近年、在宅で生活する高齢者の医療ニーズが増大しています。頻回なたん吸引が必要な利用者や、胃ろうなどによる経管栄養を利用する医療依存度の高い利用者が増えています。高齢者の増加などにより、病院・施設などの社会資源が不足し、在宅が受け皿になっていることが原因にあります。もちろん、在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションの増加により、在宅療養環境は整備されつつあります。
しかし、まだまだ十分とは言えません。日常的に頻発する喀痰吸引等の医療的なアプローチを、医療職・看護職以外でも実践できることが求められています。そこで、訪問介護の職員に医療行為を習得させることが必要になったのです。医療依存度の高い状況でも、在宅で暮らし続けられるような状況に対応するために設置されたのが、看護・介護職員連携強化加算です。
目次
まず、看護・介護職員連携強化加算について、概要を解説します。この加算は、在宅で生活する喀痰吸引等が必要な利用者に対して、訪問介護職員による適切な医療的ケアが実施できるようになることを目的とした加算です。
介護職員でも実務者研修以上の研修カリキュラムを習得している場合は、喀痰吸引等の実技指導は習得しています。ただし、利用者の特徴やその環境に応じた対応方法など、実践的な能力としては不十分な面があり、介護職員自身も医療行為に対して不安を感じています。それを補うための事業所連携が必要となります。看護・介護職員連携強化加算では、訪問看護ステーションの看護師または准看護師が連携し、喀痰吸引等を必要とする利用者に対して適切な医療行為をおこなえるように、訪問介護職員に手技や注意点の指導をおこないます。
訪問看護師の訪問時だけでなく、訪問介護スタッフの訪問で医療的ケアが適切におこなえれば、利用者の生活の質は大きく向上し、在宅介護をおこなう家族の介護負担も軽減されます。訪問看護ステーションと訪問介護事業所の連携により、適切な医療的ケアが実践されることが求められています。
このような経緯から2012年の介護報酬改定で看護・介護職員連携強化加算が制度化され、その後2018年には診療報酬の改定によって診療報酬でも同加算が位置付けられました。
看護・介護職員連携強化加算の対象となる医療的ケアについて解説します。法令等では「喀痰吸引等」という言葉を一般的に使用していますが、具体的には以下の業務を意味しています。
対象 | 業務 |
たんの吸引 |
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経管栄養 |
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これらはもともとは医療行為であり、医療職以外がおこなうことは許可されていませんでした。しかし、在宅での医療ニーズの高まりとともに、一定の研修を受けた介護福祉士等でも実施できる行為となり、現在は医療的ケアとして位置付けられています。法令等では「喀痰吸引等」という用語を用いています。
介護福祉士実務者研修のカリキュラムに含まれており、受講生はシミュレーターなどを用いてたん吸引や経管栄養の手技を学んでいます。職員自身が都道府県から認定特定行為業務従事者認定証を受け、登録特定行為事業者として事業者が認定を受ければ実施できるようになりました。
しかし、訪問介護の業務でこれらの医療的ケアをおこなう機会は限られており、経験や技術が圧倒的に不足しています。さらに感染対策やトラブル時の対処法など、非常にリスクの大きな業務でもあり、バックアップ体制が不十分な状況でおこなうことには不安も大きい業務です。介護職員の不安を軽減し、安心して医療的ケアを行える体制づくりのために、これらの業務のサポートが重視されています。
介護保険と医療保険、看護・介護職員連携強化加算はどちらの制度にも位置付けられている加算です。その違いについてまとめます。
どちらの制度であっても、基本的に算定要件などは変わりありません。算定要件は以下の通りとなっています。
算定要件の詳細については後の章で詳しく解説します。
看護・介護職員連携強化加算算定のために、特別な届出等をおこなう必要はありません。ただし、看護・介護職員連携強化加算を算定するためには、介護保険では緊急時訪問看護加算、医療保険では24時間対応体制加算の届出が前提として必要です。これらの体制整備・届出ができていない場合は算定ができません。都道府県が窓口になりますので、都道府県のホームページから必要書式を入手し、書類を提出しましょう。
介護保険と医療保険の関係について説明します。介護保険と医療保険どちらにも看護・介護職員連携強化加算がありますが、訪問看護はいずれかの保険でしか算定できません。訪問看護の保険算定は基本的には介護保険が優先されます。ただし、医療保険が優先される場合もあります。医療保険が優先されるケースは、以下のパターンに限定されます。
