介護サービスでは、身体的な衰えだけではなく病気や障害を持っている利用者も多く、転倒、誤嚥、紛失・破損などの事故が起こりやすい状況です。
そうした中で、事業所や施設で対応にあたる職員数には限りがあるため、事故を完全になくすことは難しいかもしれません。施設内で起きた一つのミスが大きな事故につながり、信用を失ってしまうリスクもあります。
しかし、一定の対策をおこなうことによって介護現場での事故を未然に防ぐことができます。
介護施設における安全管理の取り組みを推進するために、安全管理体制未実施減算と呼ばれる減額制度があります。これは、事故防止策の不備や適切な緊急体制の欠如など一定の基準を満たせていない時に適用されます。
今回は、安全管理体制未実施加算の概要や対象、算定要件などについて詳しく解説します。
目次
安全管理体制未実施減算とは、施設系サービスにおいて遵守しなければならない運営基準における事故の発生又は再発を防止するための措置が講じられていない場合に受ける減算です。
安全管理体制未実施減算の対象事業者は以下の通りです。
- 介護老人福祉施設
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 介護医療医院
- 特定施設
安全管理体制未実施減算に該当する事業所は、介護老人施設で1.5%、老人保健施設で5.6%となっています。いずれの施設においても、減算対象はわずかであり、多くの介護施設で組織的に安全対策やリスクマネジメントができる体制が整われていることがわかります。
安全管理体制未実施減算:5単位/日
単位数は、施設種別を問わず、5単位/日となっています。1日単位で減算されるので、全利用者が毎日減算を受けると、かなり大きな金額となります。
以下の4つの要件をすべて満たさないと、安全管理体制未実施減算の対象となります。
- 事故発生防止のための指針の整備
事業所では、介護事故を未然に防ぐためのガイドラインや、介護事故が発生した際の対応手順などを整備する必要があります。- 事故が発生した場合等における報告と、その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制の整備
事業所では事故・ヒヤリハットについて状況、背景等を記録し報告します。発生時の状況等を分析して、介護事故の発生原因、結果等を取りまとめ、防止策を検討します。
報告された事例と分析結果を職員に周知徹底し、同じ事故が繰り返されないように防止策を取ります。
また、自治体への報告対象事故の場合は、速やかに所定様式での報告をおこなわなければなりません。- 事故発生防止のための委員会及び従業者に対する研修の定期的な実施
事業所では事故発生防止委員会を定期的に開催し、施設内での事故を未然に防止したり、再発防止策を検討したりしながら、発生した事故に対して速やかに対応できる体制を取ります。
また、事故発生防止委員会を中心として、事故発生防止のための職員研修をおこなう必要があります。研修内容や出席者を記録して保管しなければなりません。- (1)~(3)の措置を適切に実施するための担当者設置
事業所では、安全対策担当者を設置して(1)~(3)を適切に実施していくことが求められます。
安全対策担当者は、特に選定の基準はなく施設の判断に委ねられています。介護職と兼務でおこなうことも問題ありません。しかし、安全対策担当者となった職員は、外部のリスクマネジメントに係る研修(安全管理者研修)を受けることが望ましいです。
参考:沖縄県「事故発生防止のための指針」
外部研修としては、関係団体(公益社団法人全国老人福祉施設協議会、公益社団法人、全国老人保健施設協会、一般社団法人日本慢性期医療協会)等が開催する以下のような内容を含む研修があげられます。
- 介護現場における事故の内容
- 事故発生防止の取り組み
- 事故発生時の対応
- 施設のマネジメント等
オンライン開催もありますので、関係団体のホームページをご確認しましょう。
今回は、利用者の事故防止を強化する目的で新設された安全管理体制未実施減算について紹介しました。
介護現場では、転倒や転落などの事故が多くなります。けがの危険性だけではなく、場合によっては利用者の命に関わる事態になることを事業所全体で周知徹底し、防止していくことが大切です。
安全対策担当者を中心に、施設での安全対策体制を強化していくことが求められます。減算を防ぐためにも、利用者の安全確保を意識した体制を整えていきましょう。