訪問介護事業所の経営者にとって、特定事業所加算の有無は重要な問題です。特定事業所加算を取得した場合の収益について、関心がある経営者も多いのではないでしょうか。
今回は、訪問介護における特定事業所加算の概要と取得した際の利益について解説します。この記事を読むことで、特定事業所加算の計算方法や注意点も理解できるでしょう。ぜひ、最後までお読みください。
目次
訪問介護における特定事業所加算とは、介護の専門職を配置し、質の高いサービスを提供する体制のある事業所を評価する加算です。特定事業所加算を算定するためには、体制要件、人材要件、重度者対応要件、合わせて12項目のうち、算定する加算に応じた条件を満たす必要があります。
2021年の介護報酬改定により、新たに特定事業所加算(Ⅴ)が創設され、特定事業所加算(Ⅰ)〜(Ⅴ)の5種類になりました。また、同改定で創設された特定処遇改善加算(Ⅰ)を算定するための要件として、特定事業所加算(Ⅰ)または(Ⅱ)を算定していることが含まれています。特定処遇改善加算の取得要件になっていることからも、特定事業所加算を取得する重要性は高いといえるでしょう。
訪問介護が特定事業所加算を算定する場合は、12項目の要件の中から算定する加算に応じた要件を満たす必要があります。
各特定事業所加算の算定要件は以下の表のとおりです。
特定事業所加算の算定要件 | ||||||
要件 | 算定要件 | 特定事業所加算 | ||||
(Ⅰ) | (Ⅱ) | (Ⅲ) | (Ⅳ) | (Ⅴ) | ||
体制要件 | 1、計画的な研修の実施 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | |
2、会議の定期的開催 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | |
3、文書等による指示及びサービス提供後の報告 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | |
4、定期健康診断に実施 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | |
5、研究時における対応方法の明示 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | |
6、サービス提供責任者ごとに研修を実施 | ◯ | |||||
人材要件 | 7、訪問介護員の有資格者の割合について | ◯ | ◯ | |||
8、サービス提供責任者の保有資格について | ◯ | |||||
9、サービス提供責任者の配置について | ◯ | |||||
10、訪問介護員の勤続年数について | ◯ | |||||
重度者対応要件 | 11、前年度の利用者のうち重度者の割合が20%以上 | ◯ | ◯ | |||
12、前年度の利用者のうち重度者の割合が60%以上 | ◯ |
参考:豊中市「訪問介護事業における特定事業所加算に係る留意事項について」
訪問介護における特定事業所加算の体制要件には、以下の6種類の要件があります。
各体制要件について解説します。
特定事業所加算を算定している訪問介護事業所では、全ての訪問介護員などに対して研修計画を作成し、研修を実施していなければいけません。
研修計画は訪問介護職員ごとに策定し、おおむね1年に1回以上の研修を実施できるように策定する必要があります。また、研修計画には、目標、内容、研修期間、実施時期などの項目を入れて策定しなければいけないので注意しましょう。
特定事業所加算の体制要件のひとつとして、サービス提供に当たっての留意事項の伝達などを目的とした会議を定期的に開催する必要があります。会議は、おおむね1ヶ月に1回以上開催し、会議の内容は記録に残さなければいけません。また、2021年の介護報酬改定より、ビデオ通話を利用した会議でも算定要件を満たせるようになりました。
新たに訪問介護サービスを提供する際に、利用者を担当する訪問介護員などに対して、利用者の基本情報や留意事項について伝達してからサービスを開始しなければいけません。また、サービス提供責任者は、サービス提供終了後に訪問介護員から適宜報告を受ける必要があります。
訪問介護事業所に勤務する全ての訪問介護員などに対し、1年に1回以上の健康診断を定期的に実施する必要があります。健康診断の費用は、事業所が負担しなければいけないので注意しましょう。
