2024年3月4日に厚生労働省より公開された「介護保険最新情報Vol.1209」にて、2024年度の介護報酬改定で改定される方針が示されていた処遇改善加算について、詳細な方針の案が提示されました。
処遇改善加算については、かねてより特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算との一本化が示されていましたが、詳細な算定要件や移行にあたっての手続きについては情報が公開されていなかったため、どのような変更があるのか気になっていた方も多いのではないでしょうか。
本記事では、厚生労働省が公開している資料をもとに、改めて新設される介護職員等処遇改善加算についてわかりやすく解説します。処遇改善加算の動向について詳しく知りたい方や、厚生労働省の資料を確認したものの複雑で悩んでしまったという方はぜひ参考にしてください。
目次
現行の制度における処遇改善のための加算は、処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算と3つにわかれます。これらの加算は介護職員の処遇改善という同じ目的を持ちながらもそれぞれ算定要件や加算率が異なるため、理解が難しく算定へのハードルが高くなることや、事務作業の負担が大きいことがかねてより指摘されてきました。また、これらの問題から、本来なら加算を取得できるのに加算を取得しない事業所が多くなっている状況となっています。
このような問題を解決するために、2024年度の介護報酬改定では、処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等改善加算の3つの加算が一本化されます。
改定の目的についての詳細や、大枠の変更点については以下の記事で解説しているので、あわせて参考にしてください。
【2024年介護報酬改定】処遇改善加算が一本化!変更点とポイントは?
2024年4月1日より介護報酬改定が施行となりますが、処遇改善加算はどのタイミングからどのような変更がおこなわれるのでしょうか。以下では厚生労働省の資料をもとに処遇改善加算の動向について解説していきます。
2024年度の介護報酬改定は4月1日に施行(サービスによっては6月1日)となります。ただし、処遇改善加算の改定については、2024年4月・5月までの対応と6月以降の対応が異なるため注意が必要です。
2024年4月・5月までの間は、算定要件が新加算と同程度まで緩和されたうえで、旧3加算の加算率を用いて算定されます。加算率および算定要件は以下の通りです。
【2024年4月・5月までの加算率】
【2024年4月・5月までの算定要件】
2024年6月以降は新加算の加算率を用いて加算を算定します。
なお、旧3加算と変わらず、基準上介護職員の配置がない以下のサービスについては算定の対象外となります。
【算定の対象外となるサービス区分】
なお、対応に伴う事業所の負担を考慮して、2024年度中は経過措置期間として扱われることになります。
経過措置期間中においては、一部の算定要件について適用に猶予が与えられます。また、2024年5月31日時点で旧3加算を一部でも算定していれば、算定状況に応じて新加算Ⅴの(1)~(14)を算定可能です。猶予が与えられる算定要件および旧加算の算定状況に応じて算定可能な新加算については以下をご確認ください。
【猶予が与えられる算定要件】
*¹:2024年度中に賃金体系などを整備することを誓約した場合に限り、当初から要件を満たしたとみなされる
【旧3加算に応じた算定要件】
2024年度以降の介護職員等処遇改善加算の加算率は以下の通りです。
介護職員等処遇改善加算の算定要件は大きく分けると以下の8つとなります。
それぞれの要件については以下の記事で詳しく解説しています。
【2024年改定対応】処遇改善加算の月額賃金改善要件を満たすには?具体例をもとにわかりやすく解説
【2024年改定対応】処遇改善加算のキャリアパス要件とは?具体例をもとにわかりやすく解説
【2024年改定対応】処遇改善加算の職場環境等要件とは?具体例をもとにわかりやすく解説
介護職員等処遇改善加算を算定するためには、体制等状況一覧表・処遇改善計画書・実績報告書などの提出が必要になります。それぞれ注意点があるため、詳細に解説していきます。
体制等状況一覧表とは、取得を届け出る加算や事業所の体制についてを申告するための書類です。介護施設もしくは事業所が所在する都道府県などの指定権者への提出が必要となります。
体制等状況一覧表の基本的な提出期日は、居宅系サービスであれば算定を開始する月の前月15日、施設系サービスであれば算定を開始する月の1日までです。よって新加算を算定する場合、居宅系サービスは2024年5月15日、施設系サービスは2024年6月1日が期日となります。
ただし、算定に必要な別書類の提出が2024年6月15日までとなることから、提出を受け付ける都道府県知事などに対して、体制等状況一覧表についても6月15日まで変更の受付など柔軟な取扱いをおこなうよう求めるとされています。
