令和6年は障害福祉サービス等報酬だけでなく、医療・介護報酬も含めたトリプル改定の年です。トリプル改定の時は過去も大きな改定内容となっていたため、今回も同様であると予想されます。
今回の障害福祉サービス等報酬で注目すべき内容は、障害者総合支援法における障害者地域支援体制の充実です。
今回は、障害者総合支援法について解説するだけでなく、実際に改定内容としてどのような内容が議論されているかまで紹介します。
ぜひ、最後までお読みください。
障害のある方が日常生活や社会生活を営む上で必要な障害福祉サービスなどが定められた法律で、従来施行されていた「障害者自立支援法」を改正する形で、2013年4月に施行され、下記を基本理念としています。
参考:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」
下記が対象者です。
上記の中で難病とは、治療方法が確立していない疾患やその他の特殊な疾患を指します。これまで難病のある方は制度の谷間に置かれ、必要な支援を受けることができない状況でした。
しかし、障害者総合支援法が難病のある人も対象に含めたことにより、難病のある人で法律が定める条件を満たす人は身体障害者手帳の有無にかかわらず、必要なサービスを利用できるようになりました。
障害者総合支援法が対象とする難病には、2021年11月時点で366疾病が指定されています。
大きく「自立支援給付」と「地域生活支援事業」に分かれます。
障害のある方が自分自身でサービスの実施有無を決めて、契約をする仕組みのことで下記のようなサービスがあります。
在宅で訪問によって受けるサービスや施設への通所や入所を利用するサービスとなっており下記の内容です。
日常生活や社会生活を営むために必要な訓練を提供するサービスで下記の内容です。
障害の軽減を図り、日常生活や社会生活を自立して営むために必要な下記のような医療が対象です。
障害の状態によって義肢や車椅子など補装具の購入や修理が必要と認められた時に費用が補装具費として支給されます。
障がいのある方が住み慣れた地域で生活できるように、市区町村が中心となって行う支援で下記の種類がありますが、内容の詳細は各市区町村や都道府県に委ねられています。
利用者負担は、報酬額の1割が基本ですが、1ヵ月ごとの利用者負担額には下記のように上限額が世帯の収入状況等に応じて、4つに区分されています。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 区市町村民税非課税世帯 | 0円 |
一般1 | 区市町村民税課税世帯(合計所得割16万円未満) ※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
また、所得を判断する際の世帯の範囲は下記です。
種別 | 世帯の範囲 |
18歳以上の障害者 (施設に入所する18、19歳を除く) | 障害のある方とその配偶者 |
障害児 (施設に入所する18、19歳を含む) | 保護者の属する住民基本台帳での世帯 |
下記の条件に当てはまる方であれば月額負担上限が決まっており、それ以外の場合は原則1割負担です。ただ、入院時の食事療養費または生活療養費については原則自己負担である点は注意が必要です。
区分 | 所得区分 | 負担額 |
生活保護 | 生活保護世帯 | 0円 |
低所得1 | 市町村民税非課税(本人又は障害児の保護者の年収80万円以下) | 2,500円 |
低所得2 | 市町村民税非課税(低所得1を除く) | 5,000円 |
中間所得1 | 市町村民税 33,000円未満(年収約290~400万円未満) | 5,000円 |
中間所得2 | 市町村民税 33,000円以上235,000円未満(年収:約400~833万円未満) | 10,000円 |
一定所得以上 | 市町村民税 235,000円以上(年収約833万円以上) | 20,000円 |
基本的には、3年ごとに福祉サービスについて見直し改正すると定められていますが、必要に応じて臨時で実施されることもあります。
なお、最初の改正が2018年に行われ、その後2021年にも改正が行われたため、2024年は3年に1回の改定年度となり、下記のようなスケジュールで進められます。
時期 | 内容 |
2023年5月 | 報酬改定検討チームから今後の予定や検討の進め方が出される |
2023年7~8月 | 関係団体へのヒアリング(6回程度) |
2023年8月 | ヒアリングの意見まとめ、論点整理 |
2023年9~10月 | 各サービスの報酬などの在り方を検討 |
2023年11月 | サービス横断的な報酬などの在り方を検討 |
2023年12月 | 報酬や基準に関する基本的な考え方の整理、取りまとめ |
2024年2月 | ・報酬改定案のとりまとめ ・パブリックコメントでの意見募集 |
2024年3月上旬 | ・官報による周知 ・厚生労働省から各指定権者(指定の権限を持つ自治体)へ周知 |
