2024年度は介護報酬改定が実施される年度です。今回の改定は医療・介護・障がいのトリプル改定だけでなく、2025年問題直前の改定のため、大きな転換点となる予想がされています。
今回は、2024年介護報酬改定で議論されている重要な項目について解説します。
ぜひ最後まで読み、改定内容に対して柔軟的に経営方針の変更や見直しをかけてください。
原則3年に1回の頻度で時代と物価の変動に合わせて介護報酬改定が行われますが、近年では2022年10月に介護職員等ベースアップ等支援加算を創設したなど、その時の社会情勢などによって、臨時で介護報酬改定が行われる場合もあります。
なお、前回の介護報酬改定は2021年4月に実施されたため、次回の改定は2024年4月です。
介護報酬改定は短期間で決定することはなく、長期的なスケジュールで行われています。
具体的には、下記のようなスケジュールで行われます。
このような議論のサイクルが行われるため、現在どの議論が行われているのかを常時理解しておくことが重要です。
介護報酬改定は長期間で議論が行われますが、その中でも改定前年度は下記のような詳細な内容が議論されます。
時期 | 内容 |
2023年5月 | 社会保障審議会(介護給付費分科会)からスケジュールや今後の検討の進め方が出される |
2023年6月~8月 | 主な論点について議論 |
2023年9月 | 事業者団体等からのヒアリング |
2023年10月~12月 | 具体的な方向性について議論 |
2023年12月 | 報酬や基準に関する基本的な考え方の整理、取りまとめ |
2024年1月 | 介護報酬改定案 諮問・答申 |
2024年1月~2月 | パブリックコメントでの意見募集 |
2024年3月頃 | 官報による周知 |
厚生労働省から各指定権者(指定の権限を持つ自治体)へ周知 | |
指定権者から事業所へ周知 | |
2024年3月下旬ごろ | 厚生労働省から解釈通知が示される |
2024年3月下旬以降 | 厚生労働省からQ&Aが示される |
ここでは、さらに介護報酬改定にあたって重要な内容をより詳しく解説します。
厚生労働省に設置されている審議会の1つとして定められたもので、厚生労働省関連の予算案や国会提出予定の法案のチェックを行っています。
また、社会保障制度の基本事項やそのあり方が正しいかどうかを審議・調査し、その結果を報告したり、厚生労働省や関係機関へ社会保障制度にまつわるあらゆる提言をしたりするために設置されています。
そんな社会保障審議会のメンバーは、有識者の中から厚生労働省によって任命された人と決められており、人数は30人以内です。
また、選ばれた人の任期は2年間で、下記のような分野ごとに分科会が設置されています。
上記の分科会の中で介護保険に関する部分を調査審議しているのが、介護給付費分科会です。
介護報酬については、ここで集まった意見をもとに具体的な議論が進められます。なお介護保険全体に関する調査審議については介護保険部会によって行われます。
「意見公募」のことで、政令や省令などを決める前にあらかじめその案を公表し、事前にその案について広く一般から意見や情報を募集する仕組みのことをパブリック・コメントといいます。
介護報酬改定の場合、介護保険サービスなどの報酬や基準を改定する際も、事前に改正案が公表されて意見が募集されます。またその結果(意見と回答)も公表されます。
法律や政令などの制定・改正の情報が掲載される国の機関紙のことを官報といい、インターネット上でも閲覧できます。
慣れない人には見づらいですが、報酬改定・制度改正の情報を最も早く正確な内容を知ることができます。
参考:国立印刷局
3月頃に厚生労働省から事業所のある市町村を管轄する自治体の各指定権者には周知され、このタイミングで正式に改定内容を把握します。
3月末頃に指定権者から事業所へ周知されます。
厚生労働省が発表した内容をさらに具体的に説明するのが「解釈通知」です。
また、報酬改定・制度改正からしばらくは指定権者も解釈や判断に迷うため、各指定権者から厚生労働省への問い合わせが発生し、その事例をまとめたものが事務連絡として出される「Q&A」です。
介護保険法は2000年に施行されましたが、それ以降、下記のような内容が改定されています。
2000年4月 (平成12年) | 介護保険法が施行 |
2006年4月 (平成18年) | 予防重視型システムへの転換
介護保険施設利用料体系の変更
地域密着型サービスの創設 看取り介護加算の新設 |
2012年4月 (平成24年) | 地域包括ケアの推進・医療と介護の連携の強化等
介護人材の確保とサービスの質の向上
|
2015年4月) (平成27年) | 中重度の要介護者や認知症高齢者への対応の更なる強化
介護人材確保対策の推進
特別養護老人ホームの入所基準を原則要介護3以上の高齢者に限定 介護保険の自己負担2割の導入、高額介護サービス費、補足給付見直し |
2017年4月 (平成28年) | 介護職員処遇改善加算の拡充 |
2018年4月 (平成30年) | 地域包括ケアシステムの推進
自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現
多様な人材の確保と生産性の向上
介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保
|
2018年8月 (平成30年) | 介護サービス自己負担割合3割の開始 (年金収入+その他の合計所得金額の合計額が単身世帯で 340 万円以上、 または 2 人以上世帯で 463 万円以上) |
2021年4月 (令和3年) | 感染症や災害への対応力強化
地域包括ケアシステムの推進
自立支援・重度化防止の取組の推進
介護人材の確保・介護現場の革新
制度の安定性・持続可能性の確保
|
2022年10月 (令和4年) | 介護職員等の給与を引き上げるための「介護職員等ベースアップ等支援加算」を新設 「介護保険施設等指導指針」を公表 |
2024年4月 (令和6年) | 診療報酬と介護報酬の同時改定 |
現時点において、2024年介護報酬改定として下記のポイントがあります。
介護保険サービスを利用する際は、利用者本人の前年の所得に応じて1〜3割の自己負担に分かれています。現時点では、介護保険サービス対象者の9割以上の方が1割負担となっていますが、この負担割合を2割へ増やすことが検討されています。
