令和3年度介護報酬改定は、科学的介護情報システムやBCPなど、さまざまな内容を含んだ改定でした。話題が多い改定だからこそ「訪問介護に関する情報に絞って解説してほしい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、訪問介護に関係するトピックだけに絞ってわかりやすく解説します。この記事を読むことで、令和3年度介護報酬改定における訪問介護の改定事項が深く理解できるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
目次
令和3年度の介護報酬改定は、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大している中で実施された改定です。主に、感染症や災害への対応力強化、地域包括ケアシステムの推進、自立支援・重度化防止の取組の推進、介護人材の確保・介護現場の革新、制度の安定性・持続可能性の確保という5つの柱に基づいて介護報酬が見直されました。5つの柱について解説します。
参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」
主に新型コロナウイルスへの対応力強化を目的としています。日頃からの備えと業務継続に向けた取り組みを推進する必要があるとされており、具体的な内容としては以下の内容が示されました。
特に令和3年度介護報酬改定で注目されたのは「BCP(業務継続計画)の策定義務化」です。2024年4月以降、すべての介護事業所でBCPの策定が義務化されます。2024年3月までは猶予期間とされていますが、まだ策定していない事業所は早めに策定しておくとよいでしょう。
厚生労働省では、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けられる地域包括ケアシステムの構築を推進しています。地域包括ケアシステムの推進において、令和3年度介護報酬改定では以下の内容で見直されました。
近年、介護施設における医療ニーズが高まりつつあります。地域包括ケアシステムにおいても、介護と医療の連携が大きな課題です。令和3年度介護報酬改定では、介護施設で提供できるサービスの幅を広げたり、医療施設との連携を取りやすくする内容が含まれていました。
介護保険制度の目的に沿って、定期的に評価を実施してデータ活用等を行いながら、科学的に効果が裏付けられたケアを提供する必要性が高まっています。令和3年度介護報酬改定では、以下の内容が見直されています。
令和3年度介護報酬改定では、LIFE(科学的介護情報システム)へデータを提出することで算定できる「科学的介護推進体制加算」が新設されました。今後もLIFEを活用した化学的介護サービスを推進していく可能性は高いでしょう。
令和3年度介護報酬改定では「介護人材の確保・介護現場の革新」について、喫緊かつ重要な課題としてさまざまな取組を推進しています。具体的には以下のような内容です。
特に処遇改善加算の変更について注目されました。特定処遇改善加算の算定要件が緩和され、多くの施設で算定しやすくなりました。また、計画書等への書名・押印が不要になり、書類の電磁的な対応を認めることで、書類業務負担を軽減する変更も実施されています。
介護保険制度の中でも必要なサービスは確保しつつ、適正化・重点化を図る内容で見直されています。具体的には以下のような内容が見直されました。
介護人材の確保とも関連していますが、「算定している施設が少ない」という理由で処遇改善加算(Ⅳ)(Ⅴ)が廃止されています。これにより、処遇改善加算(Ⅰ)〜(Ⅲ)を算定する事業所が増える可能性もあるでしょう。
令和3年度介護報酬改定における訪問介護の基本報酬は、全体的に単価が上昇する結果となりました。詳細な単位数は以下をご覧下さい。括弧の数値は改定前から変化した単位数を示しています。
【身体介護】
1回につき | 20分未満 | 20分以上30分未満 | 30分以上1時間未満 | 1時間以上 |
身体介護中心 | 167単位(+1) | 250単位(+1) | 396単位(+1) | 579単位(+2) 30分ごとに+84単位(+1) |
【生活援助・通院等乗降介助】
1回につき | 20分以上45分未満 | 45分以上 | 身体介護に引き続き生活援助を行う場合 |
