2024年度の介護報酬改定では、処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算を一本化した、新しい介護職員等処遇改善加算が設けられます。
しかし、新しい処遇改善加算について、加算の区分や算定要件がしっかりと把握できていないという方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、処遇改善加算における職場環境等要件について詳しく解説します。なお、処遇改善加算の全容については以下の記事で解説をしているので、あわせて参考にしてください。
【2024年改定対応】介護職員等処遇改善加算とは?改定の影響や改定後の算定要件をわかりやすく解説!
目次
2023年度までの介護保険法においては、処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の3つの加算がありました。これらの加算は同じ目的のもとに創設されていましたが、算定要件や加算率がそれぞれ異なるため、算定を申請する手間や加算区分の理解の難しさが課題となっています。
このような背景を受け、2024年度の介護報酬改定では、従来の処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等改善加算が一本化される見込みです。
改定の目的や、中心となる変更点については以下の記事で解説しています。あわせてご確認ください。
【2024年介護報酬改定】処遇改善加算が一本化!変更点とポイントは?
処遇改善加算の算定要件は、月額賃金改善要件・キャリアパス要件・職場環境等要件の3つの軸に分けられます。また、3つの軸からより細かく分けられ、加算区分に応じて最大8つの算定要件を満たす必要があります。
なお、本記事ではこの中でも職場環境等要件に絞って解説をおこないます。その他の要件については以下の記事からご確認ください。
【2024年改定対応】処遇改善加算の月額賃金改善要件を満たすには?具体例をもとにわかりやすく解説
【2024年改定対応】処遇改善加算のキャリアパス要件とは?具体例をもとにわかりやすく解説
処遇改善加算における職場環境等要件とは、賃金改善を除いた職場環境などの改善を推進することを目的に設置された評価基準です。
職場環境等要件は、キャリアアップや生産性の向上、やりがいの醸成など複数のテーマに分かれており、またテーマごとに詳細な取組が複数設定されています。
処遇改善加算を算定するためには、テーマごとに詳細な取組を一定数以上実施しなくてはいけません。従来の処遇改善加算・特定処遇改善加算と比較すると、実施しなければいけない取組は増加しており、算定までのハードルは高くなったといえます。
加算区分ごとに設けられた実施する必要のある取組の数は以下の通りです。
職場環境等要件のテーマ | 実施する必要のある取組の数 | |
処遇改善加算Ⅰ・Ⅱ | 処遇改善加算Ⅲ・Ⅳ | |
入職促進に向けた取組 | 2つ以上 | 1つ以上 |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援 | 2つ以上 | 1つ以上 |
両立支援・多様な働き方の推進 | 2つ以上 | 1つ以上 |
腰痛を含む心身の健康管理 | 2つ以上 | 1つ以上 |
生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組*¹ | 3つ以上*² | 2つ以上 |
やりがい・働きがいの醸成 | 2つ以上 | 1つ以上 |
*¹:1法人あたり1の施設または事業所のみを運営するような法人などの小規模事業者は、以下の取り組みを満たすことで生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組に関する要件をみなしているものとみなされます
*²:以下いずれかの取組は必須となります
なお、生産性向上推進体制加算を算定している場合は、生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組に関する要件をみなしているものとみなされます。
生産性向上推進体制加算とは?算定要件や加算取得に必要な準備について解説
以下では職場環境等要件のテーマごとに詳細な取組や具体的な実施例を紹介します。
入職促進に向けた取組としては以下の4件が定められています。なお、従来の特定処遇改善加算で定められていた取組から変更はないため、過去算定していた場合はその取組を活かすことが可能です。
1.法人や事業所の経営理念やケア方針・人材育成方針、その実現のための施策・仕組みなどの明確化
(具体例)
- 方針や施策を定め、ホームページや情報公表職員採用案内に明記している
- 方針や施策を定め、面接時や就職説明会にて案内をしている
2.事業者の共同による採用・人事ローテーション・研修のための制度構築
(具体例)
- エリア内で事業所が集まり、共同して説明会を実施している
- エリア内の事業所同士が協力して研修を実施している
