本記事では
障害者総合支援法における令和4年の運営基準の義務化項目についてご紹介していきます。
社会保障審議会障害者部会(第119回):審議内容掲載先
目次
令和3年10月1日、社会保障審議会障害者部会で次の項目が話し合われました。
①障害者の相談支援等について②障害者の虐待防止について③療育手帳に関わる研究の状況について
相談支援や相談支援事業所のあり方、障害者虐待防止法について、療育手帳の判定やその基準にばらつきが有ること等を踏まえた研究の成果等が話し合われました。
中でも注目すべきは『障害者の虐待防止』についてで、ここでは令和4年度に義務化される運営基準についての話です。
障害者に対する虐待は障害者の尊厳を害するものであり、障害者の自立及び社会参加にとって障害者に対する虐待を防止することは極めて重要です。
平成24年10月1日に「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下、「障害者虐待防止法」といいます。)が施行され、障害者に対する虐待を発見した者は、市町村等に通報することが義務づけられました。
1 「障害者」とは、身体・知的・精神障害その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活・社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものを言います。
2 「障害者虐待」とは、①養護者による障害者虐待、②障害者福祉施設従事者等による障害者虐待、③使用者による障害者虐待を言います。
3 障害者虐待の類型は、①身体的虐待、②放棄・放置、③心理的虐待、④性的虐待、⑤経済的虐待の5つです。
身体拘束も、同意を得ず正しい手順を踏んでいない場合は『虐待』の取り扱いになることに注意が必要です。
障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律の概要
厚生労働省が実施する障害者虐待防止法に基づく対応状況調査では、養護者虐待は警察からの通報、施設従事者虐待は管理者等からの通報の増加を背景に相談・通報件数は増加の傾向にあるが、虐待判断件数は横ばいの傾向にあります。
一方で、通報されたものの虐待と認定されなかったものについて検討が必要との議論もされています。
<養護者による障害者虐待>
○ 養護者による障害者虐待の相談・通報件数については、平成30年度から8.0%増加(5,331件→5,758件)。虐待判断件数については2.7%増加(1,612件→1,655件)である。
○ 相談・通報件数に対する虐待の判断件数の割合は、昨年度から減少となっている。(平成30年度:30.2%(1,612/5,331)、令和元年度:28.7%(1,655/5,758))
○ 相談・通報者の種別では、警察が34.1%(1,964件)、本人による届出が15.9%(913件)、施設・事業所の職員が15.0%(863件)、相談支援専門員が14.6%(843件)であり、これらが上位を占める。
○ 虐待行為の類型は、身体的虐待が63.9%と最も多く、次いで心理的虐待が29.5%、経済的虐待が20.7%、放棄、放置が15.0%、性的虐待が3.9%の順。
○ 被虐待者の障害種別は、知的障害が53.2%と最も多く、次いで精神障害が36.4%、身体障害が18.5%の順。
○ 虐待の事実が認められた事例での対応策として被虐待者の保護と虐待者からの分離を行った事例は、711人で全体の42.7%を占める。
○ 虐待による死亡事例は、なし。(平成30年度は0人)
<障害福祉施設従事者等による障害者虐待>
○ 障害者福祉施設従事者等職員による障害者虐待の相談・通報件数は、平成30年度から6.0%増加(2,605件→2,761件)。判断件数については7.6%減少 (592件→547件)している。
○ 相談・通報件数に対する虐待の判断件数の割合は、減少となっている。(平成30年度:22.7%(592/2,605)、令和元年度:19.8%(547/2,761))
○ 相談・通報者の種別では、本人による届出が18.4%と最も多い。次いで、設置者・管理者が14.5%、当該施設・事業所職員が14.2%となっている。
○ 虐待行為の類型は、身体的虐待が52.7%と最も多く、次いで心理的虐待が40.0%、性的虐待が13.2%、経済的虐待が9.9%、放棄、放置が7.3%の順。
○ 被虐待者の障害種別は、知的障害が78.7%と最も多く、次いで身体障害が21.3%、精神障害が11.7%の順。
○ 虐待者の職種は、生活支援員が42.0%、その他従事者が9.0%と世話人が7.6%、サービス管理責任者が7.3%、管理者が7.2%の順。
○ 虐待の事実が認められた事例への対応状況として障害者総合支援法等の規定による権限の行使として実施したものは230件であった。
○ 虐待による死亡事例は、2人。 (平成30年度は2人)
現行では運営基準において、① 従業者への虐待研修実施(努力義務)② 虐待の防止等のための責任者の設置(努力義務)という、いずれも『努力義務』とされていますが、
令和4年4月より①従業者への虐待研修実施(義務化)② 虐待防止のための対策を検討する委員会として虐待防止委員会を設置するとともに、委員会での検討結果を従業者に周知徹底する(義務化(新規))③ 虐待の防止等のための責任者の設置(義務化)が『義務』となります。
また、虐待防止委員会に求められる役割は、虐待の未然防止や虐待事案発生時の検証や再発防止策の検討等です。
令和4年度以降は、虐待防止について研修を実施していなければ、委員会の設置や責任者を配置しなければ『運営基準違反』となると言う事です。
小規模な事業所でも対応可能なように、事業所単位でなく、法人単位での委員会設置も可能です。更に、委員会には事業所の管理者や虐待防止責任者が参加すればよく、最低人数は設けないというルールにもなっています。
身体拘束については運営基準に「身体拘束等の禁止」の規定を設けるとともに、「身体拘束廃止未実施減算」が創設され、要件を満たしていない運用をした場合は『減算』の適用となります。
訪問系対象事業:居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援
以下、訪問系サービスについては、①から④が追加されます。
②から④の規定は、令和4年4月から義務化され、①については、令和3年4月から義務化されています。
① 身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録すること。
② 身体拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。
③ 身体拘束等の適正化のための指針を整備すること。
④ 従業者に対し、身体拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること。
※ 虐待防止の取組で身体拘束等の適正化について取り扱う場合には、身体拘束等の適正化に取り組んでいるものとみなす
運営基準の①から④を満たしていない場合に、基本報酬を減算することとなります。(身体拘束廃止未実施減算5単位/日)また、この減算は令和5年4月からの適用になります。
すでに令和5年の減算項目が決定している状況ですので、今後はよりルールも厳しくなっていくことが予想されます。
報酬改定や法改正は、医療⇒介護⇒障がいの順に決定していくことが多いため、医療の改定事項にも注視していく必要があります。