特定施設で暮らす入居者にとっても、医療面のサポートは生活に欠かせない重要な要素です。誰しも、入退院を繰り返すことなく、慣れ親しんだ環境で安心して暮らし続けたいと願うことでしょう。そのためには、医療機関との連携が、ますます重要となります。
今回の記事では、医療と介護の連携を強化するために生まれた介護保険制度の加算、「退院・退所時連携加算」について解説します。加算の算定要件や、注意点を確認し、算定できる加算は確実に取得しましょう。
目次
退院・退所時連携加算とは、特定施設及び地域密着型特定施設(以下「特定施設」)を対象とした介護報酬の加算です。病院や介護老人保健施設等から退院または退所し、特定施設に入居する際の情報連携を行うことで算定できる加算となっています。
近年、医療と介護の連携が非常に注目されています。病院や介護老人保健施設などで行っていた医療的ケアやリハビリが、介護施設では十分に引き継がれず、早期の再入院になるというケースも少なくありません。利用者・患者に大きな負担や生活の質の低下をもたらすだけでなく、入院の増加は地域の貴重な医療資源を圧迫する大きな原因ともなります。もちろん、特定施設にとっても、入居者が入院することによる報酬減は大きな痛手となります。そのため、医療機関と介護施設との間での情報共有はこれまでも大きな課題となっていました。
医療・介護の間での切れ目ない連携を促進するために、2018年(平成30年)の介護報酬改定時に創設されたのが退院・退所時連携加算です。退院・退所時連携加算について、まずはその概要から解説します。
退院・退所時連携加算は、特定施設が医療機関等の退院・退所時の情報連携を行うことで算定できる加算です。加算が創設された平成30年の介護報酬改定の概要にはこのように記載されています。
退院・退所時連携加算の創設
病院等を退院した者を受け入れる場合の医療提供施設との連携等を評価する加算を創設し、医療提供施設を退院・退所して特定施設に入居する利用者を受け入れた場合を評価することとする。
引用元:厚生労働省「平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について」
ここでいう医療提供施設とは、病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院の4種類を指しています。これらの施設を退院・退所して、特定施設に入居する際の連携を評価する加算です。加算というインセンティブを設けることにより、特定施設に対して退院・退所時に医療機関との連携を密にするように促しています。その結果、情報共有が進み、医療・介護のシームレスな関係が築かれることを目指しています。
加算額は、入居した日から起算して30日以内の期間、1日30単位となります。つまり、30日間であれば合計900単位を算定することができます。ただし、特定施設を体験利用している期間は加算を算定することはできません。体験利用の日数分、加算を算定できる日数が少なくなるため注意が必要です。
退院・退所時連携加算の対象事業者は特定施設です。
特定施設は、一般的には「介護付き有料老人ホーム」という名称で認知されている施設種別です。介護保険法に定められた人員基準・設備基準・運営基準を満たした施設は、特定施設としての指定を受け、介護保険サービスを提供することが可能です。有料老人ホームのうち、「介護付き有料老人ホーム」という名称の施設が、特定施設としての指定を受けています。
特定施設の指定を受けているのは、有料老人ホームだけではありません。以下の3種類の施設は要件を満たせば特定施設の指定を受けることができます。
※サービス付き高齢者向け住宅については「有料老人ホーム」に該当するもののみ対象です。
特定施設に入居している要介護者に対して行われる介護サービス(日常生活上の世話、機能訓練、療養上の世話)は、「特定施設入居者生活介護」として、介護報酬で算定されます。今回紹介している退院・退所時連携加算は、特定施設入居者生活介護の加算の1つとして位置付けられています。
よく似た名称で、「退院・退所加算」という加算があります。退院・退所時連携加算と、退院・退所加算の違いについて解説します。
最も大きな違いは、算定する事業所の種別です。退院・退所加算は居宅介護支援事業所が算定できる加算です。要介護認定を受けた高齢者が医療機関や介護施設から自宅に退院・退所する際に、面談またはカンファレンスによる情報連携を行うことで算定できます。
