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介護現場でのICT導入の効果とは? 成功事例や導入支援を紹介

元山 ゆず香

監修者

介護福祉士

元山 ゆず香

大学を卒業後、特別養護老人ホームにて現場業務に従事。その後、福祉系大手企業に入社し、エリアマネージャーとして、施設介護事業・居宅介護事業・障害福祉サービス事業でのエリアマネジメント・行政対応を経験。また、法人本部に異動し教育部門・監査担当部門の部長を歴任。現在は全国の介護・障害福祉事業所の支援やセミナーの開催、DXO株式会社での介護関連事業の支援などを実施。

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介護現場でICTを導入すると多くのメリットがあります。今回は介護現場でのICT導入の効果だけでなく、実際の導入したことによる成功事例まで紹介します。
ぜひ、最後までお読みください。

介護におけるICTの概要

ここでは介護におけるICTの概要について説明します。

ICTとは

ICTは、「Information and Communication Technology(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー)」の略語となっており、日本語では「情報通信技術」という意味となり、簡単にまとめると、「ネットワークを活用して情報を共有すること」です。

実際、前回の介護報酬改定だった2021年度でもICT化は注目されていました。具体的には、2021年度の改定内容の柱は下記の5項目でした。

  1. 感染症や災害への対応力強化
  2. 地域包括ケアシステムの推進
  3. 自立支援・重度化防止の推進
  4. 介護人材の確保・介護現場の革新
  5. 制度の安定性・持続可能性の確保

参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」

上記の5項目の中から「介護人材の確保・介護現場の革新」の項目で、「テクノロジーの活用や人員基準・運営基準の緩和を通じた業務効率化・業務負担軽減の推進」とあることからも、ICTを活用した業務効率化・改革を提言しているのが分かるはずです。

 

介護におけるICT活用の重要性

ICTを活用する重要性はさまざまな理由がありますが、その中でも介護現場では人手不足が今まで以上に深刻になります。

その大きな理由として「2025年問題」があります。

「2025年問題」は2025年以降に「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になることで生じるさまざまな問題のことです。
この「団塊の世代」は、1947年から1949年頃の第1次ベビーブームに生まれた世代のため、約670万人と非常に多くの人がいて、全人口割合の約5.3%になります。

実際、厚生労働省は、2025年には65歳以上が30.3%で約3人に1人、75歳以上が18.1%で約5人に1人になると予想しています。

参考:内閣府「第1章 高齢化の状況(第1節6(1))」
参考:厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料」

さらに問題は、高齢化率の増加は2025年がピークではない点です。実際内閣府は、65歳以上の高齢者が2036年には33.3%、2065年には38.4%となると予測しています。

参考:内閣府「第1章 高齢化の状況(第1節 1)」

高齢者の人数増加に伴って、要介護者も合わせて増加することも分かっています。

介護保険制度が開始された2000年度の要介護認定者数は、厚生労働省によると約256万人でしたが、2020年度の要介護(要支援)認定者数は約682万人となっています。また、要介護者の人数は2035年までは増加していき、2040年には988万人とピークを迎える予想です。

参考:厚生労働省「介護保険事業状況報告(暫定)」
参考:厚生労働省「令和2年度 介護保険事業状況報告(年報)」
参考:経済産業省「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会」

このように介護が必要な方は増加傾向ですが、実際の介護現場では人材不足が深刻です。

2021年に厚生労働省が発表した、「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によると、2023年度には介護職員が約233万人必要ですが、約211万人と約22万人が不足する見込みです。

この不足人数はそれ以降も深刻化し、2025年度には約243万人介護職員が必要にもかかわらず約32万人の不足、2040年には約280万人介護職員が必要に対して約69万人も不足すると予測されていることからも介護職員の人手不足が理解できるはずです。

参考:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」

これらは近い将来生じると予測されている問題です。しかし、ICTを活用することで今まで以上に業務負担を軽減することで、介護職員が少ない状況下でも質の高い介護を行うことが期待できます。

 