なお、2024年4月・5月から旧3加算を新たに算定する場合は、2024年4月15日を目安に届出をおこなってください。
新加算の算定には処遇改善計画書の作成が必要です。処遇改善計画書には、賃金改善計画の記載をすることや、算定要件を満たしている旨について確認をおこないます。
処遇改善計画書を作成したら、新加算の算定をおこなう介護施設もしくは事業所が所在する都道府県知事などへの提出が必要です。なお、処遇改善計画書は根拠となる資料とあわせて2年間保存する必要があるため注意してください。
新加算に関する処遇改善計画書の提出期限は2024年4月15日となっています。ただし、2024年6月15日まで変更が受け付けられる見込みです。また6月以降に処遇改善計画書を変更する場合、居宅系サービスは算定を開始する月の前月15日、施設系サービスは当月1日までに再度提出する必要があります。
なお、2024年4月・5月から旧3加算を新たに算定する場合も、2024年4月15日が期日となっているので、それまでに届出をおこなってください。
参考:厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1209」P25 別紙様式2-1
実績報告書は新加算の算定後に提出が必要となる書類です。賃金改善の状況や算定要件を満たしていたかどうかについて振り返り提出をおこないます。
実績報告書の提出は、各事業年度における最終の支払があった翌々月の末日までにおこなう必要があります。2024年度の場合、2025年5月におこなわれる2025年3月分の支払が年度の最終支払になることから、一般的な場合であれば2025年7月31日が提出期限です。
また、実績報告書についても根拠となる資料とあわせて2年間保存する必要があるため注意してください。
参考:厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1209」P34 別紙様式3-1
処遇改善加算を算定する場合、利用者の自己負担額が増えることになります。そのため、加算を算定するためには、内容を更新した重要事項説明書および同意書を利用者とその家族に渡し、説明をおこなったうえでサインをしてもらうことが必要です。
利用者の同意書の提出タイミングは現時点で明確になっていませんが、処遇改善計画書と同じタイミングで提出が必要になることが予想されます。
介護職員等処遇改善加算を算定するためのスケジュールは、新加算を6月から算定する場合と旧3加算を4月から算定する場合にわかれます。
新加算を6月から算定する場合は、処遇改善計画書の提出を2024年4月15日までに、体制等状況一覧表の提出を居宅系サービスは2024年5月15日までに、施設系サービスは2024年6月1日までにおこないましょう。なお、どちらの書類についても2024年6月15日までであれば変更が可能です。
旧3加算を4月から算定する場合は、体制等状況一覧表の提出を2024年4月1日までに、処遇改善計画書の提出を2024年4月15日までにおこなう必要があります。都道府県によっては、体制等状況一覧表の提出期日は4月15日まで延長されることがありますが、どちらにせよ速やかな対応が求められるので、ただちに申請の準備をはじめましょう。
新加算を算定する際には複数の書類の作成が必要ですが、もし要件を満たしていれば書類作成の一部を簡略化することが可能です。以下では処遇改善加算を算定する際のポイントについて解説します。
複数の事業所を有する事業者は処遇改善計画書等を事業者(法人)単位で一括で作成することが可能です。
ただし、事業所によって提出先が異なる場合は、処遇改善計画書の「提出先」項目の書き換えをおこなう必要があります。
処遇改善計画書について、同一法人内の事業所数が10以下の介護サービス事業者等においては、基本的なフォーマットとは異なる形式の書類を用いて提出をおこなうことが可能になる見込みです。
詳細なフォーマットについては2024年3月4日現在公開されていませんが、複数の事業所を管理する事業者に向けた施策であるため、書類の作成を管理的におこなえるものであることが期待できます。
2024年3月時点で旧3加算を未算定の事業所が6月以降に新加算を算定する場合、処遇改善計画書を基本的なフォーマットのものより簡易的なものを用いて作成することが可能です。ただし、算定する新加算がⅢまたはⅣの場合に限られます。
また、このフォーマットを用いて処遇改善計画書を作成した場合、実績報告についても簡易的なフォーマットを用いて作成が可能です。
参考:厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1209」P44 別紙様式7-1
今回の厚生労働省からの公表によって新たな処遇改善加算の算定要件や詳細なルールが明らかになりました。とくに加算を算定するための書類の提出期限が明らかになったため、算定を検討する事業者は速やかに対応を進めましょう。
また、今回の公表では事務負担の軽減を目的として、申請手続きが簡略化されたポイントも存在します。今までは手続きの煩雑さから算定をしていなかったという事業所でも算定を検討してみる価値はあるといえるでしょう。