介護をおこなう際、オムツやカテーテルに頼らず、可能な限り自分の力で排せつをすることは、利用者の尊厳や自尊心を守るために重要です。そして、介護保険施設は自立した排せつを促進することによる自立支援を求められています。
今回は排せつの自立を促進するために設けられた加算「排せつ支援加算」について、算定要件や取得時のポイントなど、わかりやすく解説します。
目次
2024年度の介護報酬改定において排せつ支援加算の大きな変更点が3つありました。
- 尿道カテーテルの抜去を評価
2024年の報酬改定から、尿道カテーテルの抜去も評価項目として加わりました。排せつに関する医療的ケアを減らすことも重要な視点となります。- 評価頻度の見直し
医師または看護師による評価頻度が「6ヵ月に1回」から「3ヵ月に1回」に変更。他のLIFE関連加算も含め、同じタイミングでの評価ができるようになりました。- 加算様式の統一化
LIFEデータベースへの入力項目が見直され、他の加算と共通する項目の見直しなどがおこなわれました。入力作業が簡略化し、加算算定時の業務負担が軽減されました。
今回の改定で、最も大きな変更点が、LIFEデータベースへの入力頻度です。この変更内容に焦点を当てて詳しく解説します。
排せつ支援加算はLIFE関連加算のひとつです。LIFE関連加算とは、国が掲げる科学的介護の方針のもと、LIFEというデータベースへの情報入力やフィードバックを通して、自立支援を促進する事業所が算定できる各加算のことを言います。
もともと複数のLIFE関連加算を同時に取得する場合、データ提出時期が異なることで煩雑な作業が発生し、それが大きな業務負担となっていました。2024年の報酬改定では、排せつ支援加算や自立支援促進加算などのLIFE関連加算の提出頻度が「3ヵ月に1回」に統一されました。
前月にADLを含めた評価を実施し、当月の10日までに、計画書とデータを提出することになりました。これを3ヵ月ごとのサイクルで繰り返します。排せつ支援加算と同様にLIFE関連加算としてデータ提出が求められている加算は以下の通りです。
- 科学的介護推進体制加算
- ADL維持等加算
- 個別機能訓練加算
- リハビリテーションマネジメント計画書情報加算
- リハビリテーションマネジメント加算
- 理学療法、作業療法及び言語聴覚療法に係る加算
- 褥瘡マネジメント加算
- 褥瘡対策指導管理
- 排せつ支援加算
- 自立支援促進加算
- かかりつけ医連携薬剤調整加算
- 薬剤管理指導加算
- 栄養マネジメント強化加算
- 栄養アセスメント加算
- 口腔衛生管理加算
- 口腔機能向上加算
LIFEに関連する加算は種類が非常に多く、管理や入力は大変な労力が必要です。提出頻度の統一化により、情報入力などの業務効率が向上し、加算を取得しやすくなりました。また、入力項目が共通化されたため、同一項目の記録が簡素化されています。トータルで利用者の状態改善の評価がしやすくなり、自立支援につながる効果も期待されます。
排せつ支援加算は、排せつの自立支援をおこなうことにより、介護施設で生活する利用者の生活の質(QOL)向上を目指すための加算です。
この加算の目的は、利用者ができるだけ医療的ケアを必要とせずに、排せつの自立を維持し、日常生活を送ることにあります。具体的には、排尿や排便の自立支援、おむつの削減等をおこなうことで、利用者の身体的・精神的負担を軽減します。
介護職員が排せつの世話をすることによる手間を評価する加算ではありません。排せつをより自立に近づけるための取り組みを評価する加算であることを理解しましょう。国が目指す自立支援介護という方向性により、排せつ支援加算がますます注目されています。
排せつ支援加算を算定できるサービス種別は以下の通りです。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
- 介護老人保健施設
- 介護医療院
- 看護小規模多機能型居宅介護
看護小規模多機能型居宅介護は2021年4月から算定対象となりましたが、小規模多機能型居宅介護は対象外ですので注意しましょう。これらの施設では、利用者の排せつ状況を評価し、状況に合わせた支援計画を作成・実施することで加算が適用されます。
排せつ支援加算には、支援の成果や利用者の状態に応じて、区分(Ⅰ)・(Ⅱ)・(Ⅲ)に分類されます。それぞれの区分について、単位数と算定要件を解説します。
区分 | 単位数 | 算定要件 |
排せつ支援加算(Ⅰ) | 10単位/月 | イ) 排せつに介護を要する入所者等ごとに、要介護状態の軽減の見込みについて、医師又は医師と連携した看護師が施設入所時等に評価するとともに、少なくとも3月に1回、評価をおこない、その評価結果等を厚生労働省に提出し、排せつ支援に当たって当該情報等を活用していること。 |
排せつ支援加算(Ⅱ) | 15単位/月 | 排せつ支援加算(Ⅰ)の算定要件を満たしている施設等において、適切な対応をおこなうことにより、要介護状態の軽減が見込まれる者について、