訪問介護の利用者に対して、事業所における緊急時の対応方針、緊急時の連絡先及び対応可能時間などを記載した文書を説明・交付しなければいけません。ただし、交付すべき文書は重要事項説明書などに内容を明記して、説明・交付することも認められています。
特定事業所加算の人材要件には、訪問介護員等要件、サービス提供責任者要件、勤続年数要件という3つの要件があります。各加算の要件は以下のとおりです。
訪問介護における特定事業所加算の人材要件 | |
特定事業所加算(Ⅰ) | 介護福祉士の占める割合が30%以上。もしくは、介護福祉士、実務者研修修了者等の占める割合が50%以上。さらに、全てのサービス提供責任者において、実務経験3年以上の介護福祉士か、実務経験5年以上の実務者研修等を修了した者。 |
特定事業所加算(Ⅱ) | 介護福祉士の占める割合が30%以上。もしくは、介護福祉士、実務者研修修了者等の占める割合が50%以上。または、全てのサービス提供責任者において、実務経験3年以上の介護福祉士か、実務経験5年以上の実務者研修等を修了した者。 |
特定事業所加算(Ⅲ) | 人材要件なし |
特定事業所加算(Ⅳ) | サービス提供責任者を常勤により配置し、かつ、規定する基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置していること。 |
特定事業所加算(Ⅴ) | 訪問介護員の勤続年数について、勤続年数7年以上の者の占める割合が100分の30以上であること。 |
参考:豊中市「訪問介護事業における特定事業所加算に係る留意事項について」
訪問介護員要件とは、事業所に勤務する介護職員のうち、介護福祉士の資格保有者が占める割合に関する要件のことです。特定事業所加算(Ⅰ)を算定するためには、介護職員に占める介護福祉士の割合が100分の30以上である必要があります。もしくは、介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、1級課程修了者の占める割合が100分の50以上でも可能です。
特定事業所加算(Ⅱ)を算定する場合には、サービス提供責任者要件と訪問介護員の資格要件のいずれかを満たせば算定できます。
また、特定事業所加算(Ⅴ)の人材要件に関しては、有資格者の割合ではなく勤続年数7年以上の割合が条件になっているので注意しましょう。
サービス提供責任者の要件については、資格と配置に注意しなければいけません。特定事業所加算(Ⅰ)もしくは(Ⅱ)を算定するためには、全てのサービス提供責任者において以下の資格要件を満たす必要があります。
人員基準により1人を超えるサービス提供責任者を配置する必要がある事業所は、常勤のサービス提供責任者を2名以上配置しなければいけないので注意しましょう。
また、特定事業所加算(Ⅳ)を算定する場合は、常勤のサービス提供責任者を配置しつつ、さらに基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置していることも要件となっています。
特定事業所加算(Ⅰ)(Ⅲ)(Ⅳ)に関しては、重度者対応要件にも注意しなければいけません。特定事業所加算(Ⅰ)(Ⅲ)における重度者対応要件は、以下の条件に当てはまる重度利用者が利用者全体の100分の20以上を占めることです。
上記の重度者等要件について計算する際には、前年度または届け出日に属する月の前3ヶ月間の平均値を利用します。
特定事業所加算(Ⅳ)を算定する場合でも、重度者対応要件の計算方法は同じです。ただし、特定事業所加算(Ⅳ)を算定する場合は、重度者割合が100分の60以上であることが要件となるため注意しましょう。
訪問介護における各特定事業所加算の単位数は以下のとおりです。特定事業所加算の単位数は、利用者ごとの所定単位数に応じた割合で決定します。利用者ごとに算定単位数が異なるため、各利用者で特定事業所加算の単位数も異なるでしょう。
訪問介護における特定事業所加算の単位数 | |
加算名 | 単位数 |
特定処遇改善加算(Ⅰ) | 利用者の総単位数の20% |
特定処遇改善加算(Ⅱ) | 利用者の総単位数の10% |
特定処遇改善加算(Ⅲ) | 利用者の総単位数の10% |
特定処遇改善加算(Ⅳ) | 利用者の総単位数の5% |
特定処遇改善加算(Ⅴ) | 利用者の総単位数の3% |