介護におけるICT活用の現状

介護業界も近年ではICTを導入している事業所は増加傾向です。

実際、介護労働安定センターが調査した「介護労働実態調査結果」では下記の結果でした。

実施項目

令和2年

令和3年

パソコンで利用者情報(ケアプラン、介護記録など)を共有している

50.4%

52.8%

記録から介護保険請求システムまで一括している

39.1%

42.8%

タブレット端末などで利用者情報(ケアプラン、介護記録など)を共有している

22.0%

28.6%

ICTを一切導入していない

25.8%

22.0%

上記から令和3年の時点で、7割を超える介護事業所が何らかの形でICTを導入していることが分かります。

また3割近くの介護事業所がタブレット端末などを使って利用者情報をスタッフ間で共有するといった比較的高度なICTの活用も行っています。

参考:公益財団法人 介護労働安定センター「令和2年度「介護労働実態調査」結果の概要について」
参考:公益財団法人 介護労働安定センター「令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要について」

 

介護におけるICT活用のメリット

介護現場でICTを活用することで多くのメリットがあります。ここでは下記の主要なメリットについて紹介します。

参考:厚生労働省「令和2年度ICT導入支援事業 導入効果報告まとめ」

業務の効率化が図れる

利用者の管理・記録・報告などの業務がありますが、これらの作業をICTで一元化・自動化することで、業務効率が大幅に改善されます。

厚生労働省が行った調査でも、ICTを導入することで、間接業務の時間が30〜60分程度削減され、介助など直接ケアの時間が30分程度増加したことが分かっています。

 

スムーズな情報共有が可能になる

ICTを導入すれば、スマホ・タブレットなどを使用すれば、必要なときに最新情報にアクセスできるだけでなく、「インカム」のような通信機器を導入することで、リアルタイムでの情報伝達が可能になり、事業所内のコミュニケーションも活発化します。

また、言葉で表現しにくい内容などは、内蔵カメラで撮った画像を見せることで情報共有も可能です。

実際、ICTを導入することで69.4%の事業所が「事業所内の情報共有が円滑になった」と回答しています。

 

2024年の報酬改定でも介護現場のICT化に注目

介護報酬は3年に1回の頻度で改定が実施されます。前回の介護報酬改定は2021年に実施されたため、次回は2024年に改定が実施されます。

現時点での2024年 介護報酬改定は下記の4つが柱です。

  1. 地域包括ケアシステムの深化・推進
  2. 自立支援・重度化防止に向けた対応
  3. 良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり
  4. 制度の安定性・持続可能性の確保

上記の4つの中で、「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」事項では、介護人材不足の中で、更なる介護サービスの質の向上を図るために、処遇改善やICT活用による生産性向上が記載されています。

このように、2021年に続き2024年も介護現場におけるICT導入が注目されていることが分かります。

参考:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関する審議報告の概要」

 

介護におけるICT化で算定可能な報酬加算

近年ではICT化で算定可能な報酬加算も増えています。今回はその中で主要な項目を紹介します。

リハビリテーションマネジメント加算

利用者の状態や生活環境などを踏まえた計画の作成、適切なリハビリテーションの実施、評価、計画の見直しを行い、質の高いリハビリテーションを提供することを評価する加算で、訪問リハビリテーション・通所リハビリテーションで算定できる加算です。

この加算を算定するためには、医師・リハ職・介護支援専門員・居宅サービス計画に位置づけた指定居宅サービスなどの担当者が集まりリハビリテーション会議を開催する必要があります。

しかし、時間や場所などの問題から定期的に会議を開くことが困難なケースが多くありますが、リハビリテーションマネジメント加算では、医師がテレビ通話などを活用してリハビリテーション会議に参加することが許可されています。

そのため、テレビ通話などを用いることで簡単に会議へ参加できるだけでなく、利用者の情報を共有しやすくなります。

参考:熊本県「リハビリテーションマネジメント加算等に関する基本的な考え方並びにリハビリテーション計画書等の事務処理手順及び様式例の提示について」

 

生活機能向上連携加算(Ⅰ)

利用者ができる限り自立した生活を送れるように、「自立支援・重度化防止」に資する介護を推進するため、事業所職員と外部のリハビリテーション専門職や医師が連携してアセスメントを行い、計画書を作成した場合を評価する加算で、訪問介護・通所介護などで算定できます。

例えば外部のリハ職などが、ビデオ通話などのようにコミュニケーションを図れる通信機器を用いて、利用者の身体状況などを確認・助言することで生活機能向上連携加算(Ⅰ)を算定可能です。