生活援助中心 | 183単位(+1) | 225単位(+1) | 20分以降25分経過ごとに+67単位(+1) *上限201単位(+2) |
通院等乗降介助 | 99単位(+1) |
全体的に1回あたりの基本単価が1〜2単位程度上昇する改定となりました。また、通院等乗降介助加算に関しては、算定できる要件も緩和されています。
令和3年度介護報酬改定ではさまざまな内容が見直されています。特に訪問介護に関連する変更内容についてピックアップして紹介します。今回ピックアップしている内容は以下の通りです。
各項目について詳細な内容を解説します。
参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」
介護サービスにおける認知症への対応力を強化する観点から、訪問系サービスで認知症専門ケア加算が新たに創設されました。算定条件や単位数は以下の通りです。
加算名 | 算定要件 | 単位数 |
認知症専門ケア加算(Ⅰ) | ・認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の者が利用者の100分の50以上 ・ 認知症介護実践リーダー研修修了者を認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の者が20名未満の場合は1名以上、20名以上の場合は1に、当該対象者の数が19を超えて10又は端数を増すごとに1を加えて得た数以上配置し、専門的な認知症ケアを実施 ・ 当該事業所の従業員に対して、認知症ケアに関する留意事項の伝達又は技術的指導に係る会議を定期的に開催 | 3単位/1日 |
認知症専門ケア加算(Ⅱ) | ・ 認知症専門ケア加算(Ⅰ)の要件を満たし、かつ、認知症介護指導者養成研修修了者を1名以上配置し、事業所全体の認知症ケアの指導等を実施 ・ 介護、看護職員ごとの認知症ケアに関する研修計画を作成し、実施又は実施を予定 | 4単位/1日 |
認知症専門ケア加算を算定するには、認知症介護実践リーダー研修や認知症介護指導者養成研修を終了した職員を配置しなければいけません。将来的に認知症専門ケア加算を算定したい場合は、事前に研修を修了しておくとよいでしょう。
看取り期の利用者に対して訪問介護を提供する場合、2時間ルールを弾力化して、所要時間を合算せずに算定できるようになりました。2時間ルールとは、2時間未満の間隔のサービス提供は所要時間を合算するルールのことです。
例えば、令和3年度介護報酬改定以前の場合、25分の身体介護サービスを2時間未満の間隔で連続して提供すると、2回分のサービス提供時間を合算して「50分提供した」という認識になり「30分以上1時間未満」の単位数を請求していました。
しかし、令和3年度介護報酬改定以降は、それぞれ25分提供したものとみなされるため、合算するよりも多くの単位数を請求できるようになりました。
例)「25分訪問介護提供⇨2時間未満⇨25分訪問介護提供」の場合
・改定前……396単位(50分提供とみなされるので、30分以上1時間未満の単位数)
・改定後……500単位(25分提供を2回とみなされるので、250単位×2回の単位数)
訪問介護の通院等乗降介助について、利用者の負担軽減や利便性向上のため、算定要件が緩和されています。
改定前は自宅と目的地間の移送しか対象となっていなかったため、行きたい場所が2箇所以上あった場合、途中で一旦自宅に帰宅する必要がありました。しかし、改定後が始点か終点が自宅であれば算定できるため、一旦帰宅せずに2箇所以上の目的地へ移動できるように変更されています。
例えば、デイサービスの送迎車でデイサービスまで行った場合、デイサービスから病院間、病院から自宅間の移動で通院等乗降介助サービスを利用できるようになります。あらゆる場面で利用できるようになるため、より地域の高齢者が利用しやすくなるでしょう。
生活機能向上連携加算とは、外部のリハ専門職と連携して計画を立てた場合に算定できる加算です。改訂前は、専門職が事業所に訪問することを条件に200単位/月算定する加算でした。令和3年度介護報酬改定以降は、ICTを活用してオンライン上で面談を行った場合も算定できるようになり、生活機能向上連携加算(Ⅰ)(Ⅱ)という2つの加算に変更されています。各加算の算定要件と単位数に関しては以下の通りです。
