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訪問介護における身体拘束とは?身体拘束を認める3つの要件とは?

元山 ゆず香

監修者

介護福祉士

元山 ゆず香

大学を卒業後、特別養護老人ホームにて現場業務に従事。その後、福祉系大手企業に入社し、エリアマネージャーとして、施設介護事業・居宅介護事業・障害福祉サービス事業でのエリアマネジメント・行政対応を経験。また、法人本部に異動し教育部門・監査担当部門の部長を歴任。現在は全国の介護・障害福祉事業所の支援やセミナーの開催、DXO株式会社での介護関連事業の支援などを実施。

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身体拘束は一時的に利用者の身体を拘束して行動を制限させることです。介護領域において原則的に身体拘束は禁止されていますが、一部例外として身体拘束を許可する場合があります。

今回は、実際に行う身体拘束の具体例や、身体拘束を未然に防ぐための方法まで解説します。

訪問介護における身体拘束とは?

訪問介護において身体拘束とは、介護をするにあたって利用者が徘徊・他人への迷惑行為を行う可能性がある場合に、様々な方法で身体の動きを封じて、行動を制限する行為のことです。

身体拘束をされる利用者にとっては、強いストレス・不快感が生じるなど、心身の健康に悪影響を与える可能性があります。また、長時間の身体拘束により、筋力低下・褥瘡などの問題も生じるため身体拘束は可能な限り避けるべきです。

介護保険制度が始まった2000年から厚生労働省は基本的に身体拘束は禁止しており、2001年には厚生労働省から「身体拘束ゼロへの手引き」が発表されています。

参考:厚生労働省
参考:東京都福祉保健局

訪問介護は、利用者のできない部分を介助して、自立支援を促すことが重要なため、まずは利用者の状態・希望・目標などを正確に把握して介護計画を立てることが重要です。

様々な身体拘束の例

介護施設だけでなく訪問介護においても、基本的に身体拘束が禁止なのは理解できたと思いますが、具体的にどのような行為が身体拘束になるのかまで詳しく理解していない場合があります。

ここでは、下記のように様々な身体拘束の例について紹介します。

①部屋の外から鍵をかける
②車いすやベッドに固定する
③脱衣などを妨害する
④肌をかけないように手袋をつける

これらの他にも身体拘束の例はありますが、大多数は上記の例になります。

①部屋の外から鍵をかける

部屋の中から出られないように、同意なく外から鍵をかけてしまうと、場合によっては刑法220条により「監禁罪」に当たります。

参考:刑法

それだけでなく、部屋の外から鍵をかけると中の状況が分かりません。そのため、鍵をかけた状態で利用者が転倒しそうになった場合でも介助することができません。

また、1人で閉じ込められている状況のため不安・恐怖を感じることもあります。

しかし、徘徊により行方不明になる高齢者は年々増加している現状もあります。

実際、警視庁の「認知症の行方不明者の推移」によれば、徘徊老人は子供の迷子を上回り令和元年の1年間は、全国で約1万7千人にも達しています。

参考:警視庁

そのため、訪問介護時においても玄関にはしっかりと鍵をかける、転落しないようにドアや窓に安全柵を設置するなどの最低限の対策は必要です。

②車いすやベッドに固定する

車いすやベッドに固定する身体拘束は、意識障害がある場合や利用者が突然暴れ出す可能性がある時に行われます。

意識障害はある場合では、車椅子からズレ落ち、突然暴れ出す場合のおいては介護者・家族さんの危険を防止する目的がありますが、万が一、身体拘束を行う場合は、その必要性や理由を正確に判断し、適切な方法で行う必要があります。

また、適切な固定具を使用して利用者の身体に負担をかけないようにする、必要最低限の時間だけ身体拘束をして、長時間行わないなどの工夫が必要です。

③脱衣などを妨害する

脱衣などを妨害する身体拘束は、脱衣やオムツ外しを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる、利用者の手足を縛る、ベルトなどを使用して拘束することにより自分で衣服を脱ぐことを妨げる目的があります。