3.他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等、経験者・有資格者等にこだわらない幅広い採用の仕組みの構築(採用の実績でも可)
(具体例)
- 不定期にハローワークにて、採用活動とともに介護についての説明会を実施している
- 定期的に無資格者にむけて無料説明会を実施している
4.職業体験の受入れや地域行事への参加や主催等による職業魅力度向上の取組の実施
(具体例)
- 資格学校や高校等に出向き、介護について広く周知するとともに採用活動を実施している
入職促進に向けた取組としては以下の4件が定められています。なお、従来の特定処遇改善加算で定められていた取組から、ユニットリーダー研修・ファーストステップ研修が追加されているので確認しておきましょう。
5.働きながら介護福祉士取得を目指す者に対する実務者研修受講支援や、より専門性の高い介護技術を取得しようとする者に対するユニットリーダー研修、ファーストステップ研修、喀痰吸引、認知症ケア、サービス提供責任者研修、中堅職員に対するマネジメント研修の受講支援等
(具体例)
- 資格取得制度として受講料の1部を法人が立て替える制度を準備している
- 試験前〇〇日を「試験休暇」として定め、勉強のための時間を確保する支援を実施している
- イーラーニングで過去問や受講の研修が出来るように準備している
6.研修の受講やキャリア段位制度と人事考課との連動
(具体例)
- 資格とキャリア段位を連動させ、上位資格保持者の給与が高くなる制度にしている
7.エルダー・メンター(仕事やメンタル面のサポート等をする担当者)制度等導入
(具体例)
- 直接の上司ではなく、利益関係のない他部署の人材をメンターとして配置している
8.上位者・担当者等によるキャリア面談など、キャリアアップ・働き方等に関する定期的な相談の機会の確保
(具体例)
- 年に2回、今後のキャリアプランを一緒に考える面談を確保している
両立支援・多様な働き方の推進としては以下の4件が定められています。なお、従来の特定処遇改善加算で定められていた取組から大きな変更はないため、過去算定していた場合はその取組を活かすことが可能です。
9.子育てや家族等の介護等と仕事の両立を目指す者のための休業制度等の充実、事業所内託児施設の整備
(具体例)
- 育児・介護休暇の制度を法人で独自に準備するとともに、法人内の保育所等で預かれる制度がある
10.職員の事情等の状況に応じた勤務シフトや短時間正規職員制度の導入、職員の希望に即した非正規職員から正規職員への転換の制度等の整備
(具体例)
- 家庭の都合に合わせて働ける様、日給制で働ける非常勤の制度がある
11.有給休暇を取得しやすい雰囲気・意識作りのため、具体的な取得目標(例えば、1週間以上の休暇を年に〇回取得、付与日数のうち〇%以上を取得)を定めた上で、取得状況を定期的に確認し、身近な上司等からの積極的な声かけを行っている
(具体例)
- 有給を取得しやすいよう、エリア内の同職種間で定期的に交流を行い、有給時には同職種間で補いあう取り組みをしている
12.有給休暇の取得促進のため、情報共有や複数担当制等により、業務の属人化の解消、業務配分の偏りの解消を行っている
(具体例)
- メンタルヘルス窓口を外部に設け、社内の人に言えない悩みも相談しやすい窓口を設定した
腰痛を含む心身の健康管理としては以下の4件が定められています。
13.業務や福利厚生制度、メンタルヘルス等の職員相談窓口の設置等相談体制の充実
(具体例)
- 職員向けの相談窓口を設置している
14.短時間勤務労働者等も受診可能な健康診断・ストレスチェックや、従業員のための休憩室の設置等健康管理対策の実施
(具体例)
- 非常勤も含めた全社員に対して健康診断とストレスチェックを実施している
15.介護職員の身体の負担軽減のための介護技術の修得支援、職員に対する腰痛対策の研修、管理者に対する雇用管理改善の研修等の実施
(具体例)
- 年に1回腰痛予防のために外部講師を呼んでいる
- 利用者と職員にとって負担の無い介護技術の研修を導入している
16.事故・トラブルへの対応マニュアル等の作成等の体制の整備
(具体例)
- 介護における事故・苦情だけでなく、職員や職場内での事故やトラブルを想定したマニュアルを整備している
生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組としては以下の8件が定められています。従来の特定処遇改善加算で定められていた取組から細分化されたものや追加されたものなどがあるので、過去算定していたとしても改めて確認しておきましょう。
17.厚生労働省が示している「生産性向上ガイドライン」に基づき、業務改善活動の体制構築(委員会やプロジェクトチームの立ち上げ、外部の研修会の活用等)を行っている
18.現場の課題の見える化(課題の抽出、課題の構造化、業務時間調査の実施等)を実施している
19.5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備を行っている
