2024年は医療・介護ダブル改定の年です。ダブル改定時は、今まで医療・介護の連携体制をより強固な制度へ変える大きな機会となっていましたが、今回の改定はその傾向がより強くなる予想です。
今回は、診療報酬・介護報酬が行われるスケジュールだけでなく、現在議論されている内容を詳しく説明します。
ぜひ、最後までお読みください。
目次
医療機関が患者さんに実施した医療行為や医薬品の処方に対して支払われる医療費の中で患者さんが加入している医療保険から支払われる料金のことです。
この診療報酬は、従業員の人件費や技術料などの「本体」部分と、薬の価格や医療機器の材料費などにあたる「薬価」の部分に分かれます。
さらに本体は、医科診療報酬・歯科診療報酬・調剤診療報酬に分かれており、それぞれ改定率は、前回の2022年度の診療報酬改定で医科診療報酬が+ 0.26%、歯科診療報酬が+ 0.29%、調剤診療報酬が+ 0.08%となっているように異なった改定率です。
社会情勢や経済状況に対応していくため、基本的には2年に1回の頻度で改定が実施されます。
厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)にて改定内容を審議したのち、厚生労働大臣が決定するという流れとなっており、審議では、診療の報酬水準・報酬の対象となる疾患・看護や技術サービスを提供する医療従事者の配置・施設や設備の要件などさまざまな事項を含めて総合的に検討しています。
4月中からスタートして翌年3月まで下記の流れが行われます。
予定 | 検討内容 |
中央社会保険医療協議会(中医協)が改定の方向性を見定める | 春から夏にかけて、中央社会保険医療協議会(中医協)が改定の方向を見定めます。 その後、秋からは下記の個別論点に関する審議を行い、方向性となる答申を出します。
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社会保障審議会 医療保険部会・医療部会が基本方針を決める | 秋以降には、社会保障審議会によって中央社会保険医療協議会(中医協)の答申の検討を始め、12月には方針を定めます。 |
内閣が改定率を決定 | 年末の内閣予算編成過程で改定率が決定されます。翌年1月、厚生労働大臣が中央社会保険医療協議会(中医協)に診療報酬改定の調査と審議を行うように詰問しますが、このとき中央社会保険医療協議会(中医協)は以下の点にもとづいて調査・審議します。
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中央社会保険医療協議会(中医協)が改定内容を決定 | 決定された基本方針や改定率を踏まえたうえでさらに議論し、2月ごろ、中央社会保険医療協議会(中医協)で最終的な診療報酬改定の内容を決定します。 3月には告示と関連通知が行われ、新年度の4月より改訂された診療報酬にもとづいた点数表が施行されます。 |
参考:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定にに向けた中医協等の検討スケジュール」
参考:厚生労働省「社会保障審議会(令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会)」
今までの診療報酬改定は、上記で説明したように4月から施行されていましたが、政府が急ピッチで進めている医療DXの議論の中で、診療報酬改定の期間が短いために改定作業の負担が大きいことが課題として挙げられました。
その結果、中医協総会において、2023年4月および8月に議論が行われ、2024年度診療報酬改定より、薬価改定については「4月1日」に施行し、薬価改定以外の改定事項については、「6月1日」に施行する方向性で進められています。
そのため、今回は下記のようなスケジュールで進められます。
時期 | 内容 |
2023年4~9月 | 総論の審議 |
2023年10~12月 | 各論の審議 |
2023年12月中旬 | 改定の基本方針 |
2023年12月下旬 | 改定率 |
2024年1月中旬 | 諮問(改定に係るこれまでの議論の整理) 公聴会の開催 |
2024年1月下旬 | 個別改定項目案(点数なし短冊) |
2024年2月上旬 | 個別改定項目・答申(点数あり短冊 |
2024年3月上旬 | 点数・算定要件・施設基準の告示情報 |
2024年3月下旬 | 疑義解釈および団体Q&A |
2024年4月1日 | 薬価改定の施行 |
2024年6月1日 | 施行 |
