看取り介護加算は、2006年(平成18年)の介護報酬改定から開始されました。
その背景には、現在の日本の深刻な高齢化社会があります。
高齢化に伴い、施設での看取り対応の機会が増加しており、それに伴った医療体制の強化や多職種との連携、看取り体制についてハード面、ソフト面ともに整備していかなければなりません。
今回の記事では、看取り介護加算とはなにか、2021年(令和3年)の介護報酬改定における看取り介護加算の改定内容などについてわかりやすく説明していきます。
目次
看取り介護加算について解説する前に、加算とは何か、加算一覧などについて知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください
【実例付き】介護における加算・減算とは?要件や提出方法を徹底解説!
老衰や疾病の回復の見込みがないと診断された方を、医師や看護師など多職種と連携をとって介護施設で看取りをする場合に加算される介護報酬です。
高齢化により、介護老人福祉施設等で終末期を迎える方が増え続ける中、住み慣れた環境で、本人の尊厳を尊重しながら安心して最期を迎えられるようにと制定された加算です。
看取り対応をするためには、看護体制の強化をしなければならず、特に夜間の医療体制に重点をおかなければなりません。
また、看取りをするための環境整備も必要です。
看取り介護をする施設への評価をすることにより、より充実した看取り介護を提供できるようにという目的で制定されました。
看取り介護加算の対象となる事業者は以下です。
・特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護)
・特定施設入居者生活介護・地域密着型特定施設入居者生活介護
・認知症グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
看取り介護加算を取得するには、算定要件を満たさなければなりません。
算定要件には、看取り介護加算Ⅰと看取り介護加算Ⅱがあります。
・常勤の看護師を1人以上配置し、24時間連絡できる体制を確保していること
・看取りに関する研修を行っている
・看取りを行う際に、個室や静養室の利用ができる
・利用者に医師より、適切な情報提供と説明がなされた上で、医療・介護職と十分な話し合いをした上で、ご本人・またはご家族による意思決定によって進めていること
・医療・ケアチームにより、疼痛などの緩和・本人家族への精神的・社会的援助も含めた総合的な医療・ケアを行っていること
・時間の経過により、心身の状況が変化することもあるため、医療・ケアチーム・本人・家族との話し合いを繰り返し行い、文書にまとめておく
・看取りに関する協議の参加者として、生活相談員を明記する
・施設サービス計画の作成時、本人の意思を尊重した医療・ケアの方針決定に対する支援に努めている
看取り介護加算Ⅰの算定要件に加え、以下の要件を満たすことが必要です。
・配置医師と施設の間で、利用者に対する注意事項、病状等の情報共有、医師との連絡方法、診察依頼の具体的状況等を取り決めている
・複数名の配置医師を配置もしくは、配置医師と協力医療機関の医師が連携することで、施設の求めに応じて24時間対応の体制が確保されている
また、介護付きホームに関しては、「看取り期は、夜勤又は宿直の看護職員を配置すること」という要件が追加されていますので注意が必要です。
看取り介護加算を施設別で紹介いたします。
看取り介護加算Ⅰ | 看取り介護加算Ⅱ | |
死亡日45日前~31日前 | 72単位/日 | 72単位/日 |
死亡日30日前~4日前 | 144単位/日 | 144単位/日 |
死亡日前々日・前日 | 680単位/日 | 780単位/日 |
死亡日 | 1280単位/日 | 1580単位/日 |
看取り介護加算Ⅰ | 看取り介護加算Ⅱ | |
死亡日45日前~31日前 | 72単位/日 | 572単位/日 |
死亡日30日前~4日前 | 144単位/日 | 644単位/日 |
死亡日前々日・前日 | 680単位/日 | 1180単位/日 |
死亡日 | 1280単位/日 | 1780単位/日 |
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)においては、看取り介護加算Ⅰのみとなっています。
看取り介護加算Ⅰ | |
死亡日45日前~31日前 | 72単位/日 |
死亡日30日前~4日前 | 144単位/日 |
死亡日前々日・前日 | 680単位/日 |
死亡日 | 1280単位/日 |
上記、いずれの施設も死亡日45日前から31日前の看取り介護加算が、令和3年の介護報酬改定で新設されています。
詳しくは次の項目で説明いたします。
令和3年度に介護報酬が改訂されましたが、その際に看取り介護加算についても改定されました。
令和3年の介護報酬改定以前は、死亡日30日前までの加算のみでした。
しかし、実際は30日以上前から看取り介護をしている事業所がほとんどであることから、45日前までに算定期間が拡大されました。
看取り介護加算の算定要件として、一番重要なのが、この「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」です。
このガイドラインの内容に沿った取り組みを行うことが求められています。
内容は以下の通りです。
(1)人生の最終段階における医療・ケアの在り方
1.医師等の医療従事者から適切な情報提供がなされた上で、医療・ケアを受ける本人が、医療・ケアチームと十分な話し合いにより、本人の意思決定を基本として、人生の最終段階における医療・ケアを進めていくこと
また、状況の変化や本人の意思の変化なども考慮し、話し合いの機会を繰り返し持つこと
2.医療ケアの開始・不開始、医療ケアの内容変更や中止などは、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断する