退院・退所時連携加算と退院・退所加算、ふたつの加算の比較を表にまとめています。
退院・退所時連携加算 | 退院・退所加算 | |
対象事業所 | 特定施設 | 居宅介護支援事業所 |
対象利用者 | 要介護認定を受けた特定施設入居者 | 要介護認定を受けた在宅介護サービス利用者 |
(医療機関等)連携先 | 病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院 | 病院・診療所・介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護療養型医療施設・介護医療院・地域密着型介護老人福祉施設 |
算定単位数 | 入居した日から起算して30日以内の期間、1日30単位を加算 | 退院・退所加算(Ⅰ)イ:450単位 退院・退所加算(Ⅰ)ロ:600単位 退院・退所加算(Ⅱ)イ:600単位 退院・退所加算(Ⅱ)ロ:750単位 退院・退所加算(Ⅲ):900単位 |
連携方法 | 当該医療提供施設の職員との面談、文書(FAXも含む)又は電子メール | 当該施設・医療機関の職員との面談 (Ⅰ)イ、(Ⅱ)イ以外はカンファレンスを含む |
それぞれ内容は異なりますが、どちらも退院・退所による情報の切れ目をなくし、利用者の生活の質を向上するために重要な加算だということがわかります。
退院・退所時連携加算の算定要件は以下のように示されています。
病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院から指定特定施設に入居した場合(30日を超える病院若しくは診療所への入院又は介護老人保健施設若しくは介護医療院への入所後に当該指定特定施設に再び入所した場合も同様とする)
- 当該利用者の退院又は退所に当たって、当該医療提供施設の職員と面談等を行い、当該利用者に関する必要な情報の提供を受けた上で、特定施設サービス計画を作成し、特定施設サービスの利用に関する調整を行った場合には、入居日から30日間に限って、1日につき30単位を加算すること
- 当該特定施設における過去の入居及び短期利用特定施設入居者生活介護の関係
退院・退所時連携加算は、当該入居者が過去3月間の間に、当該特定施設に入居したことがない場合に限り算定できることとする。
当該特定施設の短期利用特定施設入居者生活介護を利用していた者が日を空けることなく当該特定施設に入居した場合については、退院・退所時連携加算は入居直前の短期利用特定施設入居者生活介護の利用日数を 30 日から控除して得た日数に限り算定できることとする- 30日を超える医療提供施設への入院・入所後に再入居した場合は、退院・退所時連携加算が算定できることとする
引用:厚生労働省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(短期入所サービス及び特定施設入居者生活介護に係る部分)及び指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について(抄)(老企第 40 号平成 12 年3月8厚生省老人保健福祉局企画課長通知)」
以上の内容から、算定要件を大枠でまとめると3つの要素に分かれます。
ひとつずつ整理していきます。
まずは加算の対象者について整理します。
この加算の対象は、介護保険で要介護の認定を受けている利用者に限定されます。「介護予防」特定施設入居者生活介護のサービスには、退院・退所時連携加算が位置付けられていません。よって、要支援の認定ではこの加算は算定ができず、要介護の方のみが対象となります。
対象者が退院・退所する医療提供施設は、病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院に限定されています。同じ退所であっても、介護療養型医療施設や、特別養護老人ホーム、有料老人ホームからの退所の場合は、情報連携を行ってもこの加算が算定できません。
また、退院・退所後に、直接特定施設に入居することが要件となっています。自宅への退院を経由して入居する場合は算定ができないので、注意が必要です。
再入居時の加算算定も可能です。もともと特定施設に入居していた対象者が入院を経て、特定施設に再入居する場合にも退院・退所時連携加算が認められます。ただし、対象者が医療提供施設に30日を超える入院・入所をしていることが要件となります。31日以上の入院・入所後に再入居する場合は、加算の算定が可能です。
