介護老人保健施設は在宅復帰の拠点として重要な役割を担う施設です。病院と在宅・地域生活との中間施設として、利用者に適切な医療・リハビリテーションを提供します。かつては介護老人保健施設からの在宅復帰率の低さが指摘されていましたが、介護老人保健施設の機能分化により、在宅復帰を促進する施設の割合が増え、地域包括ケアシステムに大いに貢献しています。
利用者の在宅復帰をさらに促進するため、介護老人保健施設には、在宅復帰・在宅療養支援機能加算が設けられています。
今回は介護老人保健施設を対象とした在宅復帰・在宅療養支援機能加算について、概要や算定要件などの詳細を解説します。
目次
在宅復帰・在宅療養支援機能加算は、利用者の在宅復帰や在宅療養を支援するために介護老人保健施設が持っている機能を評価する加算です。
介護老人保健施設は、本来、病院からの在宅復帰を目指すための中間施設として位置づけられ、2018年の介護報酬改定では介護老人保健施設の機能分化が進むとともに、在宅復帰を積極的に促進する施設が増えてきました。そのひとつの要因となったのが在宅復帰・在宅療養支援機能加算です。
在宅復帰・在宅療養支援機能加算は、介護老人保健施設の持つ在宅復帰・在宅療養支援機能を評価し、スコア化します。そのスコアと基本報酬を加えたものを加算として得られる仕組みとなっています。在宅復帰を促進する機能が充実している施設ほど評価を獲得でき、大きな報酬を得ることができます。
在宅復帰・在宅療養支援機能加算の対象施設は以下の通りです。
- 介護老人保健施設
- (介護予防)短期入所療養介護 ※介護老人保健施設が提供する場合のみ
介護老人保健施設は対象利用者が要介護の利用者に限定されているため介護予防(要支援)では加算算定ができませんが、短期入所療養介護は要支援の方も利用ができるため、介護予防短期入所療養介護も対象となり、介護予防在宅復帰・在宅療養支援機能加算が算定可能です。
在宅復帰・在宅療養支援機能加算の単位数と算定要件について、詳しく解説します。
在宅復帰・在宅療養支援機能加算は、(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類があります。単位数は、在宅復帰・在宅療養支援機能加算(Ⅰ)と(Ⅱ)どちらも51単位/日です。
在宅復帰・在宅療養支援機能加算は以下の評価項目のスコアの合計によって加算の算定可否が決まります。
- 在宅復帰率
- ベッド回転率
- 入所前後訪問指導割合
- 退所前後訪問指導割合
- 居宅サービスの実施数
- リハ専門職の配置割合
- 支援相談員の配置割合
- 要介護4,要介護5の割合
- 喀痰吸引の実施割合
- 経管栄養の実施割合
在宅復帰・在宅療養支援機能加算(Ⅰ)と(Ⅱ)では算定要件となるスコアの点数が異なります。(Ⅰ)よりも(Ⅱ)の方が厳しい基準となっています。2024年の介護報酬改定により、以下の3点で算定要件が厳格化されています。
介護報酬改定は2024年6月から実施されていますが、6か月間は経過措置として、これまでの基準のもと、介護報酬を算定できます。
超強化型の介護老人保健施設だけが算定できる在宅復帰・在宅療養支援機能加算(Ⅱ)は、在宅復帰を促進するため、非常に厳しい条件が課せられていることがわかります。
今回の報酬改定で、基準を満たすことができなくなった介護老人保健施設も多いと思われます。加算を今後も算定し続けるために、正しく算定要件を理解し、新しい基準に対応していくことが求められます。
また、短期入所療養介護の算定要件については、介護老人保健施設の算定基準に準ずることとなっています。ショートステイ利用者の職員配置や要介護4・要介護5の割合などのスコアを独自に算出するのではなく、介護老人保健施設の施設サービスでの指標に応じて算定できるようになっています。
参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
在宅復帰・在宅療養支援機能加算を算定するためには、指定権者である都道府県(政令指定市の場合は市)に書類を提出します。以下の書類提出が必要です。
- 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書
- 在宅復帰・在宅療養支援機能加算に係る届出書
- 従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表
