訪問介護事業所の特定事業所加算では、サービス提供前にサービス提供責任者からサービス利用者を担当する訪問介護員などに対して、利用者の情報やサービス提供に当たっての留意事項を文書などで伝達し、サービス提供終了後に担当した職員から報告を受けることが必要です。
これを一般的に特定事業所加算の算定要件における「指示(伝達)・報告」といいますが、満足のいく指示・報告体制が構築できていない場合や、そもそも何をどのようにおこなったらいいかわからない方もいるのではないでしょうか。
今回は、特定事業所加算の指示・報告の算定要件を効率的に満たすための方法と様式の例や注意点を解説します。特定事業所加算を継続的に運用するには細やかな注意が必要なのでぜひ最後まで読み、参考にしてください。
目次
要介護度の高い・支援が困難なご利用者に対しても、質の高い介護サービスを提供することで事業所に対して支払われる加算を特定事業所加算といいます。
なお、介護保険では「訪問介護」「居宅介護支援」の事業で加算の算定ができ、訪問介護での加算率は下記の5つです。
Ⅰ~Ⅴの分類は、どれだけ算定要件をクリアできているかで変わり、すべての要件を満たした事業所は最も加算率が高い「特定事業所加算Ⅰ」が算定できます。
*:7.または8.の要件のいずれかを満たすこと
参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」
上記のようにさまざまな要件がありますが、その中で今回は「文書等による指示及びサービス提供後の報告」について詳しく説明します。
なお、訪問介護における特定事業所加算の算定要件を詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
訪問介護の特定事業所加算を算定するための要件とは?Ⅰ~Ⅴまでの取得方法を解説
実際に下記のような内容をサービス提供の前後に必要な指示・報告をする必要があります。
サービスの提供に関して特定事業所加算の算定要件を満たすためには、サービス利用者に関する情報や留意事項について、サービス提供責任者からサービス提供の担当者に対し、サービスの提供前に伝達がおこなわれる必要があります。
サービスの提供にあたって事前に必ず伝達しなければいけない事項は以下の通りです。なお、伝達の際にはサービス利用者の変化の動向を含めて記載しなければいけません。
なお指示の伝達方法について算定要件として提示されている内容には、「文章等」と指定がされていますが、FAXやメールといった手段も利用することが可能です。
サービスの提供終了後は、サービス提供の担当者からサービス提供責任者に対して、必ず報告がおこなわれる必要があります。
また、報告を受けたサービス提供責任者は、報告内容を記録し、文章として保存しなくてはいけません。
下記のような理由から指示・報告は必要です。
介護職員からの定期的な報告を行い、サービスの透明性と内容を明確にすることで、ご利用者・ご家族から介護を行う職員だけでなく、事業所全体の信頼が深まり、より良好な関係を構築できます。
多くのご家族は、ご利用者の健康状態や普段の日常生活に対して関心が強い傾向です。そのため、定期的な報告を行うことにより、ご家族がご利用者の最新な状態や介護の状況を知ることができ、必要に応じて介護計画の調整や新たな介護サービスの追加などを提案できます。
報告義務があると、訪問介護の際に観察された健康上の問題やリスクを、早期にご家族や医療提供者に伝えられるため、必要な医療を迅速に提供でき、ご利用者の健康管理と安全を確保できます。
介護サービスは、ご利用者の状態やニーズによって随時調整・変更する必要があります。このように、ご利用者にとって必要なサービスを実施できているかの判断材料として、介護職員からの報告は介護計画の適時調整を可能にし、ご利用者それぞれに対して最適なサービスを提供するために重要です。
訪問介護を提供した後に報告することで、事業所全体のサービスの質が向上し、より質の高い介護を実施できます。
指示・報告は特定事業所加算を取得するためだけでなく、事業所全体の介護サービスを向上させるためにも重要な内容です。
しかし、上記で説明したように、実際の指示・報告内容は非常に細かいため、効率よく運用するためには下記のポイントを押さえておくことが重要です。
指示・報告する内容が各職員によって異なってしまっては、効率よく運用できません。
そのためには、事業所内において下記のようなルールを作成しておくことが大切です。
