高齢化が進む日本ではさまざまな問題があるものの、介護業界の需要は高まるばかりです。
そんな中、訪問介護事業所の立ち上げを考える方も増えています。
せっかく開業するなら、失敗を避けるためにも必要な知識を知っておいて損はありません。
今回の記事では、訪問介護の開業に必要な資格、訪問介護の開業のステップ、訪問介護の開業で満たすべき基準などについて詳しく解説します。
目次
利用者の自宅を訪問して日常生活をサポートする「訪問介護」サービスですが、その内容は大きく分けて「身体介護」「生活援助」「通院時などの乗降介助」の3つです。
身体介護は、食事・入浴・更衣・排泄など利用者の身体に触れて行う介護です。
ただし、利用者の自立支援のため、できる限り協力しながら行うことが推奨されています。
生活援助は、掃除・洗濯・調理・買い物などを利用者本人や家族の代わりに行うサービスです。
乗降介助は、通院時の送迎・通院先での受診手続き・薬の受け取りなど、利用者の自宅→病院→自宅の移動における介護全般を行います。
訪問介護のサービス内容について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
【2022年最新版】訪問介護とは?サービス内容や受け方、費用についてご紹介!
訪問介護事業所を開業する場合は必ず「サービス提供責任者」を配置する必要があります。
管理者もしくは常勤の介護職員の中から1人以上登録しなければいけません。
サービス提供責任者は以下のうちいずれかの資格を取得しているか条件を満たしている必要があります。
・介護福祉士
・実務者研修修了者
・旧介護職員基礎研修修了者
・旧1級課程修了者
参考:厚生労働省
訪問介護に必要な資格について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
訪問介護の事業所を立ち上げるためにはいくつか満たさなければいけない基準があります。
一般的な個人事業とは少し違いがあるので、しっかりと把握してから準備に取り掛かることをおすすめします。
こちらでは、法人の設立から指定申請を行うまでステップ別に詳しくお伝えします。
介護保険事業に関しては個人事業主では開業ができないので、訪問介護事業の開業も法人格を得る必要があります。
個人で立ち上げることができる法人格は以下の通りです。
・株式会社 株主から出資を募り、株式を発行して資金を集める法人格。
・合同会社 経営も利益分配に関しても出資者自身が行う法人格。
・NPO法人(特定非営利活動法人) 利益が目的ではない社会貢献活動を行う法人団体。
・一般社団法人 理事1人と社員2人以上が集まれば設立できる非営利法人。
訪問介護事業の開業には、ベースとなる事務所が必要です。
一般的な自営業とは少々異なり、事務スペースに加えて相談室や手洗い場を設けるといった設備基準を満たすことが条件となります。
また、立地条件や駐車場の確保も重要なポイントです。
介護労働者は利用者宅まで車・バイク・自転車を使用して移動する場合が多いので、ある程度のスペースが必要となります。
もちろん備品の調達も重要な仕事です。
事務用と相談室用の机や椅子、書類等を収納するキャビネットなどの家具類。
パソコンやプリンター、FAX、電話機などの電化製品。衛生面にも気を使う必要があるので、石鹸や消毒液、ペーパータオル等も備品として必要です。
訪問介護事業には「管理者」「サービス提供管理者」「介護労働者(ホームヘルパー)」が必要です。
それぞれひとつだけ兼務ができますが、3つの職務すべてを兼務することはできません。
管理者は特に資格はいりませんが、サービス管理責任者になるには前述した資格、訪問介護員になるには「介護職員初任者研修」の受講と修了試験に合格する必要があります。
訪問介護員は常勤換算2.5人以上が必要なので、訪問介護事業所を開業するには、最低でも有資格者が3人は必要ということです。
人員の確保は訪問介護事業開業にあたり満たすべき基準のひとつなので、準備段階で確実にクリアしておく必要があります。
訪問介護を開業するには、指定権者からの許可を得る必要がありますが、そのための申請を指定申請と言います。
指定権者は都道府県や市区町村ですが、各地域により異なるので事前に開業する地域のホームページで確認するか直接問い合わせてみてください。
開業にあたり満たすべき基準をクリアし、期日通りに申請をします。
必要書類や期日も行政のホームページで確認しておいた方がスムーズに行えます。
無事申請が受理されると、6年間の事業が認められます。その後は6年ごとに申請が必要なので忘れないようにしましょう。
訪問介護事業所として指定されるには、法人格であることに加えて「人員」「設備」「運営」の3つの基準をクリアする必要があります。
スムーズに開業にこぎつけるためにも、また、事業を長く続けていくためにも確実に基準を満たす必要があるので、しっかりと把握しておきましょう。
参考:厚生労働省
訪問介護事業の開業に必要な人員は「管理者」1名以上・「サービス提供責任者」1名以上・「訪問介護員(ホームヘルパー)」常勤換算2.5人以上が基準となっています。
サービス管理責任者に関しては、利用者が40人またはその端数を増すごとに1人以上の配置が必要になります。
常勤換算は「従業員の週の勤務時間÷常勤従業員の週の勤務時間」で計算できます。
例えば、週40時間の従業員2人と週20時間の常勤従業員2人の場合は「120時間÷40時間=3人」となり、基準を満たしていると言えます。
常勤換算で2.5人以上が確保できているかがポイントになるのでしっかりと理解しておきましょう。
人員基準についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
訪問介護の開業に必要な人員基準について計算方法など徹底解説!
