近年は、介護業界におけるICT化が注目されています。実際、2021年度の介護報酬改定時に介護業界のICT化が推進されましたが、その流れは2024年度の介護報酬改定でも継続されると予測されます。
今回は、なぜ介護業界でICT化が推進されているかだけでなく、実際にどのようなサービスがあるのか、導入するにあたっての補助金についてまで紹介します。
ぜひ、最後までお読みください。
目次
基本的には3年に1回の頻度で時代と物価の変動に合わせて行われますが、改定年でなくても、その時の社会情勢などによって、臨時で介護報酬改定が行われる場合もあり、近年では2022年に介護職員等ベースアップ等支援加算が臨時の改定で創設されました。
この介護報酬改定ですが、前回は2021年4月に実施されたため、次回の改定は2024年4月です。
改定前年度は下記のような詳細な内容が議論されます。
時期 | 内容 |
2023年5月 | 社会保障審議会(介護給付費分科会)からスケジュールや今後の検討の進め方が出される |
2023年6月~8月 | 主な論点について議論 |
2023年9月 | 事業者団体等からのヒアリング |
2023年10月~12月 | 具体的な方向性について議論 |
2023年12月 | 報酬や基準に関する基本的な考え方の整理、取りまとめ |
2024年1月 | 介護報酬改定案 諮問・答申 |
2024年1月~2月 | パブリックコメントでの意見募集 |
2024年3月頃 | 官報による周知 |
厚生労働省から各指定権者(指定の権限を持つ自治体)へ周知 | |
指定権者から事業所へ周知 | |
2024年3月下旬ごろ | 厚生労働省から解釈通知が示される |
2024年3月下旬以降 | 厚生労働省からQ&Aが示される |
「Information and Communication Technology(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)」の略語で、日本語にすると「情報通信技術」という意味になり、簡単に伝えると「ネットワークを活用して情報を共有すること」です。
実際、2021年度の介護報酬改定でもICT化は注目されていました。
参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」
この5項目において「介護人材の確保・介護現場の革新」でICTを活用した業務効率化・改革を提言しています。
実際、介護現場では「今まで紙で管理していた情報などをデジタル化することにより、業務負担を軽減すること」を目的として下記のような内容として取り入れられています。
今まで紙で記載していた利用者さんの「日々の状態・ケアした内容、その他で気付いた点」などの情報をインカムを導入して共有する、記録をタブレット端末で行うなどするだけで大きく業務を改善できます。
その他にも、インカム・タブレット端末を導入することで、スタッフ同士の情報共有も容易になるだけでなく、経験の浅いスタッフなどが少し気になる点が発生してもすぐに検索・確認もできます。
さらに、介護記録もICTを活用するだけで大きく負担を軽減できます。介護記録は、日々のケア内容の記録・利用者さんのバイタル・食事などの状態を記録するために重要ではあるものの負担の大きな業務の1つです。
しかし、記録や文書作成といった作業をICT化する介護記録ソフトを導入すれば、文例をタッチパネルで選択していくだけで介護記録が書けるだけでなく、体温や血圧などの測定結果が連携し自動で記録できるソフトもあるため、それらを有効的に活用すれば、記録の漏れ・転記ミスなどのよる業務のムリ・ムダを大きく減らせます。
2019年から世界的大流行となった新型コロナウイルスによって、テレビ会議やテレビ電話の導入が一気に進みました。
2021年度の改定でも、原則的には医療・介護の関係者のみが参加する会議での利用が前提ですが、利用者さんなどからの同意を得ればテレビ会議などを通じたコミュニケーションもとれるようになりました。
この事により、家族さんが遠方に住んでいる・忙しくて時間が作れない場合などでも情報を共有できるようになりました。
2021年頃から行政手続きに対して脱ハンコへの流れが進みました。この流れは、介護業界にも影響しており、2021年度の改定で利用者さんもしくは家族からの同意書についてはデジタルデータの交付を行い、署名・押印の不要を原則的に認めました。また、介護記録などのデジタルデータ保管も可能としました。
