令和6年には障害福祉サービス等報酬改定が予定されています。厚生労働省の資料によると、次回改定によって障がい者の働き方が多様化し、一般就労の障がい者が増加する可能性が高いでしょう。多様化する障がい者の雇用形態に対して、私たちはどのように対応すればよいのでしょうか。
この記事では、障害福祉サービス等報酬改定によって変化する障がい者雇用の実態についてわかりやすく解説します。この記事を読むことで、一般就労の障がい者が増加する理由と、私たちができる支援内容について理解できます。
目次
厚生労働省 都道府県労働局の資料「障害者雇用のご案内」によると、令和3年6月時点で民間企業に雇用されている障がい者の数は59.8万人となっており、18年連続で過去最高を更新しています。また、実雇用率は2.2%で、障害者雇用率達成企業割合は47%という結果でした。このデータからも、障害者雇用は年々広がりつつあるといえるでしょう。
一方で、時代の変化とともに多様化していく働き方に対して、障害者雇用のアップデートも求められています。社会の変化と共に障がい者の働き方も適応させていかなければいけません。具体的には、障害福祉サービスとの連携や併用に関する議論が進められています。
参考:厚生労働省 都道府県労働局の資料「障害者雇用のご案内」
現在、障害者総合支援法の施行から17年が経過し、障害福祉サービスの利用者は約150万人に増加、国の予算も約2兆円まで拡大しています。
令和3年と令和4年には、法律の改正と報告書のまとめが行われ、障がい者の社会的支援が進められました。さらに、多様なニーズに対応するための検討会が開催され、地域での支援体制強化が求められています。
今年5月には、令和6年度から令和8年度までの障害福祉計画の基本方針が示されました。基本方針によると、次回の報酬改定は医療・介護とのトリプル改定であることから、障害の重度化や高齢化、医療的ケアのニーズなどに対応する必要性が指摘されています。
また、サービスの質と制度の持続可能性を確保することや、物価高騰や賃金上昇を考慮した報酬体系を構築することも重要な課題です。
参考:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた主な論点(案)」
令和6年障害福祉サービス等報酬改定に関する議論のなかで、障がい者雇用の促進は重要なテーマのひとつです。
厚生労働省の資料「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた主な論点(案)」では、社会の変化等に伴う障がい児・障がい者のニーズへのきめ細かな対応として、障がい者の多様なニーズに応じた就労の促進が必要とされています。
障害者の多様なニーズに応じた就労の促進 |
○ 障害者の一般就労への移行や就労支援施策は着実に進展しているものの、利用者や働き方の多様化等、障害者の就労を取り巻く環境も変化している。こうした変化や課題に対応し、さらに障害者の就労を支援するため、雇用施策と福祉施策の一層の連携強化を図りながら、障害や病気があっても本人が希望を叶え、力を発揮して活躍できる働きやすい社会を実現するための方策を検討する必要があるのではないか。 ○ 障害者の希望や能力に沿った就労を支援するためには、本人の就労ニーズや能力・適性とともに、就労に必要な支援や配慮を整理し、個々の状況に応じた適切な就労に繋げる新しい障害福祉サービスである就労選択支援を着実に実施する必要があるのではないか。 <想定される検討内容>
|
引用:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた主な論点(案)」
障がい者雇用が社会に浸透しつつある昨今において、障がい者の働き方が見直されています。特に、雇用施策と福祉施策の連携強化や障がい者の能力に応じて適切な就労に繋げるサービスの強化が求められているのです。
現在、障害者雇用施策と障害福祉施策に基づいて就労支援を実施しています。しかし、障がい者の就労能力や適正等を適切に評価し、働き方や就労先の選択に結びつけるまでに至っていないケースも多いようです。
現在の制度では、就労系障害福祉サービスの利用を開始する段階で、就労アセスメントを実施しています。しかし、就労アセスメントの評価内容によって、働き方や就労先を選択できないこともあります。
次回の改定では、就労選択支援の創設、就労中の就労系障害福祉サービスの一時利用、雇用と福祉の連携強化などが検討中です。
就労を希望する障がい者のニーズや社会の経済状況が多様化しているなかで、障がい者の希望や能力に沿った、よりきめ細かい支援を提供することが求められています。
障がい者雇用の促進に向け、就労選択支援というサービスの創設が検討されています。就労選択支援とは、障害者本人が就労先・働き方についてより良い選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して就労能力や適性等に合った選択を支援する新たなサービスのことです。
これまで、障がい者が就労先を選択する際は、相談員等を通じて就労系障害福祉サービス等へ直接紹介されていました。しかし、就労選択支援サービスが創設されることで、より客観的に障がい者の就労能力について評価され、その評価をもとに適切な障害福祉サービスや一般就労に繋げやすくなるのです。
ここでは、現在検討されている就労選択支援について詳しく解説します。
現在、就労系障害福祉サービスにおいて障がい者の就労能力などを評価していますが、それらの評価が一般就労に生かされていない実態が指摘されています。
就労能力に関する評価が共有されないことで、障がい者にとって最適な雇用形態を実現できなかったり、ミスマッチな職場で働くことになったりといったトラブルが発生するのです。
障がい者が就労先を探す際に、就労選択支援サービスを利用することで、就労アセスメントに基づいた就労を選択できるようになります。また、障がい者に対して就労に関する正しい情報を提供できるメリットもあります。
厚生労働省の資料「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律の施行に関する政省令事項について」では、就労選択支援の具体的なサービス内容として、以下の6点が挙げられています。
新たなサービス(就労選択支援) |
|
参考:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律の施行に関する政省令事項について」
就労能力や適性を客観的に評価することが、就労選択支援の役割です。また、本人の強みや課題を明らかにし、就労に当たって必要な支援や配慮を整理することも必要とされています。