認知症などがある場合は、オムツを勝手に外す、オムツの中に勝手に手を入れてしまうなどの場面があります。

しかし、認知症の方は不安感やストレスを感じやすいため、必要以上に身体的な自由を奪われることで、混乱や不安がより強くなる可能性があります。

また、脱衣を長期間妨害した結果、排尿・排便をトイレではなく、オムツで常に行うようになるかもしれません。

訪問介護は、利用者・家族の意思を尊重して介助する必要があるため、脱衣やトイレなどの個人的な行為に関しては、できるだけ自立を促すようにしましょう。

④肌をかけないように手袋をつける

肌をかけないように手袋をつける身体拘束は、点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋を付けることです。

病院などの医療機関においては、点滴・経管栄養等のチューブを抜かれてしまうと、治療の妨げだけでなく、最悪の場合は命にも関わるため、手袋をつける場面もありますが、訪問介護においては、医療的な行為は行わないため、手袋はつけずに生活してもらうようにしましょう。

身体拘束を禁止するルールについて

2000年に介護保険制度が施行されるとともに、介護施設における身体拘束は、人の身体の自由を奪う行為であり、権利と尊厳を侵害するものと考えられ原則禁止されました。

介護報酬においても、身体拘束への対策を行っていない施設は、身体拘束廃止未実施減算となり介護報酬の減算額が減算されています。

その施設は2018年に変更され、以前より多くの施設が身体拘束への対策を行う必要が出ています。

参考:厚生労働省

しかし、実際の身体拘束に関する統計としては、特定非営利活動法人全国抑制廃止研究会が、全国の介護施設を対象に、平成27年に実施した「介護保険関連施設等の身体拘束廃止の追跡調査及び身体拘束廃止の取組や意識等に関する調査研究事業報告書」があります。

その結果、「本日、身体拘束を受けている人数」の質問に対しては下記の割合で何らかの身体拘束が存在していることが明らかとなっています。

・特別養護老人ホーム:27.6%
・老人保健施設:34.2%
・介護療養型医療施設:69.1%
・医療療養型病床:84.3%
・グループホーム:12.7%
・介護付有料老人ホーム:30.2%、
・サービス付き高齢者住宅:9.8%

上記より、介護施設でも身体拘束が存在し、医療系ではその割合が高くなることが分かります。

参考:厚生労働省

訪問介護に関しては、身体拘束の割合は少なく、厚生労働省が実施した「平成29年訪問介護等統計調査結果」によると、認知症などの状態があっても、0.2%以下であることが報告されています。

参考:厚生労働省

少しでも身体拘束の割合を減らすために、周囲の環境の整備・運動・心理的な支援などの代替手段を充実させることが重要です。

身体拘束を行う危険性について

身体拘束を行うことで下記のような危険性があります。

1.身体的
2.精神的
3.社会的

これらの危険性についてそれぞれ解説します。

身体的

身体拘束を行うことにより、利用者の関節が硬くなる、筋力が低下するなど身体的な機能の低下や長時間に渡って身体拘束をされることにより、圧迫された部位の褥瘡発生などの外的弊害があります。

また、外的弊害を原因として二次的に食欲の低下、心肺機能の低下、感染症への抵抗力の低下などの内的弊害へ発展する危険性があります。

その他にも、車椅子に拘束されている場合では、拘束されていることに対して抵抗するため、無理矢理立ち上がろうとすることによる転倒事故など大きな事故に繋がる場合もあります。