この事により、紙に記載してファイリングする手間や、FAXや郵送による書類のやり取りなど今まで膨大な時間が必要としていた業務もICTツールを導入することで、業務の効率化・スタッフの負担軽減など多くのメリットがあります。
勤怠管理は特に訪問介護など訪問系の事業所で活用されています。スマホなどから出退勤を登録できる勤怠管理システムを利用すれば、移動の多いホームヘルパーがタイムカードの打刻をするためだけに事業所へ戻る必要もありません。
勤怠管理システムには、自動で給与計算してくれるシステムも一緒になっていることが多いので、システムを使用することで毎月の労働時間や給与の計算にかかる事務作業を短縮できます。
介護現場の多くは、利用者さんの様子を確認しながら他の作業を行っていますが、1人で数人の利用者を担当するため、1人の利用者さんをずっと確認できません。
このように利用者さんの離床や在室状況を常に管理するのは、介護スタッフにとっては大きな負担です。
しかし、見守りシステムを導入すれば、実際に利用者さんの部屋に行かなくても、離床・睡眠の有無、トイレに行っているのかなど、いつでも様子を把握できます。
このシステムを導入すれば、夜間などスタッフの人数が少ない時間帯でも夜間の見回り回数を減らすことができるだけでなく、利用者さんの異常に対してもすぐに気付くことができます。
介護業界は他の業界と比較すると、ICTの普及が遅れているイメージがあるかもしれませんが、公益財団法人 介護労働安定センターが行った「介護労働実態調査結果」によると下記の結果が分かっています。
実施項目 | 令和2年 | 令和3年 |
パソコンで利用者情報(ケアプラン、介護記録など)を共有している | 50.4% | 52.8% |
記録から介護保険請求システムまで一括している | 39.1% | 42.8% |
タブレット端末などで利用者情報(ケアプラン、介護記録など)を共有している | 22.0% | 28.6% |
ICTを一切導入していない | 25.8% | 22.0% |
上記から令和3年の時点で、7割を超える介護事業所が何らかの形でICTを導入していることが分かります。
参考:公益財団法人 介護労働安定センター「令和2年度介護労働実態結果について」
今後、介護業界では人手不足がより深刻になるため、ICT化の導入が必要です。その主な理由としては「2025年問題」があります。
「2025年問題」は2025年以降に「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になることで生じるさまざまな問題のことです。
この「団塊の世代」は、1947年から1949年頃の第1次ベビーブームに生まれた世代となっており、現在の人口で約5.3%と約670万人の割合です。
実際、厚生労働省の発表によると、2025年における高齢者人口は65歳以上が30.3%、75歳以上が18.1%となっていることから、約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上となります。
この高齢化率の増加は2025年がピークではなく、2036年には33.3%と3人に1人、2065年には38.4%と国民の約2.6人に1人が65歳以上の者となると推計されています。
また、高齢化率とともに要介護者も増加しています。
厚生労働省によると、介護保険制度が開始された2000年度の要介護認定者数は約256万人でしたが、2020年度の要介護(要支援)認定者数は約682万人となっており、約2.66倍も増加しています。
将来的には、要介護認定者数は、2035年までは増加していき、2040年にピークを迎え、988万人となると推計されています。
参考:経済産業省「将来の介護需給に対する 高齢者ケアシステムに関する研究会」
このように、高齢者・要介護者は増加傾向ですが、介護職の不足は深刻です。
その深刻さは、2021年に厚生労働省が発表した、「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によると、「介護職員の必要数」と「人手不足人数」を下記のように発表しています。
介護職員の必要数 | 人手不足人数 | |
2023年度 | 約233万人 | 約22万人 |
2025年度 | 約243万人 | 約32万人 |
2040年度 | 約280万人 | 約69万人 |
参考:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
この人手不足は現時点でも生じており、公益財団法人介護労働安定センターが実施した「令和元年度介護労働実態調査」によると、事業所単位で65.3%が人手不足を感じています。
