訪問介護において特定事業所加算を取得することは重要ですが、算定要件はかなり複雑です。そのため、今回は特定事業所加算を取得するにあたって、算定要件を自主点検できるチェックシートを紹介します。
今回のチェックシートを活用して、ぜひ特定事業所加算の取得を検討してください。
目次
専門性の高い従業員を多く配置するなどし、要介護度の高い・支援が困難な利用者でも、質の高い介護サービスを提供することで事業所に対して支払われる加算を特定事業所加算といい、現在では全体の40%程度が加算を取得しています。
この特定事業所加算は、高齢化が深刻になる今後において取得することは重要です。実際、2025年における高齢者割合は65歳以上が30.3%、75歳以上が18.1%になると推計しています。その後も2036年には33.3%と3人に1人、2065年には38.4%と国民の約2.6人に1人が65歳以上の者となると高齢化率は上昇する予測です。
高齢化率が上昇すると要介護者も増加しており、2020年度では要介護(要支援)認定者数は約682万人でしたが、2040年には988万人と予測されています。
また同じように訪問介護を利用する方も増えており、2021年の時点でおよそ118万人だった1ヵ月あたりの利用者数が、2040年にはおよそ134万人まで増加すると厚生労働省は発表しました。
これらの予測から訪問介護の事業所数は年々増加していますが、質の低い介護サービスを行っている事業所が増えているのも事実です。
そのため、特別事業所加算を取得することで、「介護の質の向上」「人材確保」に取り組んでいる事業所であることが第3者でも評価できるため、今後の事業所運営にとって取得すべき加算の1つです。
参考:
厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第220回) 訪問介護」
内閣府「第1章 高齢化の状況(第1節6(1))」
厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料」
内閣府「第1章 高齢化の状況(第1節 1)」
厚生労働省「介護保険事業状況報告(暫定)」
厚生労働省「令和2年度 介護保険事業状況報告(年報)」
経済産業省「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会」
厚生労働省「第222回社会保障審議会介護給付費分科会」
訪問介護の特定事業所加算は下記の5つに分類されます。
上記から分かるように、特定事業所加算は総単位数から3〜20%が加算されます。
特に最も加算率が高い「特定事業所加算Ⅰ」を取得すれば、総単位数プラス20%と事業所の経営安定に大きく貢献します。実際、月商150万円の事業所であれば、年間で360万円の売り上げが向上する計算です。
経営の安定以外に、特定事業所加算ⅠまたはⅡを取ることで、特定処遇改善加算の中でも加算率が1番高い「特定処遇改善加算Ⅰ」を算定できます。
「特定処遇改善加算」は介護職員の処遇改善を目的としている加算で、「特定処遇改善加算Ⅰ」であれば6.3%、「特定処遇改善加算Ⅱ」であれば4.2%の割合を1ヵ月の総単位数に乗じて単位数を算定します。
この加算を取得すれば、介護職員の処遇を高く設定できるため人材の確保・定着にもつながります。
このように特定事業所加算を取得すると事業所にとって大きなメリットですが、取得方法は複雑です。そのため、詳細な特定事業所加算Ⅰ〜Ⅴまでの取得方法が気になる方は下記の記事をぜひ参考にしてください。
参考:けあタスケル「訪問介護の特定事業所加算を算定するための要件とは?Ⅰ~Ⅴまでの取得方法を解説」
下記が訪問介護の特定事業所加算を算定するためのチェックシートです。
算定要件 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ |
1.訪問介護員等ごとの研修計画の作成、計画に基づく研修の実施 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
2.会議の定期的な開催 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
3.伝達、訪問介護員等からの報告 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
4.健康診断等の定期的な実施 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
5.緊急時等における対応方法の明示 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
6.サービス提供責任者ごとの研修計画の作成と実施 | 〇 | ||||
7.訪問介護員等が以下のいずれかを満たす | 〇 | △ | |||
8.全てのサービス提供責任者が以下のいずれかを満たす | 〇 | △ | |||
9.常勤のサービス提供責任者を配置し、基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置 | 〇 | ||||
10.訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の占める割合が30%以上 | 〇 | ||||
11.利用者のうち、要介護4以上、日常生活自立度Ⅲ・Ⅳ・M、たんの吸引等を必要とする利用者の占める割合が20%以上 | 〇 | 〇 | |||
12.利用者のうち、要介護3以上、日常生活自立度Ⅲ・Ⅳ・M、たんの吸引等を必要とする利用者の占める割合が60%以上 | 〇 |
*:7.または8.の要件のいずれかを満たすこと
参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」
*④は毎回必ず記載(伝達)すること。④以外の事項は、初回および変化があった場合のみ記載することで可
*上記の基準をいずれか満たしている
*訪問介護事業所は、前3ヵ月の平均利用者数40名につき1人以上のサービス提供責任者を配置する必要がある。そのため、平均が40名以上になる場合は、常勤のサービス提供責任者を2名配置することが必要。
参考:厚生労働省「訪問介護におけるサービス提供責任者について」
*なお、平均利用者数41名以上の場合は基準上サービス提供責任者が2名必要なため、さらに1名プラスの合計3名必要。
参考:厚生労働省「訪問介護におけるサービス提供責任者について」
*勤続年数は、各月の前月の末日時点におれる勤続年数をいうものとする。具体的には、令和5年4月における勤続年数7年以上の者とは、令和4年3月31日時点で勤続年数が7年以上である者をいう。
*勤続年数の算定に当たっては、当該事業所における勤務年数に加え、同一法人等の経営する他の介護サービス事業所、病院、社会福祉施設等においてサービスを利用者に直接提供する職員として勤務した年数を含めることができるものとする。
*上記の利用者数を占める割合が20%以上である。
*上記の利用者数を占める割合が60%以上である。
特定事業所加算を算定するには、さまざまな算定要件があり複雑です。そのため、算定要件の理解が不足していると、運営指導で指摘を受けた結果、加算の返還を求められる場合があります。
実際、数百万〜数千万円の返還を求められた事例も少なくありません。
しかし、特定事業所加算を取得すると事業所の経営安定が高まるだけでなく、介護職員の確保につながるなど多くのメリットもあります。
そのため、ぜひ今回紹介したチェックシートを活用して特定事業所加算を取得しましょう。