(具体例)
- 5S活動の制度を導入し、毎日チェック表で守れているかを確認する整備を実施している
- 衛生委員会による職場巡視などを通して、5S活動の徹底を図っている
20.業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減を行っている
21.介護ソフト(記録、情報共有、請求業務転記が不要なもの。)、情報端末(タブレット端末、スマートフォン端末等)の導入
22.介護ロボット(見守り支援、移乗支援、移動支援、排泄支援、入浴支援、介護業務支援等)又はインカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器(ビジネスチャットツール含む)の導入
23.業務内容の明確化と役割分担を行い、介護職員がケアに集中できる環境を整備。特に、間接業務(食事等の準備や片付け、清掃、ベッドメイク、ゴミ捨て等)がある場合は、いわゆる介護助手等の活用や外注等で担うなど、役割の見直しやシフトの組み換え等を行う
(具体例)
- 介護の無資格者を対象に高齢者限定で採用を行い、資格を持たなくても安心して働けるキャリア段位を設けた
24.各種委員会の共同設置、各種指針・計画の共同策定、物品の共同購入等の事務処理部門の集約、共同で行うICTインフラの整備、人事管理システムや福利厚生システム等の共通化等、協働化を通じた職場環境の改善に向けた取組の実施
(具体例)
- ICT導入を実施し、記録から請求まで一気通貫して行える体制をとった
やりがい・働きがいの醸成としては以下の4件が定められています。なお、従来の特定処遇改善加算で定められていた取組から大きな変更はないため、過去算定していた場合はその取組を活かすことが可能です。
25.ミーティング等による職場内コミュニケーションの円滑化による個々の介護職員の気づきを踏まえた勤務環境やケア内容の改善
(具体例)
- 月に1回ミーティングの後に職場の環境を更に良くする案を出し合う事を議題に入れている
26.地域包括ケアの一員としてのモチベーション向上に資する、地域の児童・生徒や住民との交流の実施
(具体例)
- 敷地を活かし年に1回エリアの事業所と共同で地域の方が幅広く参加できるお祭りを開催している
- 他社が行っている地域交流会に、他社と共同して主催者として一緒に参加している
27.利用者本位のケア方針など介護保険や法人の理念等を定期的に学ぶ機会の提供
(具体例)
- 年に1回、法人に設置している方針やマニュアルを全職員に周知している
28.ケアの好事例や、利用者やその家族からの謝意等の情報を共有する機会の提供
(具体例)
- 年に1回、ケアの好事例や利用者等からの謝意等を共有、表彰する制度を設けている
職場環境等要件の見直しについて、2024年度中は経過措置期間となります。経過措置期間における職場環境等要件は、旧処遇改善加算・旧特定処遇改善加算に基づくものになっており、加算区分ごとに実施する必要のある取組の数と、取組の内容は以下の通りです。
職場環境等要件のテーマ | 実施する必要のある取組の数 | |
処遇改善加算Ⅰ・Ⅱ | 処遇改善加算Ⅲ・Ⅳ | |
入職促進に向けた取組 | 1つ以上 | 1つ以上 |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援 | 1つ以上 | |
両立支援・多様な働き方の推進 | 1つ以上 | |
腰痛を含む心身の健康管理 | 1つ以上 | |
生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組 | 1つ以上 | |
やりがい・働きがいの醸成 | 1つ以上 |
【入職促進に向けた取組】
【資質の向上やキャリアアップに向けた支援】
【両立支援・多様な働き方の推進】
【腰痛を含む心身の健康管理】
【生産性向上のための業務改善の取組】
【やりがい・働きがいの醸成】
処遇改善加算ⅠもしくはⅡを算定する場合には、職場環境等要件のうち取り組んでいる取組について、事業所のWebサイトなどに掲載するなど公表することが求められます。
なお、介護サービスの情報公表制度における報告の対象となっている場合は、職場環境等要件のうち取り組んでいる取組を「事業所の特色」欄で選択することが必要です。
改めて一本化された介護職員等処遇改善加算について、具体的な算定要件が公開されました。
職場環境等要件については、旧処遇改善加算・旧特定処遇改善加算から内容を引き継ぐものが多いですが、実施する必要のある取組の数が増加しており、以前よりも算定のハードルは高くなったといえるでしょう。また、生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組については、取組の細分化や追加が行われており、算定の際は注意が必要です。
今後算定要件の詳細について、厚生労働省より具体的なQ&Aが公開される可能性があります。けあタスケルでは、今後も処遇改善加算の動向についてお伝えしていくので是非参考にしてください。