2024年には、介護・医療・障害福祉の報酬改定が同時に実施されるトリプル改定が予定されています。今回のトリプル改定は、今後の方針を決定付ける大きな節目となるため、動向が気になっている施設経営者も多いのではないでしょうか。
この記事では、報酬改定の方向性やポイント、今から準備すべきことについて解説します。この記事を読むことで、報酬改定の傾向や対策、スケジュール変更などの最新情報も把握できます。
目次
厚生労働省では、2年に1回の診療報酬改定、3年に1回の介護報酬改定と障害福祉サービス等報酬改定を行っています。そのため、6年に1度は全ての報酬改定が同時に実施されることになるのです。このように、3つの報酬改定が同時に実施されることをトリプル改定と呼びます。
トリプル改定では、医療・介護・障害福祉の垣根を超えた大きな改革を実施する傾向があるため、各制度の方針を決定付ける重要な節目となる可能性が高いのです。
特に2024年のトリプル改定は、2025年問題と2040年問題という大きな課題を抱えた状態での大規模な報酬改定となるため、その動向に注目が集まっています。
2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護のニーズが急速に増大する問題のことです。現在の医療・介護体制では対応できなくなる可能性が高いため、早急な制度改正が求められています。
2040年問題は、団塊ジュニア世代が65歳以上となり、生産年齢人口が急激に減少する問題のことです。生産人口が激減するため、医療・介護保険制度の財政が厳しくなり、人材確保も難しくなると予測されています。
2024年のトリプル改定は、2025年問題に突入する直前に行われる大規模な報酬改定です。医療と介護の連携強化や新たなサービス提供方法の議論が行われ、利用者の利便性とサービスの質向上が期待されています。
また、2024年は「地域医療構想」の最終年でもあり、地域医療の提供体制についても注目が集まっています。
2024年のトリプル改定は、近い将来にやってくる超高齢社会に対応し、医療・介護サービスの将来を見据える重要な報酬改定になるでしょう。
2024年のトリプル改定では、医療・介護・障害福祉の連携強化や、DX化の推進、各報酬の適正化が重要なポイントとなります。いずれも、各報酬改定の方向性を決定する重要な内容となるため、理解しておきましょう。
ここでは、2024年トリプル改定のポイントについて解説します。
2024年のトリプル改定で注目されているポイントのひとつは、医療・介護・福祉の連携強化です。
厚生労働省は、2025年を目標に地域包括ケアシステムの構築を推進しています。地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最期まで続けられるように地域資源を最大限に活用する体制のことです。
地域包括ケアシステムでは、医療・介護・障害福祉の連携が鍵となります。特に、患者や利用者の情報共有や連携方法、各関係機関の連携体制の構築などが重要視されています。
2024年のトリプル改定においては、医療・介護・障害福祉の連携体制の評価方法もポイントです。
他施設との連携を強化するために業務内容を変更しなければいけない可能性もあるため、他施設との連携強化に関する最新の動向に注意しておきましょう。
2024年トリプル改定におけるポイントのひとつは、医療・介護におけるDX化の推進です。政府はICTの活用を通じて、医療・介護分野におけるデジタル化を促進し、高品質な医療提供体制と地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
具体的には、全国医療情報プラットフォームの整備による電子カルテの情報共有が挙げられます。また、介護情報や自治体が保有する情報を包括的に共有し、医療を効率的に提供する計画も進行中です。
特に医療分野では、医療DX推進本部の工程表に基づいた計画が進行中であり、電子処方箋の普及や情報の標準化、効率化が具体的な取り組みとして示されています。
DXの推進により、保険・医療・介護の各段階で得られるデータを活用し、予防や治療、ケアに役立てることが期待されています。
