令和6年は障害・医療・介護報酬のトリプル改定です。今回は改定において難病患者等の療養生活支援がどのように変わるのかを紹介します。
難病患者等は障害だけでなく、医療・介護も重要な役割になるため、今回の改定は大きく変わると予測されるため、改定準備の資料としてぜひ最後までお読みください。
目次
障害に関する法律は国内で多く存在し、それぞれの法律ごとによって「障害者」の定義は異なります。
その中でも、障害者の自立および社会参加の支援のための施策を総合的かつ計画的に推進し、障害者の福祉を増進することを目的とした「障害者基本法」では下記のように定義しています。
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
その他にも、障害のある方が日常生活や社会生活を営む上で必要な障害福祉サービスなどが定められた法律である「障害者総合支援法」では下記のように定義しています。
参考:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」
身体障害者福祉法では、身体障害者を「身体上の障害がある18歳以上の人で、身体障害者手帳の交付を受けた人」と定義しており、四肢に不自由・視覚や聴覚に制限があるなど、身体機能に何らかの障害がある状態のことで、大きく下記の5つに分かれます。
障害 | 特徴 | |
1 | 視野障害 | 視力や視野などに障害があって、下記のような症状がある。 ・両目の視力がそれぞれ0.1以下のもの ・一眼の視力が 0.02 以下、他眼の視力が 0.6 以下のもの ・両眼の視野がそれぞれ 10 度以内のもの ・両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの |
2 | 聴覚障害 | 音を伝えるための外耳・中耳、音を感じ取るための内耳などに何かしらの障害があって耳が聞こえにくい・聞こえない状態で下記のような症状がある。 ・両耳の聴力レベルがそれぞれ 70 デシベル以上のもの ・一耳の聴力レベルが 90 デシベル以上、他耳の聴力レベルが5 デシベル以上のもの |
平衡機能障害 | 耳や脳神経などの機能に障害があって、起立や歩行などに支障が生じる状態で、目を開けた状態で立っていることができない。または目を開けた状態で直線を歩行中に10m以内に転倒もしくは著しくよろめいて歩行できない状態。 | |
3 | 音声機能・言語機能 | 構音器官の障害などによって、音声を発することが難しかったり、音声・言語のみで意思疎通に支障がでている状態。症状としては、身体障害者3級では音声を全く発することができない、もしくは発声しても言語機能を喪失した状態、4級は音声、言語のみを用いて意思を疎通することが困難な状態。 |
そしゃく機能障害 | 食べ物を食べるための機能に障害があって、摂取できる食べ物の内容や摂取方法に支障がでている状態。症状としては、身体障害者3級では経管栄養以外に方法のない状態となり、4級ではそしゃく・嚥下機能の著しい障害のある状態。 | |
4 | 肢体不自由 | 上下肢・体幹に障害があり、歩く・座るなどの下肢の運動機能障害、握る・なでる・摘むといったような手指の運動障害などに障害があって、日常生活の動作へ支障がでている状態。症状はどれくらい関節が動くかで下記のように分類される。 ・軽度の障害:日常生活に支障をきたすと見なされる値 (おおむね90度で足関節の場合は30度を超えないもの) ・機能の著しい障害:各々の部位で関節可動域が日常生活に支障をきたすと見なされる値であるおおむね90度のほぼ30% (おおむね30度以下)のもの。 ・全廃:関節可動域が10度以内のもの。 ただ、上記の内容は評価の一部になるため、判定に当たっては、その機能障害全般を総合して決定する。 |
5 | 内部障害 | 下記のような障害がある。 ・心臓機能障害 ・じん臓機能障害 ・ 呼吸器機能障害 ・ぼうこう または 直腸の機能障害 ・小腸の機能の障害 ・ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害 ・肝臓の機能の障害 |
知的機能の障害が発達期である18歳までにおおむねあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の支援を必要とする状態です。
重症度は、知的能力を表すIQ(知的指数)と日常生活への適応能力を総合的に判断した下記4つの重症度に分けられます。
重症度 | IQ(知能指数) |
軽度 | 約50~70 |
中等度 | 約36~49 |
重度 | 約20~35 |
最重度 | 約19以下 |
IQ(知能指数)で重症度はおおまかに分類できますが、IQが70以下でも適応能力が高ければ、知的障害ではないと判断される場合もあり、下記3つの領域における能力で適応能力を主に評価します。
感情や行動に著しいかたよりが見られ日常生活や社会参加が困難となっている状態のことです。
厚生労働省の発表によると、精神障害の患者さんは2002年では約258万人でしたが、2020年には約502万人と約2倍に増加していることからも、非常に身近な疾患であることが分かるはずです。
参考:厚生労働省「令和2年(2020)患者調査(確定数)の概況」
なお、精神障害には、下記のような種類があります。
「難病の患者に対する医療等に関する法律」では、発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるものを難病と定義しており、当てはまる難病は2021年11月時点で366疾病になります。
