2024年の介護保険報酬改定では4月1日から算定開始の報酬と、診療報酬の改定に合わせた6月1日から算定開始となる報酬の2種類あります。
今回は訪問看護における訪問看護事業所、看護小規模多機能型居宅介護で算定可能な「専門管理加算」について解説していきます。
目次
専門管理加算は、医療ニーズの高い利用者の増加に伴い、適切で質の高い訪問看護を提供するために、専門性の高い看護師による計画的な管理を評価するために新設された加算です。
その目的は、医療と介護の連携の推進であり、在宅による医療ニーズへの対応の強化です。次の項目で加算が新設された経緯などを見ていきましょう。
専門管理加算は専門的なケアのニーズが高い利用者への対応を論点として、以下のような議論がおこなわれてきました。
- 介護保険の訪問看護利用者の中には、「新生物」「循環器系の疾患」など重篤な症状を抱えている人が増加傾向にある
- 介護保険の訪問看護では、褥瘡処置や人工肛門などの管理及び終末期の緩和ケアなどが実施されている
- 2022年度の診療報酬改定で、「専門管理加算」が新設された。そのため専門性の高い看護師による訪問看護が評価されるようになった
- 医療的ニーズを持つ利用者の増加により、適切で質の高い訪問看護をおこなうにはどのような対策をおこなっていけばよいのか
このような議論がおこなわれてきました。
その対応策として「訪問看護において専門性の高い看護師を対象に、指定訪問看護の実施に関する計画的な管理を評価してみては?」と結論が出ました。
この流れが専門管理加算新設の経緯です。
専門管理加算は、質の高い訪問看護のさらなる充実を図るため「専門性の高い看護師」が利用者の病状に応じた高度なケアや管理の実施などの算定要件を満たした場合に加算されます。
訪問看護ステーションで緩和ケアなど終末期などに特化した専門の研修を受けた看護師もしくは、特定行為研修を修了した看護師が利用者に対し月に1回以上など訪問看護を定期的に提供し、かつ訪問看護の計画的な管理をおこなった場合に加算されます。
加算は月に1回限り、区分に従って訪問看護管理療養費に加算されます。次から区分の違いについてみていきます。
専門管理加算(イ)と(ロ)に加算額の違いはありません。どちらも加算額は2500円/月ですが、算定要件や対象者が異なります。また、どちらも計画的な管理をおこなったうえで算定がされます。
違いとしては、(イ)は専門的な研修を終えた看護師による計画的な管理がおこなわれた場合で、(ロ)は特定行為研修を終えた看護師が計画的な管理をおこなった場合など、算定要件が異なります。また、算定利用者が異なるなどの違いもあります。
専門管理加算の算定要件は(イ)と(ロ)で異なります。ここでは専門管理加算の算定要件などについて、詳しく解説していきます。
専門管理加算(イ)は月に1回加算され、その単位数は250単位/月です。
算定要件は、緩和ケア、褥瘡ケア、人工肛門および人工膀胱ケアに専門的な研修を受けた看護師が、計画的な管理をおこなった場合に算定がされます。
算定対象者は以下の通りです。
- 悪性腫瘍の鎮痛療法または化学療法を受けている利用者
- 真皮を超える褥瘡の状態にある利用者
- 人工肛門や人工膀胱周囲の皮膚にびらんなどの皮膚障害が持続的または反復して発生している利用者・人工肛門または人工膀胱の他の合併症を有する利用者
これらの状態にある利用者が算定対象者となります。
専門管理加算(ロ)も月に1回加算され、その単位数は250単位/月です。
算定要件は、特定行為研修を修了した看護師が計画的な管理をおこなった場合です。
算定対象者は、特定行為にかかる手順書の交付対象となった利用者に限るとされています。
特定行為は次にあげる7つが該当します。
- 気管カニューレの交換
- 胃ろうカテーテルもしくは腸ろうカテーテルまたは胃ろうボタンの交換
- 膀胱ろうカテーテルの交換
- 褥瘡もしくは慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去
- 創傷に対する陰圧閉鎖療法
- 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整
- 脱水症状に対する輸液による補正
これらの行為を利用する利用者が算定対象者となります。
専門管理加算を算定できる介護保険事業所は次の2つになります。
この2つの事業が加算の対象となります。
専門管理加算の対象となる「専門性の高い」看護師は、次にあげる看護師になります。
特定行為研修終了の看護師は、実務経験が3~5年以上ある看護師であることを想定しています。研修は指定研修期間において所定の特定行為研修を受講した看護師が該当します。
その研修内容は多岐にわたり、呼吸器関連や循環器関連、栄養にかかるカテーテル管理感染にかかる薬物投与関連などの研修を受講することになります。
多岐にわたる知識や技術を取得し、研修を修了した者が、特定行為研修修了の看護師です。
専門看護師は通算5年以上の実務研修者であり、そのうち3年以上は、専門・認定看護分野の実務研修を受けたものが該当します。看護系大学院修士課程修了者で、日本看護系大学協議会が定める、専門看護師教育課程基準の所定の単位を取得していることが条件となります。
主に学ぶ分野は様々であり、急性・重症患者看護や慢性疾患看護、がん看護や精神看護、家族支援や災害看護などになります。これらの条件を満たしたものが専門看護師となります。
認定看護師は通算5年以上の実務研修者であり、そのうち3年以上は専門・認定看護分野の実務研修をおこなってきたものが該当します。2026年度に終了する認定行為研修なしのA過程終了もしくは、2020年度より開始し特定行為研修ありのB過程を終了していることが条件となります。