また、加算算定には厚生労働省が定めた基準をクリアしているか確認する必要があります。在宅復帰率やベッド回転率など、10の指標についてチェックをし、採点するためのチェック表・点数計算表などが自治体ホームページに掲載されています。施設内で確認し、条件を満たしているか確認することが必要です。
自治体によっては独自の届出書などを提出する場合もあります。詳細は管轄の自治体のホームページに掲載されていますので、必要な手続きを確認しましょう。チェックリストや計算書などは必ず保管するとともに、その根拠となる記録や情報なども適切に保管しておく必要があります。指導監査などによって指摘される可能性も大きく、返戻になった場合は金額も大きくなることが確実ですので、特に注意が必要です。
在宅復帰・在宅療養支援機能加算に関して、よくある質問を紹介します。
在宅復帰在宅療養支援等評価指標として算出される数が報酬上の評価における区分変更を必要としない範囲での変化等、軽微な変更であれば毎月の届出は不要である。
引用:厚生労働省「平成 30 年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)」
加算(Ⅰ)(Ⅱ)などの区分の変更などが必要ない場合は、提出は不要としています。個々のスコアが変わったとしても、加算算定に必要な基準を下回ることがなければ、毎月提出する必要はありません。
要件を満たさなくなった場合、その翌月は、その要件を満たすものとなるよう必要な対応を行うこととし、それでも満たさない場合には、満たさなくなった 翌々月に届出を行い、当該届出を行った月から当該施設に該当する基本施設サービス 費及び加算を算定する。なお、満たさなくなった翌月末において、要件を満たした場 合には翌々月の届出は不要である。
引用:厚生労働省「平成 30 年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)」
要件を満たさない月があったとしても、直ちに取り下げるのではなく、基準を満たすために必要な対応をおこなうことを求めています。すぐに加算が取り消されるのではなく、その基準を満たすことができるように猶予も与えられています。与えられている猶予期間のうちに改善し、従来通りの加算を算定できる体制を整えることが重要です。
- 介護保健施設サービス費(Ⅰ)においては,届出が受理された日が属する月の翌月(届出が受理された日が月の初日である場合は当該月)から算定を開始するものであり,「算定日が属する月の前6月間」又は「算定日が属する月の前3月間」とは,算定を開始す る月の前月を含む前6月間又は前3月間のことをいう。
- ただし,算定を開始する月の前月末の状況を届け出ることが困難である場合は,算定を開始する月の前々月末までの状況に基づき前月に届出を行う取扱いとしても差し支えな い。
- なお,在宅復帰・在宅療養支援機能加算及び介護療養型老人保健施設の基本施設サービ ス費についても同様の取扱いである。
引用:厚生労働省「平成 30 年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)」
加算は届出が受理された日が属する月の翌月から算定されるため、算定を開始する月の前月を含む6ヵ月または3ヵ月を対象とします。10月から加算を算定開始する場合は、9月に届出を提出するので、6ヵ月を期間とする場合は、4月から9月が対象となります。
地域包括ケアシステムにおいて、病院と在宅をつなぐ介護老人保健施設の役割はますます重要性を増しています。在宅復帰・在宅療養支援機能加算は、介護老人保健施設が在宅復帰を強化するきっかけのひとつとなり、在宅復帰・地域連携が加速しています。算定要件は細かく、厳しい基準が多く、これをクリアし続けることは容易なことではありません。施設のサービスの質を高めつつ、病院・地域との連携を強化していくことが必要です。
加算算定につながる取り組みをおこなうことで、在宅復帰の機能を強化し、実績を積み上げることが、結果として病院やケアマネジャー等からの信頼につながるでしょう。すべての施設が在宅復帰を強化しているわけではなく、加算を目的に運営をしない施設もあります。しかし、条件が揃い、算定できれば大きな収益となるでしょう。常に加算を意識しておくことで、大きな報酬を取り逃がさないようにしましょう。