指示・報告において特定事業所加算の算定要件を満たし続けることは、簡単なことではありません。
そのため、万が一運用が守られなかった場合の対応を検討しておくことが重要です。
具体的な対応策は下記のように進めれば検討しやすくなるはずです。
ここまで紹介した内容から分かるように、特定事情所加算を運用するのに、人的管理だけでは、思ってもいなかった所でのミスが生じる場合もあります。
そのようなミスを少しでも減らすために介護ソフトやシステムを利用することは下記のように非常に有効的です。
訪問介護のサービスだけでなく、指示・報告内容でさまざまな記録を残す必要がありますが、紙に手書きで書くとなると作業量も膨大です。
しかし、介護記録ソフトを導入すると、記録の入力を省力化することができるだけでなく、入力した記録がそのまま他の書類に連動するため書類作成を効率的に行えます。
紙・ファイルで情報を管理していると、知りたい情報を探すのにどうしても時間がかかってしまいますが、介護記録ソフトに情報を入力し保管することで、整理された情報の中から、簡単に必要な情報を検索できます。
例えば、「何月何日の、このご利用者のサービス利用状況を知りたい」となっても、検索すれば知りたいデータをすぐに閲覧できます。
申し送りをする際、申し送り書などに転記をしたり、個別に連絡する必要がありましたが、介護記録ソフトを導入することで、申し送り事項を介護記録ソフト上で入力し、それを別のスタッフが確認することで申し送り・引継ぎの効率化を図れます。
特定事業所加算の運用に向けた「文書による指示およびサービス提供後の報告」は決められた様式がないため、各事業所で作成する必要があります。
作成する際は、必ずサービス提供前に介護職員へどういった指示をいつ行ったのか?また、サービス提供後に介護職員からどういった報告をいつ受けたのか?を記入する必要があります。
その他にも下記のような項目を満たしておく必要があります。
伝達の内容は、少なくとも以下の事項について、その変化の動向を含めて記載(伝達)していることが必要です。
※4は毎回必ず記載(伝達)すること(注:伝達内容が毎回「著変なし」等となっているような場合は、実質的には伝達(指示)を行っていないものとして返還(過誤)対象となる場合があります。(4以外の事項は、初回および変化があった場合のみ記載することで可)
また、伝達はサービス提供責任者がサービス提供の都度、文書等の確実な方法により伝達しなければなりません。
下記の点には注意が必要です。
報告など算定要件の不備があれば、運営指導で指摘を受け、加算の返還対象になる可能性があります。
なお、1人でも運営基準減算が見つかれば、全員分が返還になるため、数百万〜数千万円と多額の返還を求められる場合もあります。
指示・報告の算定要件を満たすためには、必ず文章等の確実な方法でおこなう必要があります。業務の多忙さから指示・報告を口頭で終わらせたくなる気持ちはわかりますが、特定事業所加算の算定要件を満たすためには、記録に残る形式で指示・報告をおこなわなくてはいけません。
なお、指示・報告の方法に指定はありません。FAXやメール、介護システムの利用などでも構いませんが、記録が残る形式で実施するように注意してください。
指示・報告について下記のような質問があるため、代表的な内容をお答えします。
指示と報告のタイミングは次のとおりです。
報告をもとに、「前回提供時の様子」を毎回伝達する必要があるため、原則、報告を受けるタイミングはサービス提供後速やかに受けることが必要です。
厚労省発のQ&Aで、「サービス提供責任者が公休の場合や勤務時間外の場合等に限り、文書等による事前の指示を一括で行い、サービス提供後の報告を適宜まとめて受けることも可能である。」とされています。
この場合は、運営指導で実際に公休であったことを証明する必要があります。
実際に指示、報告のやり取りをした記録が確認される場合があります。
サービス提供前に指示、提供後に報告が入っているかなどが確認のポイントです。
利用しなくても運用は可能ですが、人的なミスなどにより、加算の返還対象になる可能性もあることを考えれば、介護システムなどを利用するのがおすすめです。
今回は、特定事業所加算の指示・報告について紹介しました。
指示・報告を含めた特定事業所加算の運用を継続的に実施するには、書類での管理は非常に困難です。
そのため、今回をきっかけに、ぜひ介護システムの導入を検討して指示・報告を効率的に運用してください。