介護職員に処遇改善手当を支給しようと考えている経営者も多いでしょう。しかし、処遇改善加算を算定するためには、複数の算定要件を満たしたうえで処遇改善計画書を作成しなければいけません。計画書や報告書の作成に不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
今回は、処遇改善手当に関する概要と、処遇改善計画書や報告書についてわかりやすく解説します。この記事を読むことで、処遇改善加算を算定してから処遇改善手当を支給するまでの流れが理解できるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
目次
介護職員の処遇改善手当は、処遇改善加算を算定している事業所が自事業所の職員に対して給付する手当です。処遇改善加算は介護保険給付に上乗せする形で算定できます。処遇改善加算で得られた利益は全て介護職員に分配しなければいけません。処遇改善手当の目的と種類について解説します。
処遇改善手当とは、介護に直接携わる職員の賃金向上のために生まれた制度です。将来、超高齢社会を迎える日本では、介護職員の確保が重要な課題とされています。しかし、現在の日本において介護職の収入は他の業種と比較して低く、深刻な人材不足が続いている状況です。介護職員の雇用を安定させる目的で、介護処遇改善手当が導入されました。
厚生労働省の「介護職員の処遇改善に関する加算等の取得状況」によると、令和4年10月時点で処遇改善加算を算定している事業所は93.8%という結果でした。また、厚生労働省「令和3年介護従事者処遇状況等調査」によると、令和3年9月の平均給与額が前年同月比で13,410円増加しています。
以上のデータから、徐々に処遇改善手当を支給する事業所は増えており、介護職員の処遇も改善されつつあることがわかります。
参考:厚生労働省「介護職員の処遇改善に関する加算等の取得状況」
処遇改善加算によって得られた収益を介護職員に還元する手当金が処遇改善手当です。そのため、処遇改善手当を受け取るためには、勤務先の事業所が処遇改善加算を算定している必要があります。また、処遇改善手当の支給方法は事業所によって異なるため、どのような形式で受け取るのか事業所に確認したほうがよいでしょう。
例えば、毎月の給与に処遇改善手当を上乗せして支給する事業所もあれば、ボーナスの一部として年に2回支給する事業所もあります。事業所によって受け取り方が異なることを理解しておきましょう。
処遇改善加算には3つの種類があり、それぞれ算定要件や単位数が異なります。また、2019年から特定処遇改善加算という加算が創設されました。各処遇改善加算に関する情報について解説します。
処遇改善加算には、処遇改善加算(Ⅰ)〜(Ⅲ)の3種類の加算があり、それぞれキャリアパス要件と職場環境等要件という2つの要件を満たす必要があります。各加算の要件は以下のとおりです。
処遇改善加算のキャリアパス要件と職場環境等要件 | |
キャリアパス要件 | ①職位・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること |
職場環境等要件 | 賃金改善を除く、職場環境等の改善。6つの項目(入植促進に向けた取り組み、資質の向上やキャリアアップに向けた支援、両立支援・多様な働き方の推進、腰痛を含む心身の健康管理、生産性向上のための業務改善の取組、やりがい・働きがいの構成)のうち1つ以上取り組んでいる。 |
各処遇改善加算の要件 | |
処遇改善加算(Ⅰ) | キャリアパス要件のうち①+②+③を満たす。かつ、職場環境等要件を満たす。 |
処遇改善加算(Ⅱ) | キャリアパス要件のうち①+②を満たす。かつ、職場環境等要件を満たす。 |
処遇改善加算(Ⅲ) | キャリアパス要件のうち①or②を満たす。かつ、職場環境等要件を満たす。 |
引用:厚生労働省「処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の概要」
特定処遇改善加算は「勤続年数 10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当の処遇改善を行う」という政府の方針に基づいて制度設計が行われ、2019年10月に創設されました。
特定処遇改善加算(Ⅰ)と特定処遇改善加算(Ⅱ)という2種類の加算があり、処遇改善加算(Ⅰ)〜(Ⅲ)にさらに上乗せする形で算定できます。特定処遇改善加算の算定要件と単位数は以下のとおりです。
特定処遇改善加算の算定要件 |
・処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得していること ・処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取組を行っていること ・処遇改善加算に基づく取組について、ホームページ掲載等を通じた見える化を行っていること ※福祉専門職員配置等加算、特定事業所加算の取得状況を加味して、加算率を二段階に設定。取得あり⇨特定処遇改善加算(Ⅰ)、取得なし⇨特定処遇改善加算(Ⅱ)。 |
処遇改善加算と特定処遇改善加算は、それぞれ単位数が異なります。また、提供しているサービス区分によっても単位数が異なるため注意しましょう。各介護事業所における、処遇改善加算と特定処遇改善加算の単位数は以下のとおりです。
処遇改善加算と特定処遇改善加算の単位数 | |||||
事業所・サービス区分 | 処遇改善加算 | 処遇改善加算 | 処遇改善加算 | 特定処遇改善加算 | 特定処遇改善加算 |
訪問介護/夜間対応型訪問介護/定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 13.7% | 10.0% | 5.5% | 6.3% | 4.2% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 5.8% | 4.2% | 2.3% | 2.1% | 1.5% |