介護保険事業者が利用者さんに介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に支払われるサービス費用を介護報酬といいます。
なお、前回の改定は2021年に実施され、+0.7%となりました。
原則3年に1回の頻度で時代と物価の変動に合わせて介護報酬改定が行われますが、近年では2022年10月に介護職員等ベースアップ等支援加算を創設したなど、その時の社会情勢などによって、臨時で介護報酬改定が行われる場合もあります。
介護報酬改定は下記のように長期間にわたって議論が行われます。
また、改定前年度では下記のようにより詳細な予定です。
時期 | 内容 |
2023年5月 | 社会保障審議会(介護給付費分科会)からスケジュールや今後の検討の進め方が出される |
2023年6月~8月 | 主な論点について議論 |
2023年9月 | 事業者団体などからのヒアリング |
2023年10月~12月 | 具体的な方向性について議論 |
2023年12月 | 報酬や基準に関する基本的な考え方の整理、取りまとめ |
2024年1月 | 介護報酬改定案 諮問・答申 |
2024年1月~2月 | パブリックコメントでの意見募集 |
2024年3月頃 | 官報による周知 |
厚生労働省から各指定権者(指定の権限を持つ自治体)へ周知 | |
指定権者から事業所へ周知 | |
2024年3月下旬ごろ | 厚生労働省から解釈通知が示される |
2024年3月下旬以降 | 厚生労働省からQ&Aが示される |
上記で説明したように、診療報酬は2年に1回、介護報酬は3年に1回改定されます。そのため、6年に1回の頻度で、医療・介護ともに改定が行われますが、次回改定の2024年はその医療・介護ダブル改定の年です。
過去のダブル改定は、医療・介護の連携体制をより強固な制度へ変える大きな機会となっています。
実際、改定を実施するにあたって各報酬間の連携が重要なため、医療サイドの「中央社会保険医療協議会」と介護サイドの「社会保障審議会介護給付費分科会」の両者が参加する意見交換会が実施されます。
参考:厚生労働省「社会保障審議会(令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会)」
その中でも注目されている内容が「2025年問題」です。
2025年以降に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、日本が超高齢化社会になることで生じる問題のことを「2025年問題」といいます。
この団塊の世代は1947〜1949年に生まれた世代のことで、出生数で約800万人、現在の人口で約670万人と総人口に占める割合の約5.3%という大規模な割合となり下記のような問題が予測されます。
現在、国内において高齢者を支えるために使う社会保障費が年々増加しています。
実際、財務省のデータによると、年金を含めた社会保障費は2022年には131.1兆円でした。2000年が78.4兆円だったことを考えると、急激に増えていることがわかります。
さらに、2025年には社会保障費が140兆円を超えると予測されており、特に医療費は2018年に比べて1.2倍、介護費用は1.4倍になり支出増加は顕著です。
厚生労働省によると、介護保険制度が開始された2000年度の要介護認定者数は約256万人でしたが、2020年度の要介護(要支援)認定者数は約682万人となっており、約2.66倍も増加しています。
将来的には、要介護認定者数は、2035年までは増加していき、2040年にピークを迎え、988万人となると推計されています。
参考:経済産業省「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会」
あらゆる分野で労働力が不足することも懸念されています。医療・介護分野も例外ではありません。
実際、2021年に厚生労働省が発表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によると、「介護職員の必要数」と「人手不足人数」を下記のように発表しています。
介護職員の必要数 | 人手不足人数 | |
2023年度 | 約233万人 | 約22万人 |
2025年度 | 約243万人 | 約32万人 |
2040年度 | 約280万人 | 約69万人 |
参考:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