2025年問題や2040年問題の解決に向けて、各分野でのDX化は重要な課題です。今回のトリプル改定でも、重要なテーマのひとつとなるでしょう。
2024年のトリプル改定では、報酬の適正化も重要なテーマのひとつです。政府は、物価高騰や人材確保の観点から、診療報酬と介護報酬の大幅な引き上げについて検討しています。
物価高騰により、医療機関や介護施設の経営状況が厳しさを増し、従業員の賃金も上昇中です。この状況を踏まえると、施設の運営を維持するためには報酬の引き上げは避けられません。しかし、報酬を引き上げるためには、利用者負担や保険料負担への影響、制度全体における効果的な役割分担など様々な要素を考慮して慎重に検討する必要があります。
今後は、利用者負担や保険料負担の急激な増加とならないように慎重に検討しつつ、全体的な報酬の引き上げを行う予定です。
特に、医療・介護分野での人材確保は大きな課題で、医療従事者の賃金や待遇改善が求められています。医療分野の賃金格差は、他の産業と比較して大きいため、報酬改定による従業員の賃金改善が求められているのです。
2024年トリプル改定では、物価高騰や賃金上昇に対応しつつ、報酬の適正化を目指す方針です。超高齢社会を見据えて、制度の持続可能性を担保するためには、各制度の報酬適正化は避けて通れない課題といえるでしょう。
通常、医療・介護・障害福祉の報酬改定は4月に施行されます。しかし、2024年のトリプル改定では、例年と異なるスケジュールで報酬改定が進められる予定なので注意しておきましょう。ここでは、トリプル改定の改定スケジュールについて、各分野の動向を解説します。
2024年度の報酬改定から、診療報酬改定の施行日は例年より2ヶ月後ろ倒しの6月1日施行となります。同様に、材料価格改定も6月1日に変更されますが、薬価改定は従来通り4月1日に施行される予定です。
これまで2~5月に集中していた診療報酬改定に伴う業務負荷の平準化や、診療報酬改定DXの一環として実施されます。
診療報酬改定の中医協答申や関係告示等の実施、電子点数表の公表などは、これまで通りの時期に行われます。その後、薬価改定は4月1日に実施され、2ヶ月遅れて6月1日に診療報酬本体の改定が行われる予定です。
疑義解釈や変更通知等の公表開始時期も、従来の3月から4月に後ろ倒しとなるため注意しておきましょう。
厚生労働省は2024年度介護報酬改定の施行時期について、医療機関との関連が深い訪問看護、通所リハビリテーション、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導の4つのサービスを診療報酬と同じく6月に施行し、他のサービスは従来通り4月のままとする方針を示しました。
診療報酬改定と介護報酬改定のスケジュール調整に関しては、報酬改定に伴う事業所職員の負担軽減が共通の目的です。
しかし、6月施行とした場合、システム改修期間が延びて、自治体や国保連などの会計処理が複雑になるデメリットにも注意しなければいけません。
障害福祉サービス等報酬は、診療報酬改定に比べて情報システム関連業務の負担は軽いとされています。そのため、報酬改定スケジュールの延期に緊急性はありません。
しかし、同一法人が障害福祉サービス事業所と介護事業所を経営している場合や共生型サービスの場合、障害福祉等報酬と同時に医療や介護の請求をすることも多いため職員の業務負担軽減に向けて何らかの対策も必要とも考えられています。
現段階では障害福祉サービス報酬改定は4月に施行される予定ですが、4月までに医療・介護報酬改定と足並みを揃えた対策が打ち出される可能性はあるでしょう。
トリプル改定が実施される2024年は、医療業界において大きな変革の年となる予定です。また、医療業界の変革により介護・障害福祉業界にも影響を与える可能性が高いでしょう。ここでは、トリプル改定に関連する動きとして、第8次医療計画と医師の働き方改革について解説します。
トリプル改定に関連する動きとして、第8次医療計画があります。医療計画とは、医療法に基づいて、効率的な医療提供体制の確保を図るための計画です。
