介護保険サービスの中でも訪問介護はよく利用するサービスの1つです。しかし、実際にホームヘルパーがどのような介助は行えるのかなど詳しく理解している方は多くいません。
そのため、今回は訪問介護における身体介護について詳しく説明するだけでなく、実際にホームヘルパーが出来ることと出来ないことをお伝えします。
ぜひ、最後までお読みください。
ホームヘルパーなどが利用者さんの自宅へ訪問して、自立した生活を送るためにサポートする介護サービスのことで、下記の3つにサービス内容が分かれます。
ホームヘルパーなどの介助者が、利用者さんの身体に直接触れて行う介助サービスのことで、下記のいずれかのサービスに該当するものと定義されています。
(そのために必要となる準備、後かたづけ等の一連の行為を含む)
参考:厚生労働省:「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」の一部改正について
身体介護は、利用者さんの生活を助けるだけでなく、自立を支援するサービスでもあるため、利用者さんが行うすべての動作を手助けするわけではなく、状況や体調に合わせた介助を行います。
そのため、場合によっては利用者さんの行動を促して介助せずに見守ったり、利用者さんと一緒に料理を行ったりする場合もあります。
以前までは利用者さんと一緒に調理することや一緒に掃除をすることは身体介護として認められていませんでしたが、2018年(平成30年)の介護報酬改定で、「自立生活支援のための見守り的介助」として、利用者さんと一緒に行う生活援助は身体介護に含まれるようになりました。
厚生労働省は「自立生活支援のための見守り的介助」の例として下記の内容を挙げています。
上記のほか、安全を確保しつつ常時介助できる状態で行うもの等であって、利用者と訪問介護員等がともに日常生活に関する動作を行うことが、ADL・IADL・QOL向上の観点から、利用者の自立支援・重度化防止に資するものとしてケアプランに位置付けられたもの。
参考:厚生労働省:「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」の一部改正について
身体介護の具体的なサービス内容は下記があります。
利用者さんができる食事動作と介助方法の獲得、栄養状態の改善を目的として介助します。
食事は、単に栄養を補給することだけが目的ではなく、「美味しかった!」と思ってもらい、食べる楽しみを味わい、満足してもらうことが重要です。
例えば、脳卒中などで体の半分が麻痺した場合は、食べこぼしや口の中で噛みにくいことがあるため、その方に適した1口の量を把握して食事介助を行います。
その他にも、座って食事することが難しい方に対してはベッド上で食事が摂れるようにします。
ベッドの背中部分を上げることで、肺へ通じる道に食事が入ってしまう「誤嚥」を避けることができます。
そのためにホームヘルパーは、加齢や障がいなどが原因で食事が難しくなっている利用者さん1人1人に対して工夫することが重要です。
入浴が難しい方に対して、身体を温かいタオルで拭くことで、健康を維持し安全かつ快適な生活が送れるよう支援する重要なサービスです。
訪問介護における清拭は、利用者さんの身体の清潔を保つ「保清」という支援に分類されるサービスで、手足などを行う「部分清拭」、全身を拭く「全身清拭」、陰部を拭く「陰部清拭」に分かれており、体力・安静の度合い・利用者さんの希望に沿って行われます。
ただ、あまり強く拭くと、皮膚が剥がれてしまう場合があるので、その人の状態に合った拭き方で行います。
またその際に、身体にあざや褥瘡の有無など、可能な範囲で皮膚の状態も観察することで少しでも早く処置できます。
障がい・病気などが原因で、利用者さんが自分自身で着替えられない場合にサポートすることです。
訪問介護においては、デイサービスの送り出し時や入浴・排泄介助時、起床・就寝介助時などさまざまな場面で行います。
定期的に衣服を着替えることは、清潔感を保持し、感染症や褥瘡を予防する効果があります。また、更衣動作は身体を大きく動かすため、リハビリテーションとしての効果も期待できます。
しかし、高齢者の利用者さんの場合、骨がもろくなっている可能性があります。そのような場合、衣類の着脱時に無理な力をかけると骨折につながるリスクがあるため注意が必要です。
また、皮膚も弱くなっているので、引っ掻いたり圧力をかけすぎると皮がめくれたり、傷ができたりします。このような事態を防ぐためにも、利用者さんの状態をしっかり把握して行うことが重要です。
ひとり暮らしの場合、入浴中に事故が起きないか心配で、ひとりでは入浴できない方がいます。そんな方に対して、ホームヘルパーが安全にお風呂に入れるように見守りを行います。
また、ご自身で背中など洗えない部分をホームヘルパーが洗って清潔にする。お風呂内の移動・浴槽のまたぎなども介助します。
加えて、入浴介助のタイミングで、体の状態を観察し、身体に怪我やあざの有無などを確認して必要な場合はご家族さんに報告します。
