令和6年には、介護報酬改定が予定されています。令和6年以降の事業所運営を円滑にするため、介護報酬改定に関する情報を収集している経営者も多いでしょう。しかし、それらの情報を整理して、実際に準備を進めている方は少ないのではないでしょうか。
この記事では、令和6年介護報酬改定が実施されるまでのスケジュールと、今から準備すべき3つのことについて解説します。この記事を読むことで、次回の介護報酬改定に向けた準備を計画的に進められるでしょう。
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介護保険制度は、日本の高齢化社会を支える重要な制度のひとつです。しかし、介護保険制度は、日本の経済状況や人口動態など多様な実態を考慮して、定期的に見直す必要があります。そこで、定期的に実施されるのが介護報酬改定です。ここでは介護報酬改定に関する基本的な情報について解説します。
2000年に始まった公的介護保険制度は、保険者(市町村)、利用者、サービス事業者の三者間で成り立っています。
利用者は収入に応じて1〜3割の利用負担金を事業者に支払い、事業者はその残りを保険者(国や地方自治体)に請求します。しかし、少子高齢化が進む中で、介護や医療の需要は増加しています。
2025年には団塊の世代が75歳に達し、2042年には高齢者人口がピークになると予測されています。これに伴い、介護保険制度を持続させるための財源や、介護人材の確保が難しくなりつつあるのです。
介護報酬改定の主な目的は、このような背景下での介護保険制度の持続可能性を確保することです。また、介護現場の実態に合わせた改定を行うことで、介護事業者の売上に影響を与え、利用者にとってはサービスの質の向上につながる可能性もあります。
介護報酬改定は、3年ごとに行われます。介護報酬改定では、公的機関が定期的に実施している調査結果や専門家からの意見などを参考にして、介護サービスの形態や加算の追加・廃止などが検討されます。
一方で、診療報酬改定は2年ごとに実施されており、介護報酬改定と診療報酬改定が同時に行われる「ダブル改定」は6年ごとに実施されます。
診療報酬と介護報酬のダブル改定は、介護保険制度と医療保険制度が連携を強化する大きな機会です。そのため、ダブル改定の年は大きな方向転換が行われやすい傾向があります。
直近の介護報酬改定は令和3年に実施され、新型コロナウイルス感染症や災害時の対応、科学的介護の推進などが主な焦点となっていました。次回、令和6年介護報酬改定は診療報酬とのダブル改定の年でもあります。
介護報酬改定は、各介護事業所へ大きな影響を与えます。介護報酬改定の影響を受ける事項として、以下のような内容が挙げられます。
上記の内容は、実際に過去に実施された改定内容から、一部ご紹介しました。実際には、他にもさまざまな可能性が考えられます。国と介護現場の実態を把握して、制度の持続可能性を高めるためにさまざまな内容が検討されます。
厚生労働省の介護給付費分科会第 217 回の資料「令和6年度介護報酬改定に向けた今後の検討の進め方について(案)」によると、2024年介護報酬改定までのスケジュールとして、以下の流れが提示されています。
【介護報酬改定までのスケジュール案】 |
令和5年 6月~夏頃 :主な論点について議論 9月頃 : 事業者団体等からのヒアリング 10~12月頃 :具体的な方向性について議論 12月中 :報酬・基準に関する基本的な考え方の整理・とりまとめ 令和6年度政府予算編成 令和6年 1月頃 介護報酬改定案 諮問・答申 |
引用:厚生労働省の介護給付費分科会第 217 回資料「令和6年度介護報酬改定に向けた今後の検討の進め方について(案)」
過去の介護報酬改定においても、上記のようなスケジュールで進行する傾向があります。12月頃には、改定の大まかな全体像が発表され、政府の予算編成に組み込まれます。12月を目安に最新情報を追っていくと、次回介護報酬改定の傾向が読み取れるでしょう。
次回の介護報酬改定に関する情報を理解するためには、前回の介護報酬改定がどのような内容であったか理解することが大切です。ここでは、令和3年介護報酬改定の情報を解説します。
令和3年収介護報酬改定で注目度が高かったポイントのひとつが、新型コロナウイルス等の感染症への対応力強化です。具体的には、以下のような内容が含まれています。
特に、BCP(事業継続計画)の作成が求められるようになったことは、その後の事業所運営に大きなインパクトを与えました。この改定の中でBCPの策定について言及され、令和6年4月から全ての事業所でBCPの策定が義務化されることになりました。
団塊の世代が75歳以上高齢者になる2025年問題の解決に向けて、国が構築しようとしているシステムが地域包括ケアシステムです。令和3年介護報酬改定では、地域包括ケアシステムの推進に向けた内容も含まれていました。具体的には以下の内容が含まれています。
地域包括ケアシステムは、まだ解決すべき課題も多いため、次回の介護報酬改定でも引き続き取り上げられる可能性が高いでしょう。
介護保険制度の持続可能性を高めるためにも、制度の本来の目的である自立支援、重度化防止について強化していく必要があります。令和3年介護報酬改定では、以下の事項が含まれていました。
令和3年介護報酬改定で話題になったのが「LIFE(科学的介護情報システム)」の導入です。LIFEによって介護事業所でPDCAサイクルを回し、科学的根拠に基づいた介護サービスを提供する目的があります。
厚生労働省の資料「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」では、2025年に約32万人の介護人材が不足すると公表されています。深刻化する介護人材不足に向けて、前回の介護報酬改定では以下の内容が見直されました。
特に注目を集めたのは、特定処遇改善加算の配分ルール柔軟化です。これにより介護職員の処遇を改善し、介護現場の確保に繋げる狙いがあります。
介護保険制度を安定して運営するために、制度の調整を行いました。以下の内容が含まれています。
具体的な内容としては、処遇改善加算(Ⅳ)(Ⅴ)の廃止などが実施されています。