この人手不足は現時点でも生じており、公益財団法人介護労働安定センターが実施した「令和元年度介護労働実態調査」によると、事業所単位で65.3%が人手不足を感じていることからも人手不足の深刻さが分かるはずです。
参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和元年度 介護労働実態調査結果について」
現時点の診療報酬では下記の内容が注目の議題です。
2019年4月に「働き方改革関連法」として下記の内容が施行されました。
時間外労働の上限規制の内容は以下のとおりです。
使用者は、10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、時季を指定して有給休暇を取得させることが義務付けられました。(労働基準法39条7項)。
「同一労働・同一賃金」を行い、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものとなっています。
具体的な改正の内容は下記です。
この働き方改革は、大企業は2019年4月1日から施行、中小企業は2020年4月1日から施行されていましたが、医師・建設事業・自動車運転の業務など一部の事業・業務では、時間外労働の上限規制の適用は2024年3月31日まで5年間猶予されていましたが、2024年4月からは医師も働き方改革の対象です。
2022年度の改定では、「医師事務作業補助体制加算」の見直しがおこなわれました。以前まで医師がおこなっていた「文書作成(診断書など)」や「カルテ記載」の業務を医師の指示のもとで行う「医師事務作業補助者」を配置して、特定の条件を満たすことで、入院料に対する加算を算定できる制度です。
このような制度改革を実施し、医師から他職種へのタスク・シフトを進め、医師の過重労働問題解決・働き方改革へつなげようと進めていました。
2024年度の診療報酬改定は、医師の働き方改革実施前最後の改定のため、働き方改革への対応がこれまで以上に重視され、今まで以上にタスク・シフト、タスク・シェアの推進だけでなく、医療機関内の労働環境の改善・ICTによる業務効率化なども検討されています。
保険・医療・介護に関わる情報・データを活かして病気の予防やより良い医療・介護の実現を目指すために社会や生活を変えることをいい、医療の現場において、デジタル技術を活用することで、医療の効率や質を向上させることを目的としています。
なお、下記が行われている取り組みの一部です。
診察の予約をオンラインにすることで患者さんの利便性が高くなるだけでなく、従業員のスケジュール管理なども最適化され、無駄な時間やコストを抑えることができます。
また、予約だけでなくキャンセルもオンラインでできるため、診療時間を効率よく回すことができます。
オンライン診療自体は、新型コロナウイルス感染症が世界的な流行になった際に時限的に初診時から実施可能となったことで急速に普及しました。
オンライン診療は病院・診療所に行かなくても、自宅や職場などから手軽にビデオ電話や電話などのデジタルツールを用いて受診できるなど多くのメリットがあることから今後もさらに拡大していくことが予想されます。
また、利便性だけでなく、医療過疎地でも専門的な医師の診察を受けることができるため医療格差の是正にもつながります。
レセプトや診療情報などの膨大なデータを集めて、新薬や治療法の開発に活かす取り組みが行われています。
また、各機関の情報が統合されることで将来的には病気の早期発見につなげることが可能となるだけでなく、健康寿命の延伸にも役立つと考えられています。
医療計画は6年ごとに区切りがあり、医療法に基づいて効率的な医療提供体制の確保を図るための計画で、2024年からは第8次医療計画がスタートする予定です。
以前までは、5つの事業(救急医療・災害時における医療・へき地の医療・周産期医療・小児医療)と5つの疾病(がん・精神疾患・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病)が対象でしたが、第8次医療計画からは、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、「新興感染症対策」が6つ目の事業として盛り込まれる予定です。
2024年度の診療報酬改定では、この医療計画の改定も配慮されるため下記の内容が検討されています。
アプリや人工知能(AI)などの技術が組み込まれた医療機器(および記録媒体)のことをプログラム医療機器(SaMD)といいます、