この加算は、利用者の自宅から通話して行うため、専門家が利用者の現状を直に確認することができ、より正確な状況把握や助言などができます。

参考:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」

 

導入の負担を抑えるならICT導入補助金の利用を検討

ICT導入するにはある程度の費用が必要ですが、下記の補助金を利用することで費用の負担を軽減できます。

支援の対象となる機器

  • 介護ソフト
  • バックオフィスソフト(勤怠管理、シフト管理など)
  • 情報端末(タブレット端末、スマートフォン端末、インカムなど)
  • 通信環境機器(Wi-Fiルーターなど)
  • 運用経費(クラウド利用料、サポート費、研修費)

補助要件

  • 「LIFE」による情報収集
  • フィードバックに協力
  • 他事業所からの照会に対応
  • 都道府県へ導入計画と導入効果報告を提出(導入効果報告は2年間必要)
  • IPAが実施する「セキュリティアクション」の「一つ星」または「二つ星」のいずれかを宣言している
  • ICTの活用により収支状況の改善が図られた場合は、職員の賃金に還元する(導入効果報告により確認)

上限額

職員数につき変動

  • 1~10人:100万円
  • 11~20人:160万円
  • 21~30人:200万円
  • 31人~:260万円

参考:愛知県「介護事業所ICT導入支援事業」
参考:厚生労働省「介護現場におけるICTの利用促進」

 

ICT導入の成功事例

実際に介護現場でICTを導入して成功した事例は多く存在します。今回はその中で厚生労働省が発表している下記の事例について紹介します。

参考:厚生労働省「働き方改革特設サイト」

ICT活用による生産性向上・勤務環境改善

株式会社クオレでは新型コロナをきっかけにICTを導入しました。

導入した勤怠システムで、勤怠を自動管理できるようになったため、正確な労働時間管理が可能となり、勤怠処理の合理化と給与計算業務の簡素化ができました。その結果、給与計算担当者は毎月時間外労働が発生していましたが、導入後時間外労働はほぼ0となりました。

また、全事業所にネットワークシステムを導入し、会議をリモート化するだけでなく、リモートを使いケアプランは在宅でできるように積極的にリモートを活用したとのことです。

現場でも訪問系はタブレット・スマホの配布、施設の利用者のベッドには見守りセンサーを設置し、夜勤など人数が少ない場合でも機械が利用者の状況を把握し、情報はクラウド管理し共有することが可能となった結果、少ない人数でも生産性の向上と勤務環境の改善につながりました。

 

介護現場のDX化推進で業務改善と介護サービスの向上

株式会社ウエストトラスト・ライフサポートの事例です。

介護記録の入力・申し送り事項などに時間がかかり、介護業務終了後に残業しなければいけない状況でした。

そのような状況を改善するために、各職員にタブレット端末を配布して、作業の隙間時間に逐一入力ができるように変更しました。さらに打ち込んだ情報もクラウド型の情報共有のグループウエアを導入して、申し送り事項を随時共有できる仕組みにすることで重要情報を全職員で共有できるようになり、伝達の情報量も増え、コミュニケーションの質が大幅に向上したとのことです。

 

最新の福祉機器導入、ICT化の推進で介護のイメージを変える

社会福祉法人 海望福祉会の事例です。

介護現場の仕事は腰痛になるなど良くないイメージもあり人材確保にも影響が出ると考え積極的に福祉機器を導入して腰痛予防に取り組みました。

その結果、介護者の体力的な負担が軽減されるだけでなく、利用者にとっても安心で安全な環境を作り出しました。

また合わせて、介護の現場で職員の負担になっている「記録業務」の時間軽減を目的にタブレットを導入し、システムと連動させました。その結果、いつでもどこでもデータの入力が行えるだけでなく結果がすぐに反映されるため、記録業務の大幅な効率アップが実現できました。

さらにデータとして蓄積されるため、どのように記載したら分かりやすいのかなど、次世代にも受け継がれるというメリットがあります。

 

まとめ:今後の安定した介護事業運営にICT導入は必須

今回は介護現場でのICT導入の効果と成功事例について紹介しました。介護現場でも近年は急速にICT導入が進められています。

そのため、今後の安定した介護事業運営にはICT導入は必須と思われるため、導入をしていない事業所は、今回をきっかけにぜひ一度導入を検討してください。