3.可能な限り、疼痛や不快な症状を緩和し、本人・家族の精神的・社会的援助も含めた総合的な医療・ケアを行うこと
4.積極的安楽死は対象としない
(2)人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続き
看取り介護をする上で、医療・ケアの方針を決める事は重要なことですが、本人の意思が確認できる場合と、できない場合、その他方針が決定できない理由がある場合にわけて、記載があります。
1.本人の意思が確認できる場合
医師等から十分な説明を受けた上で、医療・ケアチームと十分な話し合いによって方針を決定し、本人の意思や状況の変化も考慮し、繰り返し話し合いをし、文書にまとておくこと
2.本人の意思確認ができない場合
家族等が本人の意思を推定できる場合→推定意思を尊重し、本人にとって最善の方針をとる
家族等が意思を推定できない場合→本人にとって何が最善であるか、家族等と十分に話し合い、最善の方針をとる
家族等がいない場合、家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合→本人にとって最善の方針をとる
話し合った内容は文書にまとめておくこと
3.複数の専門家からなる話し合いの場の設置
上記1.2.の方針決定に際し、
・医療・ケアチームの中で、心身の状態等により、医療・ケアの内容の決定が困難な場合
・本人と医療・ケアチームの話し合いの中で適切な医療・ケアの合意が得られない場合
・家族等の中で意見がまとまらない、医療・ケアチームとの話し合いの中で、妥当で適切な医療・ケアの内容についての合意が得られない場合
このような場合は、複数の専門家からなる話し合いの場を別途設置する
医療・ケアチーム以外の者を加えて、方針についての検討・助言を行う
参考:厚生労働省
介護付きホーム(特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護)においては、看取り介護加算Ⅱの算定要件として、新たに「看取り期は、夜勤又は宿直の看護職員を配置すること」という新たな要件が加わりました。
看護職員の夜勤・宿直ということで、他の施設での看取り介護加算Ⅱよりも手厚くなっています。
看取り期においては、頻回の訪問が必要となることが多く、より柔軟な対応が求められます。
そのため、訪問介護における2時間ルール(2時間未満の間隔でサービスを行った場合は、所要時間を合算しなければならない)を弾力化し、所要時間を合算せず、それぞれの所定単位数で算定できるようになりました。
単位数は以下でまとめています。
所要時間 | 単位数 | |
身体介護中心型 | 20分未満 | 167 |
20分以上30分未満 | 250 | |
30分以上1時間未満 | 396 | |
1時間以上1時間30分未満 | 579 | |
以降30分増すごとに | 84 | |
生活介護中心型 | 20分以上45分未満 | 183 |
45分以上 | 225 |
まず、看取り介護とターミナルケアの大きな違いは、医療的ケアをするかしないかということです。
看取り介護は、食事や排泄などのお世話などの日常的なケアが中心なのに対し、ターミナルケアは、点滴や経管栄養、酸素吸入などの医療ケアが中心となります。
看取り介護加算は、終末期を迎えた方に対して行われる介護に対する加算です。
積極的な治療をせず、心身の苦痛を緩和させながら生活するための援助に対して加算されます。
ターミナルケア加算は、終末期を迎えた方に対し、胃ろうなどの経管栄養、中心静脈栄養や人工呼吸器などを行いながら看取りをすることです。
そのため、看取り介護加算の対象施設とターミナルケア加算の対象施設が違ってきます。
ターミナルケア加算の対象施設は
・介護老人保健施設
・介護医療院
・介護療養型医療施設
・短期入所療養介護
に対して行われる加算です。
超高齢社会を迎えている今、看取り期介護の機会がどんどん増えています。
しかし、看取り期介護をするには、様々な課題をクリアしなければなりません。
看取りに携わる介護スタッフは、精神的・身体的な負担が増えます。
そんなスタッフへの対応が大切になってきます。
看取り介護をするスタッフは、人の死を間近で感じながらケアをしなければなりません。
家族のようにケアしてきた方の死を受け入れることは、大きな精神的負担になります。
「死への漠然とした不安」や「亡くなった後にもっとこうしてあげればよかった」などの後悔など、様々な思いがあることと思われます。
そんな精神的な負担を取り除く方法としての取り組みを紹介いたします。
1.看取り介護に関する研修を行う
看取りへの不安は様々ですが、看取りに関する知識や経験の不足によるものが大きいです。
研修を行ったり、共有の看取りに関する書籍を職場に置いていつでも読めるようにしておくのもよいでしょう。
2.医療・ケアチームで助け合う
チームの中には看取り経験があるという方もいらっしゃると思います。
実際に看取り介護をしながら、経験者に相談したり、医療スタッフにアドバイスをもらったり、知識のある職員と共に、支えあうことが大切です。
3.家族や本人を交えて何度も話し合いを持つ
医療・ケアチームで、本人やご家族を交えてできるだけ話し合いの機会を持つことが大切です。
意思の変化はないか、新たな希望ややりたいことなどをお聞きし、本人、家族、医療・ケアチームスタッフ全員が後悔のない最期を迎えられるようにサポートしましょう。
介護職は常に人材不足であることが多い職業ですが、看取り介護をする際、頻回の巡回や個室対応などで、どうしてもスタッフの手が回らなくなってしまうこともあります。
いかに介護職の人材を増やすかということも大切ですが、介護職の離職も深刻です。
まずは、経験豊富な人材が安心して働ける職場を作ることが、重要です。
昔は在宅で看取るということが普通に行われてきましたが、今は、核家族化などもあり、自宅で看取ることが困難な時代です。
看取り介護加算を事業者がしっかりと理解し、算定することで介護施設の看取りをより充実したものにしていくことが重要となります。