1人での排せつが難しくなった利用者さんに対して、ホームヘルパーが排せつに関する介助を行うサービスで、下記の3つに分かれます。
利用者さんが移動でき、ホームヘルパーが付き添ってトイレに行ける場合はトイレへ行って排泄します。
しかし、起き上がったり、座ることはできるものの、長く歩くことができない場合はベッドの近くにポータブルトイレを設置して排泄します。ホームヘルパーは、ポータブルトイレで排泄できるものの、ポータブルトイレを片付けられない方の場合は、ポータブルトイレの片付けも行います。
さらに、ベッド上で寝たきりの場合はオムツ交換をします。
寝たきりの方はオムツ交換の時に隠部を洗うことで、かぶれを予防できます。
また、排せつ介助の時は尿や便の状態も合わせて観察します。尿の色や量に異常がないか、便の硬さや量、頻度はどうかを記録してご家族や医療関係者へ報告する場合もあります。
ベッド上で寝たきりになっているなどの理由により、ご自身で体の位置を変えることができない方のために、体位変換を行います。
体位変換しなければ、身体が同じ状態なのはストレスに感じるだけでなく、身体の同じ部分がずっとベッドと接していると、褥瘡を生じる原因となるため、2〜3時間以上同じ姿勢でいることは避けることを目的にホームヘルパーが定期的に身体の違う部分がベッドと接するように介護します。
褥瘡は特に足の踵や仙骨の部分など骨が出っ張っている場所に生じやすいので、しっかりとクッションを入れるなどの工夫が必要です。
普段の移動が歩いて行うことが難しい方に対して、車椅子からベッド、車椅子からトイレの便座など、座る場所を乗り換える際の介助のことで、主に足腰が弱い高齢者やけがをした人など、車椅子で生活を送る人に対して行われます。
移乗介助は、失敗すると利用者さんが転落や骨折といった介護事故につながる可能性があるため注意をして行う必要があります。
利用者さんが、自宅内を移動するときや外で移動するときに転倒しないように介助するサービスです。
具体的には、目的地に行くための準備や自宅から目的地間の移動介助、公共交通機関への乗降介助、目的地内での移動・手続きの援助などが含まれます。
利用者さんが高齢者の場合は、その時の体調や気温や気分などにより、歩行に影響があり、いつも安定して歩けている人が急によろけることもあるので注意が必要です。
近くのお店へ買い物に行くなど、外出時のおいて介助を行うサービスです。訪問介護は、介護保険法第8条により「居宅で行われるもの」と定義されているため、利用者の居宅以外で行われるものは認められません。
しかし、外出介助に限っては居宅を始終点とした一連のサービス行為とみなされるため訪問介護費の給付対象です。
具体的な内容としては、病気のためにふらつきがあり一人で外出できない人や、車椅子で移動する人が外出するための介護を行います。
外出介助が必要な高齢者は、私たちでは気づかないちょっとした段差でつまずくことがあるため注意が必要です。
また外出介助は、着替えや靴を履き、必要であれば車椅子へ乗るための介護など外出のための準備もサービス内容に含まれます。
参考:厚生労働省:介護保険法
訪問介護で行うサービス内容として、身体介護以外には、「生活援助」「通院時の乗車・降車介助」があります。
生活援助は、生活に必要な家事が困難な場合に行う日常生活支援のことで、下記のような内容があります。
参考:厚生労働省:訪問介護サービスの生活援助の取扱いについて
その他にも、「通院時の乗車・降車介助」があり、厚生労働省は下記のように定義しています。
通院等乗降介助とは、介護保険における訪問介護(介護保険法(平成9年法律第 123 号) 第8条第2項)の一形態であり、居宅要介護者について、通院等のため、指定訪問介護事業者の訪問介護員等が自らの運転する車両への乗車又は降車の介助を行うとともに、併せて、乗車前若しくは降車後の屋内外における移動等の介助又は通院先若しくは外出先での受診等の手続、移動等の介助を行った場合に、介護給付費の算定をすることができるもの
参考:厚生労働省
「通院時の乗車・降車介助」において、病院内の移動や介助は、医療サービスとして病院の看護師などが担当するため適用外になる点に注意が必要です。
2021年介護報酬改定では身体介護の単位数は下記と定められています。
種別 | 時間 | 単位数 | 料金 | 1割負担での自己負担額 |
身体介護 | 20分未満 | 167単位 | 1,670円 | 167円 |
20分以上30分未満 | 250単位 | 2,500円 | 250円 | |
30分以上60分未満 | 396単位 | 3,960円 | 396円 | |
60分以上 | 579単位 (以降30分増すごとに84単位) | 5,790円 | 579円 |
参考:厚生労働省
