喀痰吸引等研修は、高齢化社会が進む日本の介護において注目されています。
介護士としてのスキルアップはもちろん、社会貢献や仕事の視野も広がるので、習得するとメリットに感じることが多いでしょう。
今回は喀痰吸引等研修のメリットや種類、喀痰吸引等研修が研修がどのような内容なのかを詳しくご紹介します。
目次
喀痰吸引等研修とは、器具を用いて痰を吸引することができる介護職員を育成する研修で、平成24年に誕生した制度です。
喀痰吸引は、医療行為に該当するためこの制度ができるまでは、特別な場合を除き介護職員は喀痰吸引をおこなうことができませんでした。
そのため喀痰吸引をおこなうことができる人材の確保が必要になりました。
しかし増え続ける患者の数に対して、医療行為ができる人材の確保が難しく、深刻な問題となっています。
そこで導入されたのが喀痰吸引等研修です。喀痰吸引等研修を受けると喀痰吸引等研修修了が認定され、医師や看護師でなくても喀痰吸引等の医療行為をおこなうことができるようになります。
医療ケアができるようになることで施設での介護はもちろんのこと、訪問介護など対応できる場所が増えていくことにも繋がっていきます。
自分の希望に合った職場が選べるようになり、人生の選択肢の幅も広がっていくことでしょう。
また、2015年に重度の要介護者や認知症の方を積極的に受け入れている施設などに対し、設けられている制度である「日常生活継続支援加算」が見直され、より良いサービスを提供できる施設などが、支援を受けやすくなりました。
その条件の中には、「医師の指示に基づいた喀痰吸引や経管栄養をおこなう必要がある利用者が15%以上であること」が定められています。
このようなことからも、今後さらに喀痰吸引のできる人材が必要になるため、活躍できるフィールドも広がることでしょう。
喀痰吸引等研修を受講した人材は現場での需要が高く、特別資格手当が給与に加算される可能性が高いです。
一般的には、5,000円から1万円ほどの資格手当がつくことがあり、年間にするとかなり大きな収益になります。
今の給与に不満がある方は、喀痰吸引等研修を受けてみるのも一つの手段だといえます。
また、介護士として多くの経験を積み、昇格・昇給を目指すためにも喀痰吸引等研修は有効です。
今の職場に希望が持てない場合でも、喀痰吸引ができると採用される可能性の高くなるので、さらにスキルアップできる職場への転職を有利に運ぶことも可能です。
喀痰吸引等研修後は、医療行為を自らの手でおこなうことができるようになります。
質の高い介護を習得することは、職場で活躍できるだけでなく、自分自身のモチベーションの向上にも繋がります。
喀痰吸引等研修を受けることにより、研修中にしっかりと技術や知識を身につけることができます。
介護現場で実際に使用されている機材を使用したり、人体模型を用いた演習で、実践に近い研修を受けることができます。
ですので、すぐに現場で実践することができ、スキルが向上している実感を感じやすく、さらなるスキルの向上を目指すためのきっかけにもなり得ます。
またベテランの職員から指導してもらえるので、確実にスキルを身につけられるのも、喀痰吸引等研修を受けるメリットだと考えられます。
一度身についたスキルは、生涯に渡り自分の武器として使うことができるので、職場だけでなく、家族や親しい人の介護などでも役に立つことでしょう。
喀痰吸引等研修は第一号研修、第二号研修、第三号研修に分かれています。
第一号研修と第二号研修では、多くの利用者さんに喀痰吸引等をおこなうことができますが、神経や筋疾患を患っているかたや障害者の方におこなう場合は、第三号研修を受ける必要があります。
また、第二号研修は第一号研修に比べると時間と費用を抑えることができますが、実施できる医療行為が限られています。
大きな違いは、「気管カニューレ内部」の吸引ができないことです。
そのことから長期的に見ると第一号研修を取得した方が効率的です。
第一号研修と第二号研修では、 喀痰吸引の他にも「経管栄養」もできるようになります。