これまで、就労系障害福祉サービスで実施してきた就労アセスメントを、事業所選択の前に実施することで、より一般就労へ繋げやすくなることも期待されています。
厚生労働省の資料「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律の施行に関する政省令事項について」では、就労選択支援の具体的な内容について以下のように記載されています。
就労選択支援の創設についての政令事項・省令事項 |
【省令の具体的内容】 就労移行支援又は就労継続支援を利用する意向を有する者及び現に就労移行支援又は就労継続支援を利用している者 ①本人と協同して確認した就労選択支援を利用する障害者の • 障害の種類及び程度 • 就労に関する意向 • 就労に関する経験 • 就労するために必要な配慮及び支援 • 就労するための適切な作業の環境 ②その他適切な選択のために必要な事項 • 障害福祉サービス事業を行う者、特定相談支援事業を行う者、公共職業安定所、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、教育機関、医療機関その他の関係者との適切な支援の提供のために必要な連絡調整 • 地域における障害者の就労に係る社会資源、障害者の雇用に関する事例等に関する情報の提供及び助言 • その他の必要な支援 |
引用:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律の施行に関する政省令事項について」
就労選択支援は、障がい者の意向を確認しつつ、就労能力を評価するサービスです。障がい者が最適な就労環境で働けるように、関連機関へ連絡調整をすることが主な役割であるといえるでしょう。
令和6年障害福祉サービス等報酬改定では、一般就労中の障がい者でも就労系障害福祉サービスを利用可能とする内容が検討されています。
現在の制度では、原則的に一般就労に移行した障がい者が、就労系障害福祉サービスを利用することはできません。しかし、一般就労後に勤務時間を増やしていく場合や、休職から復職を目指す場合などに、就労系障害福祉サービスの支援を必要とする実態が明らかとなっているのです。
この実態を踏まえて、期間限定で一般就労と就労系障害福祉サービスの併用を認めるように変更する内容が検討されています。
併用できる期間としては、段階的に勤務時間を増やしていく場合は原則3〜6か月以内(延長が必要な場合は合計1年まで)で、復職を目指す場合は企業の定める休職期間(上限2年)となる予定です。
次回の障害福祉サービス等報酬改定によって、就労選択支援の創設や一般就労と就労系障害福祉サービスの併用が可能となる可能性があります。ここでは、今後の障がい者雇用にどのような変化が起きるのか、詳しく解説していきます。
就労選択支援が開始されることで、これまで就労系障害福祉サービス内で実施されていた就労アセスメントが、事業所選択の段階で実施されるようになります。これにより、障がい者を一般就労に繋げやすくなる効果が期待されています。
就労選択支援によって、利用者の状態や能力についてハローワーク等と情報共有されやすくなり、障がい者にとって最適な雇用形態に繋げやすくなるでしょう。
一般就労中に就労系障害福祉サービスを利用できるようになったため、利用者がさまざまな働き方を選択できるようになるでしょう。
例えば、1週間のうち2日間を一般就労で働き、残りの3日を就労系障害福祉サービス事業所で働くことも可能となる予定です。
これにより、一般就労へチャレンジするハードルが低くなる効果が期待できます。また、一般就労へ移行した初期段階で就労系障害福祉サービスのサポートを受けられるため、働き始めのトラブルを避けられる可能性もあるでしょう。
障がい者は、より柔軟な働き方を選択できるようになり、障がい者雇用のあり方が多様化していくことが期待されています。
障がい者雇用で私たちができる支援として、障がいに対する理解を深めることが何より重要です。相手のできない部分に注目するのではなく、できる部分に注目して、可能性を広げることを意識するとよいでしょう。
例えば、耳が聞こえにくい聴覚障害や幻覚や発作が起きてしまう精神障害など、さまざまな障がいを持った方がいらっしゃいます。しかし、それぞれの障害の特徴を正しく理解して、その方ができることに着目することで、日常生活を問題なく過ごせる方もいらっしゃるのです。
障がいをひとくくりに判断するのではなく、相手の個性として捉えて、1人ひとりと向き合って理解していくことが大切です。
障がいを単なるハンディキャップと捉えてはいけません。確かに、障がいがあることでできないこともあるかもしれません。しかし、必ずその人にしかできない役割があります。「この方にはできないだろう」と一方的に判断せず、「どうすればこの方にもできるか」と前向きに考えることが大切です。
今回は、障害福祉サービス等報酬改定に伴って変化する障がい者雇用について解説しました。
厚生労働省の資料によると、一般企業での障がい者雇用は広がりつつあります。しかし、時代とともに働き方が多様化してきており、障がい者雇用についても新たな変化が必要です。
特に、次回の障害福祉サービス等報酬改定では「障がい者の多様なニーズに応じた就労の促進」が議題とされています。
具体的には、就労選択支援サービスの創設や、一般就労中の就労系障害福祉サービス併用が検討中です。
就労選択支援の創設によって、事業所選択の段階で一般就労に繋げやすくなることが期待されています。また、一般就労中でも就労系障害福祉サービスを利用できるようになることで、障害福祉サービスによるサポートを受けやすくなり、より一般就労に繋げやすくなるでしょう。
これらの法改正により、一般就労が可能となる障がい者が増加する可能性があります。一般企業で働く私たちは、共に働く障がい者に対して正しく理解し、その人の可能性を見いだすことが求められています。相手のできないことではなく、できることに注目することを心がけましょう。
参考資料:
参考:厚生労働省 都道府県労働局の資料「障害者雇用のご案内」
参考:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」
参考:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた主な論点(案)」
参考:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律の施行に関する政省令事項について」