訪問介護事業所を運営していく中で、研修状況をしっかりと組み立てることは重要です。
特に管理者は事業所を継続的に運営するためには、必要な研修内容をしっかり把握しておく必要があります。
ここでは、訪問介護事業所を運営するために必要な研修内容だけでなく、実際にスケジュールの組み方まで詳しくお伝えします。
ぜひ、最後までお読みください。
研修計画は下記の2つに分けられます。
訪問介護員として働くにあたって必要な基礎知識を得ることを目的とした全体研修の計画です。
従業員の研修受講状況は、「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」の第30条「勤務体制の確保等」、第30条の2「業務継続計画の策定等」、第31条「衛生管理等」、第37条の2「虐待の防止」などに研修の実施が定められているため、常勤・非常勤を問わず全従業員は研修を受講する必要があり、受講の有無は運営指導のチェックポイントにもなっています。
その中でも下記の第30条に定められている内容が重要です。
参考:厚生労働省:「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」
下記が年間研修計画の策定にあたって、組み込むべき必須研修10個です。
認知症の基礎知識や、認知症の利用者さんに対するケア方法、コミュニケーション方法だけでなく、家族さんとの連携方法についても学びます。
認知症は、脳の機能が低下し、記憶力や判断力が低下する疾患で、国内において認知症の方も年々増加してます。
厚生労働省によると、国内の認知症高齢者の数は、2012(平成 24)年で 462 万人だったものの、2025(平 成 37)年には約 700 万人となり、65 歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれています。
参考:厚生労働省:認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)
この予測からも、訪問介護の場面で、認知症の利用者さんを対応する機会は多くなるはずです。
個人情報保護法やプライバシー保護に関する基本的な知識だけでなく、個人情報の取り扱いや管理方法についても学びます。
個人情報保護法は、個人情報の取り扱いに関するルールを定めた法律となり、訪問介護員もこの法律に基づいて個人情報を取り扱います。
そのため、利用者さんから個人情報を収集する際は、その目的や利用方法を明確にし、同意を得る必要があります。
また、プライバシー保護を行うために個人情報の適切な管理も重要です。訪問介護員は、利用者さんの自宅で介助を行うため、個人情報を取り扱う機会が多くあることからも非常に重要な研修です。
その重要性から、厚生労働省が「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を発表しています。
参考:厚生労働省:「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
利用者さんと接する際のマナーやコミュニケーション方法について学びます。
訪問介護は利用者さんや家族さんなどと対人関係を積極的に行います。
そのため、挨拶・身だしなみなどの基本的な内容だけでなく、利用者さん宅を訪問する時、介助を行う際の声掛けの注意点などを学びます。
訪問介護に関連する法律や倫理規定について学びます。
訪問介護などの介護サービスは、介護保険法・障害者総合支援法・労働基準法・個人情報保護法・高齢者虐待防止法・道路交通法など多くの法律を守りながら行う必要があります。
そのため、これらの基準を守ったうえで、介護サービスを提供して介護報酬を受け取ることを理解しておく必要があります。
事故防止のための基本的な知識や対応方法について学びます。
訪問介護員は、基本的に単独で行動するため、近くに誰かがいる状況は多くありません。そのような状況に加えて、利用者さんの状態や自宅環境などを考えると、訪問介護は事故が発生しやすい条件が揃っています。
そのため、訪問介護員は、事故が起こる可能性がある場面を予測し、事前に対策を講じることが重要です。また、事故が起こった場合も焦らず対応できるよう事故対応マニュアルを作成して事業所で共通認識しておきましょう。
訪問介護は事故発生だけでなく、利用者さんの急な状態変化にも立ち会う可能性があります。
利用者さんの多くは身体機能が低下しているため、「訪問介護中に利用者さんが急に嘔吐した」などの状況はいつ発生してもおかしくありません。
このような状況に遭遇しても冷静に対応できるように、「応急処置の方法」「緊急時の連絡フロー」「医療職への伝え方」「救急搬送の手順」などを周知してもらいます。