近年では、禁煙外来におけるニコチン依存症治療アプリ・一酸化炭素(CO)チェッカーなどが、すでに利用されています。
その他にもAIを活用した画像支援システムとして、腫瘍の悪性度を判定できる内視鏡・異常所見の見落としを防ぐCTなどもあり、今度はDXと同じようにデジタル技術を活用したプログラム医療機器(SaMD)の普及も予想されています。
参考:厚生労働省「令和4年度 保険医療材料制度か改革の概要」
介護報酬では下記の内容が注目の議題です。
基本的な介護負担割合を1割から2割へ増やすことが検討されています。
介護保険を負担している現役世代の負担軽減と、今後の少子高齢化が続く予測の中でも制度を持続させることを目的としていますが、2割負担になると、介護保険サービス利用に伴う自己負担が2倍になり家計に大きな影響を与えます。
その結果、経済的な理由によって在宅サービスの利用減少や、施設利用費が払えなくなるという場合も懸念されます。
そのような事から自己負担割合についての方針は2022年12月に決定する予定でしたが、この判断を政府は2023年の年末まで先送りとしました。
介護業界において特に訪問介護の人材不足が深刻です。
実際、公益財団法人介護労働安定センターが実施した「令和元年度介護労働実態調査」では訪問介護職員に関しては81.2%が人手不足を感じています。
参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和元年度 介護労働実態調査結果について
このように不足するホームヘルパーを補うために、デイサービスの職員に訪問介護の仕事をやってもらうのが目的です。
複合型サービスが創設されることで、介護職が全体的に不足している過疎地域などでも訪問介護・通所介護という垣根を超えたサービスで効率化できる可能性があります。
今まで、財務諸表の公表義務化は社会福祉法人や障害福祉事業者のみが対象でしたが、今回の介護報酬改定で介護事業所も加わります。
制度改定後は、各事業所の財務諸表は厚生労働省の介護サービス情報公表システムで公開されるため、事業所の経営状態を誰でも自由に確認できます。
介護予防支援事業所が拡大され、地域包括支援センターだけでなく、居宅介護支援事業所でも介護予防支援サービスを提供できるようになります。
居宅介護支援事業所でもケアプランを作成できるようになることで、業務負担を分散して地域包括支援センターの負担を軽減できるなどのメリットがあります。
現在、介護報酬の処遇改善加算は下記の3種類があります。
この3つの加算を一本化する動きです。なお、処遇改善加算の一本化については障害福祉サービスの処遇改善加算も含めて検討することが議論されています。
介護保険では車いすや介護用ベッドなど13種類の福祉用具をレンタルできますが、今回の改定では、比較的安くレンタルできるものに関しては、介護保険でのレンタルではなく、購入対象商品にするという話が出ています。
レンタルだった商品が購入対象商品に切り替わることで、介護報酬の発生軽減と、ケアプラン作成料の両方を削減することが目的となっています。
厚生労働省は、介護サービス利用者のサービス利用内容・介護度の変化といった情報を収集し、ビッグデータから最適な介護方法を割り出せるようになることを目標としているため科学的介護であるLIFEシステムを推進しています。
現在は通所介護・特別養護老人ホームで、科学的介護が始まっていますが、今後は訪問介護・居宅介護支援サービスでもLIFEシステムを導入する予定です。
診療報酬・介護報酬どちらの改定時においても、大きな影響を与えます。具体的に、診療報酬は点数、介護報酬は単位数で事業所に入る収入源が決まっているので下記のように表されます。
利用者負担 | 介護事業者の収入 | |
介護報酬点数の増加 | 増える | 増える |
介護報酬点数の減少 | 減る | 減る |
診療報酬は2年に1回、介護報酬は3年に1回の頻度で実施されるため、6年に1回は医療・介護ダブル改定の年です。
この医療・介護ダブル改定にあたるのが2024年度です。2024年度の改定は「2025年問題」までに行われる最後の改定になるため、医療・介護の連携体制をより強固な制度へ変える大きな機会になると予測されています。
しかし、診療報酬・介護報酬で改定された部分は、国が重点的に考えている部分になるため、今後における国の指針が分かるだけでなく、国が求めている役割も把握する機会になるため、今後の情報に注目しながら対策することが重要です。