介護保険制度の最大の目的は自立支援であると言われています。介護保険サービスは「お手伝い」としての介護をするのではなく、利用者が自ら持つ能力を最大限に活かして生活できるように支援する役割を持っています。
そのための重要な要素として、機能訓練があります。加齢や疾患・障害により低下した能力・機能を改善し、より自立した日常生活を送ることを目指しています。
本記事では、機能訓練を推進するための加算「個別機能訓練加算」を解説します。
目次
個別機能訓練加算は、利用者の生活機能の維持・向上を目的に、個別の機能訓練を提供する介護サービス事業所が算定できる加算です。通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護、特定施設入居者生活介護、認知症対応型通所介護など、多くの事業所がこの加算を算定しています。
通所介護では、個別機能訓練加算(Ⅰ)イを42.7%の事業所が、個別機能訓練加算(Ⅰ)ロを26.3%の事業所が算定しており、多くの事業所がこれらの加算を算定していることがわかります。
個別機能訓練加算を算定するには、利用者の個別ニーズに基づいた訓練計画を作成し、実施、評価することが必要です。利用者一人ひとりの身体機能や生活状況を踏まえ、個別機能訓練計画を作成します。計画作成は、理学療法士や作業療法士などの専門職が行い、定期的な評価と見直しを行います。利用者の生活機能の向上に加え、介護者の負担軽減や生活の質の向上が期待されます。
個別機能訓練加算を算定するためには、機能訓練指導員の配置が必須となります。次の章では、機能訓練指導員について解説します。
機能訓練指導員は、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士など、リハビリテーションや運動に関する専門資格を持ち、利用者の個別訓練の計画立案、実施、評価などの役割を担います。
機能訓練指導員は、利用者の健康状態や生活状況を総合的に評価し、それに基づいて最適な個別訓練計画を作成します。また、訓練の進捗を定期的にモニタリングし、必要に応じて計画を修正し、訓練効果を最大化するよう支援します。
詳しくは以下の記事にて解説しているのであわせてご確認ください。
機能訓練指導員の仕事内容は?資格要件と職種の特徴について解説
個別機能訓練加算には、(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類があります。さらに、通所介護の個別機能訓練加算(Ⅰ)には、イとロの2種類があり、それぞれ機能訓練指導員の配置基準が異なります。
個別機能訓練加算(Ⅰ)イ | 個別機能訓練加算(Ⅰ)ロ | 個別機能訓練加算(Ⅱ) | |
機能訓練指導員の配置基準 | 専従を1名配置 (配置時間の定めはなし) | 2名以上 (配置時間の定めはなし) | 個別訓練加算(Ⅰ)イもしくはロを算定していること |
LIFE活用 | 定めなし | 定めなし | LIFEへの情報提供 |
同時算定の可否 | (Ⅰ)ロとの同時算定不可 | (Ⅰ)イとの同時算定不可 | 同時算定可能 |
算定 | 日単位 | 日単位 | 月単位 |
56単位 | 76単位 | 20単位 |
個別機能訓練加算(Ⅱ)は(Ⅰ)の要件に加え、科学的介護情報システムLIFEへの情報提供とフィードバックが必要です。厚生労働省が運用するLIFEというデータベースからフィードバックをもとに、より最適な個別機能訓練計画を実施し、サービスの質を向上することを目的としています。LIFEを通したPDCAサイクルを回していくことを科学的介護と呼んでいます。個別機能訓練加算(Ⅱ)は20単位となっています。
個別機能訓練加算は、以下の介護サービスで算定することができます。
サービスによって単位数や算定要件などは異なります。単位数や算定要件の違いについて、次の章で詳しく解説します。
ここからはサービス種別ごとの個別機能訓練加算の単位数や算定要件について説明します。加算は一日単位で算定するものと月単位で算定するものがありますので、注意しましょう。2024年4月に介護報酬が改定されていますので、それを踏まえた情報をわかりやすく解説します。
通所介護(デイサービス)における個別機能訓練加算の算定要件と単位数は、2024年の介護報酬改定により以下のように定められています。
この加算は、個別的な機能訓練計画に基づいて、訓練を提供する場合に算定されます。
この加算は、機能訓練指導員の配置数が複数名であることが条件です。イとロの加算を両方同時に算定することはできません。
いずれも、算定の要件として、機能訓練指導員による計画作成・訓練の実施・評価というプロセスを経なければいけません。
科学的介護情報システムLIFEへの情報提出とフィードバックの活用が要件となります。また、この加算を算定するためには個別機能訓練加算(Ⅰ)イもしくはロの算定が必修となります。
短期入所生活介護における個別機能訓練加算の算定要件と単位数は、以下のように設定されています。
ショートステイでも、機能訓練指導員の配置があり、個別機能訓練を実施する事業所であれば個別機能訓練加算が算定できます。
また、專ら機能訓練指導員の職務に従事する常勤の機能訓練指導員の配置があれば、機能訓練体制加算12単位も併せて算定することができます。
介護老人福祉施設・特定施設入居者生活介護の個別機能訓練加算は、2024年の介護報酬改定により以下のように設定されました。
この加算は、個別的な機能訓練計画に基づいて、訓練を提供する場合に算定されます。機能訓練指導員の配置基準は通所介護の個別機能訓練加算(Ⅰ)イと同等の要件です。
科学的介護情報システムLIFEへの情報提出とフィードバックの活用が要件となります。この加算を算定するためには個別機能訓練加算Ⅰの算定が必修となります。