次に実際に運営を行う物件と設備の準備ですが、訪問介護事業を行うには国から定められた条件や運営基準があります。
・事務室
特に広さに関する規定はなく、必要不可欠な備品を設置できるスペースが確保できれば問題なし。物件を決める際は送迎車の駐車スペースの有無も要確認。
・相談室
利用者や家族が訪問した際に利用できるスペース。プライバシー保護のための配慮が必要。
・手洗い場
手洗い可能な洗面所。共有の洗面所しかない場合は、事務所内に手洗い場を設置して許可をとる。
・準備する備品
デスク・椅子・相談室用の机と椅子・電話・パソコン・プリンター・キャビネット・カギ付きの書庫・消毒液・石鹸・ペーパータオルなど。
運営基準は、業務運営と訪問介護サービスに関して定められた基準です。
業務運営に関しては、利用料などの受領方法や訪問介護計画書の作成などがあります。
具体的には、適正価格を記載した請求書や領収書の交付や保険給付請求に必要なサービス提供証明書の交付などです。
サービスに関しては、利用者本人やその家族と相談のうえ作成した計画書を作成し同意を得ることや、サービスの提供が難しくなった場合や緊急事態への対応など。
さらに、訪問介護員への教育や業務管理の把握に関しての基準も含まれています。
訪問介護事業を始める時にかかる開業資金も気になるところです。
事業を経営するために必要な経費には開業資金と運転資金がありますが、今回は開業に必要となる費用について詳しく説明します。
訪問介護事業は法人として開業しなければいけませんが、どの法人スタイルを選ぶかによって費用にも差があります。
必要な費用の内訳は、法人としての登録に必要な「定款認証手数料」・定款に貼る「収入印紙代金」・設立登記の際に必要な「登録免許税」の3つです。
金額は、株式会社の場合が約30万円、合同会社と一般社団法人の場合が約10万円です。
NPO法人の場合はほぼ費用はかかりませんが、株式会社や合同会社に比べると認可が下りるまでの期間が長く3ヶ月〜4ヶ月ほどかかります。
開業したい時期から逆算して申請をしなければいけない点に注意が必要です。
訪問介護事業を開業するためには人員基準を満たしているのが条件であるため、まだ利用者の申し込みがない状態の開業時点でも人件費の確保はマストです。
常勤の訪問介護員の月給の相場は18万円〜25万円。
管理者以外に資格保有者が3人は必要なので、人件費としては最低でも毎月60万円程必要となります。
さらに、介護保険による介護報酬の場合は、翌月に請求、翌々月に支払いという流れを踏まえ、開業時にはあらかじめ2〜3ヶ月分の人件費を確保しておく必要があります。
訪問介護事業所には、事務作業を行う事務室に加えて、利用者のプライバシーに配慮した相談室と手洗い場が必要です。
となれば、6畳ひと部屋の物件では事足りないので、ある程度の広さがある物件を借りることになります。
基準を満たした広さの事務所の賃料と、初めに支払う敷金・礼金も設備費として必要であることを覚えておいてください。
開業資金を抑えるために自宅を事務所として利用するケースもあります。
この場合は賃料・敷金・礼金はかかりませんが、手洗い場などの設備を整えるためのリフォーム資金が必要となる場合があります。
訪問介護事業所では、利用者ごとの訪問計画書を作成したり、介護保険に関する事務作業が発生するので、一般的な事務作業ができる備品を購入する必要があります。
また、相談室用のテーブルや椅子、手洗い場用の衛生用品も備品の一部となります。
具体的には、事務用のデスクと椅子・相談室用のテーブルと椅子・書類保管用のキャビネット(鍵付き)・パソコン・プリンター・FAX・筆記用具・石鹸・消毒液・ペーパータオル等になります。
また、利用者を送迎するための車両も必要ですが、購入する他にレンタルする方法もあります。
車体本体の価格だけでなく、保険料や税金、ガソリン代も開業資金として必要となります。
