福祉ネイリストは、美容と福祉の両方の知識を兼ね備え、特に高齢者や障がいを持つ方々に対してネイルケアやアートを提供する専門職で、単に爪を美しくするだけではなく、利用者の精神的な満足や自尊心の向上、さらにはリハビリテーションの一環としての役割も担っています。福祉ネイリストとして働くための資格・働き方の多様性、そして収入について紹介していきます。ぜひ最後までお読みください。
目次
福祉ネイルとは、高齢者・障がい者の方々などネイルサロンまで行くのが難しい方に向けた美容サービスの1つで、ネイルを通して癒しや感動を与えるのが仕事です。指先をキレイにすることで、自分に対して自信を持つことができるだけでなく、精神面のケアに対する効果も期待できます。そんな福祉ネイリストの主な対象者は下記です。
これらの対象者の中で、高齢者を対象とする場合、デイサービス・特別養護老人ホームなどで入所施設へ訪問して施術します。
福祉ネイリストの歴史は約20年とまだ浅く、2012年に日本保健福祉ネイリスト協会の理事長である荒木ゆかりさんが1件の老人ホームから依頼を受けて、訪問ネイルを施術したのが福祉ネイリストの始まりです。
その後、2014年9月に福祉ネイリストを育成する目的で「シニアメンタルビューティー協会(SMBA)」を設立。2018年7月には、福祉の場に当たり前のように美容が存在し、治療的介入としてのネイル施術をより広めるため、名称を一般社団法人日本健康福祉ネイリスト協会(JHWN)へと改名されました。福祉ネイリストの人数は年々増加し、2020年9月現在では全国に950名を超える人数となっています。
参考:一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会
福祉ネイリストの訪問先は個人宅だけでなく、有料老人ホーム・介護老人福祉施設などの介護施設・医療機関・障がい者支援施設など多岐にわたります。
一般的なネイルサロンは、来店された方に対して、マニキュア・ジェルネイルを行って、爪をキレイにすることが主な目的ですが、福祉ネイリストは、それだけでなく爪の清潔性を保ったり、施術しながらコミュニケーションをとったりすることで精神的な安定を図ります。
施術内容も一般的なネイルサロンでの施術とは異なり、一般的にジェルネイルを使うことはなく、ネイルケア・ハンドマッサージなどの基本的なケアを中心に行い、マニキュアを軽く塗る程度など利用者にあわせます。また、施術時間も高齢者・障がい者の方々が多いため、施術に時間がかかってしまうと、疲れてしまいます。そのため、利用者の負担にならないように20〜30分程度で仕上げるのが一般的です。
福祉ネイリストと通常のネイリストとは以下のような違いがあります。
福祉ネイリストの対象者は、歩くのが難しい高齢者・脳卒中の影響で身体を動かせない方・精神疾患を持っている方などが主な対象者です。その他にも、場合によっては震災などの被災者も対象です。
このように、普通のネイリストはネイルサロンに来た方を施術しますが、福祉ネイリストはネイルサロンまで出かけることが困難な方に対して行います。
通常のネイルは、爪に色や装飾を施したりし、爪のケアをすることが目的です。一方、福祉ネイリストの場合は、美容目的もありますがそれだけでなく、施術中のコミュニケーションなどを行うことで、ストレス発散・心のケアなどの目的も含まれています。
通常のネイルはネイルサロン内で多くのメニューから、一人一人の希望に合わせて施術するため、施術時間は平均1〜2時間程度かかります。
一方、福祉ネイリストは、基本的に出張サービスのため、老人ホーム・デイサービスなどの介護施設や、直接自宅へ訪問するなど施術場所は多岐に渡ります。また時間も、一人一人の体力を考えて施術時間は平均10〜20分程度です。
通常のネイルは希望に沿ったネイルを施すため、細かい作業をして凝ったデザインのネイルを行う場合もあります。しかし、福祉ネイリストの場合は対象者の多くが高齢者になるため、誤飲を防ぐために小さいパーツは付けないことが一般的です。
また、ネイルを剥がす時も大きな負担がかかるジェルネイルではなく、短時間で行えるシールやマニキュアタイプのネイルを使います。