2024年3月中旬 | 指定権者から事業所へ周知 |
2024年3月下旬 | ・厚生労働省から解釈通知が示される ・厚生労働省からQ&Aが示される |
2023年8月31日に実施された第35回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」では、次回改定に向けた主な論点として以下の3点をあげています。
参考:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定 に向けた主な論点(案)」
特に、「障害者が希望する地域生活を実現する地域づくり」のためには、今まで以上の「支援体制の充実」が重要で、下記の3点の論点をあげています。
障害者の生活を支えて、どの地域社会でも安心して暮らすことができる環境を整備することは非常に重要と考えており、それを実現するには入所施設や病院から地域へのスムーズな移行支援、さまざまなライフスタイルに対応した地域生活の実現、そしてそれを支えるためにサービスの質の向上に注目しています。
その中でも、障害者が自らの意志で生活を選択し、地域社会で活動できるようにするためには、相談支援の質の向上と提供体制の整備が必要です。特に、意思決定支援を提供することで、障がい者の自立と地域社会への参加を促進できます。
また合わせて、障害者自身が他の障害者を支援するピアサポートの取り組みを促進することなどが含まれています。
想定されている検討事項
令和6年度の改定は障害だけでなく、診療報酬・介護報酬も同時改定となっているため、重度化、高齢化、医療的ケアの必要性、精神障害や難病など多様な障がい特性にも配慮しながら、保健・医療、福祉およびその他の施策の連携を推進するための方策を検討する必要があるとされています、
想定されている検討事項
2022年12月16日に交付された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」が順次施行されています。その中には精神障害者の福祉に関して定めた「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」も含まれており下記の内容を推進しています。
この内容をさらに推進するために、医療、障害福祉・介護、住まい、就労などの社会参加だけでなく、地域の助け合い、障害理解や障害者支援に関する教育・普及啓発も必要だとしました。
具体的に検討する内容
参考:厚生労働省「「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の 一部を改正する法律」の公布について(通知)」
さらに細かく、下記2つの論点が示されています。
上記の中で今回は、「障害者の多様なニーズに応じた就労の促進」をお伝えします。
障害者の一般就労移行と就労支援は以前に比べて進展はしているものの、利用者さんの多様化と働き方の変化により、障害者の就労環境も変化しています。そのため、障害や病気があっても能力を発揮し、活躍できる働きやすい社会を実現するためには、雇用施策と福祉施策の連携強化がより重要になります。
特に、障害者の希望や能力に合わせた就労を支援する「就労選択支援」が実施されることで、障害者が社会で活躍できる環境が整うことが期待されています。
想定される検討事項
現在は、物価高騰・職員不足の深刻さ、さらには賃金上昇などの理由により人材確保がより難しい状況ですが、質の高い障害福祉サービス等を提供するには、人材を確保し、経営状況などを踏まえた対応が必要です。
同時に、障害福祉サービスなどの予算額も年々増加しています。実際、厚生労働省の発表では、障害福祉サービス関係予算額は平成19年が5,380億円となっていましたが、令和4年時点で18,478億円と15年間で約3倍に増加しています。
参考:厚生労働省「障害保健福祉に関する令和4年度予算案の概要」
この問題に対して、サービス間・制度間の公平性、透明性を高め、長期化している経過措置への対応も視野に入れ、メリハリのきいた報酬体系を行うとともに、人員不足の中でも効率的な制度運用や効果的なサービス提供を行うためにICTの活用などを含む業務の効率化に注目しています。
想定される検討事項
今回は、令和6年に改定される障害者総合支援法の内容だけでなく、その中でも報酬改定の柱である「支援体制の充実」について紹介しました。
障害者総合支援法は基本的に3年に1回改定されますが、2024年の改定は医療・介護も同時に改定が実施されるため大きな改定になると予測されています。
特に、障がい者であったとしても、ご自身が希望する地域で生活するために必要な支援体制の充実が重要です。
改定情報が確定するのは3月ですが、方向性は12月頃、概ねの内容は2月頃に、厚生労働省の報酬改定検討チームのWebサイトに掲載される資料で把握できるため、早めに情報を収集して準備に備えましょう。