1人暮らしの高齢者にとって、必要不可欠な存在の介護保険サービス。
ですがその性質上、グレーゾーンとなる行為が一部存在し、介護職員として働いている人の中にも曖昧な部分があるのではないでしょうか?
今回はその中でも、別居家族への訪問介護について詳しく解説していきます。
目次
まず前提として、居宅サービス運営基準第25条に記載されているように、訪問介護職員による同居家族への介護サービスは明確に禁止とされています。
それを踏まえた上で、疑問に思うのが別居家族へのヘルパー行為でしょう。
同居家族と違い、別居家族への介護サービスはグレーゾーンとなる場合が多く、利用者の状況や地域の定めによって取り扱いも異なります。
そのため、介護職員が家族や身内に介護サービスを提供することを検討している場合、サービス提供責任者や各自治体への事前確認が必要になることを覚えておきましょう。
参考:厚生労働省
訪問介護のサービス内容は、大きくわけて「生活援助」と「身体介護」の2つに分類されています。
なかでも、生活援助に該当するサービスにはグレーゾーンとなるものも多く、その一例として、生活必需品と明確に区別がつかない買い物の代行や、医療行為の範疇など、利用者本人にとって直接的な生活援助があります。
また、身体介護に関わる行為か否かの判断は非常に曖昧です。
少しでも疑問に思う部分があれば個人で判断するのではなく、サービス提供責任者など、事業所の指示を仰ぐようにしてください。
介護職員による別居家族へのサービス提供は、原則的には可能です。
以下に厚生労働省によるQ&Aを引用しますので参考にしてください。
”Q.居宅サービス運営基準第25条で同居家族に対するサービス提供を禁止しているが、ここでいう同居家族とは、要介護者と同一の居宅に居住していることをいうものであり、別居の家族に対するサービス提供を禁止するものではないと解するが如何。 ”
”A.貴見のとおり。”
つまり、介護職員による別居家族へのヘルパー行為に関しては、明確な条件や規定が定められているわけではないということです。
引用:厚生労働省
介護職員であっても、場合によっては別居家族へのヘルパー行為が可能であることを説明しました。
しかしあくまで、『グレーゾーン』であることを忘れてはいけません。
自治体によっては規則を定めているところもあり、また、条件付きの地域も一部存在していることも事実。
訪問介護における別居家族へのサービス提供が認められない理由については、以下のようなケースが挙げられます。
①家族介護との区別がつきにくい
②外部からの監視が行き届かないことによるサービスの不透明化が起きる
③介護保険の不正利用に該当する可能性がある
それでは順番に解説していきます。
本来、訪問介護におけるサービスの提供とは、専門的な知識のある介護職員が『身体的』または『日常生活』における援助を目的としたものです。
そのため、身内によるヘルパー行為は、家族による介護と介護報酬の対象となるサービスの区別がつきにくく、場合によっては介護報酬の算定対象とならないヘルパー行為が行われるとの懸念から、自治体によっては『事前協議』を必要としています。
2つ目の理由として挙げられるのが、外部からの監視が行き届かないことによるサービスの不透明化です。
身内へのヘルパー行為では、サービス内容や所要時間について、明確なサービス提供が行われているのかを判断することが難しく、介護保険サービスにおける不公平性が生じる可能性が考えられます。
以上のことから、たとえ別居であったとしても、身内へのサービス提供が認められない場合があります。
介護保険サービスにおける訪問介護は、国や自治体による公費と保険料によって財源が賄われているものです。
同居や別居に関わらず、介護職員が身内へのヘルパー行為を行い給与を得た場合、その費用が不正に利用されていると判断される可能性が考えられます。
ここまで介護職員による別居家族へのサービス提供について説明してきましたが、まだいくつか疑問点が残っている人もいるでしょう。
ここからは、身内へのヘルパー行為に関するQ&Aを3つ紹介します。
介護職員による同居家族へのヘルパー行為は、厚生労働省の『指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準』において、
”指定訪問介護事業者は、訪問介護員等に、その同居の家族である利用者に対する訪問介護の提供をさせてはならない”
として禁止されています。
しかし、これはあくまで介護職員自身が身内へのヘルパー行為を禁止するもの。同じ事業所の他の職員がヘルパー行為を行うことを禁止するものではありません。
身内に要介護者がいる場合、自身で介護を行えなくても、同じ事業所の職員にヘルパー行為を行ってもらうことでこの問題を回避することができます。
引用:厚生労働省
同居家族へのヘルパー行為は原則として禁止されていますが、一部の例外も存在しています。
運営基準では、『同居家族に対するサービス提供の制限』として、利用者が離島や山間といった僻地に住居し、指定訪問介護のみでは必要なサービス提供が受けられない場合において、例外的に身内によるヘルパー行為を認めています。
また、本来グレーゾーンとされている別居家族へのヘルパー行為に関しても、自治体によっては条件を満たすことで適切なサービス提供として算定可能です。
条件の一例としては、『認知症の症状を有する利用者』で、『別居家族以外のヘルパー行為が困難な場合』などが定められています。
ですが、上記のような条件を満たしていたとしても、自治体によっては事前協議なしでのサービス提供を制限している地域も存在しているのでくれぐれも注意が必要です。
実際に、過去には事前協議なしで別居家族へのヘルパー行為を行ったことから、不適切な事例として取り扱われたケースも存在しているため、たとえ別居家族であったとしても事業者や自治体への確認を怠らないようにしてください。
参考:厚生労働省
家族がヘルパー行為を行う場合でも、特定のケースによっては生活援助サービスを利用することが可能です。
厚生労働省によるQ&Aでは、『同居家族等がいる場合における訪問介護サービス等の生活援助等の取扱いについて』という項目のなかで、『適切なケアプランに基づき、個々の利用者の状況に応じて具体的に判断されるものであること』といった回答がなされています。
つまり、同居や別居に関わらず、利用者や家族の状況によっては生活援助サービスを受けられるということです。
主な事例としては、
・家族が障害や疾病等を患っている場合
・家族が日中に外出している場合
・要介護者とその家族がどちらも高齢者の場合
といったケースが考えられます。
参考:厚生労働省
今回の記事では、訪問介護における別居家族へのヘルパー行為について解説してきました。
介護職員による身内へのサービス提供は、同居家族の場合は禁止されていますが、別居家族の場合であれば原則として禁止されているわけではありません。
しかし、介護保険サービスの特性上、グレーゾーンとみなされる場合もあり、一部地域や自治体によっては制限を設けているケースもあるため、介護職員が身内へのヘルパー行為を行う際には注意が必要です。