介護サービス事業所の運営において重要な業務のひとつが、職員のシフト作成です。介護現場には、法律上守らなければいけないルールが多く、介護シフトを組む作業には多大な労力と時間が必要です。
この記事では、介護サービス事業所におけるシフト組みの実態と注意点について解説します。この記事を読むことで、訪問介護と施設介護におけるシフト組みのポイントが理解できます。
目次
介護職のシフト勤務は、さまざまな要因によって複雑なものとなっています。
特に、24時間体制で提供される施設介護サービスは、2交代制や3交代制などの勤務体制でシフトを組む必要があります。同じ業務時間中に日勤と夜勤が存在し、日によって勤務時間や定時が異なる変則的な働き方をしなければいけません。それらを管理してシフトを組むためには、多大な労力と時間が必要です。
また、夜勤を行う際は、夜勤明けの日に法定休日を設けるのが一般的であり、夜勤者の休日と日勤者の休日を確認しながら人員を配置する必要があります。さらに、スタッフの希望や人間関係などを考慮し、公平にシフトを作成しなければいけません。
介護シフトを作る際には、同じ業務時間帯に複数の時間帯で働く職員が混在する状況で、休日とのバランスを確認しつつ、法律で定められた人員配置基準を満たすことが求められます。これらの複雑な状況を把握しながらシフトを組むためには、かなりの労力が必要とされるのです。
夜勤がある一般的な施設介護サービス事業所では、3パターンの勤務体制で介護シフトを組んでいます。ここでは、各パターンの特徴について解説します。
介護職の2交代制勤務とは、日勤と夜勤の2つに分かれ、比較的夜勤の時間が長くなるシフト制です。2交代制では、夜勤明けの日は勤務扱いとなり、その翌日が休みとなります。また、夜勤手当が3交代制に比べて高くなる点も2交代制における特徴のひとつです。
一方で、2交代制では夜勤の時間が長いことから勤務が苛酷になりやすく、特に夜勤時の職員数が少ない時間帯における利用者対応が大きな負担となります。これにより、ストレスを感じて辞めてしまう職員がいる点にも注意しましょう。
【一般的な2交代制の勤務時間】
介護職の3交代制勤務は、1日を昼、夕、夜の3つに分ける体制で、夜勤の時間が2交代制に比べて短いシフト制です。
この体制で働く介護職は、夜勤に入るまでに自分の時間を持てたり、夜勤後の時間に余裕が持てたりといったメリットがあります。また、勤務時間が短いことで、2交代制よりも業務のストレスが溜まりにくい特徴もあります。
一方で、夜勤明けが公休になるため、多くの職員は休日を寝て過ごしてしまうことも多いようです。さらに、2交代制に比べて夜勤手当が少ないという特徴もあります。
【一般的な3交代制の勤務時間】
介護職の4交代制勤務は早番、日勤、遅番、夜勤の4つのシフトに分かれ、時間が細かく区切られているため、派遣やパートの職員でも調整しやすいシフト制です。
一般的に、夜勤の時間が長くなりますが、仮眠時間が確保されています。4交代制シフトでは、スタッフが重なる時間が多いため、スタッフ同士で協力して業務を行える点も特徴です。夜勤専従の場合、夜勤明けとその翌日は休みとなります。
一方で、複数の時間帯で職員が入れ替わるため、シフト組み業務が複雑になるデメリットには注意しましょう。
【一般的な4交代制の勤務時間】
介護シフトは複雑な条件が絡み合うため、よく考えずに勤務シフトを組むと、現場でトラブルが発生しやすくなるでしょう。ここでは、介護シフトを組む際に必ず確認しておくべきポイントについて解説します。
介護シフトを組む際には、職員1人ひとりの勤務時間を確認することが大切です。
シフトを組む際には、労働基準法に基づき、1日8時間、週に40時間以内を基準としてシフトを組まなければいけません。また、1ヶ月単位でシフトを組む場合でも、週換算で40時間(10人未満の場合は44時間)以内に勤務時間をおさめることが求められます。
残業や深夜手当についても割増賃金が適用されるため、法律を遵守して、適切な勤務時間を確保することが大切です。また、介護現場ではシフトが25日前後に出されることが多いため、早めに翌月のシフトを確認し、必要に応じて調整しなければいけない点にも注意しましょう。
介護シフトを組む際には、現場に必要な人員を確保しつつ、法律で定められた人員配置基準を満たすことが重要です。
介護サービス事業所では、法律で定められた人員配置基準、労働時間、休憩時間数、休日数を厳守していなければ、行政処分の対象となる可能性もあります。
ただし、法律に準じた人員を配置しているだけでは不十分です。現場の業務負担も考慮して、必要であれば人員配置基準以上に介護職員を配置しなければいけません。
まず、現場で必要となる人員の構成を把握し、入浴、送迎、食事提供、介護業務の時間帯に必要な人数と能力バランスを考慮します。そのうえで法律に準じた人員を配置できているか判断するとよいでしょう。
介護シフトを組む際のポイントは、公平性を保つことです。公平性に欠けると職員の不満が生じ、職場全体のモチベーション低下にも繋がります。社内で明確なルールを設定し、休みや勤務の希望を適切に管理することが重要です。
土日の休みや長期休暇に関するルールも明確にし、公平なシフト作成に努めることで、職員のモチベーション低下を防げます。また、職員が働きやすいシフトが組まれることで離職を防ぎ、人材採用に有効な職場環境作りにも繋がるでしょう。
訪問介護のシフト作りでは、作成者がシフトを一元管理し、労働基準法を遵守しながら、ヘルパーと利用者の適切なマッチングを図ることが大切です。
特に、訪問介護では利用者の自宅まで移動しなければいけないため、サービス間の空き時間や移動距離を考慮して業務効率のよいスケジュールを組むこともポイントとなります。また、できる限りサービス提供責任者のシフトは余裕を持って組んでおきましょう。