通所介護/地域密着型通所介護 | 5.9% | 4.3% | 2.3% | 1.2% | 1.0% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 4.7% | 3.4% | 1.9% | 2.0% | 1.7% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護/地域密着型特定施設入居者生活介護 | 8.2% | 6% | 3.3% | 1.8% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 10.4% | 7.6% | 4.2% | 3.1% | 2.4% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護/看護小規模多機能型居宅介護 | 10.2% | 7.4% | 4.1% | 1.5% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 11.1% | 8.1% | 4.5% | 3.1% | 2.3% |
介護福祉施設サービス/地域密着型介護老人福祉施設/(介護予防)短期入所生活介護 | 8.3% | 6.0% | 3.3% | 2.7% | 2.3% |
介護保健施設サービス/(介護予防)短期入所療養介護(老健) | 3.9% | 2.9% | 1.6% | 2.1% | 1.7% |
介護療養施設サービス/(介護予防)短期入所療養介護(病院等)/介護医療院サービス/(介護予防)短期入所療養介護(医療院) | 2.6% | 1.9% | 1.0% | 1.5% | 1.1% |
引用:厚生労働省「介護職員処遇改善加算(令和5年3月1日老発0301第2号)」
処遇改善手当は、以下の6つの手順で介護職員に支給されます。
処遇改善加算は、利用者のサービス利用料に応じた割合で算出されます。事業所側は、毎月の売上から処遇改善加算にあたる部分を全て介護職員へ支給しなければいけません。なお、介護職員へ支給した処遇改善手当の金額は、管轄する都道府県へ報告しなければいけないことも覚えておきましょう。
処遇改善手当を支給する方法は事業所によって自由に選択できます。しかし、処遇改善手当を支給する対象者、職員への分配比率などのルールは決まっているため注意しなければいけません。処遇改善手当の支給方法について解説します。
処遇改善手当を受け取れる職員は以下の条件に当てはまる方です。
処遇改善加算のルール上は「福祉・介護職員のみ」が処遇改善手当の支給対象となっていますが、詳細な支給対象職員は事業所の判断に委ねられています。例えば、普段は生活相談員として勤務しているが、頻繁に介護業務を手伝っている職員の場合、介護業務の割合に応じて支給されることもあるでしょう。利用者に対して直接介護サービスを提供するのであれば、処遇改善手当の支給対象となる場合もあります。ただし、1日中事務所で仕事をしている方や介護現場の業務に入る機会が極端に少ない方は、処遇改善手当の対象外となる可能性もあるので注意しましょう。
特定処遇改善加算を算定している事業所では、介護職員を3つのグループに分類して、グループごとに分配比率を決めなければいけません。グループ分けと分配ルールについて以下の表にまとめます。
特定処遇改善加算算定事業所の配分ルール | |
介護職員のグループ | 分配ルール |
①経験・技能のある障害福祉人材 | 「月額8万円」の改善又は「役職者を除く全産業平均水準(年収440万円)」 |
②他の障害福祉人材 | ①よりも低く設定する |
③その他の職種 | ②の2分の1を上回らないこと |
「①経験・技能のある障害福祉人材」に関しては、勤続10年程度の介護職員を想定していますが、勤続10年の考え方は各事業所の裁量に委ねられています。また、月額8万円や年収440万円の数字に関しても、あくまで目安なので各事業所の裁量で賃金改善額を設定可能です。
引用:厚生労働省「処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の概要」
処遇改善加算を算定するためには、処遇改善計画書を作成して管轄する都道府県窓口へ提出しなければいけません。処遇改善計画書に関しては、厚生労働省の「福祉・介護職員の処遇改善」というページに掲載されているので、Excelのデータをダウンロードして必要事項を記入していきます。また、新たに加算を算定する場合は「介護給付費算定に係る体制に関する届出書」の提出も忘れないようにしましょう。処遇改善計画書の作り方について解説します。
処遇改善計画書のExcelデータは、基本情報シート、様式2-1、様式2-2、様式2-3、様式2-4で構成されており、最初に基本情報シートを記入します。基本情報シートには、各事業所の基本情報を記入しましょう。基本情報シートに記載した内容は、その他のシートにも反映されます。基本情報シートを提出する必要はありません。
様式2-1「計画書_総括表」では、算定する処遇改善加算の内容と、処遇改善に必要な金額、改善する見込みの金額などを記載しなければいけません。この書式は提出するため、算定する加算ごとの取り組み内容、該当する職場環境等を必ず記載して提出しましょう。
算定する処遇改善加算ごとに「計画書_個表」を作成する必要があります。「計画書_個表」では、各事業所の所在地や算定年月などを事業所ごとにまとめて記載しましょう。
処遇改善加算を算定している事業所は、1年に1回処遇改善手当の実績を報告しなければいけません。実績報告書も、計画書と同じように厚生労働省のページからダウンロードして必要事項を入力します。実績報告書は、基本情報、様式3-1、様式3-2、様式3-3で構成されており、前年の支給実績を記入した様式3-1〜様式3-3までを提出します。
処遇改善実績報告書では、前年4月から今年3月までの実績(加算取得額と賃金)を都道府県等へ報告します。そのため、処遇改善実績報告書の提出期限は、各事業年度における最終の加算の支払いがあった翌々月の月末までです。
例えば、処遇改善加算を算定する最後のサービスが3月だった場合、7月末が提出期限となります。実績報告書の提出期限に注意しましょう。
今回は処遇改善手当の概要と、処遇改善計画の立て方や実績を上げる際の注意点について解説しました。処遇改善手当を支給するためには、処遇改善加算を算定する必要があります。処遇改善加算を算定するにあたって、処遇改善計画書と処遇改善報告書の提出は必須です。算定要件を確認しつつ、計画書や報告書を忘れずに提出するようにしましょう。
介護事業所向けに、処遇改善加算に関する情報をまとめました!
<目次>
1.処遇改善加算とは
2.仕組みの作り方と注意点
STEP1:取得要件を満たす体制を整える
STEP2:収入見込み額・賃金改善見込み額を計算する
STEP3:就業規則・賃金規程等を改定し届け出る
STEP4:処遇改善加算取得の申請書類を作成し届け出る
STEP5:支払いを実施しこれを毎月管理する
STEP6:実績の報告を行う
3.まとめ