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介護人材の課題とこれからの展望、打開策に迫る

2023-11-06

元山 ゆず香

監修者

介護福祉士

元山 ゆず香

大学を卒業後、特別養護老人ホームにて現場業務に従事。その後、福祉系大手企業に入社し、エリアマネージャーとして、施設介護事業・居宅介護事業・障害福祉サービス事業でのエリアマネジメント・行政対応を経験。また、法人本部に異動し教育部門・監査担当部門の部長を歴任。現在は全国の介護・障害福祉事業所の支援やセミナーの開催、DXO株式会社での介護関連事業の支援などを実施。

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介護事業所を運営するうえで、介護人材の確保は重要な課題のひとつです。人材不足が原因で、トラブルが発生するケースも少なくありません。常に介護人材を確保し続けるためには、介護業界が抱えている課題とこれからの展望について把握しておく必要があるでしょう。

この記事では、介護業界において介護の人材業界が抱えている課題と打開策について解説します。この記事を読むことで、介護人材を確保するために各事業所が取り組むべき対策もわかります。

介護人材の実態

介護人材の課題を把握するためには、まず実態を知らなければいけません。毎年、複数の機関が介護人材に関する調査を実施しており、それらのデータを横断的に確認することで介護業界の実態を把握できます。ここでは、厚生労働省や介護労働安定センターの資料をもとに、介護人材の実態について解説します。

2025年には約32万人の介護人材が不足する

厚生労働省の資料「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、2025年度には約32万人の介護人材が不足すると予測されています。また、その後も介護人材不足は進行し、最終的に2040年時点で不足する介護人材は約69万人まで増加する可能性も示唆されています。

介護人材が不足することは数年前から予測されており、政府が実施する政策によって介護人材の数は少しずつ増加してきました。しかし、要介護状態の高齢者も増加傾向にあるため、介護サービスの需要に対する介護人材の供給が追いついていない状況ともいえるでしょう。

参考:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」

半数以上の介護施設で介護人材不足を実感

公益財団法人介護労働安定センターが公開している「令和4年度介護労働実態調査の概要」によると、多くの介護事業所が人手不足に悩まされているようです。

同調査では、調査対象の施設に対し従業員の職種別過不足状況を聞いたところ、多いに不足、不足、やや不足と回答した事業所が、合計で66.3%という結果が出されました。

また、労働者が抱える労働条件・仕事の負担に関する悩みでは、「人手が足りない」と回答した方が52.1%で最も多くなっています。

これらの調査結果から、介護事業所における運営者側と従業員側の両方から、深刻な介護人材不足を実感していることがわかります。

参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査の概要」

介護人材の有効求人倍率

介護人材が不足していることから、介護職の有効求人倍率も高くなっています。

厚生労働省から発表されている資料「一般職業紹介状況(令和4年12月分及び令和4年分)」によると、介護サービス業の有効求人倍率は4.01倍です。

この有効求人倍率から、1人の介護職を4つの施設が取り合っている状況であることがわかります。これから介護職として働きたい方にとっては有利な状況ですが、施設を運営する立場としては人材確保に苦労する状況といえるでしょう。

介護人材の有効求人倍率という観点から確認しても、介護人材が足りていないことがわかります。

参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和4年12月分及び令和4年分)」

介護人材が離職する理由

介護人材が不足する要因のひとつとして、介護職がすぐに離職してしまうことも挙げられるでしょう。ここでは、公益財団法人介護労働安定センターが公開している資料「令和4年度介護労働実態調査の概要」のデータをもとに、介護人材が離職する理由について解説します。

人間関係の問題

令和4年度介護労働実態調査の結果によると、前職(介護関係の仕事)をやめた理由として、もっとも多かった回答は「職場の人間関係に問題があったため」で27.5%でした。

この調査結果から、介護人材は人間関係の問題で離職しやすい傾向があるといえるでしょう。さらに、男女別の調査結果によると、特に女性が離職する理由として「人間関係の問題」と回答していることがわかります。

職場の人間関係が悪化する要因は、シチュエーションごとに異なります。そのため、人間関係を良好に保つためには、各職場で働く職員の意見を聞いて改善していくことが重要です。介護人材を安定して確保するためには、職場の人間関係が重要であると理解しておきましょう。

