ひとりでの行動が難しい方のサポートをする仕事に就くために必要な「行動援護従業者養成研修」と「強度行動障害従業者養成研修」。
こちらの記事では2つの研修の違いはもちろん、特に強度行動障害従業者養成研修の内容やカリキュラム、受講条件、受講費用などについて詳しくお伝えします。
目次
強度行動障害とは、行政が支援の必要性を判断するために使われる名称であり、医学的な診断名(自閉症や知的障害など)ではありません。
先天性の症状ではなく、特性と環境要因が原因と考えられていて、自傷行為や破壊的行動などが頻繁にみられるのが特徴です。
症状が出る年齢は人によって違いますが、思春期以降に悪化する場合が多いです。
強度行動障害の症状がみられる人は、目の前で起こっていることに対しての対処方がわからず、自身や他人、物にあたってしまうため、落ち着いて生活をする為には特別な支援や療育が必要です。
そのサポートをするのが「強度行動障害従業者」ですが、認定されるには研修を修了する必要があります。
参考:厚生労働省
強度行動障害の症状がみられる人の支援に従事するために必要なスキルを取得する研修で、厚生労働省から認められている公的資格です。
強度行動障害従業者養成研修では、強度行動障害に対しての理解を深め、その上で適切な支援計画を作成したり、適切なサービスを提供するための知識や技術が習得できます。
それによって、強度行動障害を持つ人の心理を理解できるようになり、寄り添いながらの支援が実施できるようになります。
研修は各都道府県や財団法人、民間企業によって実施され、特に試験はなく修了すれば資格保持者と認定されます。
福祉や介護の現場で働く際にはキャリアアップにもつながりますし、加算取得の要件でもあるのがメリットです。
「行動援護従業者養成研修」と「強度行動障害従業者養成研修」はどちらも、ひとりでの行動が難しい人に対するサービスに携わる人のための研修であることは変わりありません。
しかし、そのサービスの内容には違いがあります。
サービス内容 | |
行動障害従業者養成研修 | 居宅系サービス従事者が対象 外出時・外出前後の支援 |
強度行動障害従業者養成研修 | 施設系サービス従事者が対象 日常生活のあらゆる場面での支援 |
まず、対象となる人ですが、行動援護従業者養成研修の場合は、居宅型サービスの従事者向けの内容になっています。
それに対して強度行動障害従業者養成研修は、施設型サービスの従事者向けの内容です。
また、対象者と関わるシーンについても違いがあります。
行動援護従業者の場合は、主に外出時や外出する前後のサポートですが、強度行動障害従業者の場合は、日常生活全般においてのサポートが前提です。
ここでは強度行動障害に関する以下のポイントを解説します。
①強度行動障害従業者養成研修のカリキュラム
②強度行動障害従業者養成研修の受講条件
③強度行動障害従業者養成研修の受講費用
この3点について解説していきます。
強度行動障害従業者養成研修は、厚生労働省によって定められたカリキュラムに基づいて行われます。
まず「基礎研修」を受講してから「実践研修」を受講するのが一般的です。
受講時間は「基礎研修」「実践研修」共に合計12時間ずつです。
内容的には基礎的と言えますが、それぞれにしっかり目的とゴールがあります。
特に試験があるわけではなく、基本的には講習と実践演習のみで、受講後に修了証が授与されます。
基礎研修の目標は、適切な支援を行える職員の育成、ゴールは、支援の根拠を理解して計画通りの支援を行えるようになることです。
カリキュラムは以下の通りです。
学習内容 | 時間 | |
講義 | 全6.5時間 | |
1.強度行動障害がある者の基本的理解 | 強度行動障害の理解 ・支援の基本的考え方 ・強度行動障害の状態 ・行動障害が起きる理由 ・障害特性の理解 | 1.5時間 |
2.強度行動障害に関する制度及び支援技術の基礎的な知識 | 研修の意義 ・行動障害と虐待防止 ・家族の気持ち/実践報告 支援のアイデア ・障害特性に基づいた支援 チームプレイの基本 ・チームプレイの必要性 実践報告 ・児童期及び成人期における支援の実際 | 5時間 |