精神的

長時間に渡って身体拘束をされることによって、利用者は不安・怒り・恥ずかしさなど大きな精神的苦痛を感じます。

精神的な苦痛を感じることによる影響で認知症が進行してしまい、場合によってはせん妄を生じる場合もあります。

また、精神的な弊害は拘束されている利用者だけでなく、その家族も自分の親や配偶者が拘束されている姿を見ることで大きな精神的な苦痛を感じます。

社会的

身体拘束を行うことで利用者やその家族は、介護に関わる事業者はどこも同じように拘束するなど社会的な信用を失墜させてしまう原因になるかもしれません。

また、利用者の日常生活を制限するだけでなく、心身機能を低下させてしまうことから発生する医療的処置や介護の重度化を発生させてしまうことから、経済的にも大きな弊害を発生させてしまいます。

身体拘束を認める3つの要件について

上記で解説したように、介護施設においては原則的に身体拘束は禁止となっています。

しかし、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」には、「当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合」であれば、身体拘束を認めています。

参考:厚生労働省

この基準での「緊急やむを得ない場合」とは下記の3つの場合になります。

①切迫性
②非代替性
③一時性

ここでは、身体拘束を認める3つの要件についてそれぞれ解説します。

①切迫性

身体拘束を行わなければ、利用者本人または他人に危害を加える可能性が高いことを切迫性といいます。

切迫性により身体拘束をする場合は、拘束することにより利用者の日常生活に与える悪影響を考えて、それでも身体拘束を行うことが必要となる程度まで危害を加える可能性が高いか確認する必要があります。

②非代替性

身体拘束などその他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないことを非代替性といいます。

非代替性の判断をするためには、身体拘束を行わずに介護するすべての方法を検討し、利用者の生命または身体を保護するという観点から、他に代替手法が存在しないことを複数のスタッフで確認する必要があります。

拘束する場合においても、本人の状態などに応じて最も制限の少ない方法で行う必要があります。

③一時性

身体拘束その他の行動制限が一時的なものであることを一時性といいます。

一時性の判断をするためには、本人の状態などに応じて最も短い時間で実施する必要があります。

実際に身体拘束を実施するかの判断は、職員個人で行うのではなく、施設・事業所全体として判断することが必要で、利用者やその家族にも身体拘束の目的、方法、時間帯などを詳細に説明して理解を得る必要があります。

また、利用者の状態が身体拘束の3要件から外れた場合はすぐに解除しましょう。

身体拘束を未然に防ぐためには?

身体拘束は最終的な方法になりますが、できるだけ行わないようにすることが重要です。

実際に、身体拘束を未然に防ぐための方法として下記があります。

1.身体拘束が必要となる原因を探り解決する
2.5つの基本的ケアを徹底する
3.身体拘束廃止をきっかけに「よりよいケア」を実現する

身体拘束が必要となる原因を探り解決する

身体拘束を行う理由として、迷惑行為・危険行為・自傷行為・体位保持困難などがよく挙げられます。

しかし、「利用者本人の安全確保のために必要」など安易に考えてしまうと身体拘束をなくすことはもちろん、減らすこともできません。

利用者が何か行動するには必ず理由があるはずなので、介護職の関わり方や環境を変えることで身体拘束の頻度を軽減・解消することができるため、利用者1人ずつに対するアセスメントを丁寧に行うことが重要です。

5つの基本的ケアを徹底する

介護における5つの基本的ケアである、「起きる」「食べる」「排泄する」「清潔にする」「活動する」を充実させて生活のリズムを整えることが重要です。

5つの基本的ケアを意識して行うことで、利用者とのコミュニケーションもしっかりと行えるようになるため、不安などを感じる機会が少なくなる効果があります。

身体拘束廃止をきっかけに「よりよいケア」を実現する

身体拘束を廃止するために事業所全体で取り組むことで全体の質向上や利用者の生活環境改善につながります。

身体拘束を行っていないから満足するのではなく、継続して取り組みを行うことでよりよいケアの提供に繋がります。

まとめ

訪問介護だけでなく、2000年に介護保険が施行されてから介護施設において原則的に身体拘束は禁止されています。

切迫性、非代替性、一時性と「緊急やむを得ない場合」は身体拘束を行うことができますが、普段から事業所全体として1件でも身体拘束の件数を減らすように取り組むことが重要です。