感染症・食中毒の予防で重要なことは衛生管理です。多くの利用者さんの自宅へ出入りする訪問介護員は、感染源を「持ち込まない、拡げない、持ち出さない」ことが重要になるため、手洗いやマスク着用などの基本的な衛生管理を学びます。
令和3年度介護報酬改定においては、パワーハラスメント及びセクシャルハラスメントなどのハラスメント対策として、介護サービス事業者の適切なハラスメント対策を強化する観点から、全ての介護サービス事業者に、男女雇用機会均等法等におけるハラスメント対策に関する事業者の責務を踏まえつつ、ハラスメント対策として必要な措置を講ずることを義務づけました。
ハラスメントというと多くの種類がありますが、この研修で学ぶ内容は、職場におけるセクシャルハラスメント、パワーハラスメント、利用者さん・家族さんから受けるセクシャルハラスメントや著しい迷惑行為であるカスタマーハラスメントを指します。
令和3年度介護報酬改定により、利用者の人権擁護、虐待防止の観点から、必要な体制の整備を行うとともに、訪問介護員に対して研修を実施するなどの措置を講じることを義務付けられました。
令和3年介護報酬改定によって、もし感染症や災害などが発生しても、サービスを中止せずに、継続的にサービス提供できる体制を構築する観点から、事業所における業務継続計画(BPC)の作成と研修が義務付けられました。
このBPCの作成期間は、準備期間として令和6年3月31日まで経過措置が設けられていますが、令和6年度からは義務化されます。
参考:【介護保険サービス事業所用】業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修資料・動画
年間(全体)研修計画は、全部で10項目あるため、1ヵ月に1つの研修を目安に実施することで負担をかけずに行えます。
年間(全体)研修計画の定められた書式はないため、事業所ごとに独自で下記のように作成します。
月 | 研修内容 | 具体的内容 | 実施方法 | 担当者 |
4月 | 新年度事業所計画 | |||
5月 | 認知症及び認知症ケアに関する研修 | ・認知症の概要と種類 ・認知症に対するケア方法 ・事例検討 | 事業所内 | 〇〇さん |
6月 | 接遇に関する研修 | |||
7月 | 倫理及び法令遵守に関する研修 | |||
8月 | プライバシーの保護の取り組みに関する研修 | |||
9月 | 緊急時の対応に関する研修 | |||
10月 | ハラスメント研修(カスタマーハラスメントを含む) | |||
11月 | 感染症・食中毒の予防及び蔓延防止に関する研修 | |||
12月 | 事故発生又は再発防止に関する研修 | |||
1月 | 人権擁護・虐待防止に関する研修 | |||
2月 | 感染症および災害時に係る業務継続計画についての研修 | |||
3月 | 今年度における年間(全体)研修計画の総括 |
訪問介護事業所が特定事業所加算を算定するためには「個別研修計画」を実施しておく必要があります。
その理由としては、特定事業所加算は、専門性の高い人材を確保して、質の高いサービスを提供するための体制を確保することを目的としているからです。
個別研修計画は、「管理者専従者を除いて、常勤・非常勤を問わず全員」に対して、個別に「研修の目標、内容、研修期間、実施時期等」を定める必要があります。
加算はⅠ~Ⅴに分類され、下記の単位数が加算されます。
また加算を算定するための要件は下記です。
算定要件 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ |
1.訪問介護員等ごとの研修計画の作成、計画に基づく研修の実施 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
2.利用者に関する情報、サービス提供に当たっての留意事項の伝達等を目的とした会議の定期的な開催 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
3.利用者に関する情報等の文書等による伝達、訪問介護員等からの報告 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
4.健康診断等の定期的な実施 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
5.緊急時等における対応方法の明示 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
6.サービス提供責任者ごとの研修計画の作成、計画に基づく研修の実施 | 〇 | ||||
