令和6年には障害福祉サービス等報酬改定が実施される予定です。報酬改定によって共同生活援助の運営にも大きな影響を及ぼす可能性が高いでしょう。
この記事では、共同生活援助の基礎的な知識と、令和6年障害福祉サービス等報酬改定による影響について解説します。この記事を読むことで、報酬改定以降に起こる共同生活援助の変化がわかります。
目次
障害者総合支援法における共同生活援助(グループホーム)とは、障がいのある方が日常生活や社会生活上の支援を受けながら、共同で生活するための障害福祉サービスです。
共同生活援助では、障がいがあっても自立した暮らしを目指すことを目的としています。 住宅地に立地しており、1つの住居に対する入居定員は原則10名以下です。
共同生活援助の対象者は、身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者、難病患者など、さまざまな障がいを持つ方です。障がいを持つ方であれば、障害支援区分に関わらず利用できます。
平成20年以降、全国的に共同生活援助の利用者数は増加傾向で、令和5年4月時点では約17万人の利用者がいます。
参考:厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部「共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫」
共同生活援助の支援内容について、厚生労働省の資料「共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫」では、以下のように記載されています。
共同生活援助の具体的な支援内容 |
・主として夜間において、共同生活を営むべき住居における相談、入浴、排せつ又は食事の介護その他日常生活上の援助を実施。 |
引用:厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部「共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫」
共同生活援助では、日常生活における支援だけでなく、社会生活を送るための支援も重要です。具体的には、以下の支援内容が挙げられます。
利用者ごとに必要とされる支援が異なるため、必要に応じて適切なサービスを提供しています。
共同生活援助には、外部サービス利用型、介護サービス包括型、日中サービス支援型の3種類があります。
各類型によってサービス内容や人員配置、報酬単価などが異なるため注意が必要です。ここでは、共同生活援助のタイプ別に概要と現状について解説します。
外部サービス利用型共同生活援助とは、事業所の従業者が相談や家事などの日常生活上の援助のみを行い、入浴等の介護は事業所が委託契約を結んだ指定居宅介護事業者が行う障害福祉サービスです。
外部サービス利用型共同生活援助のサービス内容、人員配置基準、報酬単価については以下の表をご参照ください。
外部サービス利用型共同生活援助の概要と現状 | |
対象者 | 地域において自立した日常生活を営む上で、相談等の日常生活上の援助を必要とする障害者(身体障害者にあっては、65歳未満の者又は65歳に達する日の前日までに障害福祉サービス若しくはこれに準ずるものを利用したことがある者に限る。) |
サービス内容 | ■ 主として夜間において、共同生活を営むべき住居における相談その他日常生活上の援助を実施 |
人員配置基準 | ■ サービス管理責任者 30:1以上 ※ 介護の提供は受託居宅介護事業所が行う |
報酬単価 | ■ 基本報酬 ※利用者に対し受託居宅介護サービスを行った場合は、サービスに要する標準的な時間に応じて受託介護サービス費をあわせて算定 [96単位~] ■ 主な加算 |
参考:厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部「共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫」
令和4年時点で、外部サービス利用型共同生活援助の費用は約151億円で、障害福祉サービス全体の0.4%に相当します。
また、区分なし~区分2の利用者が多く、利用者数と事業所は減少傾向です。精神障害者が利用者の約60%、知的障害者が30%以上を占め、全年代にわたる利用者減少が課題となっています。
介護サービス包括型共同生活援助とは、事業所の従業者が相談や家事などの日常生活上の援助と入浴などの介護を合わせて行う共同生活援助です。
介護サービス包括型共同生活援助のサービス内容、人員配置基準、報酬単価については以下の表をご参照ください。
介護サービス包括型共同生活援助の概要と現状 | |
対象者 | 地域において自立した日常生活を営む上で、相談、入浴、排せつ又は食事の介護その他日常生活上の援助を必要とする障害者(身体障害者にあっては、65歳未満の者又は65歳に達する日の前日までに障害福祉サービス若しくはこれに準ずるものを利用したことがある者に限る。) |
サービス内容 | ■ 主として夜間において、共同生活を営むべき住居における相談、入浴、排せつ又は食事の介護その他日常生活上の援助を実施 |
人員配置基準 | ■ サービス管理責任者 30:1以上 2.5:1~ 9:1以上 |
報酬単価 | ■ 基本報酬 ■ 主な加算 |
参考:厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部「共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫」
令和4年時点での、介護サービス包括型共同生活援助の費用は約3,121億円に達し、障害福祉サービス総費用の9.1%を占めています。費用額、利用者数、事業所数は年々増加し、全区分、全年代で利用者が増加中です。
知的障害者が利用者の約60%を占める一方、精神障害者の増加率も顕著で、全障害種別にわたり利用者数は増加傾向にあります。
日中サービス支援型共同生活援助は、障害者の重度化・高齢化に対応するために創設された共同生活援助です。施設から地域への移行や地域生活の継続などを目的として利用されています。
日中サービス支援型共同生活援助のサービス内容、人員配置基準、報酬単価については以下の表をご参照ください。
日中サービス支援型共同生活援助の概要と現状 | |
対象者 | 地域において自立した日常生活を営む上で、相談、入浴、排せつ又は食事の介護その他日常生活上の援助を必要とする障害者(身体障害者にあっては、65歳未満の者又は65歳に達する日の前日までに障害福祉サービス若しくはこれに準ずるものを利用したことがある者に限る。) |