演習 | 全5.5時間 | |
1. 基本的な情報収集と記録等の共有 | 基本的な情報収集 ・行動を見る視点 | 1時間 |
2.行動障害がある者の固有のコミュニケーションの理解 | チームプレイの基本 ・支援手順書に基づく支援の体験 強度行動障害の理解 ・困っていることの体験 | 3時間 |
3.行動障害の背景にある特性の理解 | 特性の分析 特性の把握と適切な対応 | 1.5時間 |
引用:埼玉県
実践研修の目的は、支援計画を適切に作成できる職員の育成、ゴールは、チームとしての支援をイメージしつつ、手順を考慮しながらの文章化やその修正ができるようになることです。
カリキュラムは以下の通りです。
学習内容 | 時間 | |
講義 | 全3.5時間 | |
1.強度行動障害のある者へのチーム支援 | 支援を組み立てるための基本 ・強度行動障害の支援に必要な知識 組織的なアプローチ ・組織的なアプローチの重要性 | 3時間 |
2. 強度行動障害と生活の組み立て | 実践報告 ・チームによる支援の実際 | 0.5時間 |
演習 | 全8.5時間 | |
1.障害特性の理解とアセスメント | アセスメントの方法 ・具体的なアセスメントの方法 ・障害特性に基づくアセスメント | 3時間 |
2.環境調整による強度行動障害の支援 | 手順書の作成 ・ アセスメントに基づく支援手順書の作成 | 3時間 |
3.記録に基づく支援の評価 | 記録の分析と支援手順書の修正 ・記録の方法 ・記録の分析と支援手順書の修正 | 1.5時間 |
4.危機対応と虐待防止 | 関係機関との連携 ・関係機関(医療機関等)との連携の方法 | 1時間 |
引用:埼玉県
強度行動障害従業者養成研修の基礎研修受講対象者は、以下のように定められています。
原則として、障害福祉サービス事業所等において、知的障害、精神障害のある児者を支援対象にした業務に従事している者、若しくは今後従事する予定のある者又は障害福祉サービス事業所等の連携医療機関等において治療に当たる医療従事者とする。
引用:埼玉県
実践研修については、基礎研修を受講していることが条件となります。
強度行動障害従業者養成研修を受講するのにかかる費用は、主催する団体によって違います。
民間企業や委託団体が主催する場合は、だいたい基礎研修・実施研修ともに2万円前後が主流なので、合計で4万円ほど。
自治体が主催する場合でも、各都道府県によって金額に差があります。
例えば、大阪府の場合は基礎研修・実施研修それぞれ6,000円ずつ、また、東京都のように受講費用がかからない場合もあります。
受講する前にしっかり調べるようにしましょう。
参考:東京都
参考:大阪府
強度行動障害従業者養成研修の受講に際しては、気をつけるべき注意点があります。
知らずに受講するとせっかくの研修期間が無駄になってしまうので、受講前の要チェック項目です。
強度行動障害従業者養成研修の基礎研修を受講する場合の履修期間ですが、これは原則として「1ヶ月以内」となっています。
1回目の研修(2日間)を受講した後、その1ヶ月以内に2回目を受講しなければいけません。
ただし、やむを得ない場合は2か月間の受講期間が認められることもあります。
主催する機関によっては、2回目の研修において延期や欠席を認めていないケースもあるので、事前に確認しておく必要があります。
基礎研修は1ヶ月以内ですが、実施研修については原則として「基礎研修終了後2か月以内」が受講期間となります。
こちらも、やむを得ない理由がある場合は4か月間の受講期間が認められることがあります。
基礎研修と同様、受講を検討している機関に確認する必要があるでしょう。
強度行動障害従業者養成研修を修了すれば、雇用する側にとって魅力的な人材となることは間違いなく、就職やキャリアアップにも有利です。
公的資格であるゆえに、研修に臨む前に確認しておきたい点もいくつかあります。
ぜひご紹介した内容を参考にして、研修に臨んでください。