A課程修了者は救急看護・集中ケアからがん放射線療法看護など、多岐にわたる分野を習得します。B課程修了者はクリティカルケアから認知症看護など、こちらも多岐にわたる分野を習得します。
A過程もしくはB過程研修を受けることで認定看護師として活動できます。
こちらはがん看護などの緩和ケアを習得した認定看護師、もしくはがん看護の専門看護師となります。緩和ケアにかかる専門の研修を受けることが必須となります。
講義及び演習において、ホスピスケア疼痛緩和ケア総論及び制度等の概要などを含んだカリキュラムを修了することで活動できます。
専門管理加算は訪問看護により、算定することができる加算です。ここでは介護保険に関する訪問看護の導入までの流れについてみていきましょう。
まず確認しておきたいのは事業所の体制や人員の確認です。訪問看護を開業するにあたって必要な人員の確保や事業所の体制が運営に適切かは確認しておきたいところです。
また、新規指定前研修を受けることが求められるため、研修の申し込みをしていない場合は申し込みを、申し込み済みの場合は研修の参加状況を確認し、確実に研修を受けておくようにしましょう。
次に指定申請をおこないます。指定申請書及び必要書類に記入をし、自治体に提出することになります。提出する必要書類はダウンロードすることで入手ができます。
主な提出書類には指定居宅サービス事業所・指定介護予防サービス事業所指定申請書や介護給付算定にかかる体制等に関する届出書、訪問看護・介護予防訪問看護事業所の指定にかかる記載事項など複数の書類の提出を求められます。
それらの書類に必要事項を記入し、記入後速やかに自治体に提出するようにしましょう。
利用者や介護支援専門員から相談を受けたら、主治医へ指示書の依頼をします。訪問看護を利用する際には主治医が提出する「訪問看護指示書」が必要です。個の発行の依頼は、主に訪問看護師やケアマネージャーが応対するのが一般的です。
訪問看護指示書の作成には1週間程度かかるため、依頼する際は速やかにおこないましょう。
訪問看護には様々な加算体制があります。そのため利用者やその家族、介護支援専門員などへ各加算算定の説明をおこない、同意を得ておくようにしましょう。利用者やその家族への説明は特にわかりやすい説明をすることが重要です。
利用者などに専門用語ばかりの説明をおこなっても、理解を得るのは難しいです。分かりやすい説明をすることで同意を得やすくなるため、親切な説明を心がけましょう。
訪問看護をおこなうにはケアマネージャーが作成をするケアプランが必要であり、ケアプランに沿って進めていくことが基本となります。そのため訪問看護を早くおこなうためにもケアプランの作成の依頼は速やかにおこない、必要書類を揃えましょう。
ケアプランなどの必要書類の準備ができ次第、利用者やその家族へ説明をおこないます。この際も専門用語はなるべく使用せず、分かりやすい説明をすることで利用者やその家族の同意を得やすくなるため、説明をおこなう際は丁寧なものになるように心がけましょう。
訪問看護を開始したら利用者への支援の実施および、報告書の作成をおこないます。
そして定期的にサービス担当者会議を開き、実際におこなってきた支援の説明や、支援をしたことで得た成果・課題について確認し、ケアプランの変更などは必要かの確認をおこないます。
担当者会議を開いた時は利用者の希望だけでなく、家族の要望も確認し、それに合わせたケアプランの作成や実施ができるようにしましょう。
専門管理加算を算定することで得られるメリットはたくさんあります。ここでは主なメリットについて紹介していきます。
利用者はなるべく自宅での支援を希望していることが多いため、自宅で受けることのできる訪問看護などのニーズは増加しています。そのなかには緩和ケアなど病状の重い利用者もいます。
そのため専門性の高い看護師による訪問看護が必要とされており、医療依存度の高い利用者であったとしても、適切な対応ができるようになりました。
日本の高齢化が進むとともに、多くの人が重度の要介護状態になった場合でも、住み慣れた地域での生活を希望しています。現在、住み慣れた地域で自分らしい生活が送れるように住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現しています。
特に認知症患者の地域での生活を支えるために地域包括ケアシステムの構築は重要なものとなっています。
地域包括ケアシステム実現のためにも、訪問看護との連携は重要です。重度の要介護状態の人を支援するためにも、専門的な知識や技術を持つ訪問看護師は重要であり、専門管理加算の算定はケアシステムの維持にも大切な役目を担っています。
専門管理加算の算定をおこなうことで事業所としても実績につながるだけではなく、事業所の収入の増加と収益の安定につながります。収益が安定することでサービスの質も向上するため、専門管理加算の算定は質の良い訪問看護をおこなううえでも重要な役割を担っています。
専門管理加算の算定をしたくても、分からないことが多くて困っている事業所もあるでしょう。そこでここでは主な困りごとについて紹介していきます。
主に次にあげる研修内容が該当します。
これらの研修を修了することが条件となります。
問題ありません。ただし、専門管理加算を算定する月に、専門性の高い看護師が1回以上指定訪問看護を実施していることが条件です。
その通りです。イまたはロのいずれかを月1回限り算定することが求められます。
【具体例】
褥瘡ケアに係る専門の研修を受けた看護師と、特定行為研修を修了した看護師が、同一月に同一利用者に対して、褥瘡ケアに係る管理と特定行為に係る管理をそれぞれ実施した場合
専門管理加算は事業所の実績評価、収入の増加や安定のみならず、利用者が住み慣れた地域で暮らし続けることに繋がり、地域共生社会や地域包括ケアシステムの構築も担うことが出来ます。ぜひ専門管理加算を導入し、今以上に質の良いサービスの提供をしていくようにしましょう。