サービス内容 | ■ 主として夜間において、共同生活を営むべき住居における相談、入浴、排せつ又は食事の介護その他日常生活上の援助を実施 (昼夜を通じて1人以上の職員を配置) ■ 利用者の就労先又は日中活動サービス等との連絡調整や余暇活動等の社会生活上の援助を実施 ■ 短期入所(定員1~5人)を併設し、在宅で生活する障害者の緊急一時的な宿泊の場を提供 |
人員配置基準 | ■ サービス管理責任者 30:1以上 ■ 世話人 5:1以上 (3:1~5:1) ■ 生活支援員 障害支援区分に応じ 2.5:1 ~ 9:1以上 |
報酬単価 | ■ 基本報酬 GHにおいて日中支援を実施した場合 世話人3:1、障害支援区分6 [1,105単位] ~ 世話人5:1、障害支援区分3 [528単位] 日中活動サービス事業所等を利用した場合 世話人3:1、障害支援区分6 [ 910単位] ~ 世話人5:1、障害支援区分1以下 [252単位] ■ 主な加算 |
参考:厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部「共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫」
令和4年時点における日中サービス支援型共同生活援助の費用は約346億円で、障害福祉サービス全体の1.0%を占めています。
障害支援区分4以上の利用者が7割以上を占め、40歳以上の利用割合が6割以上です。全区分、全年代で利用者数が増加しており、利用割合は知的障害者が約60%、精神障害者が20%以上となっています。
令和6年の障害福祉サービス等報酬改定では、共同生活援助に関する制度の見直しも検討中です。
厚生労働省の資料によると、令和6年報酬改定に向けた論点として「1人暮らし支援」や「報酬の見直し」といった内容がキーワードになっています。ここでは、共同生活援助における令和6年報酬改定の論点について解説します。
令和3年度に実施された調査結果によると、グループホーム利用者の約45%が将来の一人暮らしを希望しています。その一方で、一人暮らし等に向けた支援を行っている事業所は約22%です。
一人暮らしやパートナーとの暮らしへのニーズに応えるため、障害者総合支援法の改正で一人暮らし支援について、より明確にする必要があります。また、グループホームでの支援や退居後の継続的な支援についても検討中です。
具体的には、退居後の居住場所の確保やサービスの調整に加え、新たな共同生活援助のサービス類型創設や、利用者の意思に基づいた支援体制の必要性について指摘されています。
令和6年報酬改定後は、共同生活援助における一人暮らし支援の機能が強化されていく可能性が高いでしょう。
報酬改定に向けて、共同生活援助の支援実態に基づいた報酬体系の見直しについても検討中です。
現在の報酬体系は、世話人の配置基準に応じたものですが、実際のサービス提供時間やコストが反映されていないとの意見が出されています。特に、日中支援加算は、支援実態について適切に評価されておらず、実態に応じたルール変更が必要です。
また、居住系サービスの質を確保するため、介護保険サービスの運営推進会議を参考に、地域連携の会議設置などが検討されています。
厚生労働省の調査で、共同生活援助の報酬体系が現場の実態と異なる点が指摘されているため、次回の報酬改定で何らかの修正が行われる可能性は高いでしょう。
近年、共同生活援助における食材料費の取扱いに関して、事業者が利用者から過大な料金を徴収する事案が問題となりました。これに伴い、共同生活援助における食材料費の取扱いについて検討されています。
事業者は指定基準に従い食材料費を利用者から徴収できますが、運営規程に徴収額を定めた上でサービス内容や費用の説明および利用者の同意を得なければいけません。しかし、不適切な支出や他の費目への流用は指定基準違反であり、経済的虐待にあたる可能性があります。
この問題を受け、共同生活援助における食材料費の取扱いについて改めて周知徹底を図るよう、厚生労働省から各自治体に対して事務連絡を発出しました。
具体的には、食材料費の記録を会計記録に含め、管理の明示が必須となることが検討されています。また、水道光熱費や日用品費など他の実費についても同様の対応が求められる可能性は高いでしょう。
厚生労働省の資料から、令和6年報酬改定による共同生活援助への影響として、一人暮らし機能の強化と報酬体系の見直し、食材料費の詳細な記録などが想定されます。
一人暮らしに向けた支援の強化については、共同生活援助における一人暮らしに向けた支援内容を考える必要性が高まるでしょう。共同生活援助の運営者は、一人暮らしを希望する利用者に対してどのようなサービスを提供するか検討しておくことをおすすめします。
また、報酬体系に関する変更も想定されます。特に、日中支援加算の算定要件に関して指摘されているため、令和6年報酬改定後に算定要件が見直される可能性が高いでしょう。共同生活援助の運営者は、最新情報に注意しつつ、算定要件の変更に合わせて業務内容の見直し等を行うとよいでしょう。
食材料費に関しては、不正に徴収していた事案も発生しているため、会計記録に含めるなどのルール変更が検討されています。食材料費の徴収に関しては、これまで以上に慎重に進める必要性が高まるでしょう。
この記事では、共同生活援助の基礎的な知識と令和6年度報酬改定による影響について解説しました。
共同生活援助とは、障がいのある方が日常生活や社会生活上の支援を受けながら、共同で生活するための障害福祉サービスです。
共同生活援助には、外部サービス利用型、介護サービス包括型、日中サービス支援型の3種類があります。各類型で特徴が異なり、目的ごとに必要な共同生活援助を利用する必要があります。
厚生労働省では、令和6年障害福祉サービス等報酬改定に伴って、共同生活援助に関するルールの変更も検討中です。具体的には、一人暮らし支援機能の強化や支援実態に応じた報酬の見直し、食材料費の取扱いについて検討されています。
令和6年度報酬改定以後、新たなルールに基づいて、柔軟に業務内容を変更できるように今から準備していきましょう。
参考資料:
厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部「共同生活援助に係る報酬・基準について≪論点等≫」
厚生労働省「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」