法人や施設の運営に不満

令和4年度介護労働実態調査の結果では、介護職が離職する理由として2番目に多かった回答は「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」でした。

特に、男性介護職員が離職する理由として最も多かった回答が、法人や施設の運営に対する不満です。このデータから、男性介護職員の場合、法人や施設の運営方針を最も重視しているといえるでしょう。

職員が施設の運営方針に不満を持つ原因として、上層部が現場で働く職員の意見を聞いていないことや、定期的に法人の運営方針を職員に伝えていないことなどが挙げられます。介護人材を安定して確保するためには、定期的に職員との対話の機会を持ち、法人や施設の運営方針を共有していくことが大切です。

 

他に良い仕事があった

令和4年度介護労働実態調査の結果において、介護職が離職する理由として3番目に多かった回答は「他に良い仕事があったため」です。

男性介護職員に限定した場合、3番目に多かった回答は「収入が少なかったため」となっており、男女合わせた結果でも「収入が少なかったため」は4番目に多くなっています。

これらの結果から、現在の職場よりも条件が良い職場を見つけて転職する介護職員は多く、条件の良い職場として「収入面」を考えている方も多いといえるでしょう。

近年、介護職員の処遇を改善するため、政府はさまざまな政策を実行しています。これにより、徐々に介護職員の賃金は上昇していますが、その他の職業と比較しても収入が良い職業とはいえない状況です。

介護人材を安定して確保するためには、介護職の処遇改善を積極的に実施することをおすすめします。

介護人材が不足する原因

介護人材が不足する原因として、介護の仕事が身体的負担の大きい仕事であり、給料が低い職場が多いことが挙げられます。また、介護人材が不足している状況が、さらに介護人材を確保しづらい状況を招いているとも考えられるでしょう。ここでは、介護人材が不足する原因について解説します。

給料が低い

公益財団法人介護労働安定センターが公開している資料「令和4年度介護労働実態調査の概要」では、介護職員が抱えている仕事の悩みとして2番目に多かった回答は「仕事内容のわりに賃金が低い」で41.4%でした。

一方で、厚生労働省の資料「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」によると、令和3年から令和4年の1年で平均給与額が16,550円増加していることがわかります。

将来予測される介護人材不足に対して、介護職員の処遇改善を進めているため、徐々に介護職員の賃金は改善されつつあります。しかし、実態としては賃金に不満を抱えている介護職がまだまだ多い状況ともいえるでしょう。

参考:厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」

身体的な負担が大きい

公益財団法人介護労働安定センターが公開している資料「令和4年度介護労働実態調査の概要」において、介護職員が抱えている仕事の悩みで3番目に多かった回答が「身体的負担が大きい」です。さらに、4番目に多かった回答は「健康面の不安がある」でした。

この結果から、介護現場での身体的な負担が大きいことも介護人材が不足する要因のひとつといえるでしょう。

政府は、介護職員の業務負担を軽減するため、ICTやロボット技術の活用を推進しています。しかし、まだ多くの介護施設でICTやロボット技術を導入できていません。

今後、それらの技術が多くの施設で活用されることで、介護職の身体的な負担が軽減されるでしょう。

転職先がすぐに見つかる

介護職は転職先が見つかりやすいことも、介護人材が不足しやすい原因のひとつといえるでしょう。

前述したとおり、介護サービスの有効求人倍率は4.01倍です。1人の介護職員を4つの施設で取り合っている状況なので、仮に今の職場を離職したとしても、すぐに次の職場が見つかりやすいでしょう。また、介護人材が不足している介護事業所が、他の施設から優秀な介護職員を引き抜くケースも少なくありません。

介護人材が不足している状況は、介護職が新たな職場を探しやすい環境であり、施設側としては介護人材の確保に苦労する環境でもあります。

介護人材不足への打開策

深刻化する介護人材不足ですが、この状況を打開する方法もあります。介護人材不足への打開策における重要なキーワードは、処遇改善、職場環境、外国人です。ここでは、介護人材不足への打開策について解説します。

介護職員の処遇改善

介護人材が不足している場合、まずは可能な限り介護職員の処遇改善を図りましょう。賃金に対して不満を抱えている介護職員は多く、賃金を引き上げることは介護人材の確保に効果的です。