急なスケジュール変更や人員基準、利用者やヘルパーの都合による変更も考慮しなければいけません。複数担当制を導入して定期的に担当者を入れ替えることで、サービスの質を保ちつつ、効率的なシフト作りが可能となります。
施設介護のシフト作りでは、2交代制や3交代制などの特徴を把握して組むことが大切です。
勤務体制が複雑になりがちなので、希望休や研修などの確定させやすい日程からシフトを組むと作成しやすくなります。また、夜勤と公休から優先的に設定してもよいでしょう。
特に、人員配置基準に従って有資格者を配置する点には注意しなければいけません。職員の入れ替わりによって、必要な人員配置に穴ができてしまうこともあります。介護職員の入れ替わりも意識しながら、適切な人員を配置できるようにシフトを組みましょう。また、職員が突然休んでも配置基準を満たす程度に余裕を持ったシフトを組むことが理想的です。
勤務時間が複雑になるため、職員同士の勤務時間について公平性を保つことも重要です。急なトラブルでも対処できる程度の余裕を持って、公平性を保ったシフト作りを心がけましょう。
介護シフトを組む際には、現場の業務負担に注意しましょう。現場の実態と異なるシフトを組んでしまうと、現場スタッフが効率的に業務を遂行できなくなります。忙しい時間帯や比較的業務か少ない時間帯を把握し、現場の実態に応じたシフト組みをすることが大切です。
特に注意すべき点は、介護職員の休日に関する配慮です。シフトを組む際に、特定の人ばかり土日休みになっていたり、夜勤が連続していたりすることもあります。職員の公平性を確保するためにも休日のバランスを意識してシフトを組みましょう。
また、完璧なシフト組みをしようと考えてはいけません。介護現場のシフト組みは、さまざまな要因が関係するため、すべての要望に応えることは不可能に近いといえます。優先すべきは、法律と現場の業務です。職員に対しても、すべての希望に応えられない点は理解してもらい、希望休の日数制限を設けるなどの対策が必要でしょう。
介護シフトを組む際に考えるべきことは数多くあります。そのため、介護シフト作りには多大な労力と時間を要するのです。しかし、いくつかの要点を理解することで、介護のシフト組みが楽になります。ここでは、介護シフトを組みやすくする方法について解説します。
介護シフトを組む際に、どこから手をつければよいのか迷うこともあるでしょう。何も確定していない状態から介護シフトを組むのは難しいため、先に確定している日から入れていくとスムーズにシフトを組めます。
確定しやすい日の例として、職員の希望休、出勤日固定の職員、早番や遅番のみなど勤務条件が明確になっている非常勤の職員、イベントや入浴日、委員会の日などが挙げられます。
これらの確定したシフトを先に組み、空いた日を埋めていくように作るとシフト作りの作業時間を短縮できるでしょう。
完璧な介護シフトを作成しようと考えると、シフトを作成しづらくなります。優先順位を決めて、ある程度妥協することが大切です。
介護シフトを作る際には、現場の実態と法律や、職員と事業所の都合など、さまざまな条件を理解したうえで作成しなければいけません。当然のことながら、これらすべての都合に応えられるシフトを作るのは至難の業です。そのため、シフト作成における優先事項をあらかじめ決めておくことをおすすめします。
まず、遵守しなければいけないのは法律です。人員配置基準を満たすことを最優先に考えなければいけません。次に、現場の実態です。いくら人員配置基準を満たしていたとしても、現場の業務が成り立たないようでは、利用者に不利益が発生してしまいます。
介護シフトを作成しやすくするため、職員の希望休に制限を設けたり、土日休みの回数を決めたりといった各事業所独自のルールを決める方法もあります。
人間がシフト表を組むと、どうしてもチェック漏れやミスが発生します。そこで、シフト表作成ツールを使う方法もおすすめです。
近年、介護シフト作成に使えるツールは増えており、それらを活用することで介護シフト作成の業務負担を大きく軽減できます。
例えば、職員の人員配置基準や加算の条件をチェックしながら配置してくれたり、シフト表だけでなく勤務形態一覧表の出力まで実施してたりするソフトもあります。
また、勤務表をデジタル化することで、紙で出力する手間も削減され、各介護職員がスマホで確認できるようになる点もシフト作成ツールを利用するメリットのひとつです。
シフト作成ツールを活用することで、介護シフト作成に使っていた時間を大幅に削減し、その他の業務に活用できます。介護シフト作成の負担を軽減したい事業所は、積極的に活用することをおすすめします。
この記事では、介護シフトを作成する際の注意点とポイントについて解説しました。
介護シフトを組む際のポイントとして、職員ごとの勤務時間と人員配置基準を考慮しつつ、公平性が保たれているかチェックすることが大切です。
特に訪問介護では、利用者の自宅へ移動する時間や、利用者と職員の相性なども配慮したシフト組みが求められます。また、施設介護の場合は、24時間介護サービスを提供するうえで、職員の入れ替わりによって必要な人員配置に穴ができないかチェックすることも重要です。
介護シフトを組む際には、現場の業務負担と人員配置基準の両方から必要な人員を考えなければいけない点に注意しましょう。また、職員同士の公平性を確保するためのルール作りも大切です。
介護シフトは、サービスの質や職員の働くモチベーションにも大きく影響します。また、人員配置基準を無視したシフトを作成すれば、行政処分を受ける可能性もあります。
介護シフトを作成する際には、職員の公平性を確保しつつ、法律を遵守する介護シフトを作成することを心がけましょう。
資料:
厚生労働省老健局「人員配置基準等(介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)」
厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署「介護労働者の労働条件の 確保・改善のポイント」