介護保険サービスで利用可能な公的施設として「介護老人保健施設」があります。高齢者の健康と自立を支える重要な施設ですが、どんなサービスがあるのか、他の施設とどう違うのか、疑問に思う方も多いでしょう。
今回の記事では、サービスの内容や入所の条件、費用、他の公的施設との違いについて詳しく解説します。
目次
介護老人保健施設とは、厚生労働省によると「要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要な者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設」と定義されています。
病状が安定し病院から退院した方などが、在宅での生活に復帰できるように、医師による指導の下で、理学療法士や作業療法士によるリハビリを重点的におこなって、看護や介護、日常生活の世話もおこないます。
介護老人保健施設の入所には以下の条件があります。
これらの条件を満たす方が対象です。
しかし、施設によってはそのほかの伝染病などの疾患がない、病気での長期入院を必要としないなど、その他の条件を設けているところもあります。
65歳以上の方は、原因を問わずに要介護認定を受けた場合に介護保険が適用され、介護サービスを受けることができます。
40~64歳の方は、特定疾病によって要介護認定を受けた場合にのみ、介護保険が適用となり、介護サービスの対象になります。
特定疾病とは加齢によって要介護状態の原因となる病気のことを指します。対象となる疾病は一律に定まってはおらず、保険によって異なりますので、対象疾病をよく確認しましょう。
以下では、介護保険が適用される16特定疾病について紹介します。
- がん(末期)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
介護老人保健施設では、認知症の方もサービスを利用することができます。中には認知症ケアを専門とした施設もあります。
特定疾病には初老期における認知症(若年性認知症)も含まれており、要介護認定を受ければは若年性認知症の40~64歳の方も利用することができます。
介護老人保健施設において利用者の安全と質の高いサービス提供を確保するために、スタッフの配置基準を厚生労働省が定めています。
必要な人員配置は以下の通りです。
職種 | 人員配置基準 |
医師 | 常勤医1人以上+100人につき1人以上 |
薬剤師 | 適当数(300人につき1人以上) |
看護・介護職員 | 3人につき1人以上。うち看護は2/7程度 |
支援相談員 | 1人以上+100人につき1人以上 |
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士 | 100人につき1人以上 |
栄養士 | 定員100人以上の場合、1人以上 |
介護支援専門員 | 1人以上 |
調理員、事務員、その他従事者 | 適当数 |
看護・介護職員を入所者3人につき1人以上配置することが定められています。またそのうち7分の2は看護職員でなければなりません。
特別養護老人ホーム(特養)では、人数に関係なく看護師を1人以上配置なのに対して、介護老人保健施設は手厚い人員配置の基準が設けられています。
他施設のリハビリ職員の配置基準を見ると、特別養護老人ホーム(特養)では機能訓練指導員(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護職員、柔道整体師、按摩マッサージ指圧師、鍼灸師のいずれかの資格取得者)を、100人につき1人以上置くことが配置基準です。
これに対して、自宅復帰を目指す介護老人保健施設では、リハビリテーションが重要な役割を担います。
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士のいずれかのリハビリ専門職を、入所者100人につき1人以上配置することになっています。
入所者の評価、リハビリテーション計画の作成、専門的リハビリテーションの提供、生活機能向上プログラムの指導など質の高い医学的なリハビリをおこないます。
介護老人保健施設では、医師の24時間常駐も義務付けられており、より医療的なケアを受けることができます。
最近では看護師も24時間常駐している施設も増えており、細やかなケアを受けながら安心して生活することができます。
介護老人保健施設に入所した際の、月額費用(負担割合1割の場合)について確認していきましょう。
要介護度 | 多床室 | 従来型個室 | ユニット型個室 |
要介護1 | 23,790円 | 21,510円 | 24,060円 |
要介護2 | 25,290円 | 22,890円 | 25,440円 |
要介護3 | 27,240円 | 24,840円 | 27,390円 |
要介護4 | 28,830円 | 26,490円 | 29,040円 |
要介護5 | 30,360円 | 27,960円 | 30,540円 |