介護職員の賃金を改善する方法として、加算を取得する、補助金や助成金を活用する、といった方法が挙げられます。

特に、介護保険制度でも介護職員の処遇改善は重要な課題と位置付けられており、介護職の処遇改善に利用できる加算は複数あります。処遇改善加算や特定処遇改善加算など、所定の要件を満たすことで取得できる加算は多いので、積極的に算定することをおすすめします。

職場環境の改善

介護人材を確保するためには、職場環境の改善は欠かせません。特に、法人や施設の運営方針に不満を持って離職する介護職員も多いため、現場の意見を聞いて対話できる機会を持つことをおすすめします。

具体的には、現場の意見を聞くためのミーティングを開催する、経営者に直接意見できる機会を持つなどの方法が挙げられます。

介護職が働きやすい環境を整備して、職員の定着率向上を目指すとよいでしょう。

外国人人材の活用

介護人材の確保に向けてさまざまな対策を立てることは重要ですが、将来的に発生する日本の少子高齢化や人口減少は避けられません。そのため、外国人人材を積極的に活用することも有効な手段となります。

現在、政府でも介護現場における外国人人材の活用を推進しています。しかし、利用者からの意見などを考慮して、外国人採用に躊躇する経営者もいます。

人口が減少していく日本で今の介護サービスを維持するためには、いずれ外国人人材を必要とするタイミングがやってくるかもしれません。その時に備えて、今のうちから外国人を雇用するノウハウを蓄積しておくのもおすすめです。

介護人材これからの展望

介護人材が不足する未来に向けて、政府でさまざまな対策を立てています。介護人材を確保するために政府が計画している対策から、これからの展望を読み解くことも可能です。ここでは、介護人材に関するこれからの展望について解説します。

ICT・ロボットの活用

介護職にかかる身体的負担の大きさを軽減するため、ICTやロボット技術の活用が急がれています。

近年、さまざまな技術が介護現場に導入され、介護職の負担軽減に向けて動き出しています。現在、一部の施設で導入されていますが、これから全国の施設でICTやロボット技術が導入されていく可能性は高いでしょう。

これらの導入によって介護職の身体的負担が軽減されてくれば、介護職として働ける人材が多くなり、介護人材不足の解決につながる可能性もあります。

多様な人材の採用

日本の人口減少は避けられません。この状況で介護人材を確保するためには、多くの人が介護人材として働ける環境を作ることも大切です。

例えば、外国人や高齢者などが挙げられます。近年、外国人労働者だけでなく、高齢労働者の活用も注目されています。特に、65歳以上の方で介護職として働く人も増えてきており、そういった方でも働きやすい環境作りが今後も求められていくでしょう。

継続的な処遇改善

政府によって介護職の処遇改善が実施されてきたことで、一定の効果が得られています。しかし、他の職業と比較すると、まだまだ賃金の改善が必要な状況といえるでしょう。

少子高齢化が進行する日本において、半分が税金で成り立っている介護保険制度にお金をかけることは難しいかもしれません。しかし、介護職の処遇改善に向けた取り組みは継続していく必要性は高いといえます。

加算という形が継続するかわかりませんが、介護職の処遇改善に向けた取り組みは継続的に実施されていくでしょう。

まとめ

この記事では、介護人材の課題と打開策について解説しました。

現在、日本の介護人材は不足しており、今後も人材不足は深刻化することが予測されています。厚生労働省の資料では、2025年度には約32万人の介護人材が不足すると予測されています。

令和4年度介護労働実態調査結果によると、人間関係や賃金の低さが問題とされていました。この調査結果から、介護人材が不足する原因として、給料が低いことや介護業務の身体的な負担が大きいことが挙げられます。

これに対し、介護人材不足を解消する打開策として、介護職の処遇改善や職場環境の改善、外国人労働者の活用が推進されています。

将来的には、介護職の処遇改善は継続的に実施されつつ、ICTやロボット技術の活用により介護職の身体的負担も軽減されていくでしょう。また、外国人労働者や高齢労働者の活用も注目されています。

介護施設において介護人材を安定して確保するうえでも、介護職の負担軽減や、多様な人材の活用を積極的に実施していくことをおすすめします。

 

参考資料:

厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」

公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査の概要」

厚生労働省「一般職業紹介状況(令和4年12月分及び令和4年分)」

厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」

 

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