福祉ネイリストには下記のような多くの魅力とやりがいがあります。
爪など身だしなみを整えておしゃれをすることでモチベーションアップにつなげる効果が期待されます。女性は年齢を重ねても多くの方はおしゃれを楽しみたいものです。そのため、爪をキレイにすることで気分が良くなり、化粧をしたりヘアを整えたりと他の美容にも興味を持ち始める場合もあります。
ネイルは基本的に女性が対象ですが、男性にも爪を磨いたり、透明なマニキュアを塗ったりする場合もあります。このように女性に限らず、男性もおしゃれをすることで、モチベーションアップにつながる効果が期待できます。
福祉ネイリストは1対1で利用者と施術者が行います。施術は利用者と手を触れてスキンシップしながらネイルをするため、利用者はリラックスしやすい環境になり、会話も弾んでコミュニケーションのきっかけにもなります。
施設に入所している方であれば、介護スタッフ以外と会話する機会が少ないので、利用者にとっても良い刺激になるはずです。
爪がキレイになると、介護スタッフ・他の利用者などから「爪がキレイになったね」など言われて嬉しい気持ちになるはずです。このように褒められて心が幸せな気持ちで満たされると、暗い気持ちの方でも精神が安定していく場合もあります。
福祉ネイリストとして働くために、必ずしも資格は必要ではありません。認定資格として定められているものもありますが、資格を取得しておく必要性はなく、無資格でも福祉ネイリストになることが可能です。
しかし、福祉ネイリストは利用者との対人の仕事です。そのため、認定資格を取得することで利用者に安心感などを感じてもらいやすく、信頼性も生まれやすくなるため資格の取得をおすすめします。ここでは福祉ネイリストとして働くために取得をおすすめしたい3つの資格を紹介します。
福祉ネイリストの中で最も人気なネイリスト資格は、NPO法人日本ネイリスト協会が主催しているJNECネイリスト技能検定試験です。この資格は「ネイリストの登竜門」ともいえる資格となっており、多くのネイリストが活動するにあたってJNECネイリスト技能検定を受講しています。この検定試験は1〜3級に分かれ、求められるスキルは下記です。
なお3級は、義務教育を修了していれば誰でも受験可能ですが、2級は3級取得者・1級は2級取得者のみ受験ができます。実際の求人情報では、採用条件に「ネイリスト技能検定2級以上 必須」などの文言を記載している場合も多いため、ネイリストとして働くなら、2級以上の資格取得がおすすめです。
参考:公益財団法人 日本ネイリスト検定試験センター「ネイリスト技能検定試験とは」
JNECネイリスト技能検定試験の受験にかかる費用は以下の通りです。
受験級 | 費用 |
1級 | 12,500円(税込) |
2級 | 9,800円(税込) |
3級 | 6,800円(税込) |
現在、主流となっているジェルネイル技能を身に付けたいのであればJNAジェルネイル技能検定がおすすめです。JNAジェルネイル技能検定試験は、JNECネイリスト技能検定とあわせてネイリストの2大資格といわれるほどネイル業界では権威性の高い資格の1つです。
ネイルのことを幅広く学ぶJNECネイリスト技能検定と比べて、JNAジェルネイル技能検定はジェルネイルに特化した内容を専門的に習得できます。この検定は初級〜上級の3つに分かれ、求められるスキルは下記です。
なお、初級と中級に合格することで上級試験の受験ができます。また、JNECネイリスト技能検定とJNAジェルネイル技能検定は異なる機関が開催していますが、JNECネイリスト技能検定の資格を持っている場合、受ける級によってはJNAジェルネイル技能検定の実技試験を免除してもらうことができるので両方の資格を取得するのもおすすめです。
参考:NPO法人 日本ネイリスト協会 「JNAジェルネイル技能検定試験」
JNAジェルネイル技能検定試験の受験にかかる費用は以下の通りです。
受験級 | 費用 |
初級 | 9,900円(税込) |
中級 | 13,200円(税込) |
上級 | 16,500円(税込) |
福祉ネイリストの主な対象は高齢者になるため、基礎的な介護の知識も重要です。そのため介護職員初任者研修を取得することも選択肢にあがるでしょう。