食費* | 43,350円 | 43,550円 | 43,350円 |
居住費* | 11,310円 | 50,040円 | 60,180円 |
日常生活費* | 10,000円 | 10,000円 | 10,000円 |
*目安による概算費用
参考:介護新聞「介護老人保健施設の費用はいくらかかる?軽減制度も解説 – 日刊介護新聞 by いい介護 」
介護老人保健施設は、社会福祉法人や医療法人が運営する施設です。公的な資金で運営されており、入所時の一時金などの初期費用はかかりません。
介護老人保健施設では、月額利用料や管理費が低額に設定されています。
さらに世帯収入が低い場合、減免制度が設けられており、所得や資産が一定の基準以下の入所者には、負担限度額を超える居住費と食費が支給されることもあります。
入所者は月額利用料として、賃料、食費、日常生活費、介護保険の自己負担分を負担します。
- 賃料(居住費)
居室のタイプによって費用が異なります。
相場は、相部屋タイプでは7~10万円程度、個室タイプでは18~22万円程度です。- 食費
食材や調理などにかかわる費用です。医療費控除の対象となります。
多くの施設では1日3食のうち、2食になった日があれば、食べていない分を差し引いた食費を支払います。
施設によっては食事回数が減っても、人件費として3食分の食費を請求される場合もあります。- 日常生活費
洗濯代、理美容代、電話代、新聞・雑誌、その他嗜好品などの費用です。該当項目は施設によって設定が異なります。- 介護保険の自己負担分
要介護度が高いほど負担額は増えます。また、別で加算料金が発生することもあるので注意しましょう。- 医療費
入所中に必要な医療的ケアや薬の費用は、介護老人保健施設が負担するので医療費の負担は不要です。
しかし、所属の医師が認めた医療行為のみであるため、利用者が希望する医療行為をしてもらう場合や、他の医療機関を受診する場合の治療費は自己負担となります。
介護老人保健施設を利用するにあたってどのようなメリット、デメリットがあるのか見ていきましょう。
介護老人保健施設には、以下のように複数の入所するメリットがあります。
専門のスタッフが常駐しており、利用者1人ひとりの状態に合わせたリハビリテーション計画をもとにサービスが提供されます。リハビリテーションは週2回以上、1回20~30分おこなうという基準も設けられています。
質の高い機能訓練、自宅での生活を想定した動作訓練、コミュニケーションなど充実したリハビリテーションを提供して、少しでも早く入所者が自宅復帰できるように支えていきます。
24時間常駐で医師がいることに加え、看護職員も一定数勤務しています。看護師も24時間常駐する施設が増えてきており、経管栄養など本格的な医療ケアに対応できるようになっています。
医薬品も施設内処方が可能になり、急な体調変化の際にも迅速な対応ができ、いつでも万全な医療ケアが提供できます。
介護老人保健施設は、介護保険法に基づく公的施設です。利用料金も低く、入所一時金もかからないことから、自己負担額を抑えることができます。
月額の利用料金も、居室のタイプによりますが、食費や居住費などを合わせても10~15万円程度です。また、所得や資産などに応じた減免制度があるので、低所得の方も利用しやすくなっています。
介護老人保健施設では、要介護度が1以上の方であれば入所可能です。
特別養護老人ホームでは要介護度3以上が入所条件になっているのに対し、介護老人保健施設では、軽度の介護が必要な方から重度の介護が必要な方まで、幅広く利用することができます。
メリットは数多くありますが、さまざまな制約もあります。デメリットも合わせて見ていきましょう。
あくまでも自宅復帰を目指してリハビリテーションをおこなう施設であるため、入所期間は3~6か月と定められています。3か月ごとに対処か継続かの判定がおこなわれ、自宅復帰が可能と判断された場合には対処しなければなりません。
介護保険上は、入所期間に制限はなく、自宅復帰ができる状態ではない場合には期間が延長される場合もあります。1年以上入所することもあるようです。
介護老人保健施設は、医療ケアやリハビリテーションに重点を置いています。
そのため、レクリエーションやイベントは機能訓練の一環としてあるものの、入所者同士で楽しむためのレクリエーションはないところが多いです。
食事・入浴・排泄の介助など身体介護サービスは充実していますが、買い物代行や洗濯などの生活支援サービスは十分に提供されません。
そのため、入所中の洗濯は家族が自宅に持ち帰って洗濯しなければなりません。家族が生活支援を行えない場合は外部業者へ委託する必要があります。
介護保険施設には、介護老人保健施設と介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)があります。
ここでは名前がよく似た2つの施設の違いを紹介します。
介護老人保健施設は、病院での治療を終えた要介護者が短期間入所し、自宅に復帰し自立した生活を目指すための施設です。