6年ごとに見直されており、2024年から第8次医療計画がスタートして、29年度まで対象期間となる予定です。
第8次医療計画では、生産年齢人口の減少に対応するマンパワーの確保や、ICTやDX化の推進による効率的な医療提供体制の構築が重要な課題とされています。
近年、新型コロナウイルス感染拡大により、地域医療機関の強化と連携の重要性が浮き彫りになりました。そのため、第8次医療計画では、地域医療の改善や、へき地医療へのオンライン診療の活用、多様な病態への対応、ターミナルケアへの参画などの重要性を評価したものになる可能性が高いでしょう。
第8次医療計画は、トリプル改定と連動し、医療・介護分野に大きく影響を与えるものなので、報酬改定の情報と合わせて確認しておくことをおすすめします。
トリプル改定に関連する動きとして、医師の働き方改革も挙げられます。
働き方改革関連法は、2018年6月に国会で成立し、様々な職業において労働環境の改善を図るための法律です。しかし、医師については業務上の事情を考慮して、2024年4月からの適応とされていました。
医師の働き方改革により、各医療機関は医師の労務管理や労働時間の短縮、医師の業務移管、連続勤務の制限、勤務間インターバルの確保などが厳しく求められます。
医師の働き方改革は、診療報酬改定にも大きく影響する要素のひとつです。医療機関だけでなく、関連する介護施設等にも大きな影響を与える改革となるため、医師の働き方改革に関する情報も確認しておきましょう。
2024年の報酬改定について、厚生労働省から骨太の方針は出されていますが、詳細な内容はまだ明かされていません。そのため、具体的な準備ができませんが、全体の方向性に従って少しずつ準備をすることはできます。ここでは、トリプル改定までにやっておくべき準備について解説します。
2024年のトリプル改定では、医療・介護・障害福祉の連携を強化する方針が決定しています。
他施設とどのような連携を求められるのか明確になっていませんが、できる限り他施設と連携しやすいように準備を進めておきましょう。具体的には、医療介護情報連携システムの活用などが挙げられます。
近隣の医療機関と連携できる体制を整えることで、トリプル改定で他施設との連携強化が必要になった場合に対処しやすくなります。できる限り他施設と連携できる体制の準備をしておきましょう。
2024年のトリプル改定では、DX化の推進も大きなテーマとなっています。今の業務を見直し、ICTの活用などによって業務効率化を進めておくことも大切です。
報酬改定によって急激に業務を改善する場合、現場の職員が混乱するおそれがあります。報酬改定時に慌てて業務効率を見直すのではなく、今から少しずつ業務内容を見直していくとよいでしょう。
仮に、今すぐICTを導入しなかったとしても、業務効率を改善することで事業所運営も安定します。事業所の業務を改めて見直す良い機会と捉えて、業務効率の改善に取り組みましょう。
今回は、2024年のトリプル改定について解説しました。
トリプル改定とは、診療報酬と介護報酬、障害福祉サービス等報酬の3つが同時に見直される報酬改定のことです。
特に、2024年のトリプル改定は2025年問題と2040年問題へ向けた最後の改定となるため、その動向に注目が集まっています。
トリプル改定のポイントとして、医療・介護・障害福祉の連携強化やDX化の推進、報酬の適正化が大きなテーマとなっています。
また、2024年は第8次医療計画や医師の働き方改革が始まる年でもあるため、医療業界と介護業界にとって大きな節目となるでしょう。
2024年のトリプル改定に向けて準備しておくべきこととして、他施設との連携や業務効率化の推進が挙げられます。
厚生労働省の最新情報を確認しつつ、今できることを少しずつ始めていきましょう。
参考資料:
厚生労働省「第 169 回社会保障審議会医療保険部会(令和5年10月27日) 」
厚生労働省「医療DXについて」
厚生労働省「介護報酬改定の施行時期について」
厚生労働省「障害福祉サービス等報酬改定の施行日について」
厚生労働省「医療介護情報共有システム導入時の参考になる手引き」