保険の適用条件、切り替えの条件などに関してはしっかり把握しておきましょう。次の章では看護・介護職員連携強化加算の単位数と対象者についての詳細を解説します。
看護・介護職員連携強化加算の単位数と対象者について解説します。
看護・介護職員連携強化加算の単位数は、以下の通りとなっています。
介護保険 | 医療保険 | |
看護・介護職員連携強化加算 | 250単位/月 | 2,500円/月 |
加算が発生するのは、月単位となります。同行訪問を実施した月の初日の訪問看護実施日に算定することになります。
例えば、訪問看護ステーションが4月1日、8日、15日、22日、29日に訪問看護サービスを提供し、4月18日に訪問介護事業所と同行訪問し、喀痰吸引等の指導・連携を行ったとします。この場合、加算の算定は同行訪問した4月18日ではなく、当月の初回の訪問看護実施日となるため、4月1日が対象日となります。4月1日の訪問時の加算として看護・介護職員連携強化加算を加え、請求をおこなうルールとなっています。
看護・介護職員連携強化加算の対象者は、喀痰吸引等の医療的ケアが必要な利用者です。なおかつ、訪問看護のサービスを利用しており、緊急時訪問看護加算等を算定していることが条件となります。
また、対象者は要介護認定を受けていることが条件となります。要支援認定(介護予防訪問看護)の場合は、該当する加算がなく、加算算定ができないため注意しましょう。看護・介護職員連携強化加算の単位数と対象者について解説しました。次の章では具体的な算定要件を解説します。
看護・介護職員連携強化加算の算定要件の詳細を解説します。算定に当たって必要な4つの要件は以下の通りです。
これらについて具体的なポイントを解説していきます。
加算の算定のためには、喀痰吸引等の医療的ケアについて、円滑な実施のための助言をおこなわなければいけません。連携対象は医療職ではなく、介護職員です。医療職同士の連携とは異なります。介護職でもわかりやすいように説明・指導することが必要です。医療用語の使用なども配慮した方が良いでしょう。
また、対象者や環境に応じた具体的な指導が必要です。介護職員は、疾患についての基礎知識なども不足している場合があります。それらを補いつつ、必要な手技の説明やリスクなどを説明していけると良いでしょう。どんな状態だったら連絡してほしい、救急対応が必要、などの基準もわかりやすく伝えておくと良いでしょう。
看護・介護職員連携強化加算を算定できるのは、緊急時訪問看護加算もしくは24時間対応体制加算の届出が出ている事業所のみです。
利用者には緊急時の連絡先を伝えている場合でも、訪問介護事業所には24時間対応の連絡先を伝えていない場合もあります。円滑な連携ができるように、緊急時の連絡先や連絡方法などを共有しておきましょう。
同行訪問をおこなって手技の内容を確認するだけでなく、連携のための会議にも参加します。会議には訪問介護職員・訪問介護事業所のサービス提供責任者・訪問介護事業所の管理者等などが出席することもあります。また、事業所間連携のため、ケアマネジャーが同席することなどもあります。
多忙な業務の中で出席者の日程調整をすることは大変ですが、情報共有のために重要な機会となります。
同行訪問や会議の出席に関しては記録が必要です。訪問看護記録には、実施日時、出席者、議題、決定事項など、わかりやすく記載しましょう。この記録が加算算定の根拠となります。行政による実地指導の際などにも報告できるよう、記録による透明性の確保が求められます。
以上が、看護・介護連携強化加算の算定要件です。現状、看護・介護連携強化加算を算定している事業所数は少なく、介護保険で見ると事業所ベースでは0.57%となっており、利用者ベースでは0.00%と、非常に算定率の少ない加算であることがわかります。訪問看護と訪問介護の事業所は、利用者のケアについて日常的に情報交換や連携をおこなうことが多く、密な連携が必要とされています。しかし、看護・介護職員連携強化加算に関しては算定要件が厳しく、取得が難しい加算といえるでしょう。
看護・介護職員連携強化加算を算定する際の注意点を解説します。
加算算定ができる事業所は1事業所のみです。1人の利用者が、複数の訪問看護ステーションと契約し、訪問看護のサービスを利用することもあります。A事業所では希望日時にサービス利用ができないから、B事業所ではリハビリが利用できないから、などの理由で複数の訪問看護ステーションが介入するケースがあります。複数の事業所が訪問介護事業所と連携したとしても、同一利用者に対して複数の事業所が看護・介護職員連携強化加算を算定することはできません。
もともと、緊急時訪問看護加算も複数事業所での同時算定ができません。そのため、訪問介護との連携をおこなう事業所は、対象利用者に対して緊急時訪問看護加算を算定している事業所がおこなうことが多いでしょう。複数の訪問看護事業所で対応する場合、どちらが訪問介護との連携の中心になるのか、必ず確認しておきましょう。
