デイサービスや通所リハビリテーション事業所において、利用者が安心して入浴できるようにサポートすることは、在宅生活の維持のために重要な役割を果たします。入浴介助加算は、事業所での入浴介助の手間を報酬として上乗せするという意味だけでなく、入浴介助の質を向上し、安全に実施するために設定されています。
令和3年度の介護報酬改定により、入浴介助加算は加算Ⅰと加算Ⅱが明確に区分されました。特に入浴介助加算Ⅱは、入浴動作の自立性を高めるため、個別の入浴計画書を作成することが算定要件として求められており、より計画的で質の高い介助が重視されています。
この記事では、入浴介助加算ⅠとⅡの違いや、計画書作成の具体的な方法、注意点をわかりやすく解説します。
目次
入浴介助加算Ⅱは自立支援に向けた専門的かつ個別的な入浴計画が必要です。専門職の意見を取り入れた計画により、質の高い入浴支援が実現します。入浴介助加算Ⅱについてわかりやすく解説します。
高齢者にとって、入浴は清潔を保つだけでなく、皮膚の状態改善、リラックスや血流の促進など、様々な効果をもたらします。しかし、入浴の場面では、事故が起きやすいのも事実です。利用者の身体的状態や自宅の浴室環境によっては、安全に入浴するために特別な配慮・サポートが必要な場合があります。
入浴介助加算Ⅱは、こうした利用者に対し個別の計画を立て、自宅での安全な入浴の実現を目指した取り組みを評価しています。
例えば、立位バランスが不安定な利用者の場合、自宅の浴室での入浴が困難であれば、計画書に沿った支援が求められます。通所サービスで介護職員の介助のもと、安全に入浴できる機会を提供するというだけにとどまりません。通所事業所の浴室で自宅に近い環境を設定し、専門職の意見を取り入れて、自宅で安全に入浴する方法を検討するものです。
入浴介助加算Ⅱは、入浴の自立を促進するために創設された加算といえます。
入浴介護加算は、令和3年の報酬改定により入浴介助加算Ⅰと入浴介助加算Ⅱに区分され、加算額にも差が付けられました。それぞれの加算の違いを理解することで、適切な入浴支援が可能になります。加算の違いについて表にまとめていますので紹介します。
項目 | 入浴介助加算Ⅰ | 入浴介助加算Ⅱ |
単位数 | 40単位/日 | 55単位/日(通所介護など) 60単位/日(通所リハビリ) |
算定可能な利用者 | 要介護認定を受けた利用者 (要支援認定者を含まない) | 要介護認定を受けた利用者 (要支援認定者を含まない) |
算定要件 |
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個別の計画書作成 | 不要 | 必要 |
介助内容 | 一般的な入浴介助 | 個別的な計画に基づく入浴介助 (居宅の浴室環境を再現した対応など) |
事業所連携 | 不要 | 医師等を含めた多職種連携 (ICT機器を活用した連携も可) |
算定対象事業所 |
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入浴介助加算Ⅰと入浴介助加算Ⅱの最も大きな違いは、多職種連携により策定された個別的な計画に基づいた入浴介助をおこなうかどうかの違いです。計画に基づき、自宅に近い環境を設定し、入浴の自立に向けた支援をおこなう入浴介助加算Ⅱと違い、入浴介助加算Ⅰは通所事業所内で提供するケアの一部として安全性に配慮した入浴介助を提供します。
入浴計画書は、入浴介助加算Ⅱを算定するために必要な書類です。利用者の身体状況やニーズに合わせて、個別的で適切な計画を作成し、実施することが求められます。入浴計画書は、利用者の安全を確保し、入浴動作の自立を目指すために重要な役割を果たします。
入浴計画書は書式のフォーマットが具体的に示されているわけではありません。また、記載する項目についても厳格に決められているわけではありません。ただ、入浴の自立を目指すためには、個別的・具体的な情報をもとに計画を作成することが必要です。具体的には以下のような情報が該当すると考えられます。
- 対象者の基本情報
- 基礎疾患や身体状況
- 自宅の浴室の環境(例:浴室の段差、手すりなどの設備など)
- 入浴に関する家族の介護状況・介護力
- 入浴に関しての課題と評価
- 入浴の具体的な手順や支援内容
- 多職種連携による情報共有内容
- モニタリング状況
以上に示したものはあくまで一例です。対象者の状況や環境などによって、様々な支援方法があります。どのような項目が必要なのかは各自治体に確認することが必要です。
入浴介助加算Ⅱを算定するためには、計画の進捗状況に関する定期的な評価・モニタリングが必要です。利用者の安定した入浴動作の獲得がどの程度進んだのか、自宅で安全に入浴するための環境整備がどの程度進んだのかなど、計画が順調に進んでいるのかを確認し、評価します。
評価を実施する頻度については具体的に示されていません。ただ、計画通りに進んでいない場合や、計画を大幅に修正する必要のある課題が発生した場合は入浴計画を修正する必要があります。身体状況の変化や、介護者を含めた環境の変化などがあれば、速やかに計画を修正し、実現可能な計画になるよう調整しなければいけません。
入浴介助加算Ⅱの計画書を作成する際には、計画内容が算定要件を満たしているか慎重に確認する必要があります。また、入浴計画作成後も現場で適切に運用され、利用者の状態や環境に応じて定期的に評価することが求められます。特に注意すべきポイントを解説します。
入浴介助加算は、利用者の入浴の自立を目指すための加算であり、全ての入浴方法が対象になるわけではありません。具体的には、以下のような場合には算定対象外となる可能性があります。
上記のように、入浴介助に該当しない介助もあるので、確認することが必要です。
