介護職員処遇改善加算を得るための手段のひとつとして、介護プロフェッショナルキャリア段位制度を導入することが挙げられます。
この記事では、介護プロフェッショナルキャリア段位制度の内容や導入するメリット、レベル区分などについて解説します。
目次
介護プロフェッショナルキャリア段位制度とは、介護に関する知識と技術の両面から職業能力評価をおこない、介護現場での人材育成や処遇改善に活かす制度です。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度では、全国共通の基準をもとに職業能力評価を行い、7つの区分でレベルを認定します。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度を導入している介護施設や事業所は、介護職員処遇改善加算の要件として定められているキャリアパス要件(Ⅱ)を満たすものとされます。
参考:厚生労働省
したがって、処遇改善加算の取得を目指す介護施設や事業所にとっても、介護プロフェッショナルキャリア段位制度の導入は要件クリアのためのひとつの手段となります。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度は、2012年に、実践キャリア・アップ戦略の一環として内閣府が開始し、2015年以降は厚生労働省の管轄のもと実施されています。
実践キャリア・アップ戦略とは、職員が能力によって評価される社会を目指す取り組みです。
介護業界において介護プロフェッショナルキャリア段位制度を導入した背景には、
①介護職員の労働環境を改善する
②キャリアアップの課題を明確にする
といった目的があります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度の制定理由のひとつが、介護職員の労働環境を改善することにあります。
介護業界において、仕事がきつい、給与が低いといった理由から介護職を離職する人は少なくありません。
介護職の定着率を上げ、介護業界における深刻な人手不足を解消するためにも、職員の処遇を改善することが求められます。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度の導入により、処遇改善加算を得ることができれば、職員の給与に反映することも可能です。
また、役職や肩書ではなくスキルやキャリアによって評価されることで、職員の仕事に対するモチベーションも維持することができます。
結果として定着率が上がれば、さらなる労働環境の改善も期待できます。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度制定のもうひとつの目的が、キャリアアップの要件を明確にし、人材育成につなげることです。
制度において、職員を評価する実践的スキルの項目は、「基本介護技術」「利用者視点での評価」「地域包括ケアシステム&リーダーシップ」の3つに大きく分けられ、それぞれに細かなチェック項目が設けられています。
例えば、「基本介護技術」の評価項目は次の通りです。
大項目 | 中項目 | 小項目 | チェック項目数 |
基本介護技術の評価 | 1.入浴介助 | 1 入浴前の確認ができる | 2 |
2 衣服の着脱ができる | 5 | ||
3 洗体ができる | 4 | ||
4 清拭ができる | 3 | ||
2.食事介助 | 1 食事前の準備を行うことができる | 6 | |
2 食事介助ができる | 5 | ||
3 口腔ケアができる | 4 | ||
3.排泄介助 | 1 排泄の準備を行うことができる | 3 | |
2 トイレ(ポータブルトイレ)での排泄介助ができる | 6 | ||
3 おむつ交換を行うことができる | 4 | ||
4.移乗・移動・体位変換 | 1 起居の介助ができる | 4 | |
2 一部介助が必要な利用者の車いすへの移乗ができる | 4 | ||
3 全介助が必要な利用者の車いすへの移乗ができる | 5 | ||
4 杖歩行の介助ができる | 3 | ||
5 体位変換ができる | 4 | ||
5.状況の変化に応じた対応 | 1 咳やむせこみに対応できる | 3 | |
2 便・尿の以上に対応ができる | 4 | ||
3 皮膚の異常に対応ができる | 4 | ||
4 認知症の方がいつもと違う行動を行った場合に対応できる | 3 |
参考:厚生労働省
これにより、職員ができることとできないことが可視化され、キャリアアップに必要な課題が明確になります。
目指すキャリアがはっきりすることで、仕事に対する向上心が生まれ、職員は自分の課題を意識しながら職務に励むことができるようになります。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度を導入することで、