次に情報連携の方法について整理します。
医療機関等の職員との連携方法についても要件があります。連携については、面談「等」と記載している通り、面談以外に、文書による情報共有も認められています。具体的には、厚生労働省の発出したQ&Aに以下のように示されています。
Q.退院・退所時の医療提供施設と特定施設との連携は、具体的にどのようなものを指すのか。
A.医療提供施設と特定施設との退院・退所時の連携については、面談によるほか、文書(FAXも含む。)又は電子メールにより当該利用者に関する必要な情報の提供を受けることとする。
引用:厚生労働省「平成 30 年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(平成 30 年3月 23 日)」
連携方法には、面談だけでなく文書(FAXを含む)や電子メールも含まれています。文書としては、医療提供施設が作成する看護サマリーも有効です。
加算の算定のためには、面談や情報共有した内容については記録に残すことが求められます。この記録の様式には、特別な定めがありません。様式例として、居宅介護支援事業所が退院・退所加算の算定時に使用している書式を提示していますので、参考にするといいでしょう。
ケアプランの作成について整理します。
加算の算定にはケアプランの作成やサービスの再調整も必要です。再入居の場合には、ケアプランの再作成が必要です。つまり、既存のケアプランではなく、退院・退所時の情報連携を反映し、ケアプランを再作成することが加算の要件です。
退院・退所時連携加算に関する質問や疑問に回答します。特に感染症のリスクに配慮しつつ、医療提供施設との連携を行うことに関する質問を2点、紹介します。
感染症の影響により、退院・退所前の医療提供施設での面談が困難な状況が発生する可能性もあります。厚生労働省のQ&Aには以下のような回答が掲載されています。
Q.居宅介護支援の退院・退所加算や(地域密着型)特定施設入居者生活介護の退院・退所時連携加算について、どのような取扱いが可能か。
A.感染拡大防止の観点から、やむを得ない理由がある場合については、病院等の職員との面談以外での情報収集や電話・メールなどを活用するなどにより、算定することが可能である。
引用:厚生労働省「「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて」のまとめ」
感染拡大防止のために、面談以外の方法で情報収集することが認められています。具体例としては、電話・メールでの情報収集も認められます。感染症のリスクを軽減し、安全な退院・退所を実現することが求められます。
直接面談という方法が不可能な状況でも、必要な情報を確実に取得し、ケアプランに反映していくことが必要です。
こちらも厚生労働省のQ&Aから質問と回答を紹介します。
Q.(地域密着型)特定施設入居者生活介護における退院・退所時連携加算について、どのような取扱いが可能か。面談以外も可能とするのは、「やむを得ない理由がある場合」に限るのか。
A.従前、退院・退所時の医療提供施設と特定施設との連携は、面談によるほか、文書(FAX も含む。)又は電子メールにより当該利用者に関する必要な状況の提供を受けることも可能としており、感染拡大防止の観点からも引き続き適切に対応いただきたい。
引用:厚生労働省「「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて」のまとめ」
退院・退所時連携加算は、居宅介護支援事業所の退院・退所加算と異なり、もともと、文書のみの情報共有も認められています。感染症の状況に関わらず、面談という感染リスクの高い方法を選択せずに、加算は算定できます。
感染拡大時に限らず、情報収集にどの方法が適しているのか、状況に応じた適切な手段で連携することが望ましいでしょう。
特定施設の退院・退所時連携加算についてまとめました。
医療と介護の連携は今後もますます重要性を増していきます。自宅以外の生活の選択肢として、特定施設にも大きな注目が集まります。医療的ケアを積極的に推進する特定施設も増えており、介護が必要な方にとっての暮らし方・住まい方も、大きく可能性が広がっています。
加算を算定することで、施設運営が安定するだけでなく、利用者の生活の質を高める効果もあります。利用者が安心して質の高い暮らしができるよう、医療介護の連携を充実させていきましょう。