介護職員等特定処遇改善加算(以下、特定処遇改善加算)は、介護職員の給与や待遇向上を目的とした処遇系加算の一つです。
他の処遇系加算と比べて、特に経験や技能のある介護職員の処遇改善に重点を置いているという点が特徴となっています。
この記事では、特定処遇改善加算とはなにか、算定要件、そして配分ルールなどについて解説します。
介護事業所向けに、特定処遇改善加算について算定要件や配分の仕方について詳しくまとめました。
<目次>
1.特定処遇改善加算とは
2.現在の算定率と取得しなければいけない理由
3.仕組みの作り方と注意点
①算定要件について
②配分の仕方
4.計画の申請から実績の報告まで
5.令和3年度改定事項
目次
特定処遇改善加算は、処遇改善加算、ベースアップ等支援加算と並び、介護職員の給与や待遇向上を目的とした3つの処遇系加算のうちの一つです。
2019年(令和元年)10月に、⽉額平均8万円相当の処遇改善を⾏うために創設されました。
他二つの処遇系加算と比べて、経験や技能が豊富なベテラン介護職員の処遇改善に重点を置いているという点が特徴です。
また経験・技能のある介護職員の処遇改善に重点を置きつつも、一定の条件のもとでその他の介護職員や、看護師や管理栄養士など、介護士以外の職員の処遇改善も行うことができ、柔軟な運用が可能であることも特徴と言えます。
参考:厚生労働省
しかしそんな特定処遇改善ですが、配分のルールが難しいことから、特定処遇改善加算加算の取得を見合わせている事業所が多くあります。
特定処遇改善加算を算定しなければ、最悪の場合、経験豊富な介護人材が他の算定している事業所に流出してしまうこともあり得ます。
質の高い介護サービスを提供するためにも、特定処遇改善加算の算定は必須と言えるでしょう。
下表の特定処遇改善加算の算定状況(請求状況)をみると、創設当時は約半分の事業所しか算定していませんでしたが、令和3年度現在では70%の事業所が算定を行っていることが分かります。
引用:厚生労働省
特定処遇改善加算に限らず、処遇系の加算は物価の変動を考慮して創設されています。
これは、他の産業との待遇差が大きくなってしまうことで、介護業界全体の人材が不足しないようにするためです。
特定処遇改善加算を算定していない事業所は、『求人票に並んだ時に同業他社と比べて低くなる』だけでなく『他の産業と比べても低くなる』ということを知っておく必要があります。
特定処遇改善加算に限らず、処遇系加算を算定することは介護人材を確保するために必要不可欠です。
この記事では、特定処遇改善を算定するために、算定要件や配分ルールついて詳しく解説していくので、しっかりと確認しましょう。
特定処遇改善の算定するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
①処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得していること
②処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取組を行っていること
③処遇改善加算に基づく取組について、ホームページ掲載等を通じた見える化を行っていること
それぞれについて解説していきます。
特定処遇改善加算を算定するためには、処遇系加算の一つである処遇系加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを算定する必要があります。
・処遇改善加算Ⅰ
キャリアパス要件Ⅰ〜Ⅲ、職場環境要件を全て満たす必要がある。
・処遇改善加算Ⅱ
キャリアパス要件Ⅰ、キャリアパス要件Ⅱ、職場環境要件を満たす必要がある。
・処遇改善加算Ⅲ
キャリアパス要件Ⅰ、キャリアパス要件Ⅱのどちらかと、職場環境要件を満たす必要がある。
キャリアパス要件、職場環境要件についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
処遇改善加算は、下表の職場環境要件のうち『全体の中から1つ』を満たす必要がありますが、特定処遇改善加算は『全6つの各項目から1つ以上実施』することが必要になります。
引用:厚生労働省
②で行う取り組みを、ホームページ上等で広く見えるように公表しておくことが必要です。
公表方法について特に指定はないので、上記の職場環境要件のチェックリストに、実際に取り組んでいるものにチェックをつけたものをホームページに掲載するなどするとよいでしょう。
介護職員等特定処遇改善の加算率は2段階に設定されています。
※加算率の高い特定処遇改善加算 (Ⅰ)を取得するには、特定事業所加算の算定が必要です。
特定事業所加算の算定については、こちらの記事で詳しく解説しています。
特定事業所加算とは?【訪問介護 2021年度介護報酬改定対応】特定事業所加算とは?