これらの問題に対して、ICT化を導入することで業務負担を軽減し、働きやすい環境を整えることができ、限られた人材を有効に活用することを期待しています。
下記のような原因が考えられます。
導入するサービスによって、異なりますが、一般的には以下のような費用が発生します。
上記以外でも、ICTに使用する機器は定期的な入れ替えが必要となるため、どんな形式のICTサービスを利用する場合でも、ある程度は継続的な費用がかかることを見込無ことが必要です。
今まで紙で行っていた業務をパソコンやタブレットなどのデジタル端末で行うように変更するため、操作に慣れていない、もしくはICT化に抵抗がある職員にとっては、パソコンやタブレットをスムーズに利用できるようになるまでは多くの時間が必要です。
新しいことを覚えたり、未経験のことを始めるのは大変なため、不慣れな職員に対してはサポートをしっかりとおこなう必要があります。
ICT化は長期的に考えれば多くのメリットがあるため、従業員には導入することで、どのようなメリットがあるのかなどをしっかりと説明し、理解してもらうことが重要です。
パソコンやタブレットなどのデジタル端末にすると情報漏えいのリスクも生じます。実際の情報漏えいの原因は「操作の誤り」「セキュリティの精度」「データの紛失」となっているため、これらを未然に防ぐための対策が必要です。
「操作の誤り」は操作マニュアル・ルールの周知・サポート体制の充実が重要です。次に「セキュリティの精度」については、セキュリティが脆弱だとウイルスに感染しやすく、データ流出のリスクが高まるため、セキュリティソフトは精度の高いものを使いましょう。
最後の「データの紛失」は、デジタル端末を施設外に持ち出すことで発生する危険性があります。ICT化のメリットとして、外でも情報共有できることになるため、持ち出しの禁止はできませんが、端末には常に暗証番号でロックをかけておくなどの対策が重要です。
少しでもICT化を導入しやすくするために、介護現場の業務効率化・負担軽減のために、ICT化に向けた導入費用補助を行う「ICT導入補助金」があります
この制度を利用すれば、各都道府県に設置されている「地域医療介護総合確保基金」より、ICT導入にかかる費用の一部が助成されます。
ICT導入補助金の対象となるのは以下です。
上記のようなICT導入補助については、厚生労働省が発表した「令和5年度 予算案の主要事項」にも、介護現場のICT化促進のために補助事業内容を拡充することが明記されています。
補助金を利用するためには、補助対象のものを導入するだけでなく、下記の要件も合わせて行う必要があります。
上記の中で「LIFE」とは、厚生労働省が運用しており、エビデンスに基づいた質の高い介護をおこなうためのデータベースとなっており、利用者さんの状態や介護サービスの計画・内容などをインターネットを通じて送信すると、分析されたデータがフィードバックされる仕組みです。
職員数に応じて以下のように設定されています。
補助率は各都道府県が設定しますが、
上記のうちいずれかを満たしている場合は補助率の下限が3/4になり、それ以外の場合、補助率の下限は1/2です。
2024年介護報酬改定として下記が重点項目です。
この中で、「科学的介護のさらなる推進」がICT化に関係します。先程もお伝えしたように、厚生労働省は、介護サービス利用者のサービス利用内容・介護度の変化などの情報を収集し、ビッグデータから最適な介護方法を割り出せるようになることを目標としているため科学的介護であるLIFEシステムを推進しています。
このLIFEシステムは現在、通所介護・特別養護老人ホームのみですが、2024年度改定では訪問介護・居宅介護支援サービスでもLIFEシステムを導入する予定です。
つまり、介護業界全体においてICT化の導入がより加速されることが予測されます。
今回は、介護報酬改定に備えた介護現場のICT化について紹介しました。
2021年度の介護報酬改定でICT化が注目され始めましたが、次回の2024年度介護報酬でも引き続きICT化の注目は続くと予測されます。
その理由は、「2025年問題による高齢者の増加」と「介護業界における人材不足」などがあります。
これらの問題を解決する手段として介護現場にICTを導入することで働きやすい環境作りやサービスの質向上、従業員の負担軽減など多くのメリットがあります。
導入するにあたっては、各都道府県にて「ICT導入補助金」もあるため、一度今回の介護報酬改定に備えて検討してみてください。