参考:東京福祉保健局「Ⅰ 指定居宅サービス介護給付費単位数の算定構造 1 訪問介護費」
特定事業所加算は、利用者の総単位数に所定の割合をかけて計算するため、全利用者一律の単位数にはなりません。
仮に、20分以上30分未満の身体介護サービスを月20回利用する方について、特定事業所加算(Ⅰ)の単位数を計算してみましょう。
20分以上30分未満の身体介護サービスが1回あたり250単位なので、月20回利用で月額5,000単位となります。特定事業所加算(Ⅰ)の加算率が20%なので、この方の特定事業所加算(Ⅰ)の単位数は1,000単位です。介護保険制度では1単位10円なので、事業所の収益は1万円となります。同じような利用頻度の方が50名利用していれば、特定事業所加算による事業所の収益は月額50万円程度と予測できます。
特定事業所加算による利益をおおまかに予測する場合は、「利用者1人あたりの平均単価×算定する特定事業所加算の加算率」で計算できます。ただし、実際に算定した場合は、サービス利用回数などによって利益が変動することも理解しておきましょう。
原則として、特定事業所加算(Ⅰ)〜(Ⅴ)の併算定はできません。ただし、特定事業所加算(Ⅲ)と特定事業所加算(Ⅴ)の組み合わせに限り併算定が可能です。仮に、特定事業所加算(Ⅲ)と特定事業所加算(Ⅴ)を併算定した場合、合算して13%の加算率になります。
訪問介護事業所で新たに特定事業所加算を算定する場合、注意すべきことがあります。注意点を守らずに算定した場合、管轄する自治体から指導される可能性もあるので注意しましょう。各注意点について解説します。
新たに特定事業所加算を算定する場合、利用者が支払う料金体系が変更されるため、全利用者に対して同意を得る必要があります。加算に関する説明や利用者が支払う利用料の変更額など、文書によって全利用者へ通知し、必要であれば直接説明しなければいけません。
新たに特定事業所加算を算定する場合は、事前に利用者へ説明する期間を確保して、余裕を持って算定しましょう。
特定事業所加算を算定することで事業所の収益が増加します。しかし、一方で利用者が払う利用料金が増加することも理解しておきましょう。
特定事業所加算の算定に対して理解が得られない場合、利用者が離れていく可能性もあります。利用者の利用頻度によっては、毎月の利用料金が大きく変化する可能性もあるでしょう。
仮に、特定事業所加算で、利用者一人当たりの利益率が増加したとしても、利用者が減ってしまえば事業所全体の収益が下がってしまう可能性もあります。利用者の利用料金が増加することも想定しつつ、利用者への対応方法に注意しましょう。
特定事業所加算を算定している事業所では、人材確保が難しくなる問題があります。
特定事業所加算(Ⅲ)以外の特定事業所加算を算定する場合、人材要件を満たさなければいけません。特に特定事業所加算(Ⅰ)(Ⅱ)を算定する事業所では、介護職員における介護福祉士の資格保有者割合が決まっているので注意しましょう。
仮に、離職者が増加した場合、算定要件を満たせなくなり、特定事業所加算を算定できなくなる可能性もあります。特定事業所加算を算定している事業所では、人材確保対策が重要です。
今回は、特定事業所加算の概要と収益の計算方法について解説しました。訪問介護における特定事業所加算とは、介護の専門職を配置し、質の高いサービスを提供する体制のある事業所が算定できる加算です。
特定事業所加算を算定するためには、12項目の要件から算定する加算に応じた要件を満たすことで算定できます。加算率は3%〜20%で、原則として併算定できませんが、特定事業所加算(Ⅲ)と特定事業所加算(Ⅴ)の組み合わせのみ併算定可能です。
新たに特定事業所加算を算定する場合は、利用者への影響や人材確保などに注意しなければいけません。最大で20%の増収が見込めるので、特定事業所加算の算定要件を満たす事業所は積極的に算定するとよいでしょう。
訪問介護事業所向けに加算獲得サービスの一括資料ができます。
<カテゴリ>
1)特定事業所加算を知る
2)特定事業所加算を理解する
3)特定事業所加算を管理・運用する
4)運営指導(実地指導)対策
5)プロサポサービス資料
6)その他
参考資料:
東京福祉保健局「Ⅰ 指定居宅サービス介護給付費単位数の算定構造 1 訪問介護費」
豊中市「訪問介護事業における特定事業所加算に係る留意事項について」