7.訪問介護員等が以下のいずれかを満たす ・介護福祉士の占める割合が30%以上 ・介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、1級課程修了者の占める割合が50%以上 | 〇 | △ | |||
8.全てのサービス提供責任者が以下のいずれかを満たす ・3年以上の実務経験がある介護福祉士 ・5年以上の実務経験がある実務者研修修了者、介護職員基礎研修課程修了者、1級課程修了者 | 〇 | △ | |||
9.常勤のサービス提供責任者を配置し、基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置 | 〇 | ||||
10.訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の占める割合が30%以上 | 〇 | ||||
11.利用者のうち、要介護4以上、日常生活自立度Ⅲ・Ⅳ・M、たんの吸引等を必要とする利用者の占める割合が20%以上 | 〇 | 〇 | |||
12.利用者のうち、要介護3以上、日常生活自立度Ⅲ・Ⅳ・M、たんの吸引等を必要とする利用者の占める割合が60%以上 | 〇 |
△は7.または8.の要件のいずれかを満たしておく必要があります。
参考:厚生労働省:「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」
職責・経験年数・勤続年数・所有資格及び本人の意向などに応じて基本的に各個人ごとに構成する必要がありますが、経験年数や職責などで職員をグループ分けてもよいとされています。
個別研修計画は、以下の項目で構成されます。
研修は年に1回以上の研修を受講する必要があるため、毎年度計画を立てることが重要です。
また、作成時期は新たに特定事業所加算を算定する場合と、継続して算定する場合で異なります。
新たに加算を算定するにあたっては、加算取得の届出を行うまでに、加算開始月から当年度末までの計画を策定します。
また、加算を継続する場合は、少なくとも次年度が始まるまでに次年度の計画を定めておく必要があります。
年間(全体)研修計画のような「基礎的な研修」は対象外です。個別研修は、「職員の質をより高める」ことが目的のため、下記のような内容が望ましいです。
移乗介助は訪問介護員だけでなく多くの介護職が行うはずです。そのため、介助者だけでなく利用者さんの身体について理解を深めることで、最小限の力で介助ができます。
訪問介護員の中でも力任せに移乗介助をしている場面がありますが、力に頼った介護を続ければ、いずれは腰痛など身体に支障をきたします。
しかし、ボディメカニクスを習得することで、介助者自身の身を守れるだけでなく、利用者さんの負担軽減にもつながるために必要な知識・技術です。
訪問介護事業所を円滑に運営するためには、訪問介護員・サービス提供責任者の情報交換・共有などの連携が重要です。
サービス提供責任者の多くは訪問介護員も経験したことがありますが、訪問介護員からすればサービス提供責任者が普段「どのような業務を担い、何を考えているのか」など詳しく知る機会がありません。
そのため、サービス提供責任者の業務を訪問介護員に知ってもらう研修を行うことで、研修後の報告内容が、自分だけでなく相手の事も考えた内容に変化するはずです。
個別研修計画も定められた書式はなく、下記のように記入します。
氏名 | 経験年数 | 所有資格 | 研修目標 | 研修内容・実施時期など | その他 | |
内部研修 | 外部研修 | |||||
〇田 ▲男 | 1年 | 初任者研修 | ①移乗介助など訪問介護に必要な知識を取得し、多くの利用さんに対応できるようになる ②認知症介護の基礎的な知識を習得し、キャリアアップにつなげる | ①社内:◆◆さんによるバイオメカニクスから考える移乗介助の研修 (令和〇年〇月〇日を予定) | ②認知症介護基礎研修 (令和〇年〇月〇日受講予定) |
訪問介護事業所における研修計画は「年間(全体)研修計画」「個別研修計画」に分かれます。
年間研修計画は、「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」の第30条で「指定訪問介護事業者は、訪問介護員等の資質の向上のために、その研修の機会を確保しなければならない」という記載があることから行うべき研修が10個あります。
また、それとは別に「特定事業所加算」という、専門性の高い人材を確保して、質の高いサービスを提供するための体制を確保することを目的としている加算を取得するためには「個別研修計画」も合わせて必要です。
そのため、「年間研修計画」は今回提示した内容を参考に1ヵ月に1回の頻度で研修を実施し、それに加えて「個別研修計画」を各個人で組み込むことで、質の高いサービスを継続的に行える事業所として運営できるはずです。