「経管栄養」とは、病気などが原因で食事を口から摂ることが困難になってしまった方や、誤嚥する可能性が高い方に対して、チューブやカテーテルを通して胃や腸に直接栄養剤を入れる方法です。
「経管栄養」手術などをおこなわなくても栄養を補給することができるので、在宅治療している方が取り入れていることも珍しくありません。
第三号研修は、特定の利用者に対して研修をおこなっているので、その利用者の症状が変化した場合や、利用者そのものが変更になってしまった場合は、その都度実施研修をして自治体に認定証を申請する必要があります。
研修種類 | 実施可能な行為 | 対象者 |
第一号研修 | ・喀痰吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部) ・経管栄養(胃ろう又は腸ろう、経鼻) | 不特定多数の利用者 |
第二号研修 | ・喀痰吸引(口腔内・鼻腔内) ・経管栄養(胃ろう又は腸ろう) | |
第三号研修 | ・喀痰吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部) ・経管栄養(胃ろう又は腸ろう、経鼻) | ALSまたはこれに類似する神経・筋疾患、筋ジストロフィー、高位頸髄損傷、蔓延性意識障害、重症心身障害などを患っている療養患者や障害者 |
喀痰吸引等研修では、講義、演習、実地演習をおこないます。
内容は受ける研修によって異なるため、目的によってどれを受講するのかを選択する必要があります。
この研修をとおして喀痰吸引等に関する技術や知識をしっかりと身につけることができ、非常に充実した内容となっています。
基本研修では、実際に現場で使う機材を使用したり、人体模型を使って喀痰吸引することができるので、実地研修も落ち着いて取り組むことができます。
一人で安心安全に喀痰吸引等ができるようになるまで、ベテランの職員が指導してくれるので、しっかりと身につけることができます。
基本研修では、第一号研修と第二号研修では、講義を50時間ほどと各行為のシュミレーター演習を行います。
第三号研修では、講義及び演習を9時間ほど行いますが、重度訪問介護従事者養成研修と併せておこなう場合には20.5時間ほどおこなうこともあります。
この基本研修をしっかり身につけた後に実地研修へ移っていきます。
講義は、第一号研修と第二号研修で同じ内容を受講します。
内容は、「人間と社会」「保健医療制度とチーム医療」「安全な療養生活」「清潔保持と感染症予防」「健康状態の把握」など健康衛生に関することを13時間ほど学びます。
その次に「高齢者及び障害児・者の喀痰吸引概論」「高齢者及び障害児・者の喀痰吸引実施手順解説」「高齢者及び障害児・者の経管栄養概論」「高齢者及び障害児・者の経管栄養実施手順解説」など喀痰吸引等に関することを37時間ほど学んでいきます。
第三号研修では、「重度障害児・者の地域生活等に関する講義」「喀痰吸引等を必要とする重度障害児・者の障害及び支援に関する講義」「緊急時の対応及び危険防止に関する講義」を8時間ほど学んでいきます。
50問ほどの筆記試験もありますが、講義をしっかりと聞いていれば答えられる問題ばかりなので、きちんと復習しておいた方がいいでしょう。
再試験もあるので、不合格になっても再チャレンジすることができます。
演習でも、第一研修と第二研修で同じ内容を受講します。
人体模型を使用し、「口腔内の喀痰吸引」「鼻腔内の喀痰吸引」「気管カニューレ内部の喀痰吸引」「胃ろう又は腸ろうによる経管栄養」「経鼻経管栄養」各5回以上、「救急蘇生法」1回以上おこなっていきます。
第三号研修では、「喀痰吸引等に関する演習」を1回ほどおこなっていきます。
この演習では、実際に利用者さんを目の前にしたように、声かけや体調管理をしっかりと行ってから、喀痰吸引をおこなっていくので、実地研修での動作をシュミレーションしやすくなります。
実地研修は、施設にいき実際に利用者さんに喀痰吸引等をおこなっていきます。
