高齢社会の日本では、2025年に65歳以上高齢者の約20%以上が認知症になると言われています。認知症の高齢者は年々増加していることからも、認知症の方々への質の高いケアの提供が求められます。介護現場では「認知症ケア加算」が算定できるようになり、認知症の方々に対して質の高いサービスの提供することの重要性が強調されています。
この記事では、認知症ケア加算とは何か、算定要件や必要な研修について詳しく解説します。
目次
認知症専門ケア加算とは、認知症に関する専門的な研修を修了した職員が介護サービスを提供した際に算定できる加算のことです。2021年度の介護報酬改定によって、認知症への対応力を向上させるために、加算対象となる事業所が拡大されました。
認知症専門ケア加算を取得できる対象事業者は以下の通りです。
認知症専門ケア加算(Ⅰ)の算定要件は以下の通りです。
この4つを満たすことで、1日あたり3単位*²を算定することができます。
*¹:以下訪問系サービスについては自立度Ⅱ以上で算定できます
訪問介護、(介護予防)訪問入浴介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護
*2:定期巡回・随時対応型訪問看護、夜間対応型訪問介護(Ⅱ)については、1ヵ月あたり90単位を算定できます
認知症専門ケア加算(Ⅱ)の算定要件は以下の通りです。
この5つを満たすことで、1日あたり4単位*²を算定することができます。
*¹:以下訪問系サービスについては2o%以上で算定できます
訪問介護、(介護予防)訪問入浴介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護
*²:定期巡回・随時対応型訪問看護、夜間対応型訪問介護(Ⅱ)については、1ヵ月あたり120単位を算定できます
認知症の方が持つ能力に応じた自立した生活を送れるように支援をするため、認知症のケアについて実用的な知識や技術を習得することができる研修です。
研修によって、認知症の利用者やそのご家族に対して、より質の高いケアができるように認知症支援のチームリーダーとして職員の指導、チームケアのための調整を行うことを目的としています。講義や演習、他施設実習、自施設実習を通して実践力を身につけていきます。
この研修は、各都道府県や政令指定都市が実施しており、受験資格やカリキュラム、受講費用などそれぞれ異なります。勤務先がある自治体のホームページを確認しましょう。
認知症介護指導者養成研修は、認知症介護に関する専門的な知識や技術、研修プログラム作成方法と教育技術、介護の質の改善のための指導方法などを習得します。9週間の研修期間において、300時間以上の実習や研修を行っていきます。
受講対象者は、
となっています。
この研修は、厚生労働省が定める全国3か所の研修施設で実施され、担当地域ごとに受講場所が決められています。申し込みには、推薦書や実践事例報告などの書類が必要なため、事前に確認しましょう。
認知症看護に関する研修は以下の3つが挙げられます。
質の高い看護を実践するために、認知症看護に関する熟練した技術と豊富な知識を習得する研修です。2020年度からは、新たなカリキュラムも加わり、認知症看護認定看護師の活躍の幅が広がってきています。
高齢者やその家族、グループなどに提供するために老人看護や精神看護における看護実践力を身につけるための教育課程です。教育課程を修了し、認定試験に合格することで、看護を効率よく行いながらも、施設全体や地域の看護の質を向上させる力を持つ者として認められます。
精神科認定看護師教育課程において、精神科の看護領域で質の高い看護を行えるような専門的な知識や技術、指導方法などを習得します。認定試験に合格することで、認定証が発行されます。
認知症専門ケア加算を算定する際、必要な研修を受講した職員のケアのスキルが向上することはもちろん、研修を受講していない他の職員のスキルも向上させることが出来るでしょう。
認知症専門ケア加算(Ⅰ)では、「認知症ケアに関する留意事項の伝達事項または技術的指導に係る会議」を定期的に開催すること、認知症ケア加算(Ⅱ)では「認知症ケアに関する研修計画」を作成することが算定要件になっています。
認知症ケア加算を算定するためには、介護・看護職員全員が認知症ケアにおける専門スキルを磨いていくことが必要です。
認知症専門ケア加算を算定できると、適切で質の高いケアや看護を受けられるため、認知症の高齢者が利用しやすくなり、利用者の幅も広がるでしょう。
認知症高齢者を担当するケアマネージャーが、認知症専門ケア加算の算定を行っている事業所を積極的に訪問介護先として紹介する可能性があります。周辺の施設や、地域住民の方にも、専門性の高い認知症ケアを提供できる事業所として意気込みを示すことができるでしょう。
認知症専門ケア加算を算定することで、事業所の収益が増大するでしょう。訪問介護の場合、認知症ケア加算(Ⅰ)では、1日3単位、認知症ケア加算(Ⅱ)では1日4単位を取得することが出来ます。
認知症専門ケア加算を算定するためには、認知症利用者の人数や、対応する職員にも専門的な研修を修了している必要があるなど、細かく定められています。算定要件をよく確認しましょう。
例えば、認知症専門ケア加算(Ⅰ)を算定する場合、利用者が50人いる事業所では、日常生活自立度Ⅱ以上の認知症高齢者が25人以上いる必要があり、認知症介護指導者研修修了者を2人以上配置する必要があります。
算定を開始する際、変更がある際、終了する際には、届出書を出す必要があります。認知症ケア加算(Ⅰ)(Ⅱ)のどちらを算定するのか、利用者の人数や研修修了者など、算定要件を満たしていることを書面で示します。また、算定要件を満たしていることを確認できる書類の提出を求められる場合もあります。
書類を書き終わったら、事業所が所在する自治体に提出します。算定を開始する月の前月15日までに提出するようにしましょう。加算の要件を満たさなくなった場合は、速やかに届け出を提出しましょう。届け出を持参する場合には、事前予約が必要な自治体もあるようです。提出方法を確認しましょう。
認知症介護指導者研修を修了しており、適切に事業所全体の認知症ケアを実施している場合であれば、職務や資格等は問われません。
認知症の日常生活自立度は、認知症の高齢者にかかる介護の度合いをレベルでわけています。日常生活自立度は、Ⅰ、Ⅱa、Ⅱb、Ⅲa、Ⅲb、Ⅳ、Mの7段階に分けられており、聞き取り調査によって生活の自立度を評価します。
Ⅰでは、「何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している」レベルです。
自立度ⅡaやⅡbになると、家庭外や家庭内で「日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られるが、誰かが注意していれば自立できる」レベルであり、生活に支援が必要な状態といえます。
今回は、認知症ケア加算の算定について、算定要件や必要な研修について紹介しました。高齢者人口の増加とともに、認知症高齢者数も年々増加すると言われていることからも、認知症ケアの需要は高まっていくでしょう。
認知症専門ケア加算を算定できるようになると、認知症介護におけるケアの知識やスキルを事業所全体で高めることができ、認知症を抱えた利用者を受け入れやすくなるでしょう。
しかし、認知症ケア加算を算定するにあたって、職員が認知症介護に係る研修を修了するまでには時間がかかります。算定を検討している事業所では、出来るだけ早くから準備を進めましょう。