また、訪問介護の対象者は要介護1〜5の認定を受けており自宅で生活している方です。要介護でなく要支援1・要支援2の場合でも、「介護予防訪問介護」という形でサービスを利用できますが、要支援1の場合は、週2回まで、週3回以上の利用は要支援2の方のみなど利用回数に制限があります。
介護保険制度によって決められたことしかできません。
基本的にホームヘルパーができない内容は下記です。
しかし、特殊な事情などによって、市町村の判断で許可が出る場合もあるため、最終的には利用者さんの住んでいる市町村に確認しましょう。
普段は2階に上がることはないのに、2階も掃除してほしいなど利用者さんが日常生活で使用しない場所は掃除できません。
油にまみれたレンジフードの掃除・エアコンクリーニングなど日常的ではない掃除もホームヘルパーは行えません。
ただ、日常的ではない掃除の範囲は市町村によって認識が異なります。
例えば、エアコンのフィルター掃除などは、利用者さんが気管支喘息のため、ホコリで喘息が悪化する危険性がある場合は、ホコリの溜まりやすいフィルター掃除や電球の傘などの掃除が認められる場合があります。
他にも、一般的には窓ふきも日常的な家事と認められませんが、寝たきりで窓の外を眺めるだけしか楽しみがないケースにおいて、窓が汚れた結果、外を見られなくなるという判断からホームヘルパーが行ってよいという事例が過去にあります。
訪問介護の対象は利用者さんのみです。そのため、利用者さん以外へのサービスは厳しく制限されます。
例えば、利用者さんの買い物のついでに家族さんの分も購入できません。それ以外にも、家族さん分の洗濯・部屋の掃除などもできません。
特に掃除に関しては注意が必要で、家族さんと共有部分であるトイレ・浴室などの掃除は、掃除できる家族さんがいることが理由で基本的にホームヘルパーは行えません。
ただ、同居家族がいても夫婦がともに介護認定を受けている場合など理由があれば利用者さん以外の掃除・調理・買い物なども可能な場合があります。
利用者さんの庭が草が伸びて荒れ放題になっているなどの理由で庭の手入れをお願いされても介護保険内では行えません。
利用者さんが飼っているとはいえ、ペットへの餌やり・散歩、排せつ物の処理などペットの世話全般はできません。
また、買い物のついでにペットフードの購入もできません。
ペットは利用者さんにとって大事な家族の一員であるとはいえ、家族さんへの介助ができないのと同じように、ペットに対するお世話も介護保険対象外です。
男性のホームヘルパーは、家具の移動などの力仕事や、家電の修繕などの細かい作業をお願いされるかもしれませんが行うことはできません。
特に専門外のことを実施すると、その後トラブルになる可能性もあるため注意が必要です。
酒やタバコなどの嗜好品は訪問介護での買物では認められません。
ホームヘルパーが買い物できるのは日常的に必要な物だけが対象です。そのため、酒やタバコ以外にも、宝くじ・お中元・お歳暮の購入なども認められません。
通院介助を行う場合でも、病院内での待ち時間は介護保険の対象外です。
その理由は、病院内は医療機関のため、訪問介護はサービスを提供できないことになっています。
しかし、病院が人手不足などの理由により対応できない・頻回なトイレ介助が必要・認知症のために座っていることができないなどの理由により、ホームヘルパーの対応が必要な場合は、ケアマネジャー・訪問介護事業所・病院も含めた判断をしたうえで介護保険の適用が可能です。
医師法第17条で、「医師でなければ、「医業」をなしてはならない。」というルールがあるため、ホームヘルパーは医療行為を行うことができません。
医療行為が必要な場合は、医師の指示を受けた訪問看護師などが対応することが基本ですが、たん吸引や経管栄養の注入などは、研修を受けた介護職員に限り行うことができます。
また、下記は医療行為に該当しないためホームヘルパーでも対応できます。
参考:厚生労働省:医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師
参考:厚生労働省:医師法第 17 条、歯科医師法第 17 条及び保健師助産師看護師法第 31 条の解釈について(その2)
今回は、訪問介護における身体介護についてと、ホームヘルパーが出来ることと出来ないことを紹介しました。
ホームヘルパーは利用者さんの自宅へ訪問して、自立した生活を送るためにサポートする介護サービスで、「身体介護」「生活援助」「通院時の乗車・降車介助」に分けられます。
その中で、身体介護は、ホームヘルパーなどの介助者が利用者さんの身体に直接触れて行う介助サービスとなっており、ケアプランで決められた時間帯に介助を行います。
ホームヘルパーの対象は利用者さんになるため、その他の方は対象にならない点に注意が必要です。
また、利用者さんにとって必要な介助を全部行えるわけではなく、今回紹介したようにホームヘルパーはできることは決まっているため、介助する前にしっかりと確認しておく必要があります。
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