介護職員初任者研修は初心者でも介護に関する基本的な知識や技能を学べるため、介護スタッフだけでなく、家族の介護を目的とする一般の方まで、幅広い方が受講しています。介護職員初任者研修のカリキュラムは130時間で、平均的な受講期間は1〜4ヵ月程度ですが、最短で1ヵ月で取得可能です。
福祉ネイリストの資格として、完全初心者から訪問・福祉ネイリストを目指せる、一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会(JHWN)が主催する「福祉ネイリスト認定制度」という資格講座もあります。
この資格講座は、一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会の認定校で、3時間の講習×7日間の一定カリキュラム(座学+ネイル技術)を修了し、卒業試験に合格する必要があります。その後、合格者は講師と一緒に福祉施設での実地研修を行い、合格となれば、証明書が発行されます。
参考:一般社団法人日本保健福祉ネイリスト協会(JHWN)「福祉ネイリストになる」
福祉ネイリストの認定を受けるための受講料は以下の通りです。
所持資格 | 費用 |
未経験もしくはJNEC3級 | スクール料金:88,000円 登録料:3,000円/年 損害賠償保険:5,000円~/年 |
JNEC2級以上 | スクール料金:44,000円 登録料:3,000円/年 損害賠償保険:5,000円~/年 |
※所持資格によって受講内容が異なります
別途教材費が発生します。
福祉ネイリストとしての働き方や給与は下記が一般的です。
雇用形態は正社員・契約社員のように施設や事業者から雇用されているケースではなく、業務委託契約が一般的です。そのため、福祉ネイリストの資格を持っているからといって十分な仕事が得られるわけではなく、本業ではなく副業として働いている方も多いのが現状です。
また、仕事の受注・情報収集・信頼関係の構築なども自分自身で行う必要がありますが、日本保健福祉ネイリスト協会などの団体に所属すれば、訪問施設を紹介してもらえる場合もあります。
福祉ネイリストの歴史はまだ浅いため、求人募集は非常に少ない状況で、給与は一人当たり1,000円〜3,000円程度が相場です。しかし、施術の時間は20分程度なので、1つの施設で多くの方を施術すれば、収益を上げることができます。
なお福祉ネイリストは、仕事の時間をある程度調整できるため、子育てや家事などとの両立もしやすい職業といえます。より給与を上げたい場合は、福祉ネイリストだけでなく、マッサージをセットで行うなど付加価値を付けて単価を上げるといった努力が必要です。
福祉ネイリストとして働くためには、以下のステップで準備を行っていきましょう。
まずは、自分が福祉ネイリストとしてどのように働きたいかを考える必要があります。具体的には以下のような例があげられます。
自分の理想とする活動方法や目的によって活動の仕方が大きく異なるので、まずはこれらを明確にするところからはじめましょう。
目的が定まったら、福祉ネイリストとして必要な知識や技術を習得するために本記事で紹介した資格を取得しましょう。
活動するにあたって必要なネイル道具や備品などをそろえます。基本的にそろえるべき内容は一般的なネイル道具と変わりませんが、持ち運んですぐに現地で使用できるよう、大きめの化粧バッグやリュックなどにまとめておきます。
活動拠点が所在する市区町村で「開業届」を提出する必要があります。届出は基本的に開業から1ヵ月以内に、税務署の窓口・もしくは郵送にて申請する必要があります。
一通りの準備が完了したら、福祉ネイリストとして活動できます。
現時点の求人状況で考えると、福祉ネイリストだけの活動で就職することは難しいかもしれません。
しかし、美容サービスへの支出額は年齢と比例して上昇し、70歳代女性の割合が最も高いともいわれています。今後、国内は高齢化が進み70歳代女性の人口が増加します。そのため、高齢者向けの美容サービスは大いなる可能性を秘めているということが分かるはずです。
ぜひ、高齢者や障がい者の方と向き合って美容に対する施術をしたい方は福祉ネイリストとしての活動を一度検討してください。