引用:厚生労働省
サービスごとの加算率は下表のとおりです。
・(介護予防)訪問看護
・(介護予防)訪問リハビリテーション
・(介護予防)福祉用具貸与
・特定(介護予防)福祉用具販売
・(介護予防)居宅療養管理指導
・居宅介護支援
・介護予防支援
の事業者については特定処遇改善加算の対象外となります。
引用:厚生労働省
特定処遇改善加算の配分対象者は以下の三つに該当する職員です。
職員グループ | 定義 |
a.経験・技能のある介護職員 | 介護福祉士であり、かつ経験・技能を有する介護職員 |
b.その他の介護職員 | a以外の介護職員 |
c.その他の職種の職員 | 看護師や、管理栄養士など介護職員以外の職員 |
それぞれ詳しく解説していきます。
介護福祉士であり、かつ経験・技能を有する介護職員が該当します。
経験・技能を有する介護職員とは具体的に、所属する法人等における勤続年数 10 年以上の介護職員を基本としつつ、他の法人における経験や、当該職員の業務や技能等を踏まえて、各事業者の裁量で配分を行うことが出来ます。
※必ずしも介護福祉士かつ勤続年数 10 年以上の介護職員と設定する必要はありません。
bに該当するのはa以外の介護職員、cに該当するのは看護師や、管理栄養士などの介護職員以外の職員となります。
上記で説明した、
a.経験・技能のある介護職員
b.その他の介護職員
c.その他の職種の職員
のグループそれぞれに対して特定処遇改善加算の配分を行いますが、下表のようにそれぞれに守らなければならない配分ルールがあります。
職員グループ | 配分ルール |
a.経験・技能のある介護職員 | ①aのうち1人以上は、賃金改善に要する費用の見込額が月額平均8万円以上又は賃金改善後の賃金の見込額が年額 440 万円以上であること。 ②bの平均改善見込額より、aの平均改善見込額が高いこと。 |
b.その他の介護職員 | bの平均改善見込額が、cの平均改善見込額の2倍以上であること。 |
c.その他の職種の職員 | cの賃金改善後の賃金の見込額が年額 440 万円を上回らないこと。 |
それぞれについて解説していきます。
①aのうち1人以上は、賃金改善に要する費用の見込額が月額平均8万円以上又は賃金改善後の賃金の見込額が年額 440 万円以上であること。
②bの平均改善見込額より、aの平均改善見込額が高いこと。
上記を満たすことが困難な場合、例外的に管轄している行政に相談を行う事で解決できる可能性があります。
困難な場合とは?
①小規模事業所等で加算額全体が少額である場合
②職員全体の賃金水準が低い事業所などで、直ちに一人の賃金を引き上げることが困難な場合
③8万円等の賃金改善を行うに当たり、これまで以上に事業所内の階層・役職やそのための能力や処遇を明確化することが必要になるため、規程の整備や研修・実務経験の蓄積などに一定期間を要する場合
・bの平均改善見込額が、cの平均改善見込額の2倍以上であること。
例えば、cの平均改善見込額を10,000円とした場合は、bの平均改善見込額は20,000円以上でなければいけません。
・cの賃金改善後の賃金の見込額が年額 440 万円を上回らないこと。
※賃金改善前の賃金がすでに年額 440 万円を上回る場合には、cのグループに入ることはできず当該職員は特定処遇改善の対象としてはいけません。
引用:厚生労働省
特定処遇改善加算の配分方法として認められているものとそうでないものがあります。
【特定処遇改善加算の配分方法として認められているもの】
・基本給のベースアップ
・定期昇給
・処遇改善手当
・賞与
・一時金
・賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担の増加分 など
なお、基本給による賃金改善が最も望ましいとされています。
【特定処遇改善加算の配分方法として認められていないもの】
・福利厚生費
・退職手当
・職員の増員
・交通費
・通信費
・研修費
・資格取得費用(テキスト購入等)
・健康診断費
・慰安旅行の費用負担
・住居手当等 など
手当として支払う場合には、福利厚生の意味を持つ手当は特定処遇改善の配分方法として認められないので名称にも注意しましょう。
令和3年(2021年)に介護報酬改定が実施され、特定処遇改善加算について一部改定がなされました。
すでに上記で説明した内容に反映されていましたが、どのように改定されたのか知っておきましょう。
【改定事項1:配分ルールの見直し】
平均賃金改善額について「a経験・技能のある介護職員」は、「bその他の介護職員」と比較し「2倍以上」から「より高くする」ことに変更されました。
参考:厚生労働省
引用:厚生労働省
【改定事項2:見える化要件】
職場環境要件に対する取り組みについて、経過措置を経て令和4年度からホームページ等への掲載が必須となりました。
参考:厚生労働省
Q:「b.その他の介護職員」を設定せず、「a.経験・技能のある介護職員」と「c.その他の職種」のみの設定をすることは可能か?
A:可能です。この場合は「a経験・技能のある介護職員」の平均賃金改善額が、「cその他の職種」の平均賃金改善額の2倍より高いことが必要となります。
Q:月額8万円の賃金改善や賃金改善後年収440万円以上の金額は現行の加算を含みますか?
A:月額8万円には含まれませんが、年収440万円には含まれます。
Q:非常勤やパート職員は、特定処遇改善加算の対象となりますか?
A:対象になります。勤務形態の規定はありません。
Q:ケアマネージャーは特定処遇改善加算の対象となりますか?
A:介護施設に勤務するケアマネージャーはc.その他の職種の職員として対象となりますが、居宅介護支援事業所に勤務するケアマネージャーは対象になりません。
Q:管理者(施設長)は特定処遇改善加算の対象となりますか?
A:対象になります。
管理者(施設長)が介護職員を兼務している場合は、a.経験・技能のある介護職員またはb.その他の介護職員に分類され、管理者専従の場合はc.その他の職種の職員に分類されます。
Q:特定処遇改善加算に関連して、常勤換算の計算方法を教えてください。
A:常勤換算人数 = 非常勤含む全介護職員の1ヵ月の勤務時間 ÷ 常勤者の1ヵ月間の勤務時間
の計算式で求めることができます。
令和4年10月現在、処遇改善加算の算定率は100%に近づき、介護職員等特定処遇改善加算は70%に近い事業所が算定をしています。
算定していない事業所のほとんどが、配分ルールが複雑で分からないことが理由だとしていますが、1度理解してしまえば難しくはありません。
処遇系加算の中でも、介護現場において大きな戦力となる経験豊富な介護人材を保持・獲得できる特定処遇改善加算は、介護事業所にとって最重要の加算と言えます。
今回の記事を読んで、特定処遇改善加算の算定をぜひ行ってください。
また、特定処遇改善加算以外の加算については、以下の記事を参考にしてください。