これに対して介護老人福祉施設は、自宅での介護が困難な方が入所し、長期間に渡り生活をするための施設です。
介護老人保健施設では「要介護度1」以上の認定を受けた65歳以上の方で、リハビリテーションによって機能回復をおこないたい方が入所対象になります。特定疾病で要介護認定を受けている40~64歳の方も対象です。
これに対して介護老人福祉施設は、原則として介護保険の要介護認定で「要介護3」以上の認定を受けていなければなりません。
特定16疾病により介護認定を受けた40~64歳の方も入所できますが、緊急性が高い方から優先的に入所になるため、入所までに時間がかかることも多いです。
どちらの施設も公的施設のため入所一時金は不要で、月額利用料を負担します。月額利用料も、介護保険を利用すると1~3割負担で抑えられます。
また、どちらも公的施設であり、国や自治体から補助金が出るため、安い料金で入所が可能です。
介護老人保健施設では、8~15万ほどが相場です。リハビリテーションに力を入れている分、設備や人員配置が充実しています。そのため、施設サービス費に加算される項目もあり、支払額がやや高くなっています。介護老人福祉施設では、10~14万円ほどが相場です。
介護老人保健施設は在宅復帰を目指す施設で、入所期間は原則3~6か月と定められています。しかし、介護保険制度上は期間が規定されておらず、入所者別にゴールを設定し、それを達成した際に退所になります。
介護老人福祉施設には、入所期間に制限はありません。終身利用が基本になり、看取り介護まで対応する施設が多いです。長期入所ができる分、申し込みも多く待機時間が長くなりがちです。
介護老人福祉施設では、施設規模にかかわらず栄養士と機能訓練指導員が常勤しており、大規模な施設では、入所者や家族の相談業務をおこなう生活相談員が常勤しています。
介護老人保健施設では、医療ケアに重点を置くため、1人以上の医師、支援相談員が在籍して、介護や看護をおこなう職員のうち、一定割合以上が看護職員と定められています。
人員配置は、それぞれ以下のようになっています。
介護老人保健施設 | 介護老人福祉施設 | |
医師 | 常勤医1人以上+100人につき1人以上 | 入所者に対し健康管理及び療養上の指導をおこなうために必要な数。非常勤でも可。 |
薬剤師 | 適当数(300人につき1人以上) | |
看護・介護職員 | 入所者3人につき職員1人以上。うち看護職員は2/7程度。 | 入所者3人につき職員1人以上。 |
支援相談員 | 1人以上+100人につき1人以上 | |
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士 | 100人につき1人以上 | 機能訓練指導員を1人以上 |
栄養士 | 定員100人以上の場合、1人以上 | 1人以上 |
介護支援専門員 | 1人以上 | 1人以上(入所者の数が100またはその端数を増すごとに1を標準とする) |
調理員、事務員、その他従事者 | 適当数 |
介護老人保健施設は、医師と看護師による医学的な管理の下で、リハビリテーションを重視した介護サービスが充実しています。
これに対して、介護老人福祉施設では、日常生活の介助や健康管理・機能訓練など、中度~重度要介護者の生活を支援するサービスが中心です。入所者が安心して生活できる環境を提供し、生活の質を高めるために、レクリエーションや趣味の活動などのサービスも提供されます。
介護老人保健施設の1日の流れの例をご紹介します。
時間 | スケジュール |
6:00~ | 起床・着替え |
7:30~ | 朝食・口腔ケア |
9:00~ | 健康チェック |
9:30~ | リハビリテーション |
10:00~ | 入浴 |
12:00~ | 昼食・口腔ケア |
13:00~ | リハビリテーション・レクリエーション |
15:00~ | おやつ |
18:00~ | 夕食・口腔ケア |
20:00~ | 就寝 |
介護老人保健施設は、在宅復帰や在宅療養を支援することが目的の施設です。そのため、ずっと入所し続けることはできません。
一般的には3~6ヵ月ごとに退所審査がおこなわれ、在宅復帰が可能だと判断された場合は退所を促されます。
介護老人保健施設は、介護保険法でルールが定められています。また、省令や都道府県の条例などで細かなルールが定められています。
特に厚生労働省令である、介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準によって規定されています。
介護老人保健施設は、高齢者をケアする施設でありながら、高齢者に対する在宅復帰および在宅生活を支援する施設です。利用者が、在宅復帰後に自宅や自宅周辺で安心して、自立した生活を自信をもって送れるように適切な機能訓練や、リハビリテーションをおこなう役割を果たします。
事業者の方は、利用者本人やそのご家族の方のニーズに答えたり、必要な情報を正しく提供したりできるように、介護老人保健施設の特徴をよく理解しておきましょう。