に対して介護職員及び看護職員が1人以上 |
栄養士 | 1人以上 |
機能訓練指導員 | 1人以上(他の職務に従事することが可能・レクや行事を通じて行う機能訓練の場合は、生活相談員か介護職員が兼務できる) |
介護支援専門員(ケアマネージャー) | 1人以上(その職務に従事する常勤のもの・100又はその端数を増すごとに1人が基準) |
調理員、事務員、その他の職員 | 特別養護老人ホームの実情に応じた人数 |
特別養護老人ホームでは、設置しなければならない設備の基準も定められています。
代表的なものは下記の通りです。
設備 | 基準の詳細 |
居室 | ・居室の定員は4人以下 ・入居者一人当たりの床面積は10.65㎡以上 ・寝台又はこれに代わる設備を整える ・入居者の身の回りの品を保管することができる設備を整える ・ブザー又はこれに代わる設備を設ける |
浴室 | 介護を必要とするものが入浴するのに適したもの(機械浴)とする |
トイレ | ・ブザー又はこれに代わる設備を設ける ・介護を必要とするものが使用するのに適したものとする ・必要な場所に常夜灯を設ける |
医務室 | ・入居者を診察するために必要な医薬品及び医療機器を備える ・必要に応じて臨床検査設備を設ける |
廊下 | ・廊下の幅は、1.8メートル以上(中廊下にあっては、2.7メートル以上)とする(ただし、廊下の一部の幅を拡張することにより、入居者、職員等の円滑な往来に支障が生じないと認められる場合には、1.5メートル以上(中廊下にあっては1.8メートル以上)とすることができる) ・必要な場所に常夜灯を設ける ・手すりを設ける |
階段 | ・手すりを設ける |
特別養護老人ホームにどのような流れで入所するのでしょうか。詳しく説明していきます。
1.入所を希望する施設から、申込書を入手する。
2.入所申込書に記入し、介護保険者証のコピーなど必要な提出書類を揃える。
3.入所を希望する施設に申込書と必要書類を提出する。
1.入所が決定した場合、施設側と入所予定日を調整する。
2.施設が指定する場所で、契約書・重要事項説明書などの書類に署名捺印する。
3.入所後に特別養護老人ホームの住所に住民票を移動する。
特別養護老人ホームでの1日の大まかな流れです。
施設によってスケジュールは異なるため、目安として参考にしてください。
時間 | スケジュール内容 |
午前6時〜7時 | 起床 |
午前8時 | 朝食・服薬 |
午前9時 | 体操 |
午前10時〜12時 | 入浴(週2〜3回) |
午後0時 | 昼食 |
午前2時 | レクリエーション |
午後3時 | おやつの時間 |
午後6時 | 夕食 |
午後8時〜9時 | 就寝 |
早ければ数ヶ月、長いと数年かかると言われています。
申し込み順ではなく、必要な方から入所するため入所決定に時間がかかるケースがあります。
施設で予定されているスケジュール以外の時間は自由に使うことができます。
一つの施設だけではなく、複数の特別養護老人ホームに申し込みをすると、早く入所できる可能性は高くなります。
人員基準や設備基準が介護保険法で定められているため、特別養護老人ホームごとに大きな違いはありません。
特別養護老人ホームは他の介護施設と比べると医師や看護師が少ない配置となっています。
胃ろうや痰の吸引など定期的に医療的ケアが必要な場合、入所を断られるケースがあります。
リハビリを目的としたレクリエーションが多いですが、外部からボランティアを招いて音楽演奏などの娯楽が提供される施設もあります。
今期の記事では、特別養護老人ホームについて解説をしました。
特別養護老人ホームは、入居するために条件があり、また申し込み順ではなく、介護度や所得によって入居順が決まるため、なかなか入居できないというデメリットがあります。
今回の記事を読んで、特別養護老人ホームに入居したいと思った方は、複数の事業所に申し込みをして、なるべく早く入居出来るようにしましょう。