浴槽内に入らないでシャワーのみを利用して入浴を実施するシャワー浴は、入浴介助加算の要件を満たすものとされます。入浴は体力の消耗も伴い、リスクもあることから、入浴の可否については、その時の体調などによっても慎重な判断が必要です。適切な判断と、その状況に応じて算定が求められます。
入浴介助加算Ⅱの計画書には、介護保険制度上、標準化された様式や項目が指定されていません。そのため、各事業所が事業所の体制や状況に合わせて自由にフォーマットを設定できます。
計画書作成の自由度が高い反面、適切な内容が網羅されていなければ加算の算定要件を満たさなくなるリスクもあります。入浴計画書の作成には、利用者の安全性を考慮しつつ、入浴動作の自立に向けて個別的・具体的な記載が求められます。
また、入浴計画書は機能訓練指導員が居宅を訪問したスタッフと連携しながら作成することが求められています。浴室の環境を確認し、機能訓練指導員の意見を踏まえつつ課題を分析、自立した入浴実現に向けた計画を作成しなければいけません。
入浴計画は、通所介護計画書内に記載することも可能です。通所介護計画の一部として、入浴計画を記載します。書類を一元管理できるメリットもあり、事業所の運用を効率化することも可能です。
ただし、入浴介助加算Ⅱの算定要件を満たすことが必要です。通所介護の別紙様式3-4として示された通所介護計画書を例とします。具体的な記載内容としては、通所介護計画書内の「利用者の居宅の環境」の項目に浴室環境について具体的に記載し、「健康状態」の項目に利用者の状態、「ケア上の医学的リスク」の項目に入浴に関するリスクや入浴の自立に向けた課題などを記載することが必要です。
算定要件として重要な項目が抜け落ちることがないように、計画書作成時には入念に確認することが必要です。
入浴介助加算Ⅱの計画書に関しては、算定要件の具体的な説明が少なく、事業者側が疑問や不安を感じる部分もあります。ここでは、入浴介助加算のよくある質問について、厚生労働省のQ&Aなどをもとにわかりやすく解説します。
入浴介助加算Ⅱは、利用者の自宅に浴槽がない場合でも算定可能な場合があります。浴槽だけでなく、浴室が自宅になく、自宅での入浴場面が想定できない場合でも、厚生労働省が指定した条件を全て満たせば算定対象となります。具体的な要件が5つ、Q&Aに掲載されているため紹介します。
なお、自宅に浴室がない等、具体的な入浴場面を想定していない利用者や、本人が希望する場所で入浴するには心身機能の大幅な改善が必要となる利用者にあっては、以下①~⑤をすべて満たすことにより、当面の目標として通所介護等での入浴の自立を図ることを目的として、同加算を算定することとしても差し支えない。
① 通所介護等事業所の浴室において、医師、理学療法士、作業療法士、介護福祉士、介護支援専門員等(利用者の動作及び浴室の環境の評価を行うことができる福祉用具専門相談員、機能訓練指導員を含む。)が利用者の動作を評価する。
② 通所介護等事業所において、自立して入浴することができるよう必要な設備(入浴に関する福祉用具等)を備える。
③ 通所介護等事業所の機能訓練指導員等が共同して、利用者の動作を評価した者等との連携の下で、当該利用者の身体の状況や通所介護等事業所の浴室の環境等を踏まえた個別の入浴計画を作成する。なお、個別の入浴計画に相当する内容を通所介護計画の中に記載する場合は、その記載をもって個別の入浴計画の作成に代えることができるものとする。
④ 個別の入浴計画に基づき、通所介護等事業所において、入浴介助を行う。
⑤ 入浴設備の導入や心身機能の回復等により、通所介護等以外の場面での入浴が想定できるようになっているかどうか、個別の利用者の状況に照らし確認する。
引用:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.8)(令和3年4月26日)」
自宅に入浴できる環境がなくても、自立に向けて計画し実施した内容を評価し、入浴介助加算Ⅱを算定することが可能です。
デイサービスや通所リハビリでの支援内容は、ケアマネジャーの作成するケアプランに基づいている必要があります。もともと入浴介助加算Ⅰを算定していた事業所で入浴介助加算Ⅱを算定する場合、ケアプランの変更をお願いするべきか、それともケアプランの変更は必要ないのかという疑問があります。
Q&Aには具体的に示されていませんが、判断は自治体によって異なります。ケアプラン2表における通所介護のサービス内容として利用者の自立支援に向けた内容を含んでいる場合や、サービス提供表に入浴介助加算Ⅱが記載してある場合は、それをもって入浴介助加算Ⅱがケアプランに位置付けられているものとして認める場合もあります。
ただし、厳格な自治体ではケアプラン2表に入浴介助加算Ⅱと記載することを求める可能性もあります。自治体の判断で、ケアプランの位置づけがないと判断される場合があることを理解しましょう。
ただ、いずれにしても、入浴介助加算Ⅱを算定するためには多職種連携による情報共有が求められます。ケアマネジャーと入浴支援の方針について相談し、方向性を確認することが必要です。ケアプランの記載内容に関しては、地域の状況に応じて、ケアマネジャーが適切な対応をおこないます。
入浴介助加算Ⅱを適切に算定するには、計画を立てるだけでなく、計画書に記載された内容に沿って、現場で実践することが必要です。利用者一人一人に応じた個別的な入浴支援の方法について情報共有し、提供できる体制を整えましょう。
入浴介助加算Ⅱは、利用者を安全に入浴させることだけでなく、入浴動作の自立が目的の加算です。要件を確認しながら適切に算定することで、利用者の自立支援につながるサービス提供を意識しましょう。