①レベル区分により持っている技術が明確になる
②目標が設定できることでキャリアアップの計画がたてやすい
③人事評価に活用できる
などのメリットがあります。
順番に詳しく解説します。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度の導入で得られるメリットのひとつが、職員が持っている技術を明確にできることです。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度では、148個のチェック項目をもとに介護スキルを評価し、7つのレベルで区分します。
これにより、職員がどのような技術を持っているのかがわかり、事業所側としては職員をどこに配置するべきか、何を指導するべきかなどについて判断しやすくなります。
勤務年数が長いと介護も自己流になりがちですが、客観的な評価制度を用いることで、介護技術の標準化を図ることが可能です。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度によってできることとできないことが明確になると、キャリアアップの計画も立てやすくなります。
次の段位を目指すにはどのような知識や技術を身につけるべきかがはっきりするため、やみくもにスキルアップを図るより効率的です。
キャリアアップへの意欲が向上することで、よりやりがいを持って仕事に励むことができるようになります。
客観的に介護スキルを評価する介護プロフェッショナルキャリア段位制度は、人事評価にも活かすことができます。
能力を適切に評価できるようになることで、職員の処遇改善にもつながります。
主観によらず公正に能力を評価していることが職員に伝われば、昇給やボーナスについても理解を得やすくなるでしょう。
ここでは、介護プロフェッショナルキャリア段位制度における「実践的スキル」と「知識評価」のレベル区分や認定基準について解説します。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度において、段位は次の7つのレベルに区分されます。
レベル | 概要 | できること |
1 | ・エントリーレベル | ・介護職員初任者研修を修了し、基礎的な知識や技術を持つ |
2 | ・一定の支持のもと、ある程度の仕事ができる | ・一定の範囲で、利用者のニーズや状況変化を把握、判断し、それに応じた介護を実践できる ・基本的な知識や技術を活用し、手順に従って、基本的な介護を実践できる |
3 | ・指示等がなくとも、一人前の仕事ができる | ・利用者の状態像に応じた介護や他職種との連携等を行うための幅広い領域での知識や技術を持ち、的確な介護を実践できる |
4 | ・一人前の仕事ができ、チーム内でリーダーシップを取れる | ・チーム内でのリーダーシップを取れる ・部下に対して指示や指導ができる |
5 | ・プロレベル ・高度な専門性とオリジナリティを持つ | ・多様な生活障害を持つ利用者に質の高い介護を実践できる ・介護技術の指導や職種間連携のキーパーソンとなり、チームケアの質を改善できる |
6 | ||
7 | ・その分野を代表するトッププロフェッショナル |
参考:厚生労働省
表のように、エントリーレベルのレベル1から、分野を代表するプロフェッショナルであるレベル7まで、キャリアによって区分されます。
7段階のレベルが定められているものの、現在介護プロフェッショナルキャリア段位制度で認定が行われているのはレベル4までです。
レベル4以上はプロレベルと見なされ、チーム内のリーダーとして指導にあたれるようになるほか、職員を評価するアセッサーになるための講習を受けることも可能となります。
また、レベル認定には、前述したような実践的スキルのほか知識の評価も必要です。
知識評価は次のように資格の有無による基準が定められています。
レベル | 知識評価の基準 |
1 | 介護職員初任者研修修了 ※ホームヘルパー2級研修または1級研修修了も含む |
2 | |
3 | 介護福祉士養成課程または実務者研修修了 ※介護職員基礎研修修了でも可 |
4 | 介護福祉士であること(国家試験合格) ※介護福祉士養成施設卒業者については、国家試験の義務付け前においては、介護福祉士養成課程修了によりレベル4とする |
知識評価を満たしていなければ、実践的スキル評価による段位認定を受けることはできません。
処遇改善加算を得ようと考える事業所にとって、介護プロフェッショナルキャリア段位制度の導入はひとつの選択肢となります。
また、加算を得るだけでなく、職員のモチベーションを高めたり、人事評価に活用できたりといった点も、介護プロフェッショナルキャリア段位制度を活用するメリットです。
職員の介護スキルを高めてサービス水準をあげたい、処遇を改善して定着率をあげたいと考えるのであれば、制度の利用を検討してみてください。