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排せつ支援加算(Ⅲ) | 20単位/月 | 排せつ支援加算(Ⅰ)の算定要件を満たしている施設等において、適切な対応をおこなうことにより、要介護状態の軽減が見込まれる者について、
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3つの区分の違いですが、(Ⅰ)は施設における体制が整備されていることが加算の算定要件となっています。これに対して、(Ⅱ)及び(Ⅲ)の区分はアウトカム評価と呼ばれ、対象者の排せつ改善状況が改善されることで算定できる区分です。どちらも、(Ⅰ)の要件を満たしていることが条件となります。
(Ⅱ)と(Ⅲ)の違いは、(Ⅱ)では、3つの項目のいずれかを満たすことが要件なのに対し、(Ⅲ)では、2つの要件いずれかを満たした上で、対象者がおむつ使用ありから使用なしに改善していることが要件となっています。混同しやすい項目なので、正確に理解をしましょう。
排せつ支援加算を算定するためには、排せつ支援にチームとして取り組むことが必要です。以下のフローチャートに沿った運用が必要です。
まず、入所時等に医師または医師と連携している看護師が利用者の排せつ状態を詳細に評価します。「排せつの状態に関するスクリーニング・支援計画書」のフォーマットを活用し、医療的に排せつ支援の必要性を確認します。
具体的には以下のような項目を確認し、現在の状態と3ヵ月後に改善する見込みを記載します。
- 排尿の状態
- 排便の状態
- おむつ使用の有無
- ポータブルトイレの使用の有無
この評価は、入所する全利用者を対象におこなわれます。
医学的な評価に基づき、利用者の個別的な支援計画を作成します。作成時には、医師または看護師、ケアマネジャー、及び対象となる利用者を把握している介護職員を含めた多職種で検討します。その他、疾患や薬剤・食生活・生活機能の状態等に応じて、薬剤師・管理栄養士・理学療法士・作業療法士等もメンバーに加わります。
多職種の視点で課題を分析し、各種ガイドラインに沿って、排せつの自立に向けた支援計画を作成します。作成した計画書は、利用者本人と家族の同意を得て決定します。
施設等では、作成した排せつ支援計画に沿ったケアを提供します。排せつの改善状況によって、算定する排せつ支援加算の区分が異なります。そのため、日々のケアを実践しつつ、目標の達成状況を確認することが重要です。
排せつの状況や利用者の状態を踏まえ、支援計画の見直しをおこないます。少なくとも3ヵ月に1回、支援計画を見直します。排せつ支援の結果は厚生労働省にLIFEデータとして提出し、支援の進捗や適切性を報告します。
このように、計画・実施・評価・見直しというPDCAサイクルを回しながら排せつの自立を目指していくのが排せつ支援加算のフローとなっています。
排せつ支援加算について、2つの質問に回答します。加算算定のためには、より深く排せつ支援加算を理解することが必要です。
排せつ支援計画の対象は、要介護認定調査に用いられる「認定調査員テキスト2009改訂版(平成30年4月改訂)」を参考にして判断します。具体的には排尿・排便に関する一連の動作の実施において「一部介助」または「全介助」と判定される利用者です。
排尿に関する一連の動作
- 排尿動作(ズボン・パンツの上げ下げ、トイレ、尿器への排尿)
- 陰部の清拭
- トイレの水洗
- トイレやポータブルトイレ、尿器等の排尿後の掃除
- オムツ、リハビリパンツ、尿とりパッドの交換
- 抜去したカテーテルの後始末
排便に関する一連動作
- 排便動作(ズボン・パンツの上げ下げ、トイレ、排便器への排便)
- 肛門の清拭
- トイレの水洗
- トイレやポータブルトイレ、排便器等の排便後の清掃
- オムツ、リハビリパンツの交換
- ストーマ(人工肛門)袋の準備、交換、後始末
改善の判断基準としては、先に上げた排尿及び排便に関する一連の動作のうち、いずれかの動作で自立に近づいたかを判断基準とします。排せつ動作のそれぞれの項目を「介助されていない・見守り等・一部介助・全介助」に分類し、その自立度が改善しているかを確認します。
例えば、排尿後のリハビリパンツの交換が、もともと全介助だったものが一部介助になれば、改善とみなすことができます。全介助の項目が多い利用者は、まず1点集中でアプローチ効果の大きい動作から改善を目指すことが必要です。
排せつ支援加算に関する2つの質問に回答しました。
排せつ支援に取り組むことで、利用者の自立を促進するだけでなく、自尊心の向上など、大きな効果を得ることができます。
2024年の報酬改定でLIFEデータ提出のタイミングが統一され、業務の効率化が図られたことにより、算定のハードルは大きく下がっています。排せつ支援加算を正確に取得するため、算定フローチャートを活用し、利用者の状態に応じた支援をすることが重要です。
正しく制度を理解し、排せつ支援加算を取得していない施設等は(Ⅰ)からの取得を、既に取得している施設等はより高い区分で取得できるように目指しましょう。