行動援護従業者とは、知的障害や精神障害のために外出が著しく困難である方に対し、支援を行う職種です。
行動援護を行うためには専門的な知識を要するため、資格や実務経験などの要件を満たすことが求められます。
本記事では、行動援護に従事するために求められる要件とその具体的な内容、資格取得にかかる費用などについて解説します。
目次
行動援護とは、障害福祉サービスの1つです。
重度の知的障害や精神障害を持ち、一人で行動することが著しく困難な方に対し、危険回避のために行動や移動における支援を行います。
専門的な知識や技術がなければ、行動障害を抱える方に対して適切な支援を行うことはできません。
従って、行動援護に従事するためには、資格と実務経験の両方を有することが求められます。
制度の改正により、行動援護従業者として働くためには行動支援従業者養成研修を修了していることが必須となりました。
行動援護従業者養成研修とは、行動援護を行うために必要なスキルや知識を身につけるための研修です。
なお、人材確保が困難であることや、研修を修了している従業者が少ないという現状から、令和5年末までの経過措置期間が設けられています。
まだ資格を持っていないという方は、経過措置期間内に研修を修了しておかなければなりません。
行動援護従業者養成研修を修了しただけでは、行動援護ヘルパーとして働くことはできません。
実際に現場で働くためには、実務経験も必要です。
行動援護ヘルパーとして働くか、あるいは行動援護サービス提供責任者として働くかによって求められる実務要件は異なります。
ここでは、下記の2点の要件について解説していきます。
①行動援護ヘルパーの要件
②行動援護サービス提供責任者の要件
それぞれに必要な実務経験についても把握しておいてください。
行動援護ヘルパーとして勤務するために必要な資格および実務要件は次の通りです。
必要資格 | 実務要件 |
・行動援護従業者養成研修修了者 ・強度行動障害支援者養成研修(実践研修)修了者 のいずれか | 左記のいずれかの資格を満たす者で、知的障害者(知的障害児)・精神障害者の直接支援業務に1年かつ180日以上の従事経験がある者 |
参考:厚生労働省
行動援護従業者養成研修修了者あるいは強度行動障害支援者養成支援修了者の資格を有し、かつ1年以上の実務経験があれば、行動援護ヘルパーとして働くことが可能です。
例えば、知的障害者のグループホームで1年以上勤務し、かつ実際に業務を行った日数が180日以上ある場合は、実務要件を満たすこととなります。
なお、令和5年末までの経過措置として、次のような必要資格、実務要件を満たす場合でも、行動援護ヘルパーとして働くことが認められます。
必要資格 | 実務要件 |
・介護福祉士 ・実務者研修修了者 ・居宅介護職員初任者研修修了者等 のいずれか | 左記のいずれかの資格を満たす者で、知的障害者(知的障害児)・精神障害者の直接支援業務に2年かつ360日以上の従事経験がある者 |
参考:厚生労働省
行動援護サービス提供責任者として勤務するために必要な資格および実務経験は、次の通りです。
必要資格 | 実務要件 |
・行動援護従業者養成研修修了者 ・強度行動障害支援者養成研修(実践研修)修了者 のいずれか | 左記のいずれかの資格を満たす者で、知的障害者(知的障害児)・精神障害者の直接支援業務に通算3年かつ540日以上の従事経験がある者 |
参考:厚生労働省
必要資格は同じであるものの、行動援護ヘルパーとして働くよりも長い実務経験が求められることになります。
また、令和5年末までの経過措置の内容は次の通りです。
必要資格 | 実務要件 |
・介護福祉士 ・実務者研修修了者 ・介護職員基礎研修修了者 ・居宅介護職員初任者研修修了者等 のいずれか | 左記のいずれかの資格を満たす者で、知的障害者(知的障害児)・精神障害者の直接支援業務に通算5年かつ900日以上の従事経験がある者 |
参考:厚生労働省
前述したように、行動援護従事者となるには行動援護従業者養成研修を修了することが必須です。
ただし、受講にあたって必要な資格はなく、誰でも受講できるという点では取得を目指しやすいと言えます。
行動援護従業者養成研修について、カリキュラムの内容やかかる費用などについても確認しておきましょう。
行動援護従業者養成研修のカリキュラムは、講義と演習の2つからなります。
埼玉県が公表しているカリキュラムを例に見てみましょう。
科目名 | 内容 | 時間数 | ||
講義 | 強度行動障害がある者の基本的理解に関する講義 | ・強度行動障害とは ・強度行動障害と医療 | 1.5時間 | 10時間 |
強度行動障害に関する制度及び支援技術の基礎的な知識に関する講義 | ・強度行動障害と制度 ・構造化 ・支援の基本的な枠組みと記録 ・虐待防止と身体拘束 ・実践報告 | 5時間 | ||
強度行動障害がある者へのチーム支援に関する講義 | ・強度行動障害支援の原則 | 3時間 | ||
強度行動障害と生活の組立てに関する講義 | ・行動障害がある人の生活と支援 | 0.5時間 | ||
演習 | 基本的な情報収集と記録等の共有に関する演習 | ・情報収集とチームプレイの基本 | 1時間 | 14時間 |
行動障害がある者の固有のコミュニケーションの理解に関する演習 | ・固有のコミュニケーション | 3時間 | ||
行動障害の背景にある特性の理解に関する演習 | ・行動障害の背景にあるもの | 1.5時間 | ||
障害特性の理解とアセスメントに関する演習 | ・障害特性とアセスメント | 3時間 | ||
環境調整による強度行動障害の支援に関する演習 | ・構造化の考え方と方法 | 3時間 | ||
記録に基づく支援の評価に関する演習 | ・記録の収集と分析 | 1.5時間 | ||
危機対応と虐待防止に関する演習 | ・危機対応と虐待防止 | 1時間 |
参考:埼玉県
行動援護が必要となる方は強度行動障害を持つケースが多いため、強度行動障害についての理解を深める講義内容となっています。
また、演習では、行動障害がある方とのコミュニケーション方法や障害特性、虐待防止などについて学びます。
履修にかかる期間は3日〜4日と、比較的短期間です。
なお、カリキュラムの内容は自治体やスクール、年度によっても変わるため、随時情報を確認するようにしてください。
行動援護従業者養成研修にかかる費用は、実施するスクールによって異なります。
業者ごとに費用の差はありますが、相場は約3万円〜4.5万円ほどです。
勤務先によっては事業所が研修費用を補助する制度もあるため、受講前に一度確認してみてください。
行動援護従業者養成研修を実施しているのは、自治体や自治体が指定する事業者などです。
ただし、研修の実施場所が研修事業者所在地であるとは限らないため、事前にスクールに確認しておくことが求められます。
また、事業者によってはオンラインで研修を受けられることもあるので、研修場所が遠くて通えない、移動手段がないという方は、こうしたスクールを探してみるとよいでしょう。
行動援護に従事するためには、資格の取得と実務要件を満たすことが必須となってきます。
必要資格である行動援護従業者養成研修は、比較的研修期間が短く、誰でも受講することが可能です。
スクールによってはオンライン受講なども開講しているため、実務経験を積むことと平行しながら、資格の取得を目指していきましょう。