2024年の制度改定で新たに加わった加算です。個別機能訓練加算(Ⅱ)を算定しており、口腔機能訓練加算(Ⅱ)または栄養マネジメント強化加算を算定していること、入所者の口腔や栄養の状態についての情報を相互共有していることなどが算定要件となっています。
個別機能訓練加算を算定することによるメリットを紹介します。
個別機能訓練加算を算定することで、利用者一人ひとりのニーズに応じた機能訓練を計画的に提供できます。これにより、利用者の生活機能の維持・向上が図られ、日常生活における自立支援が促進されます。ケアマネジャーや利用者への提案の幅が広がり、身体機能に不安を感じる利用者への課題解決につなげることができます。
また、個別機能訓練は、個別に身体機能の評価ができることから、訓練やデイサービス利用の成果が可視化でき、利用者・家族の満足度が向上します。訓練の効果を定期的に評価し、必要に応じて計画を修正することで、より効果的な支援につながります。
個別機能訓練加算を算定することで、事業所の収益が向上します。加算によって利用者単価が上がります。また、機能訓練は差別化効果も大きく、大きな集客の鍵となります。機能訓練を希望する利用者の増加も見込めます。単価の増加と集客の増加により、事業所全体の売上がアップします。
事業所の経営が安定し、さらにサービスの質を向上や、職員の待遇改善につなげることができます。
個別機能訓練加算を算定することで、それぞれに大きなメリットがあります。
それぞれに大きなメリットがあるwin-win-winの関係が生まれるのです。
個別機能訓練加算を算定するまでの流れを解説します。
まずは算定基準を満たすか、人員配置の要件などを確認しましょう。機能訓練指導員がいない場合は配置要件を満たせるよう、専任の機能訓練指導員の確保を行います。
加算算定に必要な届出書類を準備し、自治体に提出します。届出書類の内容は自治体により異なりますが、
などがあります。これらの書類が受理されて初めて加算の算定が可能となります。
加算を算定する際には、ケアマネジャーや利用者への説明が必要です。ケアプラン上に個別訓練に関する内容の追記が必要になる場合もあるため、ケアマネジャーへの事前の連絡・調整が必要です。
また、利用者としては利用単位数、自己負担の金額も変わるため、利用者に対する丁寧な説明も求められます。いつから開始し、自己負担はどのくらい増える予定なのか、サービス内容はどう変わるのか、具体的にイメージができるように説明することが必要です。加算算定について利用者の同意をもらうことを忘れないようにしましょう。
加算の算定のためには、いくつかの必要書類を作成する必要があります。必要書類について簡単に解説します。
生活機能チェックシートは、利用者の状況を把握するためのものです。生活行為の「自立」「見守り」「一部介助」「全介助」の分類や、課題の有無などを詳細に確認します。本人のADLを確認するためのチェックシートとなっています。
興味関心チェックシートは、本人が現在行っていることや、今後行いたいことなどを聞き取り、ニーズを確認するためのものです。興味関心チェックシートを通して、本人の興味関心に基づいた個別計画を作成することができます。
個別機能訓練計画書は、本人の身体状況や社会参加の状況、健康状態、長期・短期目標などを記載する書類です。この計画書をもとに個別機能訓練の提供と評価を行います。ケアマネジャーが作成するケアプランも意識しつつ、最適な計画を作成することが求められます。
加算算定のためには、これらの書類の作成が必要になりますので、準備をしておきましょう。
個別機能訓練計画書を作成したら、利用者と家族に説明し、計画内容に同意を得ます。計画書には署名欄があるので、そこに署名してもらうことで、計画が確定します。
計画に基づいて個別機能訓練を実施します。概ね週1回以上の頻度で、定期的に機能訓練指導員が直接訓練を行います。
目標の達成状況の評価を3ヵ月に1回以上は行います。利用者の居宅を訪問し、生活状況の変化などを確認。新たな課題が発生していないかを確認し、目標や訓練内容の修正の必要があるかを確認します。モニタリング結果は次の計画に反映されます。
以上が個別機能訓練加算算定までの流れです。
個別機能訓練加算に関するよくある質問に回答します。
機能訓練指導員は通常2名体制なのに対し、1名しか配置できない日がある場合、どのように算定すべきか、という質問です。
厚生労働省の介護報酬改定に関するQ&Aによると、2名配置の日は個別機能訓練加算(Ⅰ)ロを算定し、1名しか配置がない人は個別機能訓練加算(Ⅰ)イを算定して差し支えないとしています。
また、その日の時間帯によって、機能訓練指導員の人員が変わる場合についての質問もあります。個別機能訓練を行う時間帯に機能訓練指導員が何名配置されているかによって、(Ⅰ)ロか(Ⅰ)イを算定します。フルタイム勤務と午前中のみ勤務の機能訓練指導員が同日勤務する場合を例に挙げます。午前中に個別機能訓練を行う利用者は複数の機能訓練指導員がいるため、(Ⅰ)ロ、午後に個別機能訓練を行う利用者は機能訓練指導員1名体制なので(Ⅰ)イが算定されます。
個別機能訓練の訓練項目は個別的ニーズに対応した内容であることが求められます。ただし、類似した訓練項目に関して、厚生労働省のQ&Aでは、生活意欲が増進され、機能訓練の効果が増大するのであれば加算として認めるという見解が示されています。
個別機能訓練は、利用者の生活機能の維持・向上に大きく関わる重要なサービスです。加算取得を通して事業所の収益向上にも繋がり、サービスの質の向上や経営の安定化を図ることができます。個別機能訓練加算を有効に活用し、利用者一人ひとりに合わせたケアを実践することで、利用者やケアマネジャーの信頼を勝ち取りましょう。