加算名 | 算定要件 | 単位数 |
生活機能向上連携加算(Ⅰ) | ・ 訪問・通所リハビリテーションを実施している事業所又はリハビリテーションを実施している医療提供施設(病院にあっては許可病床数が200床未満のもの 又は当該病院を中心とした半径4キロメートル以内に診療所が存在しない場合に限る。)の理学療法士等や医師からの助言(アセスメント・カンファレンス) を受けることができる体制を構築し、助言を受けた上で、機能訓練指導員等が生活機能の向上を目的とした個別機能訓練計画を作成等すること。 ・ 理学療法士等や医師は、通所リハビリテーション等のサービス提供の場又はICTを活用した動画等により、利用者の状態を把握した上で、助言を行うこと。 | 100単位/月 |
生活機能向上連携加算(Ⅱ) | ・外部のリハビリテーション専門職等が利用者宅を訪問する際にサービス提供責任者が同行する、または外部のリハビリテーション専門職等とサービス提供責任者が利用者の居宅を訪問した後に共同してカンファレンスを行い、生活機能アセスメントを行っていること。 | 200単位/月 |
生活機能向上連携加算(Ⅱ)の算定要件は変更していません。ICTを活用して生活機能向上連携加算(Ⅰ)を算定できるようになったことが大きな変更点です。
処遇改善加算に関して複数の変更点がありました。処遇改善加算の具体的な変更点は以下のとおりです。
特定処遇改善加算の配分ルールに関して変更されています。具体的な内容として、「その他の職種」は「その他の介護職員」の「2分の1を上回らないこと」とするルールは維持した上で、「経験・技能のある介護職員」は「その他の介護職員」の「2倍以上の報酬」ではなく「より高くすること」と変更されています。これにより、多くの事業所で特定処遇改善加算を算定しやすくなりました。その他の細かい変更内容として、職場環境要件が見直される、処遇改善加算(Ⅳ)(Ⅴ)が廃止される、といった変更点もあります。
訪問介護以外のサービス提供体制強化加算の見直しも踏まえて、勤続年数が一定期間以上の職員の割合を要件として特定事業所加算(Ⅴ)の区分を新設しました。
加算名 | 算定要件 | 単位数 |
特定事業所加算(Ⅴ) | ○体制要件 ※特定事業所加算(Ⅰ)~(Ⅲ)と同様 ・訪問介護員等ごとに作成された研修計画に基づく研修の実施 ・利用者に関する情報又はサービス提供に当たっての留意事項の伝達等を目的とした会議の定期的な開催 ・利用者情報の文書等による伝達、訪問介護員等からの報告 ・健康診断等の定期的な実施 ・緊急時等における対応方法の明示 ○人材要件 ・訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者の占める割合が30%以上であること | 所定単位数の3%/1回あたり |
特定事業所加算(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅳ)との併算定はできませんが、特定事業所加算(Ⅲ)との併算定は可能です。
今回は令和3年度介護報酬改定における訪問介護の改定事項について、重要なポイントを解説しました。
令和3年度介護報酬改定は改定率+0.7%のプラス改定となりましたが、訪問介護においても基本報酬が全体的に上昇しています。また、認知症専門ケア加算、科学的介護推進体制加算などの加算が新設されており、算定要件を緩和する内容も多い改定となりました。
現在、令和6年の次回改定に向けてさまざまな議論が交わされています。令和3年度介護報酬改定の内容を振り返りつつ、最新の情報を確認して訪問介護サービスの方向性を決めていくとよいでしょう。
参考文献:https://www.care-news.jp/useful/reward/9IiAa
参考文献:https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000753776.pdf
介護事業所向けに2024年の介護報酬改定に関する情報をまとめました!
<目次>
1)2024年介護報酬改定のについて
2)2024年介護報酬改定の改定内容
3)2024年介護報酬改定のスケジュール
4)2024年介護報酬改定に備えて事業所がすべきこと