令和6年の介護報酬改定に向けて、厚生労働省内でさまざまな検討会が実施されています。ここでは、第222回社会保障審議会介護給付費分科会資料の内容をもとに、現在注目されているポイントについて解説します。
令和6年の介護報酬改定では、認知症への対応力強化が大きなテーマとなっています。2025年には約700万人、2040年には800~950万人と、認知症高齢者数が増加する中で介護制度上でも認知症への対応力強化が求められています。
過去の介護報酬改定において「認知症専門ケア加算」が設けられ、訪問系サービスや多機能系サービスでの認知症対応力を強化しています。しかし、算定率は低く、実態に合致していないケースも多いようです。第222回社会保障審議会介護給付費分科会資料「認知症への対応力強化(地域包括ケアシステムの深化・推進)」では、今後の論点として以下の3つが挙げられます。
参考:第222回社会保障審議会介護給付費分科会資料「認知症への対応力強化(地域包括ケアシステムの深化・推進)」
令和6年度の介護報酬改定では、在宅の要介護者も含めた認知症対応力強化に向けて、なにかしらのルール変更が行われるものと考えられます。
令和6年の介護報酬改定では、医療と介護の連携が特に重視されています。
2040年までに高齢者数が大幅に増加することを考慮すると、医療と介護の双方のサービスが必要となる高齢者が増加するでしょう。そのため、医療機関と介護施設、地域での情報共有が重要になります。
現在、医療機関同士の情報共有が積極的に行われている一方で、高齢者の生活歴や日常の状態に関する情報は不足しています。このギャップを埋めるためには、医療側が「生活」に介護側が「医療」に配慮した情報共有を行わなければいけません。
また、人生の最終段階においても、医療と介護の連携は重要です。特に、本人が望む場所での看取りを可能にするため、医療・介護従事者間での連携と情報共有が求められています。近年、看取り・ターミナルケアに関する報酬評価が引き上げられており、今後もその傾向が継続する可能性は高いでしょう。
令和6年の介護報酬改定に関する情報の中でも、特に注目度の高い情報が「新しい複合型サービスの創設」に関する情報です。
訪問介護と通所介護の利用者数が増加する一方で、人材不足やサービスの調整が課題となっています。この背景を受け、次回の介護報酬改定では「訪問系と通所系のサービスを組み合わせた複合型サービス」が提案されています。
訪問介護でのケアと通所介護での活動を一体化させることで、より質の高いサービスを提供できるようになるでしょう。
例えば、通所介護で明らかになった利用者のニーズや課題に対して、同じ事業所内の訪問介護サービスでフォローすることも可能です。
しかし、現行制度のまま実行することで、さまざまな問題が発生する可能性も指摘されています。例えば、ケアプラン作成のタイムラグや、サービス変更時の連絡調整の煩雑さなどが課題として挙げられるでしょう。
新しい複合型サービスを実現するために解決しなければいけない課題は多いものの、このサービスの実現によって質の高い介護を提供することが期待されています。
令和6年介護報酬改定まで、まだ時間があります。現在判明している情報をもとに少しずつ準備を進めることで、事業所の運営を進めやすくなるでしょう。ここでは、令和6年介護報酬改定までに準備すべき3つのことについて解説します。
令和6年介護報酬改定では、「医療と介護の連携」が大きなキーワードになっています。詳細な改定内容は不明ですが、医療機関と連携することで算定できる加算が増える、現在取得している加算の要件が緩和される、などの内容が想定されます。
報酬改定の準備だけでなく、利用者へよりよいサービスを提供するためにも医療機関との連携は必要です。積極的に周辺施設との関係性を構築しておきましょう。
現在、令和6年介護報酬改定では、介護事業所における財務諸表の見える化も検討されています。厚生労働省の資料で明示されている目的は、以下のとおりです。
引用:厚労省 社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」
財務諸表の公開が義務化された場合、小規模事業所の事務負担が大きくなることも懸念されています。今から財務状況を整理していくことで、報酬改定時の負担を軽減できるでしょう。
LIFEは、前回改定で本格的に導入され、全国で運用が始まっているシステムです。しかし、データ提出の負担や評価方法の不明瞭さ、項目の重複などの課題を抱えています。
LIFEの導入によって介護サービスの質を向上させるため、次回の改定でもLIFEを活用するための内容が組み込まれてくる可能性は高いでしょう。
国の方針としてもLIFEの活用を推進しているため、まだLIFEを導入していない事業所は積極的に導入することをおすすめします。
この記事では、令和6年介護報酬改定のスケジュールと今から準備すべきことについて解説しました。
厚生労働省の介護給付費分科会が公開している資料によると、12月を目処に次回改定の内容が確定していく予定です。
令和6年の介護報酬改定では、医療と介護の連携強化や新しい複合型サービスの創設などが注目されています。
次回の介護報酬改定に向けて、周辺施設との連携、財務状況の整理、LIFEの導入などを行っていくことをおすすめします。
この記事で紹介した3つの準備を進めることで、令和6年以降の事業所運営を円滑に進められるでしょう。
参考資料:
厚生労働省の介護給付費分科会第 217 回資料「令和6年度介護報酬改定に向けた今後の検討の進め方について(案)」
厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
第222回社会保障審議会介護給付費分科会資料「認知症への対応力強化(地域包括ケアシステムの深化・推進)」
厚労省 社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」
厚生労働省「第222回社会保障審議会介護給付費分科会資料」
介護事業所向けに2024年の介護報酬改定に関する情報をまとめました!
<目次>
1)2024年介護報酬改定のについて
2)2024年介護報酬改定の改定内容
3)2024年介護報酬改定のスケジュール
4)2024年介護報酬改定に備えて事業所がすべきこと