訪問介護事業を開業する際にかかる費用の詳細は上記の通りですが、自己資金ですべてを賄うことができない方もいるでしょう。
その場合は、助成金や融資を活用する方法もあるので安心してください。
具体的な助成金や融資について詳しくお伝えします。
助成金とは、厚生労働省による支援金です。
主に雇用に関しての支援金で、条件を満たしていれば受け取ることができます。
助成金は返済が不要ですし、法令違反があれば申請が受理されないので事業の信用にもつながるといったメリットがあります。
ただし、助成金は申請に必要な実施計画書を作成し、実際に計画書通りに実施した後に申請してから支給されるシステムです。
開業時に必要な資金には利用できない場合がほとんどなので、いわゆる軍資金としては利用できないのがデメリットとも言えます。
訪問介護事業の開業に活用できる助成金は以下の通りです。
名前の通り、介護労働者の労働条件や職場環境の向上を実現した事業主に対する助成金です。
例えば、労働時間に関する問題・身体的負担の軽減・賃金の処遇といった労働条件の向上や労働者が働きやすい環境を整えることを目的とした費用に対する助成金です。
こちらは雇用管理改善の内容によって以下の2種類の助成金があります。
どちらも、あらかじめ計画書を作成して提出し、実際に導入をして効果や定着状況を把握してからの申請となります。
それぞれ計画期間や計画の提出期限が異なるので、申請前にチェックしておきましょう。
事業主が新たに機器を導入し、介護労働者の労働環境が改善されたと認められた場合に受けられる助成金です。
まずは「導入・運用計画」を作成して、都道府県の労働局の認定を受けます。
計画期間は3ヶ月〜1年、提出期間は計画開始からさかのぼり6ヶ月前〜1ヶ月前です。
実際に導入した機器を使用した効果については、導入前と導入後に介護労働者に対して行われるアンケートの結果に基づいて査定されます。
無事認定されたら計画期間終了後1ヶ月以内に申請を行います。
支給額は導入費用の1/2(上限300万円)です。
事業主が介護労働者に対する雇用管理改善制度を導入し、労働者の定着や離職率の低下などの効果が認められた場合に受けられる助成金です。
まずは「雇用管理制度整備等管理計画」を作成して、都道府県の労働局の認定を受けます。
計画期間は6ヶ月〜1年、提出期間は計画開始からさかのぼり6ヶ月前〜1ヶ月前です。
雇用管理制度導入日と計画時期間終了時の労働者数の定着率が一定以上であれば助成金の支給が認められます。
認定されたら、計画期間終了後1ヶ月以内に申請を行います。支給額は導入費用の1/2(上限100万円)です。
参考:厚生労働省
政府出資による金融公庫「日本政策金融公庫」が行う「新規開業資金」は、事業の創業時や開業して7年以内の若い事業を対象とした融資です。
主に個人事業や小規模事業向けで、実績がなくて他機関からの融資が困難な場合でも低金利での融資が望めます。
融資の限度額は7,200万円。返済期間は、設備資金が20年以内(うち措置期間2年以内)・運転資金が7年以内(うち措置期間2年以内)となっています。
事業計画書や収支計画書など手続きに必要な書類を作成する必要はありますが、無担保・無保証人での融資を希望する場合も相談できますし、他の融資制度との併用できる点は大きなメリットです。
参考:日本政策金融公庫
訪問介護事業を開業する際には、準備から開業までの流れをしっかりと把握しておくことでスムーズに事が運びます。
法人格を取得したり、開業に必要となる設備や人員の確保、資金の調達など、準備期間として最低でも半年くらいは必要となりますが、その間無駄な時間と資金を費やさないためにも事前の準備は必要不可欠です。
決して簡単なことではありませんが、やりがいのある仕事であることは間違いありません。
これから開業を目指す方は、ぜひ今回ご紹介した情報を参考にしてみてください。