口腔連携強化加算は、2024年の介護報酬改定により新設された加算です。訪問看護事業所が歯科医療機関と連携し、利用者の口腔健康管理を強化することを目的としています。
高齢者の口腔ケアは、誤嚥性肺炎の予防や全身の健康維持に深く関わっています。そのため、訪問看護事業所が歯科医療機関と適切に連携し、利用者の口腔状態を評価・支援できる体制を整えることが求められています。この加算は、その取り組みを促進し、介護サービスの質を向上させるために導入されました。
本記事では、口腔連携強化加算の概要や算定要件、必要な文書(契約書や情報提供書)について詳しく解説し、取得に向けた準備をサポートします。
目次
口腔連携強化加算が新設された背景には、要介護高齢者の口腔ケア不足が深刻化している現状があります。調査によると、要介護高齢者の64.3%が歯科治療や口腔管理を必要としているにもかかわらず、実際に治療を受けたのはわずか2.4%にとどまります。
引用:厚生労働省「社会保障審議会資料 口腔・栄養(改定の方向性)」
このような状況を改善するため、訪問看護や介護事業所と歯科医療機関の連携を促進し、適切な口腔ケアを提供できる体制を整えることを目的に、2024年の介護報酬改定で新設されました。
この加算により、介護従事者の負担を軽減しながら、歯科医療機関と連携して口腔健康管理を強化し、誤嚥性肺炎予防や健康寿命の延伸を目指すことが期待されています。
口腔連携強化加算を算定するためには、歯科医療機関との連携が文書で明確に取り決められていることが必須です。
算定要件には、「診療報酬の歯科点数表区分番号C000に掲げる歯科訪問診療料の算定実績がある歯科医療機関の歯科医師または歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、訪問看護事業所の職員からの相談等に対応する体制を確保し、その旨を文書等で取り決めていること」と明記されています。
引用:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」
この「文書等」が、歯科医療機関との契約書や覚書などにあたります。必ずしも「契約書」という名称である必要はありませんが、文書等で取り決めたものを必要と明記しています。加算を取得するためには、こうした文書を適切に作成し、介護サービス事業所と歯科医療機関の役割や対応体制を明確にする必要があります。
口腔連携強化加算を算定するためには、以下の要件を満たす必要があります。
引用:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」
単純に要約すると以下の3点を満たすことを要件としています。
- 口腔の健康状態の評価と情報提供
- 口腔ケアの相談対応体制の確保
- 他の加算や他事業所との重複算定がないこと
相談対応体制を構築するためのルールを文書で取り決めることが求められ、契約書等が必要になります。
口腔連携強化加算を算定するためには、歯科医療機関との契約書(または文書での取り決め)が必須ですが、利用者の同意書は算定要件には含まれていません。ただし、実務上は同意書を整備することが推奨されます。
契約書(歯科医療機関)
- 必須書類:算定の要件として、歯科医療機関との文書での取り決めが求められる。
- 内容:歯科医療機関と介護事業所(訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション等)との間で、連携内容や対応体制を明確にする。
- 形式:契約書・覚書・合意書など、双方の合意を文書化したものであればよい。
同意書(利用者)
- 必須ではないが推奨される書類。
- 口腔連携強化加算の制度上、利用者の同意は口腔の健康状態の評価を受けた後に得る必要があるが、その同意を文書として整備する義務はない。
- ただし、利用者の口腔情報を歯科医療機関やケアマネジャーに提供するため、個人情報保護の観点から同意書を取得しておくことが望ましい。
このように、契約書は算定に必須であるのに対し、同意書は必須ではありません。ただし、利用者の同意がなければ、ケアマネジャーや歯科医療機関に情報提供ができないため、書面である必要はないものの、利用者が同意したという事実は必要です。この違いをしっかり理解しておく必要があります。
口腔連携強化加算を算定するためには歯科医療機関との間で文書を取り交わさなければいけません。歯科医療機関と連携するための契約書の作成ポイントを解説します。
口腔連携強化加算の契約書について、作成者の明確な規定はありません。
- 歯科医療機関が雛形を用意している場合もあり、それを活用することが可能。
- 訪問看護・訪問介護・訪問リハビリテーション事業所などが独自に作成する場合もある。
- 双方が協議の上、必要事項を決定し、適切な形式で文書化することが重要。
契約書の作成にあたっては、歯科医療機関と事業所の連携体制が明確になるようにすることが求められます。
口腔連携強化加算の契約書について、厚生労働省などが提供する公式な雛形はありません。そのため、事業所ごとに歯科医療機関との協議をもとに作成する必要があります。
契約書の例として、記載項目を以下に示します。
- 契約の目的:口腔連携強化加算の取得を目的とし、歯科医療機関と事業所が連携することを明記。
- 事業所と歯科医療機関の役割分担:各機関の対応内容や責任を具体的に記載。
- 情報共有の方法:口腔の健康状態の評価結果をどのように歯科医療機関やケアマネジャーへ提供するかを明確化。
- 相談対応の体制:歯科医師または歯科衛生士が訪問介護・訪問看護などの事業所の職員からの相談に対応する体制を示す。
- 契約の有効期間と更新・解除の条件:契約の有効期限、更新方法、解約の条件などを明確にする。
- 個人情報の取り扱い:利用者の情報を適切に管理し、守秘義務を定める。
このように、契約書の記載内容は事業所の運営方針や歯科医療機関との連携状況に応じて調整可能です。契約を締結する際は、事業所と歯科医療機関の双方が納得できる内容にすることが重要です。
口腔連携強化加算を算定するためには、契約書だけでなく、厚生労働省が定める「情報提供書」の提出も必要です。
情報提供書は、利用者の口腔の健康状態を歯科医療機関や介護支援専門員(ケアマネジャー)に報告するための文書です。これは、加算の算定要件にも含まれており、利用者の口腔の状態を明確に記載し、提出する必要があります。情報提供書作成のポイントは以下の通りです。
- 厚生労働省が提供する「別紙様式11(口腔連携強化加算に係る情報提供書)」を使用する。
- 利用者の口腔の健康状態の評価結果を記載し、歯科医療機関やケアマネジャーへ提供する。
- 1ヵ月に1回の情報提供が必要(加算算定のための要件)。
- 情報の正確性を確保し、利用者の同意を得ることが望ましい。
参考:別紙様式11(口腔連携強化加算に係る情報提供書)
情報提供書は、加算を算定するための重要な書類であり、契約書とセットで適切に管理する必要があります。
簡単に整理すると、書類の流れは以下の通りとなります。
- 契約書: サービス事業所 ⇔ 歯科医療機関
- 同意書: サービス事業所 ⇔ 利用者
- 情報提供書: サービス事業所 ⇒ ケアマネジャー・歯科医療機関
書類の流れを理解しておきましょう。
口腔連携強化加算を取得するには、歯科医療機関との契約書が必要です。事業所の職員が利用者の口腔の健康状態を評価し、その結果を歯科医療機関やケアマネジャーに提供することで、加算の対象となります。
適切な連携体制を整え、契約書を交わすことで、口腔健康管理の強化につながり、加算の取得が可能となります。