訪問介護事業所の管理者は、事業所を運営するうえで重要な役割があるポジションです。訪問介護事業所の管理者が複数の職種を兼務することで、より効率的に業務を遂行することもできます。
管理者と他の業種を兼務させることで、効率的に事業所を運営したい経営者も多いでしょう。
この記事では、訪問介護事業所の管理者が兼務できる職種の範囲について解説します。この記事を読むことで、訪問介護事業所管理者の役割と兼務する際の注意点について理解できます。
目次
訪問介護とは、介護福祉士やホームヘルパーが利用者の自宅を訪問して、身体介護や生活援助を行うサービスです。厚生労働省が公開している資料「訪問介護」には、訪問介護について以下のように記載しています。
訪問介護の定義 |
「訪問介護」とは、訪問介護員等(※)が、利用者(要介護者)の居宅を訪問し、入浴・排せつ・食事等の介護、調理・洗濯・掃除等の家事等を提供するものをいう。 ※「訪問介護員等」 |
引用:厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会(第220回)資料1「訪問介護」
訪問介護は、提供するサービス内容に応じて、以下の3つのサービス類型に分類されます。
訪問介護事業所数は、年々増加しています。厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会の資料「訪問介護」では、令和4年の請求事業所数は34,372事業所でした。この事業所数は、平成20年から約1.36倍の数値で、同資料を確認しても毎年右肩上がりに増加していることがわかります。
超高齢社会を迎える日本において、要介護者の在宅生活を支える訪問介護の重要性は増しています。
訪問介護事業所を運営するためには、人員配置基準を満たす必要があります。訪問介護事業所の人員配置基準は以下のとおりです。
訪問介護の人員配置基準 | |
訪問介護員等 | 常勤換算方法で2.5以上 |
サービス提供責任者 (※) | 介護福祉士、実務者研修修了者、旧介護職員基礎研修修了者、旧1級課程修了者 ・訪問介護員等のうち、利用者の数40人に対して1人以上 (原則として常勤専従の者であるが、一部非常勤職員でも可) ・以下の要件を全て満たす場合には、利用者50人につき1人 ○ 常勤のサービス提供責任者を3人以上配置 ○ サービス提供責任者の業務に主として従事する者を1人以上配置 ○ サービス提供責任者が行う業務が効率的に行われている場合 ※ 共生型訪問介護事業所においては、特例がある。 |
※サービス提供責任者の業務 ①訪問介護計画の作成、②利用申込みの調整、③利用者の状態変化やサービスへの意向の定期的な把握、④居宅介護支援事業者等に対する利用者情報の提供(服薬状況や口腔機能等)、⑤居宅介護支援事業者との連携(サービス担当者会議出席等)、⑥訪問介護員に対しての具体的援助方法の指示及び情報伝達、⑦訪問介護員の業務の実施状況の把握、⑧訪問介護員の業務管理、⑨訪問介護員に対する研修、技術指導等 | |
管理者 | 常勤で専ら管理業務に従事するもの |
引用:厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会(第220回)資料1「訪問介護」
訪問介護事業所の運営に必要な職員は、訪問介護員等、サービス提供責任者、管理者の3職種です。各職種の役割について解説します。
訪問介護員は、利用者の自宅を訪れ、日常生活の援助や身体介護を提供する専門職です。資格がなくても訪問介護員として働くことは可能ですが、身体介護を行うためには介護職員初任者研修などの研修を修了する必要があります。
仕事内容としては、身体介護(食事、排せつ、入浴など)と生活援助(掃除、買い物など)が主な業務です。ただし、医療行為や日常生活の範囲を超える家事代行はできません。
訪問介護サービスには、大きな責任が伴うことも忘れてはいけません。
利用者は心身に障がいを持った要介護者なので、転倒事故で大ケガを負ってしまう、突然意識が消失する、などの緊急事態に遭遇する可能性もあります。
訪問介護サービス提供中に緊急事態が発生した際には、利用者の命を第一に考え、冷静に対処しなければいけません。
日常生活の支援を行いつつ、要介護者の命を守ることも訪問介護員の重要な役割のひとつです。
サービス提供責任者は訪問介護事業所において非常に重要な役割を果たします。
サービス提供責任者は、訪問介護サービスの全体的な計画と実施を監督し、ケアマネージャーや訪問介護員と連携を取る役割を持っています。
主な業務は、訪問介護計画書の作成、利用者とその家族との面談、ケアマネージャーとの連携、ヘルパーの指導など多岐にわたります。
サービス提供責任者は、利用者が利用を開始する前に利用者の自宅を訪れ、その状態やニーズを評価しなければいけません。自宅訪問時に得た情報とケアマネージャーが作成したケアプランに従って、訪問介護計画書を作成します。この訪問介護計画書は、具体的なケア内容、目標、スケジュールなどを明記する重要な文書です。
また、サービス提供責任者はヘルパーの教育と指導も行います。新人ヘルパーが初めて利用者の自宅を訪れる際や、経験の少ないヘルパーがいる場合は、サービス提供責任者自身が同行して指導を行います。さらに、ヘルパーからの報告を受け、利用者の状態を随時把握し、必要に応じて訪問介護計画書を修正することも大切な業務のひとつです。
サービス提供責任者の資格要件としては、介護福祉士、実務者研修修了者、またはホームヘルパー1級課程(旧課程)修了者であることが求められます。
訪問介護事業所の管理者は、事業所の全体的な運営と管理に責任を持つ職種です。具体的には、サービスの品質管理、従業員の確保と育成、事業所の財務状況の管理など、主に事業所運営に関係する業務を担当します。