介護保険を負担している現役世代の負担軽減と、今後の少子高齢化が続く予測の中でも制度を持続させることを目的としていますが、2割負担になると、介護保険サービス利用に伴う自己負担が2倍になり家計に大きな影響を与えます。
その結果、経済的な理由によって在宅サービスの利用減少や、施設利用費が払えなくなるという場合も懸念されます。
そのような事から自己負担割合についての方針は2022年12月に決定する予定でしたが、この判断を政府は2023年の年末まで先送りとしました。
さまざまな介護サービスの中で、特に訪問介護の人材不足が深刻です。このように不足するホームヘルパーを補うために、デイサービスの職員に訪問介護の仕事をやってもらいたいのが目的です。
複合型サービスが創設されることで、介護職が全体的に不足している過疎地域などでも訪問介護・通所介護という垣根を超えたサービスで効率化できるかもしれません。
参考:厚生労働省「新しい複合型サービス(地域包括ケアシステムの深化・推進)
介護サービス事業所における財務諸表が公表義務化されます。今まで、財務諸表の公表義務化は社会福祉法人や障害福祉事業者のみが対象でしたが、今回の介護報酬改定で介護事業所も加わります。
制度改定後は、各事業所の財務諸表は厚生労働省の介護サービス情報公表システムで公開されるため、事業所の経営状態を誰でも自由に確認できます。
今まで要支援1・2のケアプランは、各地区の地域包括支援センターが指定を受けて作成していました。
しかし、今回の改定により、介護予防支援事業所が拡大され、居宅介護支援事業所でも介護予防支援サービスを提供できるようになります。
居宅介護支援事業所でもケアプランを作成できるようになることで、業務負担を分散して地域包括支援センターの負担を軽減できるなどのメリットがあります。
現在、介護報酬の処遇改善加算は下記の3種類があります。
さまざまな処遇改善加算があり複雑で分かりにくいことから、この3つの加算を一本化しようというものです。なお、処遇改善加算の一本化については障害福祉サービスの処遇改善加算も含めて検討することが議論されています。
介護保険では車いすや介護用ベッドなど13種類の福祉用具をレンタルできますが、その中には歩行器・歩行補助杖など、比較的安くレンタルできるものもあります。
今回の改定では、これらの比較的安くレンタルできるものに関しては、介護保険でのレンタルではなく、購入対象商品にするという話が出ています。
レンタルだった商品が購入対象商品に切り替わることで、介護報酬の発生軽減と、ケアプラン作成料の両方を削減することが目的となっています。
参考:厚生労働省「第8回介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会に関する資料」
厚生労働省は、介護サービス利用者のサービス利用内容・介護度の変化といった情報を収集し、ビッグデータから最適な介護方法を割り出せるようになることを目標としているため科学的介護であるLIFEシステムを推進しています。
現在は通所介護・特別養護老人ホームで、科学的介護が始まっていますが、今後は訪問介護・居宅介護支援サービスでもLIFEシステムを導入する予定です。
2027年の介護報酬改定時は、2024年度時に見送りが決定した下記の事項に注目が必要です。
現在、在宅サービスにおけるケアプランの作成は10割保険負担のため利用者負担はありませんが、施設サービスではケアマネジメント費用を利用者が負担しています。
政府としては、公平性を保つために有料化を提言していましたが、2024年度の介護保険制度改定では見送りとなりました。
現在、要支援1・2における総合事業はすでに実現していますが、今後はそれだけでなく、要介護1・2の訪問介護や通所介護などの介護サービスを総合事業にして、地域や民間企業と連携する構想があります。
しかし、サービスの低下・事業所の撤退・世論の反対などが理由で2024年度は見送りが決定しました。
国内において「2025年問題」が近々生じる問題です。
「2025年問題」は2025年以降に「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となり、日本が超高齢化社会になることで生じる問題のことをいいます。
この「団塊の世代」は、1947年から1949年頃の第1次ベビーブームに生まれた世代となっており、現在の人口で約5.3%と約670万人の割合です。
実際、2025年における高齢者人口は、厚生労働省の発表によると65歳以上が30.3%、75歳以上が18.1%となっていることから、約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上となります。
また、この高齢化率の増加は今後も継続し、2036年には33.3%と3人に1人、2065年には38.4%と国民の約2.6人に1人が65歳以上の者となると推計されています。
参考:厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料」
一方、介護職の不足は深刻です。
どれくらいの深刻さかというと、2021年に厚生労働省が発表した、「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によると、「介護職員の必要数」と「人手不足人数」を下記のように発表しています。
介護職員の必要数 | 人手不足人数 | |
2023年度 | 約233万人 | 約22万人 |
2025年度 | 約243万人 | 約32万人 |
2040年度 | 約280万人 | 約69万人 |
参考:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
これらの背景から今後は、少ない介護職員の中でより多くの利用者さんに対応するために今まで以上に介護現場における生産性の向上が重要です。
今回は2024年の介護報酬改定による介護事業経営の展望について紹介しました。
介護報酬の改定は基本的に3年に1回実施されており、2024年は改定の年度となっています。
今回の改定で特に議論されている内容は、今回紹介した7項目です。
介護事業を経営するにあたっては決定された改定内容に対して、柔軟的に経営方針の変更や見直しをかけることが重要です。