高齢者の健康管理において、適切な薬剤の使用は非常に重要です。実際、多剤投薬は、さまざまな有害な副作用を引き起こす可能性があることがわかっています。
このような、現在服薬している薬剤を減らす取り組みを積極的に行っている施設を評価するために創設された加算が、かかりつけ医連携薬剤調整加算です。
今回は、かかりつけ医連携薬剤調整加算の概要だけでなく、報酬改定のポイントや算定要件まで詳しく紹介します。ぜひ、最後までお読みください。
目次
かかりつけ医連携薬剤調整加算は、老人介護保険施設の医師と、在宅のかかりつけ医が連携して、現在服薬している薬剤を減らす取り組みをしている施設を評価する加算項目で2018年に創設されました。
この加算が創設された背景には、介護老人保健施設とかかりつけ医との連携が必ずしも十分ではないことがあります。実際、介護老人保健施設入所者の服薬数は平均5.9種類を服薬しており、服薬数は入所から2ヵ月を経過しても46.5%は服薬数は変化がないだけでなく、16.8%は服薬数は増加していることがわかりました。
また合わせて、高齢者では、6剤以上の投薬が有害事象の発生増加に関連していることも分かっています。なお、薬物有害事象を呈した者の症状の内訳は下記です。
高齢者の薬物有害事象の主な症状 | 薬物有害事象を呈した者の症状の内訳 |
意識障害 | 9.6% |
低血糖 | 9.6% |
肝機能障害 | 9.6% |
電解質異常 | 7.7% |
ふらつき・転倒 | 5.8% |
低血圧 | 4.8% |
無動・不随意運動 | 3.8% |
便秘・下痢・腹痛 | 3.8% |
食欲不振・吐き気 | 3.8% |
徐脈 | 3.8% |
出血・INR延長 | 3.8% |
このような問題を踏まえて、多剤投薬されている入所者の処方方針を、介護老人保健施設の医師とかかりつけ医が連携して利用者に対する多剤投薬を見直す取組みを評価するかたちとして、かかりつけ医連携薬剤調整加算が創設されました。
参考:公益社団法人 全国老人保健施設協会「介護老人保健施設における薬剤調整のあり方とかかりつけ医等との連携に関する調査研究事業報告書」
厚生労働省「第152回 社会保障審議会介護給付費分科会資料」
かかりつけ医連携薬剤調整加算は、介護老人保険施設の医師と在宅のかかりつけ医が連携することが目的なため、対象事業者は介護老人保険施設のみです。
61.2%の介護老人保健施設は、薬剤の種類を減らそうと対策を積極的に行っているものの、実際にかかりつけ医連携薬剤調整加算を算定している割合は低くなっているのが現状です。
積極的に対策は実施しているものの、算定率が低い原因は、入所者の処方内容を変更する可能性があることについて、入所者の主治の医師から合意を得ることなどの理由が挙げられています。なお、実際の算定率の紹介は下記です。
算定項目 | 単位数(令和3年度改訂) | 算定率 |
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅰ) | 100単位 | 5.8% |
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅱ) | 240単位 | 4.1% |
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅲ) | 100単位 | 1.6% |
※単位数は1回あたり
参考:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第231回)(介護老人保健施設(改定の方向性))」
かかりつけ医連携薬剤調整加算の算定率の低さなどを踏まえて、2024年度の介護報酬にて下記のような見直しが行われました。
- かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅰ)について、施設におけるポリファーマシー解消の取組を推進する観点から、入所前の主治医と連携して薬剤を評価・調整した場合に加え、施設において薬剤を評価・調整した場合を評価する新たな区分を設ける
その上で、入所前の主治医と連携して薬剤を評価・調整した場合の区分を高く評価する- また、新たに以下の要件を設ける
- ア:処方を変更する際の留意事項を医師、薬剤師及び看護師等の多職種で共有し、処方変更に伴う病状の悪化や新たな副作用の有無について、多職種で確認し、必要に応じて総合的に評価を行うこと
- イ:入所前に6種類以上の内服薬が処方されている方を対象とすること
- ウ:入所者やその家族に対して、処方変更に伴う注意事項の説明やポリファーマシーに関する一般的な注意の啓発を行うこと
引用:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第239回)(令和6年度介護報酬改定の主な事項について)」