その他にも、難病法に定められた難病のうち、医療費助成の対象となる「指定難病」もあり、「難病」の定義に加えて下記の定義も合わせて必要です。
以前まで指定難病は56疾患でしたが、現時点では338疾患が指定難病とされています。
参考:厚生労働省「指定難病」
なお、現在において、日本人に多い難病のランキングは下記です。
順位 | コード | 疾患名 | 人数 |
1 | 指定難病6 | パーキンソン病 | 142,375人 |
2 | 指定難病97 | 潰瘍性大腸炎 | 140,574人 |
3 | 指定難病49 | 全身性エリテマトーデス | 64,468人 |
4 | 指定難病96 | クローン病 | 47,633人 |
5 | 指定難病69 | 後縦靱帯骨化症 | 36,401人 |
6 | 指定難病51 | 全身性強皮症 | 27,647人 |
7 | 指定難病18 | 脊髄小脳変性症 (多系統萎縮症を除く) | 27,365人 |
8 | 指定難病11 | 重症筋無力症 | 25,416人 |
9 | 指定難病50 | 皮膚筋炎/多発性筋炎 | 24,894人 |
10 | 指定難病90 | 網膜色素変性症 | 23,979人 |
参考:難病情報センター「特定医療費(指定難病)受給者証所持者数(2020年度)」
3年ごとに見直し改定が基本的に実施されますが、必要に応じて臨時で実施されることもあります。実際、2021年に改正が行われましたが、2022年に障害者総合支援法が改定され、改正内容は2024年4月より施行されます。(一部例外あり)
障害者総合支援法の改定に合わせて、関連する法律である「障害者の雇用の促進等に関する法律」「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」「難病の患者に対する医療等に関する法律」なども改正されています。
下記の6つが2022年改定のポイントです。
この6つの中で、難病に関わる内容は「4.難病患者等に対する適切な医療の充実および療養生活支援の強化」「5.障害者・難病等についてのデータベースに関する規定の整備」となり、その中で「4.難病患者等に対する適切な医療の充実および療養生活支援の強化」の内容は下記です。
上記の内容は、2024年4月1日から施行されるのではなく、前倒しで2023年10月1日より施行されます。
参考:厚生労働省「改正難病法及び改正児童福祉法の成立、施行について」
この改定で症状が重症化した場合に円滑に医療費支給を受けられる仕組みの整備や、登録者証の発行などによる難病患者等の療養生活支援の強化が定められました。
また、「5.障害者・難病等についてのデータベースに関する規定の整備」の内容は下記です。
障害データベース、難病及び小慢データベースについて、障害福祉サービス等や難病患者等の療養生活の質の向上に資するため、第三者提供の仕組み等の規定を整備する。
参考:厚生労働省「改正難病法及び改正児童福祉法の成立、施行について」
この改定で障害福祉サービスや療養生活の質の向上に資するため、第三者提供の仕組み等の規定が整備されました。
2023年8月31日に実施された「第35回障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」で上げられた下記3点が主な論点になっています。
参考:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた主な論点(案)」
上記の3点の中でも難病患者等が最も関連する内容が「1.障害者が希望する地域生活を実現する地域づくり」になります。
この項目では、今まで以上の「支援体制の充実」が重要な点となっており、下記3点が主な論点です。
障害者の有無に関係なく、どの地域社会でも安心して暮らすことができる環境を整備することは非常に重要で、それを実現するには入所施設・病院から地域へのスムーズな移行支援、さまざまなライフスタイルに対応した地域生活の実現、それらを支えるサービスの質向上に注目しています。
また合わせて、障害者自身が他の障害者を支援するピアサポートの取り組みを促進することなどが検討されています。
令和6年度の改定は障害と同時に診療報酬・介護報酬も改定されます。そのため、難病だけでなく、重度化・高齢化・精神障害などさまざまな障害の特性を受け入れながら、保健・医療、福祉、その他の連携を推進する必要性が検討されています。
医療・障害福祉・介護・住まい・就労等の社会参加、地域の助け合い、教育・普及啓発が包括的に確保された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築をさらに推進する必要があり、そのためには、地域の連携体制の構築、地域移行や虐待防止の取組などについて、さらなる充実方策が検討されています。
今回は、令和6年報酬改定において難病患者等の療養生活支援がどのように改定される予測なのかについて紹介しました。
令和6年の報酬改定は、障害・医療・介護のトリプル改定です。特に難病患者等は医療と福祉の連携は必須です。
今回の改定内容は難病であったとしても、ご自身が希望する地域で生活し続けるために必要な療養生活支援が今まで以上に充実させる方向のため、、厚生労働省の報酬改定検討チームのWebサイトに掲載される資料をこまめに確認して改定に向けて早めに対策することが重要です。