もちろん指導者の元、利用者さんの心身状態を確認しながらおこなっていくので安心です。
おこなった時間は関係なく、規定の回数をこなせば終了です。
第一号研修は第二号研修に比べると項目が多く、「気管カニューレ内部の喀痰吸引」や「経鼻経管栄養」もおこなえるようになります。
第三号研修は、ある特定の利用者に実施するための実地をおこなっていきます。
医師の判断で修了が決まるので、特定の回数は設けられていません。
喀痰吸引等研修は、各自治体のホームページで登録研修機関を調べるか、通信教育でも受講することができます。
時間がなかなか取れない方や近くに研修先がない方は、通信教育で受講するのが効率良いでしょう。
また正看護師(実務経験5年以上)が講師となり、喀痰吸引等研修を担当することもできるので、勤めている施設や病院で研修を受けられる方もいます。
「実務研修」を修了して、「介護福祉士国家試験」(介護福祉養成課程で医療的ケアに関する研修課程を修了している方を含む)に合格されている場合は、すでに講義と演習をおこなっているため、実地研修を行えば喀痰吸引等研修を完了させることができます。
平成28年以前に「介護福祉士」になった方は、登録研修機関などで、喀痰吸引等研修(講義・演習・実地研修)を受講する必要があります。
研修日程は、基本研修が第一号研修と第二号研修が15日程度で第三号研修が2日ほどです。実地研修はどの研修も10日間ほどで完了します。
受講費は、第一号研修はおよそ100,000円から230,000円で、第二号研修はおよそ、100,000円から180,000円です。
第三号研修はおよそ50,000円となりますが、喀痰吸引等研修は自治体が主催する場合、一部の費用を補助してくれる場合があるので、各自治体のホームページを確認してください。
喀痰吸引等研修は、介護職員であれば学歴や経験も必要なく特別な受講資格はありません。
受講資格はありませんが、平成28年以降に介護福祉士に合格した方は、実務研修で喀痰吸引等研修の「喀痰吸引」と「経管栄養」を既に習得しているので、そこの部分の研修が免除されます。
平成28年に介護福祉士の資格をとった方は、通常より短時間で習得できるので、積極的に研修を受けるようにしましょう。
喀痰吸引等研修の難易度は、100%近くが取得しており、受かるまで何度も試験が行われいます。
医療行為と聞くと難しいのでは?と不安な気持ちになりますが、研修の期間や内容がとても充実しているのでしっかりと学んでいけば、合格できる可能性は高いと予想されます。
ですが、筆記試験に一度落ちて再試験で合格した方や、実地試験でも不合格を判定された方は実際にいらっしゃいます。
そもそも医療行為を学んでいくので、決して簡単に習得できる技能法ではないことを覚えておく必要はあるということです。
第三号研修は特定の方に適切な処理をするための技能が必要になるので、医療従事者の評価がないと修了できませんが、それでもほとんどの方が完了されているので、自信を持っておこなっていきましょう。
喀痰吸引等研修が修了したら、住民票のある地域に登録して「認定特定行為業務従業者」の認定を受ける必要があります。
登録せずに喀痰吸引等をおこなってしまうと医師法違反に該当してしまうので注意しましょう。
また、「認定特定行為業務従業者」の認定は、1か月以上かかることもあることがあるので注意しましょう。
施設も「登録特定行為事業者」として都道府県に登録されている場合のみ、喀痰吸引等の医療行為を実施することが可能になります。
もちろん利用者さんご自身やご家族の同意を得ることも必須です。
喀痰吸引等研修以外の資格については、こちらの記事で詳しく解説しています。
介護士としてキャリアアップを目指す方は必見です!
喀痰吸引等研修で身に付くスキルは、自分自身のためだけでなく、利用者さんやそのご家族にも貢献できる素晴らしいものです。
さらに喀痰吸引等研修で学ぶことは、介護士としての本質を再確認させてくれる内容も多いので、仕事に対する意識向上のためにも役立つことでしょう。