これらの見直しから下記のように改定されています。
算定項目 | 単位数 |
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅰ)イ ※一部変更 | 140単位 |
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅰ)ロ ※新設 | 70単位 |
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅱ) | 240単位 |
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅲ) | 100単位 |
※単位数は1回あたり
入所前の主治医と連携して薬剤を評価・調整した場合に140単位を算定可能で、下記が算定要件です。
- 医師又は薬剤師が高齢者の薬物療法に関する研修を受講すること
- 入所後1月以内に、状況に応じて入所者の処方の内容を変更する可能性があることについて主治の医師に説明し、合意していること
- 入所前に当該入所者に6種類以上の内服薬が処方されており、施設の医師と当該入所者の主治の医師が共同し、入所中に当該処方の内容を総合的に評価及び調整し、かつ、療養上必要な指導を行うこと
- 入所中に当該入所者の処方の内容に変更があった場合は医師、薬剤師、看護師等の関係職種間で情報共有を行い、変更後の入所者の状態等について、多職種で確認を行うこと
- 入所時と退所時の処方の内容に変更がある場合は変更の経緯、変更後の入所者の状態等について、退所時又は退所後1月以内に当該入所者の主治の医師に情報提供を行い、その内容を診療録に記載していること
引用:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第239回)(令和6年度介護報酬改定の主な事項について)」
施設において薬剤を評価・調整した場合に70単位を算定可能で、下記が算定要件です。
- かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅰ)イの要件1、4、5に掲げる基準のいずれにも適合していること
- 入所前に6種類以上の内服薬が処方されていた入所者について、施設において、入所中に服用薬剤の総合的な評価及び調整を行い、かつ、療養上必要な指導を行うこと
引用:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第239回)(令和6年度介護報酬改定の主な事項について)」
服薬情報をLIFEに提出した場合に240単位を算定可能で、下記が算定要件です。
- かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅰ)イ又はロを算定していること
- 当該入所者の服薬情報等の情報を厚生労働省に提出し、処方に当たって、当該情報その他薬物療法の適切かつ有効な実施のために必要な情報を活用していること
引用:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第239回)(令和6年度介護報酬改定の主な事項について)」
なお、LIFEはさまざまな介護事業所から利用者の介護データを収集・分析し、フィードバックを実施するシステムです。LIFEについては以下の記事で詳しく解説しているのであわせて参考にしてください。
LIFE(科学的介護情報システム)とは?導入手順や加算について徹底解説
退所時に、入所時と比べて1種類以上減薬した場合に100単位を算定可能で、下記が算定要件です。
- かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅱ)を算定していること
- 退所時において処方されている内服薬の種類が、入所時に処方されていた内服薬の種類に比べて1種類以上減少していること
引用:厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第239回)(令和6年度介護報酬改定の主な事項について)」
多くの高齢者は、複数の疾患を抱えているため、適切な薬剤管理が必要不可欠です。その中での、多剤投薬の問題は、多くの症状を引き起こし、高齢者のQOLを大きく下げる可能性があります。
これらの内容から、かかりつけ医連携薬剤調整加算を算定し、介護老人保健施設での投薬管理を積極的に実施する重要性は高いものの、現状の算定率は低いのが現状です。
しかし、2024年度の介護報酬改定で、かかりつけ医連携薬剤調整加算の要件が見直され、細分化されたことにより以前より算定しやすくなりました。ぜひ、今回の改定をきっかけにかかりつけ医連携薬剤調整加算の取得をご検討ください。