管理者は、介護サービスの質を向上させるために、ケアプランが適切に実施されているかを確認し、必要であれば改善措置を講じなければいけません。また、従業員のシフト管理や労務環境の確保も、管理者にとって重要な業務です。
例えば、訪問介護計画書の内容が不適切な場合は、サービス提供責任者や訪問介護員と連携して修正・改善を行います。
管理者の資格要件は特に定められていないものの、介護業界の知識や経験がなければスムーズに業務を遂行するのは難しいでしょう。
管理者は、多岐にわたる業務を担当するため、介護のスキルだけでなく、マネジメントや経理のスキルも求められます。訪問介護事業所の中でも、大きな責任が伴う重要なポジションです。
訪問介護事業所の管理者は他の業種と兼務できます。管理者が他の業務と兼務するパターンとして、同事業所内で兼務するケースと他の事業所と兼務するケースの2パターンがあります。各パターンについて見ていきましょう。
同じ訪問介護事業所内で兼務する場合、以下の2つのパターンでの兼務が認められています。
訪問介護事業所内であれば、サービス提供責任者と訪問介護員のどちらでも兼務できます。ただし、訪問介護員、サービス提供責任者、管理者の3役を兼務することはできません。
同事業所内での兼務に関しては、各自治体によって若干見解が異なります。詳細な兼務条件について知りたい方は、担当の自治体窓口へ相談することをおすすめします。
他の事業所の管理者と兼務することも可能です。
例えば、訪問介護事業所の管理者と通所介護事業所の管理者を兼務する、訪問介護事業所の管理者と訪問看護事業所の管理者と兼務する、なども可能です。
ただし、両方の事業所で管理者となる場合でのみ兼務できます。どちらか片方の事業所で管理者以外として勤務することはできないため注意しましょう。
訪問介護事業所の管理者は、事業所全体の運営と管理に責任を持つ重要なポジションです。具体的には、介護サービスの品質向上、介護職員の管理、利用者の管理、事業所経営、そして行政とのやり取りなどが主な仕事内容となります。各仕事内容について解説します。
訪問介護事業所の管理者は、提供される介護サービスの質をチェックし、必要な改善措置を講じます。
具体的には、ケアプランが適切に実施されているかを確認し、問題がある場合は原因を特定して対策を実施します。また、実際に現場へ出て、利用者からの声に耳を傾けることも大切です。
多角的な視点から、訪問介護事業所が提供するサービスの方針を決定していきます。
介護職員の管理も管理者の重要な業務のひとつです。
具体的には、シフト管理、労務環境の確保、スタッフの育成といった点で労務環境をチェックし、問題があれば改善します。
職員が働きやすい労働環境を整備することで、訪問介護サービスの質も向上するでしょう。よりよいサービスを提供するためにも、労務環境の整備は重要なポイントです。
訪問介護事業所の管理者は、事業所の財務状況を管理し、必要な行政手続きや報告も担当します。
また、収支管理や営業活動をしっかりと行い、事業所が持続可能な状態を保つことも管理者が担う重要な役割のひとつです。
行政とのやり取りも管理者の業務に含まれます。
行政からの問い合わせに対する窓口となり、事業所の経営方針を決定することも管理者の役割です。
具体的には、介護保険に関する報告や、消防計画など、事業所を運営するために必要な各種書類を提出する業務などが該当します。
訪問介護の管理者になるために必要な資格要件はありません。
常勤専従の職員であれば、だれでも管理者になることは可能です。しかし、管理者には高度なマネジメント能力や、介護に関する専門知識が求められます。
訪問介護事業所全体の業務を把握してマネジメントしなければいけないため、介護業界の知識や経験があるほうが事業所運営をスムーズに進められるでしょう。
厚生労働省の発表している資料「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、訪問介護事業所におけるサービス提供責任者の平均給与は339,290円でした。
事業所によって多少異なりますが、管理者とサービス提供責任者は、ほぼ同等の責任と業務量がある傾向があります。このことから、管理者の平均収入も月33万円程度と考えるのが妥当でしょう。
厚生労働省のデータから計算すると「33万円×12ヶ月=年収396万円」となるため、約396万円が訪問介護事業所管理者の平均年収といえます。ただし、これは厚生労働省のデータを参考に計算した数値です。実際の年収は、事業所の方針や地域の実状によって変わります。
詳しくは、お近くの訪問介護事業所へ聞くことをおすすめします。
この記事では、訪問介護事業所の管理者が兼務できる職種や、管理者になるために必要な知識について解説しました。
訪問介護事業所の管理者は、事業所全体の運営と管理に責任を持つ重要な職種です。介護サービスの品質向上、介護職員と利用者の管理、事業所経営、そして行政とのやり取りなど多岐にわたる業務を担当します。
管理者に必要な資格要件はありませんが、介護業界の知識や経験があるとマネジメントしやすくなるでしょう。
同じ訪問介護事業所内であれば、サービス提供責任者や訪問介護員との兼務が可能です。ただし、3役を兼務することは認められていません。
また、他の事業所管理者との兼務も可能です。しかし、兼務できる職種が管理者に限定される点には注意しましょう。
管理者が兼務できる職種や業務内容などは、自治体によって異なる場合もあります。詳細な条件を知りたい方は、担当の自治体窓口へ問い合わせることをおすすめします。
参考資料:厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会(第220回)資料1「訪問介護」
参考資料:厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」