加算を算定するには、対象利用者が限定されなければいけません。介護職員の基礎的な技術の習得や研修を目的にした連携は対象になりません。訪問介護事業所でも定期的に技術研修をおこなうことがあり、その際の講師として訪問看護ステーション看護師等を招くこともあります。このような事業所研修は看護・介護職員連携強化加算の対象とならず、加算が算定できません。喀痰吸引等の医療的ケアが必要な利用者が特定され、その利用者宅への同行訪問が必要となります。
対象者に関する項目でお伝えしている通り、要支援の利用者は対象外です。介護予防訪問看護には看護・介護職員連携強化加算の加算はありません。要支援の認定を受けている方でも、医療依存度の高い方はいますが、加算自体がないため必要な要件をすべて満たしたとしても算定できません。
医療的ケアが継続的に必要な場合、頻回な訪問看護や訪問介護によるサポートが求められます。認定が要介護になる可能性があれば、担当の地域包括支援センターやケアマネジャーと相談して認定の区分変更申請を検討することをおすすめします。
看護・介護職員連携強化加算に関する質問に回答します。
看護・介護職員連携強化加算は訪問看護を実施していない月は算定できません。加算の算定対象は、同行訪問を実施した月の初日の訪問看護実施日であるからです。例えば、3月まではスケジュール通りに定期的訪問実施。4月3日に訪問介護職員と同行して訪問し、連携・指導。4月の初回訪問予定が4月5日だったものの、4月4日に入院し、そのまま退院することなく、4月の訪問看護提供実績なし。この場合は、加算算定対象となる初日の訪問看護がないため、連携の実績があっても加算算定ができません。
また、5月29日に退院した利用者で、5月30日に訪問看護事業所と同行訪問、6月になってから初回訪問という場合も5月中に訪問看護の実績がないために加算算定ができません。同行訪問の同一月内に訪問実績がなければ算定できませんので、月を意識して、訪問日の調整を行いましょう。
看護・介護職員連携強化加算が算定できるのは看護職員のみです。訪問看護ステーションには、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリハビリテーションスタッフの配置・訪問も認められています。理学療法士等もたん吸引をおこなうことは業務上認められていますし、訪問時にたん吸引が必要な際には実施できます。
ただし、連携に関しては理学療法士等のリハビリテーションスタッフがおこなうことは認められません。看護職員のみが対象になる加算であることを理解しましょう。
同行訪問した場合、通常の訪問看護の実績として訪問看護費が請求できるのかという質問です。厚生労働省のQ&Aではこのような回答が記載されています。
算定できる。ただし、手技の指導が必要な場合に指導目的で同行訪問を行った場合は、訪問看護費は算定できない。この場合の費用の分配方法は訪問介護事業所との合議により決定されたい。
介護職員へ指導することだけが目的の訪問では訪問看護費は算定できません。ケアプランや指示書に基づいて必要なケアを実施した場合のみ算定対象となります。介護職員の訪問に続けて必要なケアをおこなう場合などは通常の訪問看護費として算定できます。また、複数事業所での同一時間帯の訪問は算定ができないため、どの時間からどの時間までを訪問介護で、どの時間からを訪問看護で請求するのかを確認し、ケアマネジャーに報告することが必要です。
緊急時訪問看護加算の届出は出しているものの、対象利用者が緊急時訪問看護を算定していない場合は算定できるのか。この質問に対して、厚生労働省のQ&Aはこのように回答しています。
緊急時の対応が可能であることを確認するために緊急時訪問看護加算の体制の届け出をおこなうことについては看護・介護職員連携強化加算の要件としており、緊急時訪問看護加算を算定している必要はない。
つまり、届出が出ていることは要件だが、対象の利用者が緊急訪問看護加算を算定しているかどうかは問わないということです。緊急時の対応が必要と思われるケースであったとしても、連携強化加算のために無理に緊急訪問看護加算を求める必要はありません。
看護・介護職員連携強化加算について解説しました。お伝えした通り、算定率が非常に低く、あまり注目されることのない加算です。対象者が限定され、加算で取得できる単位数自体も250単位とそれほど大きな収益増にはつながりません。
ただ、訪問介護事業所との連携は今後ますます重要になっていきます。医療・看護に関する社会資源が潤沢にあるわけではない現状から、看護・介護の連携は地域包括ケアシステムにおいてますます重要性を増してきます。
訪問介護事業所とのネットワークは強固にしておくことが必要です。
今後、在宅でも医療依存度の高い利用者はますます増えてくるでしょう。
医療依存度の高い利用者に、訪問介護事業所と連携しながら対応する際には、この加算の算定する可能性がないか、確認しておくと良いでしょう。